72*
夢は等しく誠実である

 アメリアに協力して貰った結果、金曜日の放課後、人気のない階にある使われていない教室で、リリーと会う事となった。
 そんな場所にもしなりジェームズなりが自ら呼び出していれば、リリーは不審に思い、話はスムーズに進まなかっただろう。
 同性であり先輩であり監督生であるアメリアからの呼び出しだったからこそ、リリーは特に不審がる事なく応じてくれたようだった。


「あのさ……出来れば、シリウスにも立ち会って……欲しいんだけど」


 会う日、会う時間、会う場所が決まったところで、はシリウスにそんな相談を持ちかけてきた。
 予想外の相談に、シリウスは一瞬思考を停止した。


「……何でだ?」


 話を聞けば、流石にアメリアには待ち合わせをして話をする時間を作り出す余裕がなく、付き添いまで協力して貰えないとの事だった。
 かと言って一人で会って上手く事情を伝えられるかと言えば――自信がないと、は語った。


「それで、俺が選ばれた理由は?」

「シリウスにはその……一番色々話してる、から」


 自信がないのか後ろめたいのか判らないが、シリウスから視線を逸らしながら、もごもごとは理由を話す。
 意図して秘密にしていた訳ではない分、改まって秘密を話す事がを、恥ずかしいような、落ち着かないような複雑な気分にさせていた。
 優越感――と言うのとは少し違うが、四人の中で一番に頼られたシリウスは、心の中で無意識に拳を作っていた。
 ――そして、金曜日の放課後。


から話があるって、アメリアさんから聞いてきたんだけど」


 から話がある――アメリアと、そして信用出来るからの呼び出しだったので約束通り赴いてみれば、教室にはだけではなくシリウスもいた為、内心リリーは戸惑った。
 同じ学年でしかも同じ寮生で、知らない相手と言う訳ではないが――話がある、と言うそれだけで呼び出されている以上、何の話だろうと言う不審感は否定出来ず、それに想定外の状況も加われば、尚更不安が募った。
 更に言えば、とシリウス二人に自覚があるのかそもそも知っているのか判らないが――達にはそれぞれ、隠れファンがついている。
 名家の出であり顔も整っているシリウスを筆頭に、明るく気さくでかっこいいと言われるジェームズ、中性的な面立ちで誠実な、そんな三人が集まれば周囲の意識が向かない訳はなかった。
 二人に呼び出されているようなところを女子の誰かに見られようものなら、後々が怖い。
 勿論、アメリアから話を聞いた次点でそれについては考えたリリーだったが。同じ女子として、アメリアは寧ろやシリウス達よりその手の話も知っていた筈だ。
 その上で話してきたと信じて、リリーはこうしてやってきた。


「えーと、驚かないで聞いて欲しい」

「……判ったわ」


 驚かないで、と前置きされるような事を聞いて、驚かずにいられる自信はなかったが、言ってくれた分の心構えは出来た。
 しかし流石に好きだと言う類の告白ではないと思うが――何を、どんな驚く事を話すつもりなのだろう。


「その……実は俺、女、なんだ」


 躊躇いがちに――リリーの様子を窺いながら打ち明けられた言葉に、まずリリーは耳を疑った。単語の聞き間違いだろうかと。
 だが驚かないようにと言う前置きがあった事を考えると、そんなリアクションを取らざるを得ないような事を言われた事は間違いない。となれば、矢張り聞いた儘なのか。
 確かには――中性的な顔立ちをしているので、男と言われても男なのだと思うし、女だと言われても女だと思う。
 寧ろ普段一つに纏めている髪を下ろすと、途端に少女のように見えるに違いない。


「でも、部屋は男子寮に、あるわよね」


 色々考えた末、リリーはまずそこから話を詰めた。
 名前は、女の子に男の子のような名前をつける事もありはするし、制服なら男子用の物を仕立てて貰えばいい話だ。
 しかし男子寮の一室を部屋として割り振られるのは、一人では誤魔化せない問題だ。だからもし今が言った事が本当なら、学校側はが女であると判った上で男子寮の一室を割り当てていると言う事になる。
 副校長であるマクゴナガル教授がそれを認めるとは思えないが、校長であるダンブルドアなら認めてもおかしくない。


「男子寮にあるけど、でも俺は一人部屋なんだ。トイレやバスルームもついてる」

「ダンブルドアが保護者だから特別扱いと思ってたけどな、最初は」


 事情を知れば、の部屋のあの特別感には納得だった。
 今思えば、疑ったり不満を抱いたりしてこなかった事に不思議さを感じるものの。


「そう……じゃあ本当、なのね……」


 ただただリリーは呆然とした。そして同時に、とんでもない秘密を教えられてしまったと感じた。
 二人は余り重く受け止めていないようだが、リリーの中ではが実は女だったと言う事で生じる問題ばかりが渦巻いていた。
 一番問題なのは――が全く自覚していない、女子からの好感度の高さである。に想いを寄せる女子達は皆、告白する前から終わってしまっている事になる。そしてもしこの秘密が学校中に知れ渡れば、阿鼻叫喚だろう。
 加えて、男子五人が集まっている図なら兎も角、その中に紅一点となると、を妬む者も生まれてしまう訳で。
 とてもリスクの大きい立場にいる事を――は気付いていない。
 だがこんな問題には、アメリアも気付けただろうに。アメリア伝で呼ばれた事から鑑みると、アメリアもが女だと知っているのだと思う。


「でも、何で私に?」


 ある程度話す間柄とは言え、三年間知られなかった秘密を話される相手として――自分が認められているとはとても思えなかった。


「アメリアさんから、少なくとも同学年で女子一人には打ち明けておいた方がいいって、言われて」


 の申し訳なさそうな言葉に、リリーは納得する。アメリアから言われなければ、恐らくリリーに告白する事もなかったのだろう。
 申し訳なさそうな態度から、想像よりは、秘密を負担させる事の問題に自覚はあるらしい。
 そして何より、のその言葉を受けて、リリーは寧ろアメリアの意図がよく判った。
 何故自分にこんな重たい話をと思った気持ちが消える。
 これは――とても重大な役割だと言う事に、変わりはなかったけれど。


「大体の事情は判ったわ。女の子なら確かに、ブラック達には話せない事も沢山あるでしょうし、悩みがあったら遠慮せずに私に相談してね」

「ありがとう、リリー」


 アメリアから言われた理由をがリリーに説明するより早く、リリーは察してくれたようでほっとする。
 今までは幸いにもまず相談相手としてはフェイがいて、フェイにすら話せないような悩み事が出てくる事はなかったが、そもそもそれは、自分が女だと言う自覚が薄い故のものだとは察した。
 確かに自分が女で傍にいるシリウスが男だと意識すると、今のところ悩みはないものの、いざ二人切りになって話題もないような状況に陥ると、途端に困って話せなくなりそうだった。


「念の為の確認だけど、私以外の女子には話さないのよね?」

「ああ。今のところ、これ以上打ち明ける予定の相手はいないかな」


 が本当は女子であるとバレたらと考えると、秘密を話す他の相手はどう考えているのか、リリーは気になった。
 達は揃って顔立ちが整っているので目立つ存在ではあるものの、五人以外の他の生徒と特筆して親しげにしている様子は見た事がない。
 女子は勿論、男子生徒も五人には近寄りがたさを感じているようだった。五人の内二人が名家の出と言うのも関係しているだろうが。


「判ったわ。私も迂闊に話さないように注意するわね」

「うん、頼んだ」


 お喋り好きな女子として本能的に喋りたい衝動に駆られる事はあるが、この秘密ばかりは自身は勿論、話してしまった時の自身に対するリスクも大きい。
 寧ろリリー本人が口を滑らしてしまうよりも、自身がうっかりしそうな想像の方が浮かび、ちゃんと隠せるのかと心配になる程だった。


「そう言えば、本名は何て言うの?」

「ああ、・A・だよ。よろしく、リリー」

「改めてよろしくね、


 まさかこれ程重大な秘密を打ち明けられるとは思ってもいなかったが、の力に少しでもなれるならと、リリーの心はやる気に満ちた。
Back   ( top )   Next


( 後書き )

隙あらばシリウスを特別扱いしていこう回。
リリーは少し信じすぎと言う感じもあるかもしれませんが、
多分そこは夢主の人望(笑)
悪戯仕掛け人の筈ですけど、悪戯のネタがなくて私が書けていない関係上、
悪戯仕掛け人感が皆無で心苦しい(苦笑)
書いたかもしれませんが、夢主にはまずフェイがいるので、
何か困る事とか悩みがあったら今まではまずフェイに相談してて、
だから特に困る事がなかったと言う裏設定。