最近は、トキワジムに出入りしているらしい。
 あそこのジムリーダーはなんとロケット団ボスのサカキで、トキワジムにが挑戦した際、それを暴いた。
 俺はより先に勝負して勝ってバッジを手に入れていたものの、ロケット団に関わっていなかったから、サカキの正体なんて知らなかった。
 兎に角、トキワジムのジムリーダーはに負けて、ロケット団を解散すると言う宣言のあと、姿を晦ましたらしい。
 その場にいたから聞いた話だ。
 だから今、トキワジムはジムとしての機能を失っている。
 まあ、最後のジム、ポケモンリーグへの最後の砦であるが故に、チャレンジャーなんて相当限られているみたいだが。それに元々サカキだって留守にしてばかりいたのだから、今も昔も然程変わらないと言えば変わらない。
 でも――そんな事よりもその前に。
 と俺にとってジムなんて、用済みの場所だ。俺は元チャンピオンで、そのチャンピオンになったばかりの俺を、は超えたんだから。
 思い出すだけで憎々しくて腸が煮えくり返って歯ァ食いしばって悔しさが込み上げてくるけど、事実は事実。
 今は俺が負けていて、が勝っていると言うだけだ。俺が超えればいいだけの、話。
 ……また話が逸れた。
 について考えていると、いつもその事ばかり考えてしまう。問題は何故がトキワジムに足を運んでいるか、だ。アイツの事、理由のない行動はありえない。
 さて、問い詰めてみるか。


04*
行き詰った旅路に




 一通りカントーを巡った俺とは、マサラタウンの自分達のそれぞれの家で毎日を送っていた。
 俺なんかはポケモンを強くする為にと一ヶ月二ヶ月程度偶に旅に出て修業をするが、は現状家を離れるつもりはないらしい。
 どうやらカントーの旅ははっきり言って飽きてしまったらしく――また長旅をすると言う理由がないらしく、すっかりやる気をなくしてしまっている。
 どうにかしたいと思う。けど俺は俺で精一杯だ。余裕がないなんて厭になる。でも、それが現実。
 アイツも、理由がないからなんて面白くない考えは捨てればいいのに。理由なんていらないもんだと、判ればいいのに。


「あ、


 最近のアイツはだらしなくていけないとぶつくさ言いながら、自分の部屋の窓辺でぼーっとしていると、視界の隅を過ぎる、見慣れた陰があった。
 モンスターボールを取り出して、リザードンを出す。どうやら空を飛ぶで出掛けるつもりらしい。
 何となく、見付からないように隠れて様子を窺う。隠れる意味なんて本来ないが、それに気付くよりも先に躯が勝手に動いていた。
 地面を蹴って羽ばたいて、リザードンは空高く飛んだ。そこまで見て、即座に躯を窓から乗り出して空を見上げた。リザードンはもう一度オレンジ色の翼を大きく羽ばたかせて、北の方へ消えた。
 陰を見失う前に――俺も、行動に出る。


「ピジョット! リザードンを追えっ」

「ピジョー!」


 ベルトに嵌めているモンスターボールから先にピジョットを窓の外へ出し、自身は窓から飛び降りる。躊躇いもなく。これくらいでビビッていたらに笑われる。
 ピジョットは俺がしっかり乗ったのを確認して、リザードンが飛んで行った北へ向かった。
 雲へ入る手前の高さを飛びながら、視線を地上に向ける。


「ピジョ? ピジョー!」

「ん? ――リザードンか!」


 降りるぞ、と言う命令と共にピジョットは躯を斜めに滑空を始める。
 予想外にリザードンは早く見付かった。
 以外にリザードンを持っているトレーナーはいる。けどこの俺がのリザードンだと見抜けない筈もない。自分のポケモンと野生のポケモン――もしくは他人のポケモンを見間違えるトレーナーが、いないように。
 俺にとってのリザードンは、厭なくらい見慣れたポケモンだ。


「……此処は」


 態々空を飛んで行ったと思えば、リザードンを見付けたのはトキワシティだった。しかも、トキワジムの傍。
 地上に降りてきた俺とピジョットを見て、リザードンはあれ、と言う表情を見せた。周囲を見渡してみるが、どうもは近くにいないらしい。
 にしてもトキワシティへ来るのに一々リザードンで飛んで行くなんて、そっちの方が面倒臭くないか。ポケモンに余計な疲労を与える。
 と言うか、だから何でトキワジムなんだよ。
 無性に腹が立ってきて、八つ当たりでトキワジムの扉を思いっ切り開けようと――した、時。


「あれ、

「……


 俺が開けるより早く、向こう側にいた奴が先に扉を開けた。込めた力が空気に当たる。
 拍子を抜かれた俺の頭上に、捜していた人間の声が降りかかって来る。それに対し俺は、ゆっくりと頭を上げてを見た。きょとんとした、目。


「……何でお前、此処にいんだよ」

こそ何で此処にいるのよ」


 俺は不機嫌に仏頂面で。は至っていつも通りすかした様子で目を丸めて、さも意外だと言うように。
 ああもう本当に――何でよりにもよって、本当に、此処にいるんだよ。
 ただトキワジムにいただけ、聞いていた話が本当だっただけ。それだけで、気に病む話でもないのに――何故だか無性に、苛付いた。


「あたしは……その、レイジさんに会いに来てたの」

「は? レイジ? 誰だよそいつ」


 一気に機嫌は傾斜を転がり落ちる。眉間に皺なんて、甘い。不機嫌オーラで俺の背後は一瞬で真っ黒になる。
 レイジって誰だよ。そんな奴知らねぇぞ、俺は。どう考えたって、男の名前だし。


「トキワジムのトレーナーよ。も戦ったでしょ?」

「覚えてねぇよ」


 さも俺との共通の知り合いのように言われても、知らないものは知らない。見れば思い出すとしても、野郎の名前なんて特に覚えている訳がない。
 ジムには基本的にジムリーダー以外の、ジムリーダーに挑む前に倒さねばならぬトレーナーが数人いる。人数は場所によりけりだが。
 どちらにせよ、道や洞窟にいるトレーナーと変わらない。


「ニドクインを連れてるトレーナーよ。ほらあたし、ニドキング持ってるじゃない。だから意気投合しちゃって」

「何だよそれ。サイドンじゃいけねぇッてのかよ」

「え? 何か言った?」


 ニドキングの育成具合を見るから外に出ておいてって言われたんだけど、と言いながら周囲を見渡すには、俺が一人毒づいた科白は聞こえなかったらしい。
 きょとんと振り向いて科白のリピートを要望されたが、何でもないとそっぽを向く。
 此処でいつもなら、何て言ったのよとにやにや笑いながら無駄に喰い付く筈なのに、そう、とだけで終わってしまった。会話が続かない。
 本当面白くない。全く面白くない。何なんだよ。


「やあ、待たせたね」

「あ、レイジさん!」

「……!」

「ニドクイン達にご飯をあげてたんだ」


 が出て来たジムの入口から出て来たのは、俺達よりも三歳くらい年上に見える男。青年とか、尤も適当な単語も知っているが、使うのは柄じゃない。ガキか男か女の選択しで十分間に合う。
 男の癖に髪を伸ばしていて、それを無造作に一つに括っている。俺の目には胡散臭く映る笑みを浮かべている。


「おや、この子は……」

です。あたしのライバルの」

「ああ、覚えてるよ。カメックスとフーディンにこてんぱんにされたね」

「相性攻めなんて基本中の基本、オーソドックス過ぎて面白くないわね」

「うるせぇ」


 確かに――レイジとか言う男に見覚えはあった。俺のフーディンの唯一の弱点、打撃に弱い所を攻めて来た厭な野郎だ。
 地震攻撃の強さだったら、俺のサイドンだって! と思ったけれど、冷静にカメックスで倒したんだ。それをに笑われようと、正攻法なんだから笑われる謂われはない。


「出ておいで、ニドキング!」


 逸れた話を戻してか、はモンスターボールからニドキングを出した。
 外見だけで見ると可愛いであろうに対し、その傍にニドキングなんて並ぶと何も言えなくなる。コイツは平気でリザードンなんかも傍に立たせたりして、ポケモンのごつさとか可愛さを余り重視しない。
 頼りになるポケモンが好きらしい。私利私欲の強いならではである。


「そうだ、。貴方確かサイドン持ってたわよね」

「持ってるぜ。それがどうしたんだよ。どうせニドキングでもニドクインでもねぇよ」

「へえ、サイドンか。サイドンと言えば――」

「きゃあっ、ニドキングだ!」


 レイジとか言う男が何かを言いかけたところで、俺は何かに吹っ飛ばされた。
 地面に顔をぶつけるなんて無様な事はしないものの、地面に足を擦った。ズボンが汚れた。何なんだよ。
 苛ついて起き上がって振り返って――眉を顰めた。


「どうしようどうしよう、すっごい可愛いこの子! トゲも刺々しくて紫の躯も毒々しくて素敵っ。それに何よりこのがっしりさよね。惚れ惚れしちゃう」


 唐突に何処からともなく現れた女。俺より年上みたいだ。でも言動がガキっぽいと言うか、変だ。
 唖然を通り越して嫌悪がじわじわ沸いてくる。変人だ、この女。第一、ニドキングを見て黄色い悲鳴を上げて、果てには可愛いって、おい。大丈夫か。


「あ、レイジ君ただいま! そしておかえりあたし!」

「ああ、おかえり」

「えと……あの?」

「ん? おや可愛い子がいるね。しかも二人! どうしたのレイジ君、ナンパでもしたの」

「戯言は面白くないよ」


 何たるハイテンション。流石のもドン引きしている。
 レイジとか言う男の知り合いみたいだ。こんな知り合い持って、それだけは同情しておこう。こんな人間の相手、俺なら一分もしたくない。
 くるくると動き回って落ち着かない、苛々する女だ。


「そのニドキングはこの子のだよ。序でに言うと、彼女はリザードンも持ってるよ」

「えっ、嘘! それは素敵ねっ」


 素敵? 言葉の使い方間違ってんじゃねぇのかコイツ。
 奇怪しい発言をする女に、レイジとか言う男は苦笑いだ。相手はそれに気付く様子は全くない。傍迷惑な性格してるぜ。
 一人で騒いではしゃいでやがる。何がそんなに嬉しいんだ。
 もどう相手すべきなのか判らず困り果てている。つーか対応するの諦めてんじゃねぇのか?
 トレーナーに見放されたニドキングは、この場の中でも人一倍困り果てて絶句している。


「もう可愛いわねえ可愛いわねえ。もうニドキング可愛い」

「あの……毒の棘……」

「あ、この子の特性?」


 ポケモンにはそれぞれ特性と言うものがある。リザードンには猛火、カメックスには激流、フシギバナには深緑と言う、個々特有の能力が。
 そしてニドキング――と言うよりニド系は揃って、特性として毒の棘を持っている。その能力は、何割かの確率で触れたものを毒にすると言うものである。
 まあそれらは全てポケモンバトルにおいてのみ発揮される能力なのだが。
 しかしニドキングの特性を考えると、そうベタベタ触れぬ方がいいのではないかとも思う。今迄そんなにベタベタする人間なんていなかったから、どうなるか知れたもんじゃない。


「大丈夫大丈夫。あたし、免疫力あるから!」

「君はいつからカビゴンになったんだい……せめてクリアボディだとか言いなよ」

「失礼ねレイジ君! ツッコミも内容選んでよねもう」


 その前にアンタの発言に問題があっただろ。免疫力だとか言う問題じゃねぇ。
 クリアボディにしても、人間だろ。何でメノクラゲの特性を態々引っ張ってきやがんだ。話がややこしくなるだけだろうが。面倒臭ぇ連中だ。


「……あれ?」

「どうしたんだい?」

「んーいや……うーん」


 はたと突然動きを止めた女。じっと、俺とを見る。俺とは揃って気まずくなって、目が無意識で泳ぎ始める。
 動き回られると鬱陶しいが、いきなり止まると何だか調子を狂わされる。
 レイジの野郎も、女の様子に疑問符を飛ばしている。


「あ、判った! 君、ちゃんでしょ。それで君は、ちゃんのライバルの君」

「そうだけど――何で知ってるんだい? 彼女達の名前。初対面だろう?」


 考え込んで絞り込んだ結果、俺との名前を思い出したらしい。
 ずっとこの女のペースで、名乗る隙も見出せなかった現状。それなのに女が名前を知っているなんて、当然ながら予想外だった。
 レイジとか言う男が訊いたように、この女とは初対面の筈。
 少なくとも、俺の記憶の中にこんな変人はいない。こんな目立つ奴、忘れたくても忘れられねぇだろう。


「ワタルさんからね、聞いてたの。若いのにすっごい強い子がいるって。しかも二人! 更に言うとその二人がライバル同士だって聞いて、もうあたし燃えちゃって。いいわよねえライバル! 切磋琢磨。いい関係じゃない。素敵よねっ。あたし達もライバル同士、強くならなきゃねっ」


 ライバル同士だったのかこの二人。ワタルさんから俺達の事を聞いてたって話よりも、そこに驚いたんだが。
 この女の落ち着きのなさと、レイジとか言う男の落ち着き具合、そして態度を総合して見ると、女は面倒を見られていて男は保護者って言う構図が出来上がる。ライバル同士だ、と言うよりも。
 そもそも外見から見て同年と判るものの、落ち着きで言うと女が余りに動き回り過ぎて、子供にしか見えない。内面的に果たして同年と言えるのかどうか。
 んでもって、俺達よりも年上と言う事実を、どう受け止めるべきか。


「ああレイジ君、ワタルさんと再戦してきたよ。まあ結局矢っ張り負けちゃったけど。それでポケモンリーグから帰ってきたから、それをレイジ君に報告しとこうかと思ってね、トキワジムに寄ったの」


 俺とは、呆気ない印象を抱かせるくらい、元チャンピオンだったワタルさんを超えた訳だが、実際あの人は生半可な実力で勝てる相じゃない。
 はどうか知らないけど――否、サンダースとラプラスで勝ったと言っていたか――俺は正直言って、苦戦した。
 このとの差が、実力の差なんだろうけど。
 だからワタルさんに俺とが一目置かれているのも判るし、再戦してもまだ勝てないのも、判る。アイツに勝てないからって、見下すなんて馬鹿な事はしない。


「だからね、修業やり直し! でも序でにいい話聞いちゃったの。ジョウトよりすっごい西の方にある地方と、最近やっと船が運行し始めたんだって。ホウエン地方って言うらしくて、カントーにもジョウトにもいないポケモンがいるらしいの。次はそこに行こ!」


 ジョウトに――ホウエン? 聞かない単語だ。いやでも、ジョウトなら地図で見た事があるかも知れない。
 カントーの西、ポケモンリーグの向こうから行けるって話ではなかったか。
 でもまだカントーを完璧に巡り終えていないから、よく調べていない。


「あっ、あとこの子見てよ!」


 ごそごそと女が取り出したのは見た事もないモンスターボール。スーパーボールでもハイパーボールでもない、黒いモンスターボールだ。
 そしてそこから出てきたポケモンに、俺達は更に驚かされた。
 見た事のないポケモン。サナギ――みたいだが、トランセルやコクーンとは全然違う。触れてみればそれははっきりと判るんだろうけど、見た目だけでも違いが判る。
 何なんだ――このポケモンは。そして、この女は。


「あのヨーギラスがね、進化したの! かぁわいいでしょっ。サナギラスって言うんだって。本来は土の中で眠って次の進化まで待つらしくて。そんな事言われちゃったらあたし、最終進化形に期待しまくっちゃうじゃないねえ!」


 にしてもよく喋る女だ。この女が喋れば喋る程、疑問は増えていくのに、それを発問する隙もない。
 ちらりとの様子を盗み見してみても、俺と同じ心境であるらしい事が判るだけ。あのさえ割り込めないなんてよっぽどだ。が押されているのも珍しい。


「サナギラスか……じゃあ修業した君と手合わせする序でに、その子の能力も見せて貰おうかな」

「よーし、やってやろうじゃないの!」


 今迄、よく喋る女を黙って見ていた男がやっと口を挟んだ。さもこの状況には慣れているとばかりに、口の端を吊り上げて。
 長い付き合い故、どのタイミングで口を挟むかくらい心得ているのだろう。
 と話している時には見せなかった、ポケモンバトルに対する熱さが宿る。ただの優男かと思っていたが、勘違いだった。
 よく喋る女にしても、ざっと男から間合いを取ってモンスターボールを構えた。
 中央のボタンをカチリと押せば、モンスターボールが膨らんで臨戦態勢に入る。


「行くわよ、サナギラス!」

「じゃあ俺の一番手はハッサムだ!」

「――リザードン、火炎放射」

『……!』


 男のモンスターボールからも、知らないポケモンが出てきた。俺とのバトルでは出さなかったポケモンだ。
 あのサナギラスと言うポケモン、見た目的に岩か地面、あるいはその両方だろう。
 男の方は判らない。鋏の形はクラブと同じだが、水タイプにはとても見えない。岩に近い堅さも見て取れる。
 何なんだ――と分析を更にするより先に、目の前は紅蓮に染まった。


「おま……っ、!」

「だって話に入れないんだもの。強硬手段」


 涼しい顔で反省の色もない。驚いている当事者二人にも溜息をくれてやるだけ。流石、と言って沈黙するしかない。
 大声を上げる俺に対しても、一瞥をくれるだけだし。
 余り感情を面に出さない奴だが、無視されたのには――少なからず怒っているみたいだ。容赦も問答もなく火炎放射なんて。
 そのの恐ろしい命令に一瞬の躊躇いもなく火炎放射を放つ、リザードンもリザードンだが。ポケモンはトレーナーに似ると言う事か? もしかして。


「あはははは、レイジ君のハッサム弱点突かれてるー」

「暢気に笑わないでくれ……あーあ、ポケモンセンターに行かなきゃいけないじゃないか」


 炎タイプが弱点だとは――あのハッサムとか言うポケモン、草タイプか虫タイプなのか? 氷、にはとても見えない。そして草タイプにも見えないから、虫タイプなのかも知れない。
 しかしにしてはリザードンの火炎放射で一撃とは呆気ない。あの堅そうな外見は見掛け倒しなのか。


「レイジさん、そのジョウトとかホウエンって、何なんですか? その人のポケモンも、今レイジさんが出したポケモンも、あたし、見た事ありません」

「あ、ああ、そうなんだ。ごめんごめん、熱くなっちゃって。君はまだカントーから出た事がないんだね」


 我に返ったのは、レイジとか言う男だけ。女の方は火炎放射を向けられたにも拘らず、のリザードンに目を輝かせて抱きついている。
 どうやらあの女、出来る限り相手しない方が自分の為らしい。女自身も、無視されても気にならないみたいだし、ああ言うのはそっとしておいた方がいい。


「ジョウト地方って言うのは、カントーの西にある地方の事だ。セキエイ高原から行ける筈だよ。ホウエン地方については俺もまだ知らないんだけど、多分クチバシティから船が出始めたんだろう。彼女の話を聞く限り。シンオウへも出てるんだし」

「シンオウ?」

「言ってなかったかい? 俺はカントーより北にあるシンオウ地方出身なんだ」


 次から次へと飛び出てくる聞かない単語。世界は広いと知っていても、どれ程広いのかなんて知らない。じいちゃんなら――知ってるんだろうけど。
 世界を自分の眼で見て知って歩く。
 誰かの話の中の世界なんて、仮令現実の話、事実だったとしても幻でしかない。コイツら二人は緩い奴らだと思っていても、俺達より年上なだけ、世界を見て回っている。


「もし新しい地方を旅しようと思ったのなら、先ずジョウトへ行くといい。今、カントーとジョウトの間で行き来がし易いようになり始めているから」


 ジョウトの――旅か。俺はまだ、カントーを旅してもいい。けど――横目で見たを見て、方向性を変えねばならなくなりそうだ。
 は多分、明日にでも――いや、今直ぐにでも旅立ってしまいそうだ。ジョウト地方へ。


「俺達もそろそろ次へ行く事になると思う。彼女は思い立ったら直ぐに行こうとするから」

「……レイジさんは、あの人と一緒に旅してるんですか?」

「成り行き上ね。面倒を見なきゃ大変な事になりそうだったから」


 結局、そのあとは何もなくてマサラに帰った。行きのようにリザードンやピジョットには乗らず、徒歩で。
 と一緒に歩くなんて数年ぶりだった。
 トキワからマサラなんてあっと言う間の道のりなのに、やけに長く感じたのは、がずっと黙っていたからだろう。
 不気味な沈黙に、俺の口も重くなる。


「……あたし、ジョウトに……行くわ」


 やにわに口を開いたのはだった。いきなりの、科白。でも、判っていた事だ。
 には元々じっとしているタイプじゃない。ただ理由がなければ面倒臭がる、厄介な性格をしているだけで。飽き性で、いつも新しい事を求めている。


「……そうか」


 何で、旅をするのか。
 カントーの旅は、ポケモンリーグのチャンピオンを目指してのものだった。結果的にに追い越されたけど。だから俺は、強くなる為に旅をして続けている。
 でも――は。
 俺より強くて、カントーのチャンピオンで。多分このカントーに、より強い奴はいないくらい――強い。強いから、俺みたいな旅は当て嵌まらない。
 それでも、次はジョウトを旅すると、決めた。
 新しい世界を求めて。新しいポケモンを求めて。


「ちゃんと帰ってこいよ」

「……は、行かないの」

「俺はもう少しこっちで修業する。まだまだカントーの旅に満足してねぇからな」

「……そっか」


 ジョウトの旅をしてみたいと思わなかった訳じゃない。
 寧ろ俺にだって、新しい土地、新しいポケモンに興味はある。我慢出来ずに飛び出しちまうんじゃないかって、思うくらいに。
 でも――駄目、なんだ。今ジョウトを旅して、道中でに会って、カントーを旅してた時みたいにバトルを挑む自信が――ない。
 何で今も俺はカントーを旅しているのかと言えば、それが理由。
 今の自分に、自信が持てない。
 俺はあのワタルさんを超えたし、にだけ勝てないってだけで、強い自覚はある。
 でも――新しい土地でやっていけるか、自信がない。万が一以外の人間に負けでもしたら、俺はもう立ち直れないんじゃないかって、思う。


「強くなりなさいよ」

「お前もな。俺以外の奴に、負けるんじゃねーぞ」

「……判ってる」


 翌日、はジョウトに旅立った。










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( 後書き )

ああかなり長くなってしまいました(汗)
どーしてもこのアニメ夢主出すと長くなるんですよね。
レイジさんが何故トキワジムに、と言うのはFLした時に、
トキワジムにいるトレーナー一人に「レイジ」と言う名前のキャラがいたからです。
エリートトレーナーでニドクイン持ってたので、それをネタにしました。
因みにサナギラスは、アニメ夢に出てくるヨーギラスの母の方です。