12*
これも一つの出会い




 結果は、言うまでもなかった。
 たった一匹のゲンガーにボロ負けだ。相性的に言ってドガースでゲンガーを倒せる訳はないし、残るラッタも相性が悪過ぎた。
 それを考えると、の方がまだ思いやりのある戦い方をしていた事が判る。


「ほら言ったじゃねーか。どっちが勝つかなんて、目に見えてるってよ」


 俺が勝つ要素はないに等しかった。アポロやアテネ、ランスと違って余り外の任務に出なかったのは伊達じゃない。
 俺じゃない奴が代わりに幹部になっていた可能性は、十分あった。幹部だって言っても、本当に
――偶々、何にかの因果で選ばれたってだけだ。正直、それを運良くと言えるかも判らない。


「お前――弱い雑魚ぶちのめして、楽しいか?」


 特に他意も含めず、そう尋ねる。案の定、少年は気に食わないと睨みつけた。
 楽しいって思う奴は、そいつ自身弱いんだって相場が決まっている。だが俺の予想が当たっていれば――少年は、そう言うタイプじゃない。
 俺に向ける嫌悪は、同時に浮かべた軽蔑より遥かに深みを持っていた。


「少年に、どんな恨みがあるのか知らねーけどよ、ロケット団はもう解散しちまったんだ。次復活するとしたら……それこそ、今度こそサカキ様が戻ってきた時だ」


 とは言え、それはないだろうと俺は思っていた。
 に負けて潔く解散を決めたアポロもきっと、そう感じたから悪足掻きをしなかったんだろう。最後に別れたあの時何も言わなかったのだって――言葉にすると、より惨めになると思ったからに違いない。
 ボスはもう戻ってこないと、言葉にすれば。


「……何で親父は、こんな弱い奴らを……従えてたんだ」

「は? ……おや、じ? え、お前……まさか」


 おいおい、嘘だろ? 何でこんなに食ってかかってくるかと思えば――ボスの息子、だって? この少年が?
 だがボスの息子って言うなら、子供の癖して大人顔負けなくらい強いのも頷ける。ボスが直接息子に自分の戦い方を教えたかどうかは俺の知るところじゃねぇが、少年が父親であるサカキ様の背中を見て育ったんだろうってのは、俺にも判る事だった。
 父親がいなくなった原因の俺達ロケット団に、憎悪を抱いているのは十分な証拠になる。
 三年前――この少年の前から、いきなり父親は姿を消した。俺達の前から姿を消したその意味よりも、遥かに重い。残酷な話だ。そこら辺、ボスは何を思って――消えたのか。
 あれから三年経った今でこそ少年はしっかりしているが――三年前は、大人の助けもなければ生きていけない子供だったんだ。
 だからこの少年が俺達ロケット団を憎むのは、仕方ない。


「アンタらは弱過ぎる! 弱いアンタらの所に、親父が戻ってくる訳がない。アンタらの呼びかけに応えなかったのが、何よりもの証拠だッ」


 この少年に言われるなら、アポロさえも口にしなかった事を言われても、黙って受け止められる。そう言うやり方でしか、俺達はこの少年に悔いる方法を持ち得ない。
 少年の言う通り、ラジオ塔を乗っ取り、何処にいるとも判らないサカキ様に呼びかけたものの、連絡は何もなかった。
 俺達は今度こそボスに、見放されたんだ。


「たった一人の子供に負けた……三年前と同じ事を繰り返しただけのアンタらの所に、親父が帰ってくる訳ないだろ……!」


 ああそうだ。ボスはきっと、俺達に失望したに違いない。復活を宣言しておきながら、無様な結果を繰り返した。
 もしボスに戻ってくる意志が残っていたんだとしても――もう、可能性はなくなった。俺達も、二度目の解散を宣言してしまった以上、三度目と繰り返す程馬鹿じゃない。
 考えるまでもなく――ロケット団は三年前、ボスがたった一人の子供に負けた事で、終わっていたんだ。


「もういい、時間の無駄だった!」

「おい!」


 これ以上話していても何にもならないと判断した少年は、苛立ちを隠さずそう言うと身を翻し、俺の制止も聞かないでお月見山の方に行ってしまった。
 ぽつん、と俺が一人残された形になる。


「行っちまったか……言うだけ言って聞く耳持たねぇとは……まだまだガキだねぇ」


 戦い方を見れば、ポケモンバトルの腕はかなりのものだったのは自ずと判る。
 単にポケモンのレベルが高いだけではなく、寧ろトレーナーとしての少年の立てる戦略に、ポケモンがついて来れていない感じがあったくらいだ。
 まあ、碌に黒星も取れない雑魚な俺が褒めたって、何にもならねぇけどな。
 しかし多分あの少年は、アポロよりも強い。一方で感情的で我慢っつーのを知らなさそうな様子は、年相応だった。
 どんなに強くても子供は子供だな、やっぱり。


「こんにちは、ラムダさん」


 小屋の前で突っ立った儘ぼーっと考え込んでいると、いつの間にかがいた。内心びっくりしつつ、おう、と返事をしておく。
 気も漫ろな俺が心配になったのか、はワニノコと一緒になってじっと俺を見上げていた。こう見ると、一人と一匹は似ている。ポケモンはトレーナーに似るって言うが、本当らしい。


「あの……もしかしてさっき此処に、、来ましたか?」

?」

「赤い髪の、私と同じくらいの年の男の子です」

「確かにその少年なら来たが……え、アイツがなのか?」

「はい。私の友達です」


 偶にの口から出ていた――名前。どんな奴なんだってに訊いても、答えられないと――判らないと言っていた。
 その時に誤魔化す素振りは見られなかったから、恐らくは少年の正体と言うか、事情を知らない。知っていれば、今困惑を浮かべていない筈だ。困惑を浮かべているのは、あの少年とロケット団の関係を知らない証拠だろう。
 しかし話に出てきていたそいつが――まさか、あの少年だったとは。
 と言う名に聞き覚えがあると思ったのは、そう言う事か。
 三年前も一応ロケット団に所属し、いつの間にかそこそこの地位についていた俺は、ボスと直接話す事もそれなりにあった。
 だからボスに子供がいるのも、知っていた。ただ会った事もなければ見た事もなかったお陰で、少年がボスの事を親父と呼ぶまで気付かなかったし、名前も全く覚えていなかった。
 だがそれにしても――ボスの息子と、再びロケット団を解散に追い込んだ子供、か。
 あの少年は、一体どんな気持ちでと関わっていたんだろうか。が少年の境遇を知らないでも、少年はがロケット団の復活を阻止したってのを知らないとは思えない。あの少年の目には――の行動は、偽善に映っていただろうし。
 ――たった一人の子供に負けた、三年前と同じ事を繰り返しただけだと少年は俺に対し吐き捨てたばかりだ。知っていると考えて間違いない。
 しかし――判らないのは、の認識だ。
 今ははっきりと、少年について私の友達だと言った。真剣な目をして。


「洞窟で……会ったのか」

「はい」

「何か――言われなかったか?」


 あの剣幕の儘の少年と遭遇したんだとしたら、としては寧ろ俺に、何かあったか訊きたいだろうな。不安そうな目をしている。
 一緒に俺を見ているワニノコだけが、取り巻く空気が判らずきょとんとしている。


「言われたと言うか……私が落とした物を、は拾っててくれたんです。言われたのは……それだけ、ですね」


 ああ、此処に女が来なかったかっつー少年の不躾な問いかけの指す女は、の事だったのか。
 が少年を友達だって言った事に、どうやら間違いはないらしい。てっきり、少年はを目の敵にしているんじゃないかと思った。拾った物を届けるなんて、中々どうして可愛いところがあるじゃねぇか。
 そう思いつつ、一方で疑問があった。
 何で此処にコイツが来ていると、少年には判ったのか。が話したとしても――可能性は否定出来ないものの、低い。
 はあの少年の正体や理由までは知らないとしても、少年がロケット団を憎んでいるらしい事は知っているだろうし、俺と会わせない方がいいとは考えている筈だ。
 となると、がお月見山に入っていくのを偶々見て、それを少年は追いかけてきたっつー方が自然か。そうなると、先に入ったが遅れて此処に来た理由が不明になるが、そこまで気にするものでもない。


「あの……ラムダさん。何か……あったんですか?」

「あー……いや、お前が心配するような事は何もねぇよ。品揃えが悪ぃなって言われただけだ」


 どう答えるか悩み言葉を濁した結果、嘘を吐く。
 こんな思わせぶりな態度を見せておきながら何も言わねぇってのは、卑怯だよな。目を周りに向ければ、少年とのバトルで倒されたドガースも、気絶した儘そこにいる。
 バトルのあと少年が言うだけ言っていなくなり、それからぼーっと考え込んでいるところにがやって来たからな。ドガースには悪いが、すっかり記憶の彼方だった。
 こんな状況の中、心配するなってのが無理な注文だ。でも、さっきの話をに話す訳にもいかない。も多分、察してくれている。
 なら――こう言っておけば、もうそれ以上訊いてくる事はしない。の好意に、こんな時ばかり甘える。全く、本当に汚い大人だよな、俺って。
 最低だと自覚しながら、それでも本当の事を話すよりはいいと思った。すまねぇなと心の中で謝りながら、帽子越しにその頭を撫でた。
 多分もう――あの少年が此処に来る事はないだろう。たとえ何かを、思っても。










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( 後書き )

今回のシリーズでのの登場はこれだけ、ですかね。
あくまでラムダさんがメインなので。
本当はもっとの過去とか踏まえた小説書きたいんですけどねぇ。
セレビィイベントに関する事とか……もごもご。