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預言者が最後を告げた
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最後の悪戯が――大広間を草原にする事と料理の大盤振る舞いだけで終わる筈が、なかった。 本来それで十分凄いのだが、にしては大人し過ぎる、周りに被害が出ていないと訝しがった者も多数いた。 しかし周囲からの美味しいと言う声と空腹と言う素直な欲求を拒める程、その疑念は強くなかった。 「さて、大体、食べたな?」 その言葉を合図に――は杖を振って、何か呪文を唱えた。 何だ――とはっとする暇もなく、大広間は異様な光景に包まれた。 「何ですか、これは……!」 驚きの声を出したのは、マクゴナガル教授だった。 当然ながら他の者達も、突然広がった光景に何だこれはと思ったが、それを言葉に出来る者は限られていた。 これで終わる筈がないと警戒していた教授達の中でも、強い意思を持って朝食を取らず様子を見ていたマクゴナガル教授は、何とか被害を免れたのである。 ――動物になると言う、被害を。 「スリザリン生は蛇、グリフィンドール生はライオン、レイブンクロー生は鷲、ハッフルパフ生はアナグマに変身する薬を入れておいた。で、呪文唱えたらあら不思議って算段よ。あ、教授陣はランダム」 大広間は、の言った動物達で溢れ返った。 動物になった生徒達は当然の如くパニックになり、警戒して口をつけなかった生徒は生徒で、周囲が動物ばかりになり悲鳴を上げている。 まさに――の真骨頂、と言いたくなるような光景だった。 「まあ流石の俺でも、長時間効果出すのは無理だったから、精々三十分程度で効果は切れるから安心するといい」 にしては珍しくそんな事を言うが、効果時間が短いにしろ長いにしろ、このような魔法薬、呪文を開発するその技術の高さは類稀である。 「さて――」 動物達の声が満ちる大広間の上空で、は箒を反転させた。すいーっと静かに、入ってきた天窓へ移動する。 そして肩越しに振り返り、もう一度大広間を見やる。動物になった生徒達は、最早誰が誰なのか判らない。仕掛けたにも、最愛の妹が何処にいるかは判らない。 「さらば諸君、さらばホグワーツ。See You Again!」 そう別れの言葉を言い残すと、は天窓から颯爽と出て行ってしまった。そしてが戻ってくる事はなかった。 ――それから三十分経過し。 「……やっと元に戻った……」 が言い残した通り、三十分経つと魔法の効果は切れ、動物になった者達は人間の姿に戻った。 大広間には、猫の毛や鳥の羽が散らばっていた。そしていつの間にか料理はテーブルの上から消えていた。 「謎の技術とは……流石としか言いようがなかったね……」 「兄貴らしいって言えば、それまでなんだけど」 出来ても不思議ではない、と誰もが思うのだから凄いの一言に尽きる。 本を読み、同学年の生徒達よりも数学年先を学んでいるでも、とても追いつける気がしなかった。 「アゲインって言ってたけど……まさか、そんな事ない、よね……?」 「どうだろ……兄貴、適当に見えて適当じゃないからなあ……」 別れの言葉にしては、卒業していく者としての言葉にそぐわない事くらい――は理解していた筈だ。だからこそのサプライズだったのだから。 の言葉や行動は、適当で常識外のように見えて、なりの考えと意志が織り込まれている事が多い。 よって――アゲインと言ったからには、つまりはそう言う事なのだろう。そう言う可能性があると考えておいた方が、心に優しい。 そんな形で卒業式の日は終わった。そしてその翌日、試験の結果が発表された。 「今年も首席はだね」 「次席は死守できたけど、相変わらずとは雲泥の差だよ……」 元々がずば抜けた知識と技術を持っている事は、一学年の時点で判った。だが試験の結果から知れるレベル以上にの知識と技術力が高い事が――今年はより一層、判る年となった。 何せ授業で学ぶより先に、そして誰かに教わる事なく、自ら一人の手だけでアニメーガスになってしまったのだから。 目に見える差の中には、目に見えない圧倒的な差がある事を次席のジェームズは痛感するのだった。 のいなくなったホグワーツでは、卒業式以上の騒ぎが発生する事なく、ごくごく平和に時間が過ぎ――そして達は、三度目の夏休みを迎えた。 「今年もシリウスは、叔父さんのところに厄介になるのかい?」 「まあ、そこそこ荷物も置いてるからな」 ホグワーツ特急に乗り、ロンドンへ向かう中。 この後の事を不意に思い出したジェームズはシリウスに尋ねた。シリウスは両親と対立している為、夏休み中は叔父の家で過ごしている。 シリウス本人としては、幾ら理解があるとは言え矢張りブラック家の中なので、出て行きたいらしいが。 「今年の夏休みにもまた集まるかい?」 「んー、そうだな。暇だし」 「またの家に泊まらせて貰う?」 一ヶ月と少し、今年はどう潰すかと考える。 ある程度今までの貯金がある為自由に出来るとは言え、叔父が小遣いをくれる道理もなく、シリウスの貯金は減る一方だった。 その為、何処かに出かけて散財する訳にも行かず、自然と出来る事は限られ、夏休みは暇だった。 「ああ、そう言えば家の書斎には変身術の本もあるから、アニメーガスの勉強にいいかもな」 「あ、そうだね! がアニメーガスを習得するに至った本があるんだね!」 夏休みの一ヶ月少しの期間でアニメーガスの基礎を覚えほぼ習得した。それは偏に、書斎に変身術の書物が多かったからに他ならない。 勿論、誰も彼もが読んですぐ理解出来るレベルの本が沢山ある――と言う訳ではないが。 「でも、そんなに優しめの本はなかったからなあ…結構、専門的なものばっかりで」 「やっぱり、ダンブルドアの屋敷だったからって事?」 「うん、そうだと思う」 アメリアから聞いた話――アメリアも更に噂で聞いたレベルらしいが、ダンブルドアは校長になる前まで、変身術担当の教授だったらしい。 つまり、あのマクゴナガル教授の前の変身術担当だったらしい。 「去年は断りもなしに突然行って泊まっちゃったから、日が決まったらさんに言っておいてよ」 「判った」 「あれ……でもさん、普通に家に帰ってる、のかな……?」 「……どうだろ……」 嵐のようにホグワーツを去っていった。 あの儘何事もなかったかのように寮に帰っているのではないかとも予想されたが、同室のゼーレによると今朝まであった荷物は綺麗さっぱり消えていたらしい。 帰るならば当然家に帰っていそうなものではあるが、そこは常識の通用しないの行動なので、当然帰っているかも知れないし、当然いないかもしれない。一周回って予想を裏切るのがなので、予想を立てるだけ無駄だ。 「けど、もしさんが帰ってなかったら、はあの広い屋敷に一人って事になるよね」 「……それは……やだなあ……」 ホグワーツに入学する前の一年を思い出す。 広い屋敷で、一人だけだった日々。あの時は人との繋がりも皆無で、知識も常識も殆ど身についていなかった為、ひたすらに寂しかった。 「もし一人になるなら、シリウスが一緒に泊まればいいんじゃない?」 「は? いや、待て、いやよく考えろ」 「なるほど、それはいいな」 「お前も自覚しろ、ちょっと待て」 いい案だ! とばかりに目を輝かせて言い始めたジェームズにシリウスは耳を疑い思わず立ち上がる。 だが追い討ちに本人がジェームズの提案に肯定を示す。その反応に、シリウスは更に慌てに慌てた。 そんな光景をピーターはおろおろと、リーマスは苦笑しながら静観する。 「あ、着いたみたいだよ」 そうこうしている内に、ホグワーツ特急が速度を落とし始めた。ロンドンが近づいてきた証拠だ。 服は既に少し前に着替えているので、各々は荷物を手に取り、動き出せるよう準備する。 そして数分後、金属の高音を立てながらホグワーツ特急は停車した。廊下をぞろぞろと生徒達が歩き始め、駅の喧騒に混じっていく。 「ん……何か騒がしくない?」 「そりゃ、出迎えの家族とかいるだろうしな。毎年こんなだろ」 「それはそうなんだけど、それとは違う感じで――」 降り口に近づくにつれ、生徒達のざわつきが大きくなっていった。 最初は、途中から進みが悪くなったと言うだけの印象だったが、何なのだろうかと推し進んでいく内、それは緊張した空気である事に気づいた。 ざわざわと言うざわつきではなく、ひそひそと潜められた声が積もり積もってざわつきになっていた。 そしてその状況を――作っていたのは。 ( 後書き ) 前回の後書きでも書きましたが、終わりまでが相当な、 しかも唐突で雑な駆け足になって申し訳ないです。 元々三学年で書く予定だった内容が終わったので、 そこから夏休みまで丁寧に書くような内容がなく……。 三年目になると試験や休み突入を丁寧に書く事もないですしね……。 寧ろ早く次の学年に、夏休みに進みたくて(苦笑) 取り敢えず兄貴さんは、イメージした事を体現させる技術を持ってるって事で(笑) まあ動物に変身させる魔法薬を作って食べ物に入れておけばと 考えると、別に難しい事ではなさそう。 あとシリウスは、お坊ちゃまですけどバイトとかするのかしないのか、 どっちのタイプかなあと悩ましい。しそうでもあるし、出来なさそうでもある。 けどまだ家から出て四年目って考えると、まだワイルドに出られず躊躇しててもいい。 では次回から、最後に引きつつ漸く四学年です。後半! |