深い深い闇のような――森の中。 初めて来た時は怯えたりもしたが、通い慣れた今では迷うなんてありえない。 この森――トキワの森に生息しているポケモンも調査し尽くしてあるし、本来ならば用のない場所である。 それでもこの森をぶらついているのは、単なる気紛れ。用もなく目的もなく行動するのは柄じゃないが、何となく――来たかった。 若しかすると新しい発見があるかも知れないしなと、適当な理由を付ける。 荷物の方はいつもちゃんと準備している。今日はこの見慣れた場所で野宿でもしようか。樹の間から見える星を眺めるのも偶にはいい。 そう考えて、開けた場所を求めて歩いていると――厭な奴に、遭遇した。 「あら。久し振りね」 「……」 「何厭そうな顔してるのよ。いつもは貴方から声掛けてくる癖に」 出来ればこんな所で会いたくなかった。みなまで言わずとも顔に出てしまっていたらしい。直ぐに仏頂面で隠す。見られた以上隠す意味はないが、悪足掻きだ。 獣道を抜けた向こうにいたのは、ライバルであるだった。 開けた場所には切り株があって、はその傍で寝転がっていた。空でも――見ていたのか。 「何やってんだよ」 「別に。空見てたの」 「ふうん」 会話が続かない。長い付き合いなのに、いざ対面するとこうだ。 今のように旅の途中で会った時はポケモンバトル序でに色々言ってやるのだが、不意の遭遇には慣れていない。 それに、いつも俺ばかりが喋っている。別に無口でもない癖に喋らない時は本当に喋らない。言葉でも、忘れたみたいに。喋る時は、それこそ俺を腹立たせるくらいに喋るし、笑うのに。 どっちの顔も知っていると、どっちが本物か判らなくなる。 どちらにせよ――同じなのに。 「、今バッジ何個?」 「あ? バッジ? ……八個だよ。全部揃ったぜ。へっ、ざまァみろ」 「八個かあ。じゃあポケモンリーグ、行くのね」 「当たり前だろ。何の為に今迄バッジ集めて来たと思ってんだよ」 何か思う事でも――あったのか。こんなにしんみりとしたは初めてだ。勝気で男勝りで女王タイプなのが、なのに。 長い付き合いだけど――の泣き顔なんて、見た事ない。 寧ろコイツに涙はあるのかと疑ったりしたもんだ。冷酷とまで行かないにしても、コイツの性格は質が悪い。何度悔しい思いを味合わされた事か。辛酸を舐めさせられたものだ。 「じゃあ何でこんな所にいるのよ。ポケモンリーグは西でしょ。トキワシティを北上してどうするの。、方向音痴だったっけ?」 此方を見ずに寝転んだ体勢で空を見ながら馬鹿にする。 こう言う奴なんだ、は。判っている癖に敢えて言ってせせら笑う。そんな挑発に乗る方が馬鹿馬鹿しくなる。 ああ、少しでも心配した俺が本当の馬鹿だった。 「リーグ行く前に休んどこうかなって思っただけだ。ポケモンにとっちゃ、ポケモンセンターよりもこう言うとこの方が落ち着くだろ」 「そうね。でもポケモンにとって一番大事なのは――ポケモン達を落ち着かせる事よりも、トレーナーである貴方が落ち着く事よ。言わなくても判ってるでしょうけど」 そこで漸く上半身だけ起き上がって、俺を見た。を見付けた瞬間にいた場所から動けずに突っ立っている、俺を。 口元には特有の三日月を貼り付けて。 判っている話を一々されるのは嫌いだ。それを判っていて尚言うから余計に腹が立つ。 感情に任せて俺は大きい歩幅でに近付いた。立っている俺は座っているを見下ろす形になる。 「……何かあったのかよ」 「心配してくれるの? 珍しい。明日は槍の雨かしら」 人が心配してやったって言うのに切り返しがこれだからムカつく。何だよ、いつもと変わらねぇじゃねぇか。誰だよ、何か変って言った奴。 くそっ、コケにされて笑われてばっかだ。調子を取られると直ぐこうなる。さっさと奪い返してやんねぇと。 「俺様は心が広いからな。どうせお前が心配すんのはポケモンだけなんだろ」 少なくともは、俺よりも他人を気に掛けてそうにない。 そりゃ、俺より人付き合いが上手くて人から色んなもん貰ったりしてるみたいだが、必ずしも付き合いの上手い奴が心配性とは限らない。 何せコイツのモットーは、貰えるもんは貰っとく、なのだから。 多分コイツの事だ。利己的に行動したらそれが偶々人の望みに合っていた、ってケースが多いに違いない。 例えばロケット団。 タマムシシティのゲームコーナーの地下に基地を作ったり、ヤマブキシティのシルフカンパニーを乗っ取ったりした連中だが、今ではもう殆ど壊滅状態だと聞く。 誰もが手を焼き、紙面にその名が載らぬ日はなかった――あの、ロケット団が。 しかも壊滅させたのは、。直接その現場を目の当たりにした訳じゃないが、シルフカンパニーでは会った。 俺はこっそり侵入したのに、は正面から挑み片っ端から片付けていったのか、下っ端と言えど見掛けるロケット団員は全員戦意喪失しているか気を失っているかのどちらかだった。 そこまでやっておきながら――ロケット団を襲撃した理由は至ってシンプル。 マスターボールが欲しかったから。 噂で聞いて欲しくなり、マスターボールを研究しているシルフカンパニーがロケット団に占領されているとも聞き、じゃあロケット団を倒して恩を売れば――と、考えた。これが見事功を奏しているから溜息が出る。 タマムシシティのゲームコーナーにしてもそうだ。 邪悪の根源を絶ってやろうなんて正義紛いな理由は塵すらなく、シオンタウンのポケモンタワーを上るのにシルフスコープが必要で、それをロケット団が盗み、ゲームコーナーに逃げて消えた――その話を聞いて、は乗り込んだ。 ポケモンタワーへの用事にしても、フジ老人から眠っているポケモンを起こす特殊なポケモンの笛を貰う為。 の行動に利益が絡まないなんて、先ずない。 「違うわよ。失礼ね。あたしだって偶には他人の心配くらいするわよ。お母さん元気かなあとか、オーキド博士倒れてないかなとか、ナナミさんまだ独身なのかなあとか」 「何で姉ちゃんの事をお前が心配するんだよ」 「だってナナミさん美人じゃない。貰い手がなかったらあたしが貰おうかなと思って」 「寝言は寝て言え!」 「馬鹿ねえ、あたしちゃんと起きてるわよ」 「そう言う問題じゃねぇ」 「あーはいはい。俺の心配はしてないのかよって言いたいんでしょ、本当は」 「なっ、ちがッ」 「あはは、顔あかーい」 無邪気に笑う。俺は全く面白くない。仏頂面のレベルが上がる。 ああもう、さっさとどっか行こう。その方が楽だ。コイツの相手なんてしてたら疲れる。折角緊張を解しに来たってのに、余計な気苦労しちまった。 はあと溜息を吐いて呆れを落とすと、鞄を抱え直した。 「あれ、もう行くの?」 「生憎お前と違って俺様は多忙だからな」 「話、聞いてくれるんじゃなかったの」 「…………」 何なんだよもう。押して引いてされてる気がする。 は常日頃ころころ感情が変わる、厄介で鬱陶しい性格をしている。俺も我儘だが、みたいな気分屋じゃない。愛想っつーもんも知ってるし、妥協も知ってる。 だから俺はより大人なんだ。 そんなに聞いて欲しい話があるならさっさと言えよとはもう敢えて言わず、二度目の溜息を吐いての隣に腰掛けた。 が黙って見ている。その視線を犇々感じつつ、俺はを見なかった。視線の先は一寸先の闇。陽が沈んで森は眠ろうとしている。 「で、何なんだよ」 「ん――いや、さ。ちょっと思ったのよ。何であたし、バッジ集めてるのかなって」 「は? ……あと一個ってところで思う事がそれか? 大丈夫かお前」 バッジを集める理由なんて一つしかない。ポケモンリーグに挑む為。 ポケモントレーナーとしての目標がそれであり、全て。バッジはトレーナーの強さの証にもなるけど、その為に取ろうなんて奴はいないし、そもそも強くなりたいからこそ、強靭なトレーナーの揃うポケモンリーグを目指している。 コイツは――そんな根本的な話で、悩んでたのか? 本当に? 「ポケモンリーグに行く為だって言いたいんでしょ、は」 「……それ以外に何があるッてんだよ」 草の掠れる音がした。起こしていた上半身を再び草に預けたらしい。髪に土が付くとか気にならないのかコイツは。 そう思いつつ俺は相変わらずを見ずに前を虚ろに見ている。視界の隅にの足が映っている。細い足だ。あんなんでよく旅が出来るもんだ――って、俺は何を見てんだ。変態じゃねぇんだぞ俺はっ。 「チャンピオン、ねえ……なったらどうなるって言うのかしら」 「ポケモントレーナーとしての名誉だろ。チャンピオンになるのはっ」 「名誉……ねえ」 下らない、とでも吐き捨てるが如きの科白に怒りが込み上げた。立ち上がって、寝転がっているを見下ろす。 は真上を向いていたけど、その目に俺の姿は映ってなくて、空の星と月だけが――湖みたいに、映っていた。気力のない目。何かを――忘れた、眼。 「利益は見込めそうにないわね。今一つ、あたしの気力にならないわ」 「利益って――お前」 何の為に旅を始めたんだ。何の為に旅をしてたんだ。何の為にポケモンと一緒に旅をして、何の為に一緒にいるんだ。 何の為に――生きてるんだ。 旅をして、旅の道中に何かと出会って、今迄知らなかった事を知って。旅をして成長して。世界を知って理を知って、沢山の命と――生きて。 旅をして、俺はそれを知った。全部知った訳じゃないけど、色んな事を学んだ。 だって――そうじゃ、なかったのかよ。 「忘れたのかよッ。俺とお前はライバルだろ! お前は俺を追い掛けて、お前よりも強い俺様を超える為に、バッジ取って来たんだろっ」 そんな真実は――ない。逆だ。 確かに俺はいつもより先を行っていたが、でも直ぐには追いついて来た。バッジも俺の方が早く取って来たが、そのあとをもきちんと追いついて来た。 一歩くらいしか違わぬ、距離。 それに――旅の先を行っていても、認めたくないけど俺はいつもに負けてばっかりだ。正直、勝った記憶すらない。 だから本当は、俺がを――超えようと、している。 「……ぷっ。あははははは! 面白い面白い。何言い出すかと思ったら、あははははっ、もう、最高ね!」 腹を抱えてごろごろと笑い転げる。何が可笑しかったんだよ、と言えない自分が腹立たしい。もうこの際やけくそだ。笑いたければ思う存分笑えばいい。 笑い狂って死ね! 「そうね……は、あたしのライバルだったわね」 笑いが収まったところで、は再び上半身だけ起こしてそう言った。口元にはいつもの勝気な笑みが――浮かんでいる。視線は前方の草むら。対して俺は苦虫を潰した気分でを見る。 普段のらしくないのも厭だが、こうして普段らしさが戻っても素直に喜べないのは、いつもコイツに苛められているからか。 「俺は先にポケモンリーグに挑むぜ。待つつもりもねぇしな」 「じゃああたしは、待ってくれないを追いかければいいのね」 俺の目標はポケモンリーグのチャンピオンであり、の目標はそれを目指す俺。変な構図だが、俺が目標になってやらねばコイツの目標がなくなってしまう。 超えられた時――どうなるのか。 それは予想すら出来ない。でも、超えられたら次に俺がを超えてやればいい。そうだ――俺に超えられないようになる、それを目標にすればいい。 俺とは――ライバル、なんだから。 「トキワジムのジムリーダーは強いぜ。負けるなよ」 「負けないわよ。だってあたし、最強だもん」 「自惚れんなよ」 「あら、勝負する?」 「やってやろうじゃねぇか」 「行くわよ」 「何処からでも!」 ライバル同士――負けられない。 . ( 後書き ) 最早夢小説じゃない、と言うのは重々承知(苦笑) でもFLやってたら書きたくなったんですよ……! 余りにライバルが可愛過ぎて。苛めたくなるキャラだ。 でもこんなにライバルって口調悪かったかなあ……。 初代男主は無口で無関心なイメージがありますが、女主は勝気なイメージです。 あの戦闘シーンの横顔が凄い勝気に見えるんですよね。それに無敗ですから。 ストーリーもちょっと歪曲したら利己的に見えてしまう罠(笑) と言うより、プレイヤーの心情か? シルフスコープが欲しいんだよ! とか。 それにしてもポケモンの笛の万能さには感服です。カゴの実要らず。 カプ的には女主←ライがいいです。ベストです。最高です。 |