13*
月を見て何を語ろうか




 今日は天気がいい。ラジオの天気予報によれば、夜も晴れるらしい。漸く条件が揃った。
 しかしこう言う時に限ってあいつは来なかったりするのだが、昨日帰り際に明日来れるかと訊くと大丈夫ですと言っていたから来るだろう。
 そう思いながら今日も暇だなとぼーっとしている内に、はやって来た。


「来ましたけど……何か、あるんですか?」

「いや、まだだ」


 こう言うのは、説明しないでいる方がその時の衝撃とか強くなるんじゃないかと考え、何も言わないでおいた。
 しかし今まで色んな事もはぐらかして黙ってきたせいか、気付けばの目は不安そうに俺を見上げていた。
 心配されるような事は事実ないのに、今までの行いが悪い。
 そう後悔しつつ、心配すんなと頭を撫でる。それでもは物言いたそうにしていたので、いいもの見せてやるから、と少しだけ教えてやった。
 そのたった一言で表情が一変するんだから、子供は忙しいなあと思ってしまう。
 バトル中のあの真剣な、気迫すら感じさせる目は何処に行ったんだか。何だかんだで、やっぱり子供なんだよな。
 バトルは練って戦うものの、基本的に真っ向勝負が多い。卑怯な手は、俺達と違って絶対に取らない。純粋でいて――強い。
 ただの子供なのになあ。コイツと同じ年の頃の俺は、今の俺と大差ない。頭を使うのも面倒臭くて嫌いだったし、特訓とかそう言う疲れるのも嫌いだったから、本当に弱かった。
 子供の癖して純粋じゃなく、勝ちたいと言う欲求すら弱かったのだから、俺のだらけ具合は根っからのものだと判る。


「ああそうだ……今日は泊まっていけよ」

「え? え……! え……?」


 考えに耽っていた為、言うのを忘れるところだった。
 これを言っておかなければ、今日来いと言った目的がなくなってしまう。俺としては一応重要であるものの深い意味を含めず言ったつもりだったんだが、の反応は激しいものだった。
 たった一つの、言葉とも単語とも言えないもので三つの感情を表現したのだから、思わず俺は笑ってしまいそうになった。
 最初は、俺の科白を耳で疑い、次に理解した上で驚き、最後に真意が掴めず疑いにかかる。
 だがその反応も無理がないか、と思い直す。泊まらせて下さいと言うの要望を今まで尽く駄目だの一言で取り下げてきたのは、俺自身なのだから。幾ら喧嘩して仲直りして溝を前より埋めたからと言って、唐突過ぎる科白だろう。


「え、わ、私、準備とか何も……!」

「いや、別に此処に泊まらなくてもいいんだぞ? お月見山の外にはポケモンセンターがあるんだし、そこまでなら用が済んだあと送って行くし……ただ、夜までいて欲しいってだけだからよ」


 準備って何のだとか思ってしまったが、よくよく考えれば旅の荷物全部を持ち歩いている訳ではないだろうし、きっとこの近くの何処かで此処最近は野宿と言うか、腰を落ち着けてるんじゃないだろうか。
 話のよるとの家はジョウトのワカバタウンっつー田舎町にあるそうだで、ワカバタウンと言えばトキワシティを東に行った所だとは判るんだが――それにしたって距離はそこそこある。
 徒歩でなくポケモンに運んで貰ってきているんだとしても、毎日あの距離を往復するのはポケモンの負担になるから、やっていそうにない。


「夜はやっぱり……都合が悪いか?」

「い、いえ……いきなりで、びっくりして……だ、大丈夫です。此処に泊まらせて下さいっ」


 昨日の時点で早めに行っておけばよかったか。此処に来ては、いつも何をするでもなく暇そうにしているから、用事とかそう言うのはないんだと思っていた。
 だが思い返せば何も毎日やって来ている訳ではなく、偶に三日とか間の開く時もある。
 ポケモンリーグチャンピオンとしても、チャレンジャーがいれば戦わなければならないんだろうし。
 ただ基本的に此処に来ては暇をしているのは、今までしていた旅を休止しているからだ。俺と一緒にいたいから――立ち止まっている。


「夜にならなきゃ見せたいもんが現れねぇんだ。それまで待ってくれ」

「は、はいっ」


 何だかやけに元気よく、嬉しそうだった。のこう言うところは、本当に見ていて飽きない。もっと色んな顔が見たいとすら思え、つい嘘を吐いて驚かせる事も間々あるくらいだ。
 多分、俺と違ってが感情に、自分に正直だからなんだろうな。憧れているんだろう、俺は。
 嬉しそうに笑う顔が見たくて――その頭を撫でる事も、以前より多くなったように思う。癖になっちまうんだよなあ、の顔を見ると。
 もうこう思い始めると、同時に手放したくない思いがあると自覚せざるをえない。
 コイツと俺は不釣合いだって、判ってるのに。
 そうして考え事をしながら、いつものように何をするでもなくだらだらと過ごしている内に夜になった。
 食事は勿論俺が用意したのだが、不味くもなく美味くもない筈の俺の料理を、は美味しいと言って嬉しそうに食べた。
 よくよく考えると、自分で作った料理を自分以外の誰かに食べて貰うのは初めてで、意識すると途端に何だか照れ臭くなった。
 そうした具合で夕食を終えた頃、小屋の隣にある小さい池の水面に、黄色く丸いものが浮かんだ。
 ――月だ。しかも、満月。


「そろそろだ。なるべく息を潜めて見るんだぞ」


 俺の言葉には無言で頷き、静かにする。そして一番の不安要素になるワニノコにも、煩くないようにしーっとは示しておいた。
 それに対しワニノコも、判ったと言う風に真面目な顔をして頷いた。しかしこう言うところが、本当に判っているのかは実のところ怪しい。コイツが落ち着いてるとこ、見た事ないからなあ。
 一抹の不安を拭えないながらも、カーテンの隙間から池を覗いていると――俺の期待通り、そいつらは現れた。


「え、ピッピ……?」


 池の周りに集まり始めたピッピを指差し、視線でどうなっているのかと俺に訊いてきたが、口で説明するのも野暮だと思い、黙って見ているよう促す。
 お月見山方面の茂みから姿を現したのは、数匹のピッピだった。
 ジョウトには確か棲息しておらず、カントーでもこのお月見山でしか稀にその姿を目撃する事は出来ない珍しいポケモンだ。
 てっきりもうこのお月見山からもいなくなったんだと思っていたが――この小屋に腰を落ち着けそこそこ経った頃の夜、ピッピ達は今のように突然現れた。
 最初こそ驚いたものの、それからも何度かやって来た為その内驚く事はなくなり、ただピッピ達の儀式を見守るだけになった。
 ロケット団幹部だった俺が、捕まえればかなりの金になるピッピを見守るだけに留めたってのも我ながら可笑しくて笑っちまうが、もうロケット団は解散し、悪い事からは足を洗ったつもりだった。
 それにと再会して、悪い事をしたら許さないとも言われてしまったから――尚更、俺には手を出す理由はなかった。


「ピッピは……何してるんでしょう」

「んー……儀式、みたいなもんじゃねぇの? 来た時はいつも、あそこをくるくる回ってるだけだし」


 晴れた満月の夜、ピッピ達はやって来る。
 今日は満月だなと思い窓の外を見ていても現れない場合は、必ず月が雲で隠れていて池に月が映っていない。
 そして今日は――が此処にやって来始めて漸く、条件の揃った日だった。


「そう言えばピッピって……月から来たポケモン、とか言われてますよね。本当なのかな……」


 の科白は疑問形であったものの、俺には訊いていないんだろうと思った。
 の中の俺の印象として、頭がいいっつーのはないだろうからな。自分でもよく馬鹿だなあって痛感するのに、他人に頭がいいと思われている道理がない。
 事ポケモンに関しては尚更、俺よりの方が詳しいんだし。
 ポケモンバトルが強いのは、ポケモンが個々に持つ能力や特徴を押さえ理解しているからこその結果だ。この年で色んな所にたった一人で旅をして、しかもポケモン図鑑っつーすげぇもんを託されている
 ポケモントレーナーの中でもコイツよりポケモンに詳しい奴がいたら、多分そいつはポケモンバトルでも強いんだろうな。


「でも、池に浮かんだ月の周りを踊るって……何か、いいですね。月は空にあって届かないけど、水に映ってる月なら掬えそうで……神秘的で、綺麗です」


 そのあとは何も言わず暫くの間、水面に浮かぶ月の周りを回って踊るピッピ達を見つめていた。
 やがて、時間が経ち月が移動し水面からもその黄色い姿がなくなると、ピッピ達は踊るのをやめ、山へ帰っていった。
 辺りが静かになったところで――は振り返って、俺を見た。


「ラムダさん、有難う御座いました。こんな光景が見れて……感動しました」


 その言葉に建て前はない。思った事をその儘、は言葉にして伝える。何歳も年上な俺に対し、好きですと――はっきりと言ったみたいに。
 しかしそんな純粋な奴だから俺も、今の光景を見せてやりたいと思ったんだ。
 嬉しそうに笑う、が見たかったから。










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( 後書き )

いつかはやろうと思ってたのに、この話やるのに十三話も経っちゃいました。
結構デレてきたラムダさん。大分自覚し始めたようです。
まあゲームのピッピイベントの条件は月曜の夜だけですけどね。
ラプラスと言い、金銀の時の専用アイコンは嬉しかったですね。
金銀の波乗りはラプラスイベントがあるのでラプラスアイコンで、とても好きでした。
RSからの波乗りアイコン何あれ……とショックを受けたのは秘密。