シンオウは今、ポケモンリーグで各地盛り上がっていた。 ある者は友人を励まし、ある者は家族を励まし、ある者は恋人を励まし、主催地のみならずテレビ越しにも、殆どのトレーナーがポケモンリーグで繰り広げられるポケモンバトルに注目していた。 そんな中――トバリシティにある、育て屋にて。 「本当に、見に行かなくていいの?」 「ああ……ポケモン達を、放って行く訳にはいかないからね」 画面の向こうでは、ポケモンリーグ会場が映し出されていて、ついこの間知り合った少年と、自分の隣に座る青年の弟が互いに顔を合わせている。 緊迫した空気と、観客の期待に満ちた騒がしさがテレビのスピーカーから漏れている。 「折角あたしが此処にいるんだから、あたしに任せて行ってくればよかったのに。皆を強い子にしてあげるわよ!」 胸を張って彼女がそう言えば、彼は苦笑を浮かべた。 ポケモンリーグが開幕する前日に、突然訪問してきた懐かしの彼女。 エイチ湖で別れて以来だった。てっきりまた各地を飛んで、もうシンオウ地方にはいないのではないかと思っていたのに、突然やって来るから相変わらず行動が読めない。 ただ今回やって来たのは、ポケモンリーグで注目している少年の一人が、レイジの弟だったからである。 そして画面に映るシンジと向き合っている少年にも、彼女は注目していた。二人が戦う事を知ったレイジは、どんな気持ちなのだろうと思い、やってきた次第だった。 更に深く本当の話をするならば、一緒にポケモンリーグ開催地へ行こうと誘いに来たのだった。けれどどう言う訳かレイジは行かないといい、結局自宅観戦となったのである。 今はテレビの前のソファに二人で並んで座り、これから始まるポケモンバトルに固唾を呑んで待っていた。 「勝手にそんな事されたら困るから、君には任せられないんだよ」 その言葉に、はカチンときた。視線をテレビ画面から隣に座るレイジへ乱暴に向けて、立ち上がる。 対する彼は、彼女がそんな行動に出ると予想していたのか、特に驚いた様子をおくびにも出さず、平静にそんな彼女を見上げる。少しだけ、口元を緩めながら。 「冗談に決まってるじゃないの。そんなにあたし、信頼されてなかったのね。心外だわ」 怒気を行動に現し空気に滲ませたところで相手が靡かない事を早々に悟ると、ぷい、とそっぽを向きながらも荒々しくソファに腰を下ろす。 テレビの向こうでは、相変わらずこれから戦う二人が睨み合っている。 バトルが開始される時間には、まだ少し――もう数分、経たなければならない。 「冗談だよ」 「勿論、判ってたわよっ」 そう言う割には、振り返って此方を見た目は相変わらず鋭く怒り狂っていた。 感情の起伏の激しい彼女だから、然程珍しい光景でもない。先程までの笑みが消えようと些細な事で怒り出そうと、長い付き合いだから宥め方も知っている。 「それにあたしが信頼出来なくても、あたしのポケモン達なら信じられるでしょ」 溜まった怒気を頬袋に溜め込んだように、彼女は子供さながらに頬を膨らませた。 十七歳にもなるのにこんな調子では、ただ大きいだけの子供のように思えてしまうからいけない。感じた事を告げれば、一層彼女の機嫌は斜めの一途を辿る事だろう。 確かに彼女の言う通り、面倒見の問題ではトレーナーである彼女よりも、トレーナーである彼女から本来は面倒を見られる側である、彼女の手持ちポケモン達の方がしっかりしている。旅をしていると面倒臭いからと言う理由で、ちゃんと食事を取らない彼女の為に、彼女のポケモン達は彼女に食事を用意してあげるのである。これではどちらがトレーナーか判ったものではない。 「あはは! そうかも知れないね。けどまあ――そう気を遣わなくてもいいよ。エイチ湖で、見たいものは見たから」 取り敢えず、彼女を宥めるように静かに話す。 彼女を信頼していない訳では決してないが、他のトレーナーから大事なポケモンを預かり育てているのは自分だ。だから、自分が責任を持って育てなければならない。 これから画面の向こうで繰り広げられるバトルを自分の目で、間近で見たいと思うのは確かな欲求だったが、画面の向こうの二人が今どんな気持ちで、どんな事を考えて向き合っているのかなら、この間のエイチ湖での二人のバトルからある程度理解に至っていた。恐らく今も互いに向き合いながら、あの時と同じ気持ちでいるのだろう。 だから直接、見る必要はなかった。こうしてテレビの向こうで見守るくらいが、丁度よかった。 「……そうね。いいバトルだったわ。今回のバトルも、きっといいバトルになる。でもだからこそ――この目で、見たいじゃない」 まだ少しむっとした表情の儘、彼女は納得させられそうになるのを踏ん張って意地を張っている。 その気持ちが、判らない訳でもなかった。 「じゃあ訊くけど、どうして君は此処にいるんだい?」 「そ、それは……」 問われると判っていた筈の問いに、彼女は口篭る。答を用意していたかどうかは定かでないものの、用意していたとしても恐らく彼女は薄っぺらい嘘で応えようとはしなかっただろう。 だから用意していた答も捨てて、口篭った。 「君は俺と違って行けない理由はないのに、何で此処にいるんだい?」 「い、意地悪ねもう!」 彼女がどうして、この目で見たいと言いつつ、ポケモンリーグ開催地に行かずトバリシティに来て、居座っているのか理由は知っていた。 彼女がやって来たのはポケモンリーグ開催前日で、彼女の持っているリザードンに乗って行けばトバリシティから開催地までそう時間をかけずにひとっ飛びで行ける筈だった。 けれどそれでも、レイジが行かないと告げてから、彼女も行かないと判断を下したのには――理由があった。 しかしその理由を言葉で言い表してくれる事は、恐らく一生ないだろう。態々改めて問う必要はないと判断し、レイジも同じ質問を繰り返す事はしなかった。 「あっ、始まるよ」 テレビの向こうでいよいよ開始とアナウンサーが喋り、そうしてゴングが鳴らされた。 サトシは足下に控えていたピカチュウに一番手を任せ、シンジはモンスターボールからボスゴドラを出した。会場が騒然となる。 「どうなるんだろうね……」 ボスゴドラと、ピカチュウのバトルから始まる――何度目となるか判らない、シンジとサトシのポケモンバトル。 エイチ湖での六対六のフルバトルでは、最終的にシンジが決着を着ける形でサトシに勝った。けれどそれから更に歳月は流れ、二人はジムバッジを八つ揃えて――あの頃に比べて、格段に手持ちポケモンも強くなっていた。 「今度こそサトシ君が勝つわよ。だってフカマル持ってるもの!」 「はいはい」 そのフカマルをシンジとのバトルで出してくるかは、定かではない。しかしシンジとのバトルは生半可な強さでは対等にすら持ち込めないので、進化もしていないフカマルを出すのはこの場面では違和感を覚えるものだろうと思った。 が何を思って、フカマルを持っているからと言う短絡的な理由で期待を寄せているのか、判らないではない。 シンオウ地方にいるポケモンの中でも、彼女はフカマルの進化系であるガバイトと最終進化系ガブリアスをこよなく愛しているのだ。だから、その三体の何れかを持つトレーナーに悪い者はいない、と言うような道理で言っているのだった。 そして――シンジとサトシ、そのバトルの――結果は。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 一話に収めて、軽く書いたつもりがうっかり長くなったので区切り。 今までの長さから考えると、突然一話が短くなった感じになりますけどね。 最後のvsシンジで、一人テレビの向こうの解説者のレイジさんには色々笑いました。 そんなどや顔?されながら解説されてもさ、困るよ兄ちゃん。 真剣に独り言を呟いてるのが、余計に。 はー、それにしてもフカマル、進化すればよかったのになあ。 流星群完成と共に進化! みたいなさ。 |