お月見山に行くと、がいた。 まさかカントーに来ているとは知らずびっくりしたけど、バトルはいつものように手加減なく推し進めた。でもも強くなっていて、いつになく苦戦を強いられた。 結果を言えば、それでも勝ったんだけど。 は私に負けたあと、竜の穴ででも修行するかと言って、去って行った。相変わらず私に負けて悔しそうで、辛そうだったけど――でも手加減するのはの為にならないと思い、手加減した事は一度もない。 だから今回も、手加減せず全力で行った。 と言うか、手加減なんてする暇もなかったと言うのが事実かも知れない。自身が言っていたように、のポケモン達もの気持ちに応えようと、徐々に強くなっている。私も負けないよう、頑張らなければならない。 「ワニノコ、大丈夫?」 「ワニ!」 バトルには苦戦したけど、ポケモン達は思っていたより大丈夫そうだった。メガニウムと戦ったワニノコも、洞窟を抜けるくらいの元気は残っているようだった。 ニビシティ側の洞窟の出口傍にはポケモンセンターがあるものの、休む程の問題はない。そう判断して、先に進んだ。 「……あれ、道間違えたかな?」 多少なりとも傷ついているワニノコを歩かせるのも忍びなかったので、抱えて洞窟を散策する。そして出口を見つけ、外に出てみた。 けれど――出口の外は、目指していたハナダシティではなかった。 えーと、と少し出口で立ち止まる。腕の中でワニノコが私を見上げながら首を傾げている。 私の予定では、出口を出て眼下にはハナダシティの街並みが広がる筈だった。でも今私の目の前には、小さな小屋と小さな池があるだけだった。 「取り敢えず……行ってみようか」 「ワニ」 休みたいと言うのもあって、小屋に行ってみる事にした。 それに――もし小屋に人がいたら、訊いてみたい事もあった。生憎今日は月曜日じゃないし夜でもないけど、月曜日の夜はお月見山の何処かで、ピッピ達が集まって踊るらしい。 ピッピを捕まえる気はないものの――見てみたいと言う好奇心はあった。 「すみませーん」 「あ……いらっしゃい」 入ると、迎えられた。どうやらお店をしているらしい。 小屋にいたのは一人のおじいさんだけだった。私を見て少し妙な反応をしたような気がして、じっとおじいさんを見つめてみる。 知らない顔では――あるけど。 「おや、お嬢ちゃんのワニノコ、ちょっと傷ついてないかね?」 「え? まあ……バトル、したあとですから」 「ならこれをあげよう」 「ありがとうございます」 話を逸らすように、視線をワニノコへ移して話が進められた。それに戸惑い訝りながらも受け答えをする。するとおじいさんは棚から、商品であろうミックスオレを五本差し出してくれた。 いきなりの事で、余計に戸惑った。 どうしてですかと尋ねると、滅多に人が来ないからと言われた。確かに、そんな感じはするけれど ――腑に落ちなかった。 「でも――何で五本なんですか?」 「バトルのあとだったら、皆傷ついているだろう?」 「そうですけど……どうして私の手持ちが五匹だって知ってるんですか?」 「え? あ!」 私の指摘に、その人はしまったと言う様子で口を手で塞いだ。その反応からして、余計な事を言って墓穴を掘った――と言うような感じだった。 差し出されたミックスオレは五本で、私の手持ちも五匹。 モンスターボールは鞄の中に入れているから、持っているモンスターボールの数を見たからと言う理由は通じない。 トレーナーが何匹のポケモンを持つかは、その人その人による。フルメンバー数は六匹だけど、フルメンバーの人は余り多くない。 数が多いのはバトルを有利にしてくれるけれど、だからと言って必ずバトルに勝てると言う事ではなくて、寧ろフルメンバー編成を取っているトレーナーの多くは、一匹一匹のレベルが低い。 そして一匹から三匹くらいの少ないメンバーのトレーナーのポケモンは、レベルが高い場合が多い。けれどレベル差ではカバーしにくいタイプの相性とかもあるから、少数で行くならメンバーを相当考えなきゃいけないから、結局どっちもどっちだ。 兎も角、パーティをどう編成するかはトレーナーによって異なり、私は五匹で組んでいた。 でも――私はポケモン達が入ったモンスターボールを身につけてはいない為、自己申告したり戦ったりしないと――数なんて、他人に判らない。 にも拘らずこの人は、さも知っていたかのように躊躇なく、ミックスオレを五本くれた。一本だったらワニノコにと思っていただろうし、十二本なら一ダース分だから疑問にも思わなかっただろうに。 「……泣きぼくろ……」 「う……」 「この臭いは……ドガースのガス……?」 「おいおい……」 身をカウンターに乗り出して、まじまじと顔を見る。顔を近づける私からその人は逃げるように身を引く。でもカウンター中は狭くて十分には逃げられなかった。 私はその人の態度と、その体についている微かな臭いで確信を得た。 「貴方、ラムダさんですね」 「何で判るんだよ……」 半ば泣き崩れるように、その人――ラムダさんはへたれ込んだ。私はその反応に満足し、近付いていた顔を離した。 そこで漸く、足元でワニノコが何やらワニワニと訴えているのに気付く。どうしたのと訊くとすり寄ってきて、足に抱きついてきた。 うっ、可愛い。つくづく思うけど、すり寄ってくるなんて反則だ。上目遣いで見つめられたりしたら、もう何も言えなくなる。 「こんな所にいたんですね」 「……まあな」 観念して変装を取るラムダさん。紫の髪と髭と、だるそうなタレ目。私が旅をしながら、密かに探していた人。 こんな所にいたなんて、思ってもいなかった。ロケット団が解散したのは、ジョウトだったから。此処はカントーで、しかもお月見山の奥地だ。偶々迷ったから、来れた。 「しかし、まさかバレるとは思ってもなかったな」 「墓穴掘るからですよ」 「ちょっと優しくしようと思ったらこれだ……」 ぼりぼりとラムダさんは後ろ頭を掻く。 私はそれを見て、思わずふふ、と笑ってしまった。ラムダさんは笑った私を無言で見ていた。内心、仕方ねぇな、とか思ってるみたいに。 「でも私、優しいラムダさんが好きです」 「……は?」 「言い換えましょうか。ラムダさんは優しいので、好きです」 「……おいおい」 私の言葉にラムダさんは面白いように反応して、おたおたした。それを見て、私はまた笑う。するとラムダさんは反応を呆れに変えた。私に揶揄われていると思ったらしい。 揶揄っていないんだけど――言い方、間違えたかな。これじゃ勘違いされてしまう。 「言っておきますけど、冗談じゃないですから。揶揄ってもないです。大人を揶揄うな、なんて言わないで下さいね」 私の素早い釘刺しに、口を開いて何かを言おうとしたラムダさんは言葉を呑み込んで口を閉じた。恨めしそうに私を見る。 対して私はそんな視線に、勝ち誇って満面の笑みを浮かべた。 優しいラムダさんも好きだけど、子供の私相手に言葉を失くしてどうしようもなくなるラムダさんを見るのも、とても好きだ。それを言えば、性格が悪いって言われるんだろうけど。 「また会えてよかったです。嬉しいです、私」 にっこりと笑って、嬉しさを全面に出す。ラムダさんはちらりと横目で私を見て、小さく溜息を吐いた。もしかしたら、ラムダさんは私に会いたくなかったのかも――知れない。 そう思ったけれど、それは敢えて深く考えないでおいた。それは出来れば、考えたくない事だったから。 「まあ……会えて、よかったかもな」 小さな不安は、その一言で掻き消えた。 疲れたような目で言われた言葉だったけど。もしかしたら、優しいラムダさんの私に対する優しい嘘だったかも、知れないけど。 でも本当に会えて――嬉しかった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 早速ラムダさん登場です。 お月見山にいるって言うのは私の捏造(笑) いかりの湖の小屋も考えましたけど。 これからまたーり進んでいきます。 お付き合い頂ければ幸い。年の差万歳。 |