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正しいだけでは選べない
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話が終わったところで、三人は時間的にも寮ではなく大広間へその儘行く事にした。 そうして三人が入ってきた入り口とは逆の入り口に向かおうとした時だった。 「ッ――」 がたん、と言う音と共にその音を立てた人物は息を呑んで駆け出した。 まさか教室に自分達以外の誰かがいると思っていなかった三人は、突然の事についていけず呆然とした。 「あっ、セブルス――」 はっと一番に我に返ったのはだった。 突然机の影から立ち上がり駆け出した人物が誰か判じたその数秒の間に、セブルスは教室から出て行った。反射的に慌てて追いかける。 「つ、捕まえた……!」 「くっ……」 余り運動神経のよくないセブルスは、呆気なくに追いつかれて捕まった。 ローブの袖をに掴まれたセブルスは、少しの抵抗を見せたものの、あとから追いかけてきたリリーの姿を視界に留めると、抵抗をやめた。 「セブルス……さっきの話、聞いてたの?」 が尋ねるべきかと逡巡し、シリウスが今にも殴りかかりそうな剣幕でいる中、先に尋ねたのはリリーだった。 セブルスは三人から視線を外して黙り込む。 「言わねぇつもりなら魔法かけて口を割らせてもいいんだぞ。いや、記憶を失くさせた方が早いな」 「シリウス」 今にも実力行使に移りそうなシリウスをが嗜める。に止められては、流石にセブルスが嫌いなシリウスも迂闊に手を上げられない。 また――些細な事でと喧嘩するのはこりごりである。 「セブルス。さっきの話を聞いていたなら――出来れば、秘密にして欲しい」 人のいなかった筈の教室から廊下へ出た場所で、直接何を秘密にして欲しいのかは言えない。でも同じ空間にいたのなら、聞こえなかったと言う事はないだろう。 まさか人がいるとは思っていなかった為、普段自分達が近づきもしないような場所にある教室を選んだ筈だったので廊下を人が通るとも考えず、声を絞る事もしなかった。 「……僕に、君の秘密を守る義理があるとでも?」 当然の如く、セブルスは反発した。恐らくシリウスが睨みつけている事も、セブルスの反感を買っているだろう。 とシリウスは知らない事だが、リリーがその場にいるが故に、セブルスは我慢しているに過ぎなかった。 「……無理にとは、言わないよ」 「!」 まさかの言葉に、シリウスが慌てる。 元々に隠す様子がなかったが故に、シリウスにバレてしまった事ではあるが、まさかそこまで隠す事に対し執着がないとは思ってもいなかった。 寧ろ隠すべきだと強く思っているのは、シリウスやリリーと言った周りの者達の方のようだ。 「いや、それよりそもそも、コイツには話し相手がいねぇんじゃねぇか?」 「匿名で張り紙でも何でもしたら秘密はバラせる」 「おま、隠す気あるのか!」 バレたところでと考え直そうとしたシリウスを、何故か秘密保持者本人である筈のが予想だにしない事を言い出し、シリウスは混乱する。 だがの声音は――何故か、真面目だった。益々の考えている事が判らず、シリウスは困惑する。 「……初めて会った時と、もう一度会った時、様子が違う理由が判った」 初めて会った時は――どちらともつかない、一人称は私で二人称は君と言う、子供らしからぬ口調だった。 だがもう一度会った時――ホグワーツで遭遇したは、他人の空似か、と思いそうになるくらい、口調が変わっていた。 初めて会った時は名乗り合いもしていなかった為、性別は推測からでしか判別出来なかった。 姿は、初めて会った時は髪を下ろしていたので、辛うじて女だろうかと言う捉え方をしていた程度だったが、もう一度会った時は男のような態度だったので、男なのかとセブルスは思っていた。 けれど矢張り――最初の印象は間違っていなかった事を、先程の話で知った。 「あの時はまだ、だけだったからな」 あのあとフェイに初めて、と呼ばれた。 今あの時を振り返れば、あの時セブルスが怒った理由がよく理解出来る。加えて、セブルスの優しさも、あの時よりよく判る。 「……ずっともやもやしていた事が判ったからもう構わない。話さない」 じっと見るの視線から逃れるように、セブルスはふいと視線を逸らし背を向ける。 セブルスは、あの時会ったと今のが同じようでいて違う様子に、小さな不審感を持っていた。 何か理由があるのかと思いつつも、それを本人に問うような間柄でもなければ、問うような相手もいない。先輩としてがいるが、声をかける代償の方が大きすぎる。 変だとは思いながらも、明らかにしなければ不自由がある、と言う訳でもない。どの道他人、セブルスから関わる事のない相手。そう考え、放置してきた疑問。 まさか答がそんなものだったとは思いもしなかったが、顔を見る度密かに気になっていた疑問が解消されただけで十分だった。 では何故男装しているのか、そんな疑問が次に出てきはするが、流石にそれは踏み込みすぎな話だと自制する。 これ以上踏み込めば、厭な相手との関わり合いを強くする事は必至。好奇心と厭な相手との関わり合い、天秤にかけるまでもない。 「ありがとう、セブルス。助かるよ」 自身の状況を考えての事か、単にこれ以上関わると面倒臭いからか、どちらを理由にセブルスが判断を下したのかには判らなかったが、言葉の裏側には少なくとも気遣いがあるだろう事は汲み取れた。 今なら――以前より一層、セブルスが無言で気を遣ってくれる優しい人物だとよく判る。それを本人に言えば、何故そう言う印象に至るのか理解出来ないと言われるだろうが。 「何が助かるのかさっぱりだ。まあいい、僕はもう行かせて貰う」 「ああうん、引き止めてごめん」 裾を引っ張り、裾を掴んだ手を離せと言外に言えば、ははっとして手を離した。 そしてその儘振り返る事なく、セブルスは去って行った。 「本当にいいのかよ、」 「ああ。態度はあんなだけど、セブルスはいい奴だよ」 「……騙されてんじゃねぇのか?」 「騙す為に、見ず知らずの人間をノクターン横丁まで追いかけくる筈ないだろ」 セブルスを無罪放免としたの判断が気に食わなかったシリウスは、最終確認を取る。不満を隠さずに。 けれどは、セブルスを肯定しつつ大丈夫だと言う。それが更に、シリウスにとって面白くないものとも知らず。 その後三人は無言の儘、夕食を食べる為大広間へ向かった。 ( 後書き ) 何でセブルスがいたのか詳しい理由はありませんが、 此処でセブルスにもバレるシーンを作っておかないと、 機会を逃してしまうので……(苦笑) あとは描写しない可能性の方が高いですが、これから地味に シリウスはセブルスを標的にしていきますね確実に。 もうちょっとシリウスに自覚持たせる機会を早く作りたい……。 |