01*
いつからか、私は




 その人と出会ったのは、チョウジタウンのお土産屋さんの地下にあった、ロケット団アジトだった。
 そこのアジトへはワタルさんと一緒に乗り込んだんだけど、その人と出会った時私は一人だった。怪電波を止める為に、ある場所の入り口のパスワードを探していたところ、アジトの奥にその人はいた。
 ロケット団のボスだった、サカキと言う人の変装をして。


「……あれ、全然似てない?」

「似てないも何も、知りませんし」


 その時は何の感情も抱いていなくて、第一印象は変な人、と言うものだった。無表情で否定する私に、その人は子供みたいにえーと不満の声を上げた。
 そもそも似てる似てないと訊かれても、私はそのサカキと言う人を知らない。
 ロケット団が解散したのはボスがいなくなったからだと言う事だって、私が知ったのはそのあとだった。ロケット団がラジオ塔を占拠し、ラジオからボスへのメッセージを送っているのを聞いて、初めて知った。
 私がその時点で知っていたのは、ロケット団は三年前に、レッドと言う人によって解散に追いやられたと言う事だけだった。
 その話だって、ヒワダタウンで出会ったガンテツさんから聞いた話であって、それまではロケット団の存在すら私は知らなかった。
 三年前と言うと私は七歳だった訳で、社会に対して関心は持っていなかった。それにロケット団が猛威を揮っていたのはカントーだけで、ジョウトの田舎であるワカバタウンにその脅威がやって来る訳もなかった。
 そんな私が、サカキと言う人を知っている方が凄くて。だから冷めた反応をしてしまったのだけれど、その人は私の反応に物凄いショックを受けていた。


「おっかしいなあ……まあいい。取り敢えず、バトルだ」


 何だか判らないなりゆきでバトルになって――と言うか私は最初からバトルしてパスワードを教えて貰うつもりだったんだけど――その人は呆気なく、私に負けた。
 幹部って言うから強いのかと思えば、先発で選んでいたエーフィで十分だった。だって、ドガースしか使ってこないんだもん。完膚なきまでに倒して下さいって言ってるようなものだった。


「お前、何もんだよ……!」

「ポケモンリーグを目指すただのトレーナーです」


 そう言ってみると、その人は感心したように、最近の子供は強いな本当に、と呆れ果てていた。
 けれど変装が似ていないと言われた時とは対照的に、余り衝撃を受けていないようだった。まるで仕方ないな、と言うかのような。
 ヤドンの井戸で出会った幹部の一人らしいランスさんは私に負けた時、物凄く悔しそうにしてかっこ悪かったのに。


「……名前は? 因みに俺はラムダだ」

です」

「ふーん」


 その人はロケット団幹部で、悪い人なのに――名乗る事に抵抗はなかった。寧ろ、知って欲しいと言う気持ちがその時既に、小さいながらも心の中に芽生えていたように思う。
 結局その人はその時、私が探していたパスワードを教えてはくれなかったけれど、その問題は直ぐに解決したので、取り立てて問題にはならなかった。もしかしたらその人は、あのヤミカラスの癖を知った上で、敢えて何も言わずあの場からいなくなったのかなと思った。
 そんな事があって、何だかその人が気になるようになった。大抵の大人は子供の私に負けた時悔しそうにするんだけど、その人は悔しそうにしない珍しい人、だったからかも知れない。
 だから私にとってその人は得体が知れず、時間が経つにつれ、気になっていった。だって、悪い人なのに子供に負けえてあんな余裕、私としては釈然としない。
 そうした理由から、ジムを巡りポケモンリーグを目指す傍ら、ロケット団がいる所には事ある毎に首を突っ込んだ。そしてロケット団のに占拠されたラジオ塔で、私は再びその人と出会う。


「おお、助けにきてくれたのかね!」

「助ける? どうしてですか」

「え……」

「捕まっていない人を助ける事なんて出来ませんよ、ラムダさん」

「えー!」


 その人はまた、変装していた。しかも今度はラジオ塔の局長さんに。
 でも――またその人は、とても大きな誤算を生んでいた。ロケット団に占拠されるまでラジオ塔は二階までしか一般人の見学が認められておらず、一般人だった私が、局長の顔を知っている訳がなかったのだ。
 だから勘とその人の雰囲気で、チョウジタウンのアジトで会ったあの人だ――と気付いた。
 半分鎌賭けだったんだけど、呆気なくその人はボロを出して、私は思わずそれに笑ってしまった。えー! って言う驚き方もそうだけど、鎌賭けだって疑わない辺りが、やっぱり悪い人っぽくない。
 どうしてロケット団にいて、しかも幹部なんてやっているのだろうか。


「またお前か、! 折角変装してたのに、何で判るんだよ。そんなに似てないか?」

「だから似てないも何も、知りませんから」


 名前を覚えていてくれた事と、呼ばれた事が少し嬉しかった。
 知らない間に私は、この人が好きになってたみたいだった。気に始めた時点で、私はこの人の虜だったのかも知れない。一体いつの間に。でも、わくわくが止まらないのは本当だ。
 勘だとは言え、変装を見破れたのにはそれくらいの理由がないと変だ。この人が見破られて驚くのも、本当は無理もなかったのだから。
 私自身、当たっていたのに驚いた。


「……戦うか?」

「素直に局長さんのいる所を教えて、さっさと撤退して貰えれば、別に」


 目的だけを淡々と告げると、その人は頭を掻きながら少し考えた。面倒臭いなあ、と眠そうな目が物語っている。私はどっちでもいい。
 正直なところを言えば、さっさと撤退して欲しいのはロケット団だけで、この人にまた会えなくなるのは――厭、なんだけど。でもこの人がロケット団幹部である以上、どうしようもない。
 この人は、やっぱり悪い人。


「じゃあ今度こそ、本気だ」


 まるで自分に喝を入れるような科白で――バトルは開始された。
 そしてバトルは、前回同様の結果で終わる。局長室には項垂れるその人の姿と、無表情の私がいた。だって――本気って言いながら、結局ドガース五匹とマタドガス一匹なんだもん。何処が本気なのか、判りかねた。寧ろ前回はラッタを連れてたのに、何でドガースだけにしたのか。


「手加減くらいしろよ……」

「手加減してますよ。それでも負けたって事は、弱いって事です」

「オブラートに包んでくれ……」


 私が手加減しているのは、バトルの中で判っていただろうに。
 まだレベルの足りない私のエーフィは、エスパー最強技であるサイコキネシスを覚えていないし、今使える技で一番威力があるのはサイコウェーブだけど、今のバトルでは念力しか使わなかった。
 まあこの人がドガースを使ってくるであろう事を見越し、毒タイプに強いエーフィを使っている時点で、手加減していないとも――言えるけれど。


「まあいいや。ほら、地下通路の鍵だ。地下通路、判るか? そこの倉庫の置くに局長はいる」


 諦めた様子で、地下通路の鍵をくれた。
 勿論心配されるまでもなく、地下通路の場所は判る。美容師の兄弟や、漢方薬のおばあさんがいる所だ。そこに、鍵がかかって入れない場所があったのも覚えていた。


「……ありがとうございます」

「何で礼言うんだよ」

「鍵、くれましたから」


 戦うのも厭そうだったのに――戦っても私に負けるのは、判っていただろうに。それでも戦ってやっぱり負けて、そのあと優しくしてくれた。その意外さに、私はどうしようもなかった。
 だから、礼を言っておいた。言った理由以外の意味も、密かに含めて。


「また何処かで」

「……出来れば、もう会いたくねぇな」


 ふふ、と笑って別れを告げた。ラムダさんは判らないと言うような表情で、頭を掻いていた。
 ロケット団を解散させても――何処で会えるかは私にも判らないけれど、きっとまた何処かで、会えるだろうと言う確信があった。
 変装していても、また見破ればいいだけの話。ラムダさんの変装は、何だかんだで甘いんだから。










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( 後書き )

HGSS、もう一つの話。男主とはリンクしていない予定です。
そしてこっちはカオスになる予定です。妄想してたら暴走し始めまして。
まあ一話の回想なんで、今回は夢主も淡々として控え目ですが。
ポケ主は何か普通の子供より冷めてる感じがします。
男主は熱いイメージがあるんですが(初代以外)
まだちょっと主人公の性格が掴めてないです(苦笑)