03*
それぞれの旅心




 ポケモンリーグチャンピオン。
 ポケモントレーナーの誰もが憧れ、目指すもの。俺も、その一人だった。そして――その目標に到達し、チャンピオンになった。だがそれは悲しい事にたった数時間の幻想で、俺のあとを追ってきたに、俺は負けた。
 あの時の衝撃や悔しさは、今でも忘れない。
 そして俺は負けて、が新しいチャンピオンに――なった。


「おい、!」


 一度は帰っておこうと思ってマサラタウンに帰ってくると、も帰ってきていると言う話を聞いた。チャンピオンになったが、何で――こんな所に。
 俺は不思議に思って、の家へ駆け込んだところだった。
 おばさんに挨拶して、二階のの部屋へ押し入る。幼馴染である俺とに、遠慮なんて言葉はない。寧ろ俺よりもの方が、人の部屋に許可なく入ってくる事が多かった。
 どちらかと言うと俺は、幼馴染だって言ってもやっぱり男と女だからと意識して、入れない。


「乙女の部屋に勝手に入ってこないでよ」


 入ってきた俺に、冗談を投げる。
 の膝の上ではサンダースが寛いでいた。どちらにも、俺の入ってきた勢いに気を留める様子は見られない。
 俺はの反応に苛々しながら、さっき小耳に挟んだ事を質した。


「お前……チャンピオン、辞退したんだってな」

「ええ」

「どうしてだよ」


 ワタルさんから、連絡があった。がチャンピオンを辞退した為、もう少しの間俺にチャンピオンを務めて欲しいと。
 まさかがチャンピオンを辞退するとは思ってなかった俺は戸惑い、ちょっと待って下さいと話を保留にして――真相を確かめに来た。
 どう言う考えがあって辞退したのか、の気持ちを訊きに来た。


「どうしても何も……チャンピオンになれば、あそこで待ってなきゃいけないもの」


 それは――と、口篭る。は、俺がどうしてこれ程怒っているのか判らないみたいだった。そんなの態度にも、また怒りが募る。
 が言わんとしている事が、判らない訳じゃなかった。がそのあとに続けるであろう理由が、予想出来ない訳じゃなかった。
 でも――納得出来なかった。


「じっとチャレンジャーを待つなんて受身、あたしの柄じゃないのよ」


 ポケモンリーグチャンピオンに憧れ、目指す者は多いって言うのに――チャンピオンになった奴の科白が、これだ。世界中のトレーナーに喧嘩を売られたって文句は言えない。
 コイツならその喧嘩、全部買って――勝つんだろうけど。だから余計に、質が悪い。
 誰もの言葉を、覆せない。


「あたしは、いつまでもチャレンジャーだから」


 勝気な顔で、にっと笑う。乙女だとか自分で言う奴程、女らしくないんだよな。
 俺はもう、何も言えなかった。笑うを見ると、いつも怒る気が失せる。怒っても無駄だと――悟ってしまうから。
 すっかり怒気を削がれた俺は、そこで漸く腰を下ろした。の膝で寝るサンダースがちらりと俺を見たが、相変わらず関心はない様子で、また目を瞑った。トレーナーに似て、温度差が激しい。バトルの時は物凄い素早さを見せるアタッカーなのに。


「ワタルさんは、それなら仕方ないねって言ってたわ」

「待てよ。じゃあ、俺の立場はどうなるんだ? ワタルさんに、チャンピオンを続けてくれないかって言われてるんだぞ」

「ならいいじゃない」

「よくないだろ!」


 よくまあ気楽に言ってくれる。チャンピオンを降りたから、もう自分には関係ないと――言って。
 俺の懸念も知らないと言った様子で、本当にコイツには感情を揺さぶられる。にすれば、俺の感情の起伏の激しさは奇怪しい、とでも言いたいんだろうが、これは大体のせいだ。


「よく考えてみろ! 四天王倒して俺に挑戦してきたチャレンジャーに、実は俺より強い奴がいるんです、なんて言うのかよ! とんだ噛ませ犬じゃねぇか俺!」

「あら、噛ませ犬って自覚があったのね」

「うるせぇッ」


 あはははは、と楽しげに笑う。冗談抜きで本心から面白そうに笑うから、俺の苛々は膨れ上がって行く一方だ。サンダースに煩くするなと睨まれたが、そんな事は気にしない。睨んで黙らせたいのはこっちだっつーの。
 どうしてこうも、には何一つといて勝てないんだ、俺は! どっから見てもやっぱり負け犬、噛ませ犬ってのかよ。


「まあまあ、そう熱くならなくてもいいじゃない」


 一通り笑ったは、凛とした表情でそう言った。
 いきなり真っ直ぐ見られると――言葉を失くす。時折見せるこの眼に、俺は一番敵わない。バトルの時に――見せる、鋭い双眸。


「大丈夫よ、なら。あたしは、信じてる」


 初めて――そんな事を、言われた気がする。
 その言葉がいつものらしくなくて、当惑する。いつものは当惑する俺を見たら一番に揶揄うのに、それもなく――言葉は続いた。


の強さは、ライバルのあたしが一番知ってるんだから」


 信じられていたとは、思っていなかった。
 対して俺はいつも、の行動一つ一つに疑いを持っていて、何を考えているのか判らないと思う事が多いのに。まるで俺の事を俺以上に知っているみたいに、はっきりと言う。
 ――ちくり、と心が痛んだ。


が、あたし以外に負ける訳ないじゃない」


 その言葉は嬉しい筈なのに。意地の悪いが俺を褒めるなんて、滅多にないのだから。嬉しがるか、何を考えてるんだと小馬鹿にして笑い飛ばしたり――いつもの俺だったら、そんな行動に出ている。
 でも俺は――何も言えず、を見つめるしかなかった。そして気付けば、俯いていた。
 には――俺の強さが、判るんだろうけど。に勝った事のない俺には――の本当の強さは、判らない。その差がどうしようもなく悔しくて、仕方なかった。
 ――には俺のこんな気持ち、判らないんだろうな。










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( 後書き )

ちょっとずるずる引き摺った終わりになりましたが。
ちょっと罪深い主人公。そして主人公に固執するライバル。いい!
因みにサンダースは私がFLでパーティに入れていたので。
電気ポケがいないとヒトカゲでは辛いんですよね。
ピカチュウはFLだとvsカスミ用に育てても、
スターミーの水の波動で落ちる始末。お前……。
家の中にリザードンは出せないだろうと思い、サンダースを出しました。