02*
波を漂い地を歩く




 ウツギ博士から貰ったチケットで、豪華客船アクア号でアサギシティからクチバシティに到着した。
 此処から、私の新しい旅が始まった。
 あの人が旅したカントー。必ず何処かに、あの人の手掛かりはある筈。
 ワタルさんが教えてくれたトキワシティのグリーンさんと会う事を第一の旅の目的としつつ、道中でも情報を漏らさないよう、聞き込みをするつもり。
 クチバシティで情報を集める内、クチバシティの東にあるディグダの穴は、ニビシティ近くに通じていると聞いた。
 タウンマップで見ると、ニビシティを南下した先がトキワシティだ。
 これはいい、早速――と思ったのだけれど、生憎ディグダの穴の前にはカビゴンがどでんと鎮座して居座っていた。
 近くにいた人の話によると、もう暫くは動かないらしい。
 となると、別の道から行くルートを探さねばならない。一先ずそこはあとにして、私は次にヤマブキシティを目指す事にした。
 勿論、その前にクチバジムに挑む事も忘れずに。
 ヤマブキシティと言えば――モンスターボールの開発を成功させたシルフカンパニーのある大都市だ。そしてシルフカンパニーと言えば、三年前に起きた事件は有名。
 ロケット団に――占領された、話。
 だから、クチバシティの時よりも一層聞き込みに力を入れた。
 先ず、運のいい事に当時の事件を見に来ていたと言う人に会えた。何でもその時、シルフカンパニーの話を聞いて、相棒のピジョットに乗ってやって来たらしい。けれど着いた時には既に遅く、事件は解決していたのだそうだ。
 一人の――少年によって。
 しかもそのピジョットで見に来たと言う人は、事件を解決した少年と話をたらしい。ピジョットで飛んで来たんだけど――と。
 君が解決したのかいと訊くと、少年は無言で頷いたと言う。
 その次に私はシルフカンパニーへ直接足を踏み込んでみた。
 本当は社長さんに会って話をしたかったのだけれど、三年前乗っ取られた経験から、警備を強化していた。一般人である私は門前払いと言う訳である。
 過去が過去だから仕方ないと、シルフカンパニーは諦めた。
 あの人に関する情報の他に、面白い世間話を聞いた。
 何でも、カントーとジョウトを行き来するリニアが近々運行開始するらしい。今迄はアクア号のみだったのが、リニアも運行し始めるとなると、両間の行き来が楽で速くなる。
 船旅も中々いいものだけれど、十時間弱かそこら掛かるのは辛いし、一部のニーズに合わない。
 そのリニアが造られたのが、私がいるヤマブキシティだったから、余計に話題に上っていた。私も興味本位にリニアの駅まで行ってみた。
 リニア自体はまだ動いていなかったけれど、あとは電力の供給だけだそうだ。
 そしてそこで聞いた話によると、リニアの駅が出来る前はそこに、ヤマブキシティでも有名な、通称ものまね娘と言う子の家があったらしい。
 立ち退きを依頼され、近くの家に引っ越したとも聞いた。
 興味をそそられたので、その子の家に行ってみる事にした。聞き込みによれば、リニアの駅から本当に近くで――五分も掛からぬ内に発見できた。
 チャイムを鳴らす。
 基本的にフレンドリィな人は多くて、話し掛けた時素直に話してくれる人も多いし、こうした訪問も余り邪険にされない。それが今の一般的な状態だ。まあ、訪問理由にもよるけれど。
 その子は二階の自室にいるそうで、通させて貰った。


「私、ポケモンが大好きなの! 貴方も好き?」

「……えと……」


 扉を開けてそこにいたのは、私の格好をした――同年くらいの、少女。
 口調は兎も角、格好は紛れもなく私と同じ衣装で、暫し唖然となる。予想を上回る物真似っぷりだったから。
 私の服なんてどうやって調達したのか以前に、どうして私が入って来る前から私の服装が判っていたのかとか、疑問が留めなく押し寄せる。


「あの……」

「何? 真似しないでって言いたいの? やーよ。だって楽しいもん。けど……」

「けど……どうしたの?」

「な、何でもないっ」


 別に真似をやめてくれなんて言おうとしたんじゃない。真似をされるのは厭と言うか、こそばゆくて見るのが辛いと言うのが本音。
 でも物真似されるであろう事を承知で来ているのだから文句なんて言えない。
 寧ろその物真似っぷりに圧倒されてしまった。ただの芸と言うレベルではない。


「ピッピちゃんにも見せたかったな……あたしの姿」

「ピッピ? 貴方、ピッピを持っているの?」

「……ピッピって言っても、ピッピ人形なの。三年前に無口なお兄ちゃんから貰った、大切な人形」

「三年前……!」


 こんな所でその数字を聞くは思わなかった。しかも――無口な人、と言う符合。
 この子には兄弟がいないと聞いているから――それはもしかしてと、胸が早鐘を打つ。
 無口と言えば、シルフカンパニーの事件をピジョットで見に来たと言う男の人から聞いた、あの人の内面的特徴。


「その人形は失くしたの?」

「……うん。クチバシティに遊びに行った日に……」


 クチバシティで――か。
 少し思い起こして、直ぐに気付く。そう言えば――と。
 クチバシティにあるポケモン大好きクラブに、ピッピ人形を持った男の人がいた。
 本当は本物のピッピが欲しいのだけれど、そう簡単に捕まえられるポケモンじゃないから、拾った人形で我慢してるんだ――と。
 多分、それだ。
 ちょっと待っててねと言い置いて私は、一度クチバシティへ戻った。そして事情を話してピッピ人形を返して貰うと、私はものまね娘の家へ戻った。


「あ……あたしのピッピちゃん! ありがとう、お姉ちゃんっ」

「偶々心当たりがあったから」


 それから少しだけ、ピッピ人形をくれたと言う人について訊いてみた。
 勿論その人の物真似もしたのだそうで、少し小さくなっているけどと、あの人の服を来た物真似を見せてくれた。
 ロケット団幹部が教えてくれた特徴と、一致する。
 赤い上着に――赤い帽子。
 何も言わずただピッピ人形をくれたのだそうだ。だから代わりに、持っていた技マシンをあげたらしい。
 無口だけれど、優しい人だった。
 強くて――優しい。私が憧れているのは、そんな人なのだと意識する。
 そのあとは彼女に別れを言って、ヤマブキシティをあとにする前に、ヤマブキシティのジムに挑んだ。
 変なワープ装置が仕掛けられていて、ジムリーダーの許まで辿り着くのに苦労したけれど、何とか辿り着けた。
 ジムリーダーのナツメさんはエスパータイプの使い手で、フーディンに苦戦を強いられた。攻撃力も高いのに素早くて、ハッサムが押された程だった。
 それでも勝って、無事レインボーバッジを受け取った。
 さてでは次の街は何処にしようかなと思いながら、シオンタウンを選ぶ。そう言えば聞いた話の中に、三年前シオンタウンのポケモンタワーで一騒動あったらしいと言うものがあった。
 けれどいざ行ってみると――ポケモンタワーは、無くなっていた。代わりに別のタワーとして、ラジオ塔が建っていた。
 沢山のポケモン達が眠っていたポケモンタワーはどうしたのかと訊いてみると、今はフジ老人と言う人の管理の下、場所を地下に移されているのだそうだ。
 そのフジ老人の許へ行ってみた。


「カラぁー!」

「……カラカラ? 珍しい……」


 フジ老人が管理している新しいポケモンタワー――外観は塔とは程遠い一戸建ててなのだけれど――余り見ない珍しいポケモン、カラカラに出迎えられた。
 人懐っこいのか、入って来た私に警戒も無く近寄って来てくれた。
 その可愛さに、頬が緩む。孤独ポケモンと銘打たれているものの、孤独だからこそ、人を求めているのかも知れない。


「珍しいのう。その子が人見知りもなく初対面の人に駆け寄るのは」

「え……そうなんですか? ……えと、貴方は?」

「わしはフジじゃよ。此処の管理と責任を任せられておる」


 ゆったりとした様子で現れたのは、杖を付いた老人。その人の登場に気付くと、カラカラは嬉しそうに駆け寄った。
 この人が――フジ老人。新しいポケモンタワーを任された人。
 この人なら何か、あの人について知っているかも――知れない。


「そのカラカラ……人懐っこいんじゃないんですか?」

「いや、普段は人見知りの激しい子でね……友達が中々出来なくて困っとるくらいじゃよ。しかしお嬢さんには警戒が無いようじゃのう。はて、何故じゃろうのう」


 カラカラ! と言ってカラカラは私の足許で両手を仰ぎ、抱っこをせがんだ。
 本来ならこんな事はありえないらしいと聞いて、若干の戸惑いを覚えつつ抱き抱える。カラカラは私の腕の中で一際嬉しそうに鳴いた。


「若しかすると――あの子に似ておるのやも知れんな。お嬢さんは」

「……あの人?」

「いやあのう。三年前の話なんじゃが、ロケット団がシオンタウンに現れたんじゃよ。その時、カラカラのお母さんのガラガラがこの子を護る為に……殺されたのじゃ。そしてその彷徨えるガラガラの魂を鎮めて、更にわしをロケット団から助け出してくれた少年がおったんじゃ。恐らくお嬢さんはその子に似ておるんじゃろう」


 なんて――悲惨な、話。
 確かに私もロケット団と戦いを交えたけれど、下っ端一人一人の強さは微々たるもので、死者を出す程ではないと――思って、いたのに。
 ヤドンの尻尾を切り落として売り捌こうとしたロケット団を非道だと思ったのに――想像なんて、想定なんて、下らないものだった。
 あの人は――だから、ロケット団のアジトと化してしまっていたシルフカンパニーに、単身で乗り込んだのだろうか。
 感情はいつも、人を熱くさせるものだから。


「カラー」

「ほっほっ。すっかり懐いてしまったようじゃのう」


 カラカラは私が出て行こうとすると泣きに泣いた。それが余りに可愛くて――淋しそうに見えて、私は最後にぎゅっと抱き締めてあげた。
 その間だけ、泣き止む。


「また来るからね、カラカラ。だから、泣かないで」

「……カラぁ……」


 カラカラは納得してくれたのか、それ以上引止めようとはしなかった。
 私自身名残惜しく思いながら、シオンタウンをあとにした。
 次は、ヤマブキシティを横断してタマムシシティに向かった。そう言えばタマムシシティのゲームコーナーに、と言う話を聞いたのだったと思い出したから。
 タマムシシティはヤマブキシティに劣らず都会だった。でも主要な建物の多さだったら、まだコガネシティの方が都会だろうか。
 コガネシティには、タマムシシティにもあるゲームコーナーとデパートに加え、ラジオ塔とリニアの駅もあるから。
 それで早速、ゲームコーナーに行ってみた。
 話によると、三年前までゲームコーナーを運営していたのはロケット団であり、その地下はアジトになっていて、ゲームコーナーにあるポスターの裏にはそのアジトへ通じるスイッチが隠されていたらしいのだけれど――。
 どのポスターを捲っても、スイッチらしき物や、それが隠されていそうな形跡すら見付からなかった。
 既に撤去されたのだろうか。


「もうスイッチは無いよ。三年前の話だからね」

「え、あ……そ、そうですか……」


 私の行動を見ていた人が、そっと話し掛けて教えてくれた。少し恥ずかしくなって顔が赤らんだ。
 少しゲームをして遊んで、タマムシシティを出る前にジムに挑戦しに行った。
 ジムリーダーは草タイプ使いのエリカさんで、優雅な動きの中の強さに気圧されつつ、相棒のバクフーンで何とか切り抜けた。
 ジムにいたお姉さん達に此処のジムで働かないかと、色気たっぷりに訊かれたけれど控え目に対処しつつ逃げるのに成功した。少し目が、怖かった。
 そしてタマムシシティをあとにすると、サイクリングロードを下ってセキチクシティを目指す。
 セキチクシティには――ジョウトでも話を聞くくらい有名になっていたサファリーゾーンが、閉鎖されていてショックを受けた。新しいポケモンや珍しいポケモンをゲットして、ポケモン図鑑を増やそうと思っていたのに。
 取り敢えずセキチクジムに挑戦しておく。驚く事にジムリーダーは、四天王として戦ったキョウさんの娘さんだった。
 バッジを貰って――次は。
 十五番道路から十二番道路の――セキチクシティからシオンタウンへ通じる道は通らずに、エアームドの空を飛ぶで一度ヤマブキシティへ戻る事にした。
 そこから次は、ハナダシティへ北上する。










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( 後書き )

ジムは殆ど端折って……(苦笑)
ハナダシティの手前で区切りましたが、だからと言ってハナダで何かあると言う訳でもなし。
ああ、マサキに会わせるのもいいですね。寧ろもう会ってる。と言うか岬にマサキいない。
ゲームじゃディグダの穴からしか行けませんが、
もういっその事お月見山からニビに行こうと思います。