「貴方が――レッドさん、ですか」 「…………」 「私はジョウト地方のワカバタウンから来たです。貴方と、ポケモンバトルをしに来ました」 「…………」 |
初めてあの人の噂を聞いたのは、チョウジタウンで戦ったロケット団からだった。 いかりの湖で、いきなり立て続けに進化し始めた沢山のコイキング――ギャラドスの異変の原因を探るべく、饅頭屋の地下にあった基地へ侵入した。 三年前に解散したと言われていたロケット団がそこにいて、私は驚いた。 ヤドンの井戸の事件でロケット団と初めて遭遇したけれど、その時は単なる残党だと思っていたから。 でも実際チョウジタウンに現れた彼らは、明らかに復活したロケット団だった。でも、いつまでも驚いている場合でもなかった。 だから殆ど、我武者羅に戦った。 ロケット団一人一人は大した事もなかったけれど、数が多くて倒しても倒しても出てくるロケット団に苦戦を強いられた。 それでも何とか幹部まで行き着いてギリギリの処でも勝てたのは、私を信じてくれているポケモン達のお陰だった。 力が抜けて思わずその場にへたれ込んでしまった私に、そのロケット団幹部は言った。 ――三年前もガキにやられて、今度はしかも女かよッ。 三年前にロケット団は壊滅した。そして三年経った今、復活を目論んでいる。それは状況と、ロケット団の下っ端の科白から判った事。 でもその時聞いたその一言で初めて、三年前の真実が垣間見えた。 ロケット団の復活にも驚いたけれど――三年前にロケット団と戦ったのは私と同じ子供だった、その事実に一番驚かされた。 ロケット団は復活したばかりで、三年前に比べて勢力は無かった。一番偉いのも幹部の二人のみで、噂に聞いていたボスはいなかった。 幹部の話によると、ボスは三年前の解散後に行方を晦ませた――らしくて。 だからきっと、三年前ロケット団に立ち向かったその人は、とても強かったんだと思う。 数で押されただけでへばってしまう私なんかよりも強くて、ロケット団のボスが認める程の強さを――持った人。 無意識で私はその人にその時――興味を持った。 いかりの湖に流されていた怪電波は、謎の人ワタルさんと一緒に止めるのに成功した。でもそのあと直ぐウツギ博士からの連絡があって――コガネシティのラジオ塔がロケット団に占領された事を知る。 ワタルさんとは別れたあとの話だったから、結局ラジオ塔には単身で乗り込む事にした。 自分の強さに自惚れてた訳じゃない。自負が少なからずあったのは確かだけれど、誰かが動かなきゃ始まらないと――思ったから。 仮令私が負けてしまっても、私がそこまで築いた道は残る。その跡を誰かが辿る時、少しの力添えにでもなればいいと、思ったから。 でも実際戦うのは私じゃなくてポケモンだって事も、ちゃんと判ってた。私はただ指示を出すだけ。 けれどそれでも、私のポケモン達は私の事を判ってくれていた。私がしたい事を、彼らは理解してくれていた。 だから皆は、私の為に頑張ってくれた。いつも皆が頑張ってくれるからこそ私はあるのだと、知っていたから。ポケモン達は私に、ついてきてくれたから。 きっとあの人のポケモン達もそうだったのだろうと思いながら――私達は、進んだ。 またロケット団幹部と、戦う為に。 「また来たのか。正義気取りか?」 「別に、そんな事考えていません。ただ私は、貴方に訊きたい事があるから、此処まで来たんです」 「俺に勝てたら何でも答えてやるよ。けど見たとこ、この前の男はいないみたいだな。この前みたいに行くと思うなよっ」 確かに、この前より楽な戦いじゃなかった。 パートナーのバクフーンだけが残って、寸でで負けそうな処をなんとか勝ったけれど――矢っ張り私は、まだまだだ。知らぬあの人のような強さとは、程遠い。 でも、目の前の勝負に私は――勝ったから。 「俺に訊きたい事があるんだろ。言えよ。何でも訊けばいい。弱者は強者に従うしかないんだからな」 済みませんボスと、行方の知れぬ影にその人はまた謝った。 相手はロケット団で悪者で、今もラジオ塔を乗っ取っていたのに、私に対する謝罪でもないのに――ちくりと胸に針が刺さった。 この人達は何故悪い事をするのか――そんな根本的な事よりも、何故この人達はラジオ塔を乗っ取ってまで、行方不明のボスを捜しているのか。いないならいないで、誰か代わりが跡を継げばいい問題ではないのか。 それでも彼らがその人を捜しているのは――誰もが慕い認める、人だったから。 そんな人と戦った人を――私は捜している。追い掛けて、いる。 「三年前、ロケット団を壊滅させたのは誰ですか?」 「あ? ……自分と同じ境遇だから気になるってか。まあいい。だが……生憎名前は知らない。ボスは知っていたみたいだがな」 「じゃあせめて、どんな人だったのか教えて下さい」 「……忘れもしねぇ……年はお前と同じくらいのガキ……男だったな。赤い帽子に赤い上着。無口な野郎だった。その癖ポケモンの強さと言ったらなかったな。手持ちで覚えているのはリザードンくらいだ。幹部の俺との勝負でさえ、ポケモン一匹で十分だったんだ。いけすかねぇ、ませたガキだったぜ」 その後ロケット団は再び解散したみたいで。 ラジオ塔を乗っ取ってまで行方知れぬボスに呼び掛けをしたものの反応は無く、諦めたらしい。悪役に諦めなんて似合わないと思うけれど、諦めたのなら諦めたでそれが一番いい結果。 だから私もそれ以上ロケット団を気に掛けなくなった。 本来の旅の目的に戻って、私は残りのジムリーダーに挑戦した。 フスベシティのイブキさん。ジムリーダーの中でも珍しいドラゴンタイプの使い手で、弱点の少なさに苦戦した。最近苦戦してばかりで、もっともっと強くなりたいと――望みながら。 あの人のようにと、知らぬ影を追い掛けて。 そして無事最後のバッジを受け取ると、私は一途カントー地方にあるポケモンリーグを目指した。チャンピオンロードで暫く修業したあと、四天王に挑んだ。 エスパータイプ使いのイツキさん、毒タイプ使いのキョウさん、格闘タイプ使いのシバさん、悪タイプ使いのカリンさん。 そしてチャンピオンは――ワタルさん、だった。 扉を開けくぐって、私は驚いた。けれど心の中では、腑に落ちて納得している自分がいたのも真実。 あの強さは、ジムリーダーのイブキさんをも遥かに凌駕するものだったから。イブキさんとの戦いを交えて私は、チョウジタウンで見たワタルさんの戦いと照らし合わせて見ていたから、多分――と思っている自分が、いたんだ。 だから驚きは緊張を上回らず、ひたすらに緊迫とさせた。 ワタルさんを前に対峙して、生唾を呑む。蛇に睨まれている訳でもないのに、躯が竦んで動かない。肩も震えている。 勝てるのか――そんな疑問は二の次で、ワタルさんと勝負するのに恥じないバトルを私は出来るのか、そちらの疑問の方が私に焦燥を与えた。 そんな――光を見失い掛けた私を救ってくれたのは、ポケモン達だった。 勝手にモンスターボールから出て来て、彼らは私に何かを訴えた。必死に、一生懸命に。 ――大丈夫、君なら出来る。自信を持って。 誰かの声。ワタルさんでもない、ポケモン達でもない、私でもない――けれどきっと、未来の私の声。私の全てを知っている、私の作って来た沢山の思い出と、経験。 今一度ワタルさんと向き合って、私は――微笑んだ。 バトル、開始。 結果的に修業しただけあって、あのワタルさんに、私は勝てた。精一杯の力を出し切って振り絞って、捨て身タックルな勢いでポケモン達と一緒に勝ち取った、勝利。 何よりも始めに――涙が零れた。一滴、ニ滴。そのあとはもう止まらない。 哀しくもない――ただ純粋に嬉しさと喜びがいっぱい溢れて、ポケモン達と一緒に泣いた。泣いて泣いて、涙が笑顔に変わった時――ワタルさんの手が、へたり込んだ私の目の前に差し出されていた。 躊躇いなく、その手を取る。 「流石だね。見込んだ通りだ。君と戦っていた時、昔一度だけ戦ったある少年を思い出したよ」 その言葉に私は俯けていた顔を勢いよく上げて、ワタルさんを凝視した。まじまじと見られて、ワタルさんは目を丸める。 ワタルさんにとって、懐かしい思い出の一部。けれど私にとって、今一番知りたい――未来の道標。 また涙が、零れる。今度は、その一滴だけ。 「どうしたん――」 「その人、名前は何と言うんですか? その人と戦ったのは三年前ですか? その人は若しかして、」 溢れる疑問は人差し指一本で止められた。私は言葉を忘れて一息二息、金魚になる。じっと見詰めるワタルさんの目に、囚われる。 強い瞳を持った人なのに――この人よりも遥かに強い人が、世の中にはいる。そして私も今――この人を、越えたばかり。そんな自覚は、皆無に等しいけれど。 「名前はレッド。マサラタウンのポケモントレーナーだ。ポケモンへの揺るぎない信頼に圧倒されたのを覚えているな。それは君にも通じる所があるね。だからなのかも知れないな、彼を思い出したのは……三年も会っていないのに」 三年――前。ロケット団が壊滅したのも、同じ年。 ロケット団ボスの強さも有名だったから――そんな人よりも強く、ワタルさんよりも更に強い人。しかも、少年と言う同じ符合。 ワタルさんが私と重ねて見た人はきっと――私があの時から追いかけている、あの人だ。 「けど今は何処にいるんだろうな――今じゃ殆ど噂や伝説にさえなりつつあるからね。俺でさえ、あの子は夢か幻だったんじゃないかって思う時がある」 孤高の存在と言うに相応しいような人。余りに強くて伝説だったんじゃないかと思われるくらい、高く遠い存在。 私はそんな人を追い掛けている。 多分今となっては、あの人を追い掛けているなんて私くらいなんだろうと思う。 「けど何処にいるのかなんてまるで聞かないな……いやでも、グリーン君なら知っているかも知れない。彼はレッド君のライバルだから」 ライバル。矢張りと――言うべきか。そんな人にも、ライバルはいる。 ならきっとそのグリーンと言う人も――強い人に、違いない。だって、ライバルなんだから。 多分、ワタルさんを越えた数少ない人でもあるのだろうと、ワタルさんの表情を見て感じた。少しだけ――滲んだ、苦い色。 「ちゃん、君は若しかして――レッド君に、興味があるのかい?」 「は、はい……」 「照れなくていいよ。寧ろ当然な話なのかも知れない。高みを目指すなら尚更、ね。これから君は一度、故郷のワカバタウンに帰るんだろう?」 「はい」 「なら――またカントーに来る事があれば、トキワシティに行くといい。確かグリーン君は今トキワジムのジムリーダーをしている筈だから。彼なら、レッド君の居場所を知っていると思う」 それを聞いて、自然顔が綻んだ。それはワタルさんにも伝染して、疲れ切っている筈のポケモン達にも伝染していった。 ――じゃあ、殿堂入りに行こうか。 ワタルさんのその一言で漸く、ポケモンリーグチャンピオンであるワタルさんを越えた自覚が、ふつふつと湧き上がって来た。 躯が強張る。ただワタルさんのあとに付いて行くだけなのに、バトルの時よりもバトルをする前よりも緊張して、同じ方向の足と腕が前に出ては後ろへ戻る。音を付けるなら迷いなくギクシャク、である。 「そんなに緊張しなくていいよ。ただモンスターボールを此処に置くだけだから」 さあ置いて、と目の前の装置へ促される。 一個―― 一人、一人。モンスターボールの中にいるポケモン達を確認しながら、しっかりとその台座の上へ置いていく。 全てのモンスターボールを置き終わると、アイコンタクトでワタルさんに報せる。ワタルさんは装置のボタンを一つ押した。装置がポケモン達のデータを読み取る――。 「これで終わりだ。ちゃんは――此処でチャンピオンとしている気は、無いんだよね」 「……はい。私はまだ、旅を続けます」 あの人を捜しに。 ワカバタウンに帰って、母さんやウツギ博士にチャンピオンになったよって報せて、それからもう一度カントーに来て、カントーの旅をする。 ワタルさんが教えてくれたように、トキワジムにいるであろうグリーンと言う人に会って――あの人について――レッドさんについて、訊いてみる。 ジョウトのジムを制覇したのだから、カントーの旅でカントーのジム制覇に挑戦してみるのもいい。 私の旅はまだ、終わらない。 . ( 後書き ) 取り敢えずジョウト地方の旅の軌跡と言う訳で。思いっきり端折ってますが。 ワタルさんの口調が判りません……下手したらダイゴさんと被る(笑) 一人称は「俺」でよかったかなあと思いつつ。僕だとダイゴさんと被る(笑) ロケット団幹部についてはちょっとだけ柄の悪いイメージで普通の悪役。 本当はの振り返りを一話に詰め込むつもりだったんですが、 書いてる内に結構長くなってきたので切りのいい処で区切りました。 予定としてはについてとか、グリーンさんについても書きたいと思っています。 余談ですが、ワタルさんのイメージはポケスペのイメージが強過ぎて、 ダイゴさんみたいなワタルさんに私は違和感を覚えました。ゲームをプレイしながら。 ワタルさんが……ちゃん付け……違和感が……な風に。 でもまあ、他に呼び方がないのでちゃん付けの儘にしておきました。 |