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愚か者達の行進
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ロンドン、キングズ・クロス駅に到着したが、プラットフォームはいつにない種類のざわめきで包まれていた。 それを訝しんだ達は、立ち止まる生徒達の波を分け、汽車の降り口へ進んだ。 「どうし――」 「……ルシウス・マルフォイ……先輩」 そこにいたのは、ルシウス・マルフォイを中心としたスリザリン生徒と純血主義の魔法使い達だった。 どうやら、ホグワーツを卒業したルシウスの出迎えに、マルフォイ家を取り巻く純血主義者達が集まったらしい。 純血主義でない者達にとって、純血主義者達は触らぬ神に祟りなしのような存在。 加えて、ホグワーツにいると平和のような錯覚に陥るが、今は巷の情勢も非常に危険な状況にある。 「マルフォイ家の次期当主となるルシウス様が卒業されたのよ、貴方も祝いなさい、シリウス」 「……!」 人の集まりの中から出てきたのは、シリウスにとって一番会いたくない人物だった。 ――両親。 「誰が祝うかよ。俺はアンタ達とは無関係だ!」 「この愚か者……ッ」 けっ、とシリウスは吐き捨て無視を決め込む。それに対しシリウスの両親は、顔を真っ赤にして怒気を露とさせた。 公衆の面前で、名家の名に泥を塗られたのである。しかも自らの息子に。 「親子喧嘩は我々のいない場所でやって欲しいものだな」 「……申し訳ございません……!」 一触即発の空気を壊したのは、ルシウスだった。冷たいその一言と視線に、シリウスの両親はヒッと息を呑んで慌てて謝罪を口にする。 ルシウス率いる一同は、身を翻し駅をあとにするルシウスのあとに続き、その場からいなくなった。 汽車の降り口で滞っていた生徒達は、シリウス達を避けるように汽車を降り、散らばっていった。 「お前のせいで、また恥を掻いたッ、本当にどうしようもない愚かな息子……!」 「俺を息子だの呼ぶんじゃねぇよ! そうやって一々言うなら、関わってくんな。俺はもう縁を切ったつもりだってのによ!」 我に返ったシリウスの母親が、金切り声を上げてシリウスを非難する。それに対しシリウスは、躊躇なく声を荒げる。 「いいえ、貴方はブラック家の人間として、まだ役に立たなければならないのよ」 「俺が大人しく従うとでも思ってんのかよ。めでてぇ頭だな」 戯言を言う母親に、シリウスは嫌悪を隠さず見下す。だが両親がそれに臆する筈もなく、シリウスと両親は睨み合う。 その後ろで、達はどうすべきか割って入っていいのか判らず戸惑っていた。 「近々、ルシウス様の成人を祝うパーティがあるわ。貴方はそのパーティに出るのよ」 「何で俺が出なきゃいけねぇんだよ」 「私としても貴方のような存在は消し去りたい限りよ。でも貴方がブラック家の長子である以上、出席しなければ更にブラック家の面目は丸潰れになる」 「行く義理はねぇな。面目潰れて消えちまえばいいんだ」 シリウスの主張を無視して、母親は話を勝手に進める。 シリウスとしては早々に立ち去りたい気分だったが、目の前に立たれている以上、逃げるのも――癪に障る。 「予想した通りの返答とは……悲しい限りだわ」 「お前がそんな態度に出るならば――まずは、お前の隣にいる者達から、どうにかしなければならなくなるな」 自らの息子を汚いものを見るような目で見る母親と――冷たい目で見下ろす父親。 そして父親は冷たく言い放つと、ローブの袖から杖を取り出した。杖の先を、シリウスの隣に立っていたに向ける。 まさか公衆の面前で杖を取り出し、あまつさえ人に向けるとは予想していなかった為、その場の全員が言葉を失い、動けなくなった。 「こんな所で……正気じゃねぇな……」 死喰い人の台頭、ヴォルデモートの脅威を考えれば、純血主義の家の中での立場を重視し、なりふり構っていられなくなる――その結果だった。 だがブラック家の立場や純血主義の理解を拒み出てきたシリウスにとって、その必死さは到底理解出来るものではなかった。 「ほーんと、こんな所で騒ぎ起こすのは、やめて欲しいね。僕もう監督生じゃないしさ」 ――そう言って突然間に割って入ってきたのは、ゼーレだった。 に対し杖が向けられている中、躊躇う事なくゼーレはとシリウスの前に立ち、シリウスの両親に立ちはだかった。勿論、その手には杖を持って。 「そこをどきたまえ」 「こんな所で堂々騒ぎ起こしたら、純血主義だとかそう言う面目以上に丸潰れですよ? 寧ろ箔がつく、とか思ってるんですか?」 言うまでもないが、魔法界にも当然法律はある。無闇に魔法で危害を加えていい道理など存在しない。 だがマグル社会と違って、魔法一つで人を殺せてしまうのが――この魔法界だ。そして今、ヴォルデモートと言う闇が世間を揺るがそうとしている。日に日に、何処かで死喰い人によって殺されたと言う報告が増えているのも事実だった。 「我々の事情を知っているとでも?」 「そりゃ、曲がりなりにも僕はザイン家の跡取りなので。それなりに、事情は知っていますよ?」 「ザイン家……!」 ザイン家の名を聞いた瞬間、シリウスの両親は目を見開き信じられないものを見るような反応を示した。 それに対し、ゼーレは態度を崩さない。 「療者道楽に堕ちたザイン家如きが……」 「そんな事言ってると、非常時に助けてあげませんよ?」 悪態を吐くも、ゼーレの態度は揺るがない。 どんな言葉を浴びせたところで、ゼーレに退く様子がないと悟ったシリウスの両親は、溜息を吐くと共に杖を下ろした。それを見たゼーレも、そこで漸く杖を下ろす。 「詳細は梟便で送る。必ず出席するように」 そう言い捨てるとシリウスの両親は踵を返し、騒ぎを聞きつけ集まった野次馬達が開けた道を通り、その場からいなくなった。 二人の姿が見えなくなったところで、五人の緊張が一気に解けた。五人揃って、長い長い息を吐いて心を落ち着ける。 「……何か、すまねぇ。俺の家の事に巻き込んじまって」 「いや……でもまさか、こんな所であんな強硬手段に出るとは思ってもみなかったよ」 「それだけ、ブラック家が今窮地に立ってるって事かな」 汽車の出入り口から少し離れた所に移動して、改めてシリウスは謝った。 ブラック家の事情をある程度知っているジェームズでも、予想だにしない展開だった。 確かに長男であるシリウスが、スリザリンにとって敵以上の憎い存在であるグリフィンドールに在籍してしまったのだから、面目丸潰れ以上の結果を出すのも当然だった。 ただでさえ旧家は、自分達の立場を守り続けてきた代償として色々なものを失い犠牲にし、落ちぶれる寸前になっている家も多いのだから。 ちょっとした事で、旧家の上に立っていた状況から転げ落ちてしまう――それが旧家同士の繋がり、純血主義者の序列だった。 「気にしなくていいよって言いたいところだけど、あの調子じゃ、無視すると今度は何するか判らないね」 「目は本気だった……その上、元々何をしでかすか判らねぇ連中だ……」 「僕が言うのもなんだけど、此処は言う事を聞いておいた方がいいと思うよ」 反発したい気持ちは強いが――もし癇癪を起こしてあの場で死の呪文を唱えられていたら。確実に、この場にいる誰か一人は命を奪われていた。 この場をこうして凌げたところで、諦める事はないだろう。 「こうなると……シリウスは、叔父さんの家に帰るのも……やめておいた方がよさそう、だよね」 「あー……そうだな……俺を引き渡すような事をする人じゃねぇと思うが、放任なのは変わらねぇし、逆に俺に何かあっても助けてくれる訳でもねぇんだよな……」 これから、去年同様叔父であるアルファードの家に帰ろうとしていた矢先だった。 幾らブラック家の中では中立を貫いている叔父とは言え、中立であるが故にシリウスにとって危うい場所だった。寧ろ矢張りブラックが近い分、危険の方が大きい。 「じゃあ俺の家に来るか?」 これから何処に向かうべきか、突然の問題を突きつけられたシリウスに――そう名乗り出たのは、だった。 自身は何気ないつもりで言った言葉だったのだが、シリウスにとってそれは予想外の言葉で言葉を失ってしまった。 ( 後書き ) シリウスの両親、どんな口調で喋らせればいいのか判らず、 何か凄く変な感じになりました……。 そしてこんな人の多い所でって言うのは本当ですよね……。 でもこう、シリウスを追い詰めさせるような状況が他に思い浮かばず。 ただの吼えメール程度じゃ脅しにはならないでしょうし、 直に会って何かしないと、シリウスには効果ないだろうなあと。 しかしゼーレさんとジェームズが喋るとどっちか判らないですね……。 |