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いつか終りのシーンを
めくる時が来て
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リーマスが狼人間である事、そしてが実は女である事が判って――数ヶ月、学年末試験も終わった六月。 大半の生徒が期末試験で体力と精神を使い果たし、疲れきっていた。特にO.W.L試験のあった五学年の生徒、N.E.W.T試験のあった七学年の生徒達の疲労困憊ぶりは異常だった。 N.E.W.T試験を受けた当日も平然としていたのは、例によって例の如く、のみだった。流石のゼーレも、頭を使い過ぎてと早々にベッドに入っていた程にも拘らず。 「そういやさんって、卒業したらどうするんだろ」 は、流石の兄と言うべきなのか、頭も良ければ魔法の技術も高い。進路など選び放題だろう。欠点の破天荒な性格から目を瞑れば。 「ゼーレさんから聞いた話だけど、教授達は兄貴に闇祓いを勧めてて、でも兄貴はギャンブラーになるって言ってたらしい」 「さんらしい話だね……」 闇祓いとギャンブラー、どちらもには相応しいだろう。どちらになっても、能力を遺憾なく発揮出来る筈だ。 しかし本当にどちらになるのか、あるいはそのどちらにもならないのか、卒業間際の今になっても予想がつかないのは流石である。 「進路もそうだけど、さんの卒業って言う事実は、中々どうしてインパクトが強いね」 ホグワーツの生ける伝説、。 日々問題を起こしている訳ではないが、一人で大きな出来事を起こし、その突拍子もない出来事に全校生徒、教授を巻き込む為、を知らないホグワーツ生徒、教授は存在しない。 だがそのが卒業となると、翌年からどうなるのか想像出来ない。単純に、静かで平和な学校生活になるのだろうが、安心するような寂しいような感覚だ。 教授達からすれば、問題児であるの卒業は感慨深いものがあるのかも知れない。 たった一人の存在が――こうも多くの者達の心境と環境に影響するとは、矢張り流石としか言いようがない。 「卒業式、何かしそうだよね」 「まあ兄貴、イベントが好きだから……何もしない理由はないだろうな……」 卒業式に在校生は同席しないので、毎年どのように七年生の生徒達が送られているのかは知らない。 だががいると言うだけで、通例通りにはいかない事が確定している。教授達の頭痛の種が容易に想像出来る。 とは言え、最後に花を持たせる機会――とも考えれば、最後くらい好きにさせてもと言う派閥が教授陣の中に一人くらいは――いるかもしれない。ダンブルドアくらいだろうが。 「僕らも何かするつもりなの? ジェームズ」 「いや……どう足掻いてもさんを上回る出し物が出来る気はしないし、仮に出来たとしてさんの有終の美を汚すのも悪いと思うから」 「なるほど、そうだね」 と言う相談の結果、五人はが何かを起こすであろう卒業式を、楽しみに待つ事にした。 そして――卒業式、当日。 「これはえっと……何だろう……」 朝食を食べる為に大広間へ向かった達は、大広間の入り口で屯する他の生徒達を見て何事かと訝しがり、大広間を覗き込んで――他の生徒達同様、唖然とした。 大広間には、大きな花弁を開いた白い百合の花の草原が広がっていた。朝食どころの状況ではない。当然、テーブルや椅子は置かれていなかった。 「百合の花だけど……何で百合?」 去年、一昨年の卒業式の日には別段、このようなサプライズはなかった為、これが通年行われている事でない事は確かだ。 となれば、当然の如く誰もがの仕業であると察したが、周囲を見てもらしき姿は見受けられない。 「確か、ホグワーツって名前の百合があるんだよ。あれはただのリリーだけど」 朝食も用意されていない上、座る椅子もなく、草原と化した大広間に入ろうと言う生徒はいない。 寧ろ足を踏み入れて、何も発生しないとは限らない。はただの百合の花と言う判断を下したが、魔法界の植物である可能性も――捨てきれないのだ。 「白い百合……花言葉は純潔……」 ホグワーツと言う百合の花があると言う点以外に、何か百合とホグワーツ、卒業に関連性があるのかと、は知識を巡らせる。 ――貴方が求めている答は、ソロモンの栄華さえも及ばない、純潔の白い花にある。 花言葉を思い出し呟いた瞬間、女性の声が脳裏を過った。その言葉を残したのは、ノクターン横丁で遭遇した、謎の女性だった。 「百合の花に、俺の求める答があるのか……?」 しかし、自分が求めている答に対する問題が――どれなのか自体、判らなかった。余りにも、自分には不明点が多過ぎるが故に。いや、それら全ての答が、そこにあると言うのか。 いや、矢張り単純に本当に百合に答があるようには思えない。百合と言うのも、何かを示しているのだろう。 考えられる可能性は――先程自ら話した、ホグワーツと言う名の百合がある、と言う繋がり。 もしこの考えが正しければ、ホグワーツにの求める答があると言う事になる。 ホグワーツに答がある。それに――心当たりが、ないではない。 ホグワーツ入学許可書に記されていたの名前。そしてホグワーツにいるからこそ、と呼ばれる事に意味があると感じる何か。 「これは何事ですか?」 考え込んでいたの耳に入ってきたのは、マクゴナガル教授の声だった。振り返ると、人垣の後ろにマクゴナガル教授とダンブルドアが立っていた。 生徒達は二人に道を開け、二人はその道を進み、大広間の現状を目の当たりにした。 「これは……の仕業ですね……」 「ほっほっほ、よくやるのう」 マクゴナガル教授とダンブルドアは、対照的な反応を示す。 そして二人が大広間に足を踏み入れた――瞬間。 「な……っ」 驚きの声を零したのは、誰だったか。 目の前に咲き乱れた多数の白い百合の花は、大広間に強い風が吹いたと思った瞬間、風の流れと共に色を変え、赤く染まった。 「Congratulations!」 卒業おめでとう、と共に現れたのは、大広間を草原にした人物、だった。 普段梟便の為に梟達が流れ込んでくる窓から、箒に乗って颯爽と現れた。 「ま、卒業する一人の俺が、卒業おめでとうっつーのも変な話だがな」 呆気に取られる眼下の者達を気に留めず、はかかかと笑った。 そしては下に向かって杖を軽く振った。すると大広間に咲き乱れていた百合の花の色が、白から鮮やかな赤色に変わっていった。 かと思えば、もう一振りで一陣の風が吹き、花びらが舞い上がった。殆どの者達がそれで一瞬目を閉じた隙に、大広間にはいつもの長テーブルと椅子が並べられていた。 あっと言う間の出来事に、全員が全員、口をあけて目の前で起きた事に驚いた。 「最後の宴だ、皆堪能しろ。喜び称えろ、俺の手作りだ」 「ええっ、まさか全員分を作ったって言うんですか、さん!」 「最後に中々激しい挑戦になったな」 何処までが本当か、本当にしても何処まで手を加えているのか判らないが、千人分の料理を作ったとはとても信じられない。 しもべ妖精達が勿論手伝っているとは――思うが。 「最後に魔法使いらしからぬところでサプライズを持ってくる辺り、流石さんと言うか……」 意外と普通な事に収まったと安心すべきか、予想の斜め上を通り抜けてきたと唖然とすべきか、様々な感情と戸惑いで大広間の空気が満ちる。 取り敢えず草原だった状態からいつもの状態に戻ったので、生徒達はそれぞれの寮テーブルへ着席する。 クリスマスや夏休みにの手料理を食べた事のあるジェームズ達は、特に訝る事もなく料理を口に運び、舌鼓を打つ。 各所から、美味しい、と言う声も上がった。あのが作った料理――と警戒していた生徒達も、食べた者達の感想を聞いて恐る恐る料理に手をつけ、そして想像以上の美味しさに言葉を失う。 「さて、大体、食べたな?」 そして皆が食べる様子を上から眺めていた――は。 にやりと口元に怪しげな笑みを浮かべて、杖を振った。 ( 後書き ) 一気に駆け足で夏まで来ました。イベント物を書くのが苦手なので、 毎年バレンタイン書いたりって言うのが難しいんですよね。 それに話数的にも多くなってきたし、三学年で書く事もなくなったので。 此処でR2さんの言葉の伏線を少し回収出来たのは想定外でしたけど(笑) 最初兄貴さんには桜の樹でも作って貰おうかと思ってたんですが、 検索してみたら、イギリスで桜はそんなに珍しいものでもないみたいで。 種類は勿論違いますけど。 珍しくないなら兄貴さんがやってもインパクトないな……って事で。 |