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旅の土産話でも一つ




 ポケモンリーグ会場で、今繰り広げられているサトシとシンジのポケモンバトル。
 はサトシがフカマルを持っている為負ける訳がないと、理由にもならない事を言っていたが、結局今回のシンジとのバトルパーティにサトシはフカマルを入れていなかった。
 それ以前に彼女らを驚かすパーティで、サトシは組んでいた。シンジがバランスよく、相手の特性を見極めてポケモンを編成したのに対し、サトシはあくまで彼自身の拘りを捨てず、あろう事かエイチ湖でのバトルで使った六体のポケモンでシンジに挑み――勝った、のである。


「はー、いいバトルだったわね」

「ああ、そうだね」

「バトルしたくなってきちゃった」


 画面の向こうではサトシとシンジのバトルが終わり、次のバトルの準備が始まっていた。
 バトルが終わって、シンジとサトシはそれぞれ自分達がバトル中に立つその背後にあった出口から出て行った。
 テレビ中継で知れたのはそれまでで、その後会場の何処かでサトシやシンジが会おうとも、彼らと同じ場所にいないレイジとには判らない事だった。


「シンジ……負けちゃったな」

「そうね。でも、いい顔してたと思うわ」


 負けた時のシンジの表情に、悔しさは映っていなかった。諦めとも違う、嬉しげな――満足げな、表情だった。
 エイチ湖でサトシに勝った時、シンジは相変わらずの無表情だった。ただその時も、悔しさは勿論なく、自分に負けたサトシへの軽蔑や見下しも見せなかった。
 満足げな表情で言えば、サトシに勝ったエイチ湖の時に見せた表情よりも――今、サトシに負けた時のシンジの表情の方が、満足げそうに輝いていた。
 全力で戦って、全力で相手も向かってきて――結果、負けた。
 出会った当初はそれぞれ互いのバトルスタイルや育成方法を理解出来ずぶつかり合ったようだったが、今では互いに互いの実力や考えを認め合い、ライバルとして切磋琢磨出来た事を誇りに思い合っているようだった。
 だから、負けても尚シンジは満足げに小さく笑っていたのだ。
 諦めや、自嘲でもなく。まだまだ足りないところがあると、気付けた事への――喜びもあって。
 どんな表情を浮かべて、どんな感情を抱えて此処に帰ってくるのだろうと思うと、バトルを見て興奮した気持ちはより一層高まった。
 そんな彼女は、外で自由にさせているポケモン達に結果を報告すべく、今の高ぶる気持ちを分け与えるべく、家から庭の方へ弾丸のように飛び出していった。レイジはそれに苦笑しながら、ゆっくりとした足取りで追いかけた。
 レイジが外へ出ると彼女の姿は直ぐそこにはなく、代わりにシンジの勝敗の結果を心待ちにしていたシンジの育てたポケモン達と、レイジの育てたポケモン達が並んで待っていた。
 揃って心配げな表情を浮かべていて、不思議に思って小首を傾げる。
 先にが庭へ出て行った筈で、彼女はシンジとサトシのバトルがどうだったかをポケモン達に伝えに行った――筈では、なかったのか。
 そう思って庭を見渡せば、家から少し離れた場所にいたの手持ちポケモン達と、戯れている彼女を見つけた。
 熱いバトルを見て滾った彼女は、一目散に自分のパートナーを抱き締めに行かずにはいられなかったらしい。報告を優先して、本能的な行動に出たようだった。
 それなら、家から出てきたレイジに、試合結果を期待して待つポケモン達にも頷けた。


「アイツ、負けたよ」


 シンジとサトシがどう戦い、どんなバトルを繰り広げたのかポケモン達に見せてやりたかったが、家の中に入れるポケモンは限られており、それなら一部のポケモンだけに見せるのは不公平になってしまうからと――全員に、外に出て待って貰っていた。
 そして静かに――呟くように、ポケモン達に今テレビの向こうで起こった出来事の結果を伝えた。
 シンジが勝つよう祈り願い望んでいた彼らは、揃って項垂れ、負けたシンジを想い悔しがった。長い付き合いだけに、兄であるレイジと同じ気持ちがポケモン達には根付いているのだ。
 特に、シンジが最初に選んだポケモンであり、今や一番信頼しているドダイトスは今回のバトルに参加させて貰えなかった事から、かなり悔しさを噛み締めている事だろうと思う。
 シンジとの付き合いが一番長く、彼を一番理解し、彼のバトルスタイルも信頼しているドダイトスだが、それでも――何も感じない訳では、なかった。


「アイツが帰ってきたら、久しぶりにバトルだ」


 ポケモン達の心境を察しつつ、レイジは彼らにそう告げた。
 途端、ポケモン達は目を輝かせて色めき立った。
 シンジが負けたのは悔しいが、シンジとまた一緒に戦える事を考えると、彼らにとってそれ以上に嬉しい事はなかったのだ。
 厳しく容赦のないバトルスタイルと育成論を築き上げているシンジだが、自分達に愛をくれない訳ではない。強くなるよう育て上げ、相手に勝てるよう作戦を考えてくれるのが――彼なりの、愛情表現なのだ。
 ポケモンが嫌いなのなら、一緒に戦おうとすらしないものだろう。
 けれどシンジは、自分と一緒に戦うのなら強いポケモンでなければならない事を強いり、それに応える事を望んでいる。だから自分達は、彼のそんな期待に応えるよう、頑張らなければならないのだ。
 シンジのポケモン達は皆そう考え、シンジの考えを理解していた。


「いいわねー、疼いてくるわねー、いても立ってもいられないわねー!」


 リザードン達を後ろに控えて、はレイジのいる所まで戻ってきた。
 リザードンはいつも以上に尻尾の炎を燃え滾らせ、ワニノコも落ち着かない様子で飛び跳ね、バタフリーも彼女の周りをそわそわした様子で飛んでいる。
 状況を上手く掴めていないヨーギラスだけが、きょとんとした目でを見上げていた。


「じゃあレイジ君、あたし、シンジ君迎えに行ってくる……!」


 そう言うなり身を翻し、リザードンの翼に手をかけてその背中に乗ろうとした彼女を、レイジは反射的に手首を掴んで引き止めた。
 手首を掴まれた彼女は、バランスを崩して後頭部から彼の腕の中へ倒れる形になった。
 普通に立っている彼に支えられ、彼女は四十五度の斜めの体勢の儘見上げると、間近にある顔をじっと見た。


「少しは感慨に浸らせてやりなよ。アイツも、思う所があるだろうしさ」

「ん……それも、そうね。帰り着くまでが遠足だものねっ」


 レイジはの両肩を掴んで、前へ押すようにして彼女を立たせた。体勢を直した彼女は改めてレイジと向き合い、ふむ、と考える。
 いても立ってもいられない彼女の気持ちは判るが、だからと言って迎えに行けばシンジの怒りを買うのは必至に思えた。
 シンジはを苦手としている。嫌ってはいないだろうが、人懐っこく馴れ馴れしい彼女の態度が一々癪に障るのだろうと思う。
 バトルに負けたシンジが今どんな気持ちで、これからどんな気持ちを抱えて帰ってくるのか判らないが、水を差すのは野暮と言う事なだけは判った。


「じゃあ久しぶりに、俺とやろうか」

「待ってました! よっし、じゃあ行くわよ、!」


 熱いバトルを見て、何かせずにはいられなかったのは――レイジも同じだった。
 ポケモンリーグの中で戦うサトシとシンジを見ながら、その昔自分がそこに立った思い出を、思い出さない筈もなく。
 この興奮が、下手に冷めてしまわない内に。










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( 後書き )

アニポケDP、四年間本当にありがとう! の気持ちを込めて。
AGで一旦アニポケから離れた私ですが、
DPで改めて戻ってきて、とても楽しませて貰った四年間でした。
それにしても何分、アニポケ夢を久しぶりに書いたので勝手が判りませんでした(笑)
と言うかそもそも、三人称が久しぶり過ぎた……!
夢主の名前を決めてあるものの、何か使うのが憚られるなあとも思い。
何にせよ、取り敢えずこれでアニポケ夢も終わりな感じです。
もしBWで滾るキャラが現れたり、嬉しい展開になったり、
首を突っ込みたくなったらまた書くかも知れません。
ただレイジさん夢をひたすら書きたくて書き始めたものなので、これで一旦終わりです。
カオスな小説に此処まで付き合って下さり有難う御座いました!