11*
不躾な問いばかり




 毎日毎日客は来ず、暇な毎日を変わらず送っていた。面倒臭い事は厭なので、別に客が来ず毎日暇で売り上げがなくても俺は気にしない。
 だがその日は珍しく――客が来た。
 窓を覗き、がやって来るのを待っていたドガースが、不思議そうにして鳴いたので気付いた。もう面倒臭いので変装もせず、ただちょっとだけ、だらけでいた姿勢を正す。
 売り上げがなくても余り気にしないが、あるに越した事はない。


「いらっしゃい」

「此処は……何だ?」

「店だ」

「ふぅん……まあいい。それより、此処に女が来なかったか?」


 入ってきたのは一人の少年だった。
 態度や口調から判るように、印象は悪いものだった。見てくれも、赤髪なのは兎も角、目つきの悪さには思わず感心してしまうものがあったくらいだ。


「いや、今日の客は少年一人だ。女がどうしたんだよ」

「来ていないなら言う理由はない」

「……可愛くないガキだって言われるだろ、少年」


 俺の揶揄に少年はただでさえ目つきの悪い目を鋭くし、俺を睨んだ。余計な事を言うなってところらしい。
 だが生憎、そんな睨みで黙る俺じゃない。じゃないが――ちょっと気の弱い大人なら黙らせるくらいの迫力はあった。
 見た瞬間から既に思っていた事だが、この手のガキは悪い事の一つや二つ、やってるもんなんだよな。


「アンタ……どっかで見た事があるな」

「そうか。生憎俺は、少年に覚えはねーぜ。そんな悪い目つき、そう忘れるとは思えないんだがな」


 話はもうないと思い、少年の態度からして用がもうないなら直ぐ出て行くと思ったんだが――どう言う訳か、少年は訝しげに俺を見始めた。
 何か引っかかるような事を言ったつもりはない。だが俺は内心、焦った。
 矢張り変装をしなかったのはミスだった。面倒臭がっている場合じゃ、なかった。此処に来るのはだけだからと、変装をやめたのが――まずかった。


「……ロケット団」

「……!」

「そうだ……チョウジの地下基地で、アンタを見た!」


 おいおいマジかよ。この少年、何者なんだ? じゃねーんだからよ。
 あろう事か、少年は言い当てた。しかも、かなり的確に。
 つーか基地で殆ど引き篭もっていた俺を、この少年はいつ見たってんだ。引き篭もっていた間だって、その時俺はサカキ様に変装してた訳で――顔を見られたって言ったら、に負けて逃げたあの時しかない。
 赤い髪の、目つきの悪いガキ……そう言えばそんなガキに任務を邪魔されたって言ってた奴がいた気がする。なるほど、それがこの少年って訳か。
 だが判らねぇな。印象通りの奴なら、みたいに俺達が悪い事をしてるからっつー理由で首を突っ込んだんじゃない筈だ。
 偽善を鼻で笑い飛ばすタイプだろ、どう見ても。あるいは下らねぇと吐き捨てて、関わらない。


「アンタ確か、ロケット団の幹部だった奴だ」

「鋭い指摘どーも。それで? 俺がロケット団の元幹部だって判って、どうする訳。そこまで知っておいて、まさかロケット団が解散したの、知らねぇ訳じゃねぇだろ」


 少年の年齢的に、三年前の解散を知らなくても――今年起きた事件なら知っているだろう。何せ、この食ってかかる調子、知らない方が不自然だ。チョウジの地下基地を知ってたんだからな。
 新聞にも取り沙汰された事を、知らない訳がない。この様子じゃ、ラジオ塔にも来てただろうしな。


「知っているさ。三年前同様、たった一人の子供に、アンタらは負けたんだ」

「……いらねーとこまで知ってるようだな」


 俺の予想の、上を来た。さえ――三年前の解散については、詳細を知らない様子だったのに。
 外見から考えて、少年はとそう変わらない年の筈だ。より年上だったとしても、一歳くらいだろ。今でも十分ガキで、ロケット団に首を突っ込むような年頃じゃねぇってのに。
 何なんだ、このガキ。


「アンタは……此処で何をしてるんだ」

「言っただろ、店。別に怪しい事なんてしてねーよ」

「どうだか……また馬鹿みたいに、ロケット団を復活させようとか考えてるんじゃないだろうなッ」

「もうしねぇよ、あんな面倒臭ぇ事」


 噛み付く少年の相手に、そろそろ辟易し始めた。
 一応、思っている事と事実を正直に話してみるが、俺を見る少年の目は明らかに俺を信じられねぇって目つきをしていた。
 やれやれ、面倒臭い。


「あー、少年は、ロケット団に何か恨みでもあるのか?」


 自分の口から出た科白に、思わず俺が驚いてしまった。少年の目も、俺の考えが判らないと困惑を僅かに映している。
 本当に、俺は何を訊いてんだろうな。ロケット団に恨みのない人間が、いる筈もねぇのに。
 に話せない悪行を、俺達はやってきた。復活を目標にした最近なら兎も角、サカキ様が健在だった頃は、それこそ紙面にロケット団の起こした事件が載らない日がなかったくらいだ。


「アンタらは、見ているだけで虫唾が走る。雑魚が寄って集って強がって……弱い癖に」


 少年の返答は、些か予想外なものだった。
 いや、些かどころじゃない。今度は俺の方が、少年の言っている意味が理解出来ず戸惑う。 
 少年が俺に向ける視線の中には、嫌悪と憎悪、そして軽蔑が含まれていた。
 俺はてっきり、ロケット団にポケモンを奪われた事があったとか言うもんだと思ってたんだが――三年前の事を知っている点と言い、何なんだ本当に。


「幹部だって言っても、どうせアンタも弱いんだろ」

「まあな。自分でも何で幹部やってたのか判んなかったぐれェだからなあ」


 少年の容赦のない言葉には、苦笑を通り越して自嘲しか浮かばない。半ば、やけにもなっていた。
 少年がこのあと取るであろう行動には、もうお諦めがついていた。俺が拒絶を示すだけ、無駄なんだろうな。恐らく少年は下っ端連中にも、そんな感じで――バトルを吹っかけたんだろうし。


「それで少年、弱い俺を見つけてどーするつもり?」

「叩きのめす」

「やれやれ、血気盛んだな全く……」


 どっちが勝つかなんて、目に見えてんのによ。
 少年が強いだろう事は、容易に判った。何せ、部下の任務の邪魔もし、チョウジの地下基地にも侵入したくらいだ。
 下っ端連中と強さに大差のない俺じゃ、少年に見下されても何も言えない。と違って、遠慮も容赦も情けもしてくれないだろうし、少年にする理由はないだろうからな。


「まあそれで少年が満足するってなら、相手してやるよ。面倒臭ェけどな」


 モンスターボールを取り出し、外に出るよう少年を促す。狭い所でポケモンバトルはするもんじゃねぇし、売れないとは言え店の商品を壊されるのは大変困る。
 しかしやれやれ、子供のお守りは疲れる。どうしてこうも、子供の癖に強い奴が多いんだ。
 この少年と言いと言い、三年前の――子供と言い。大人の面目ってもんがまるで立たない。










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( 後書き )

ラムダさんがを呼ぶのに、ガキにしようか少年にしようか悩みました。
でも大人の余裕を見せたかったので、少年にしました。
ガキって見下してるとその分弱い感じが出ちゃいますよね(笑)