喋る姿だけ見ていると、ただの子供にしか見えない。 ませてもなく生意気でもなく、純粋で汚れのない、年相応の子供にしか見えない。とは言えロケット団を二度目の解散に追いやったコイツには、世の中汚さとかそう言うのが見えてない訳でもない。 コイツとはつい数ヶ月前まで敵同士で、自分が世間一般で言うところの悪役をやっていたのも忘れて――この目の前の少女を、守ってやりたいと思う事がある。いよいよ俺も焼きが回ったな、と同時に思ってしまうのだが。 ――まあそんなのは妄想レベルのありえない話で、俺が護るまでもなく、コイツは強いんだが。コイツが誰かに負けるなんて、俺には想像出来ない。どんなに強くても子供は子供だし、やっぱり平凡だと思う一方で。 それくらい、ポケモンバトルも何事も卒なくこなす。話していて、してやられる事もしばしばだ。それでも時々、不意に、俺より小さいその姿を改めて見ると――不安になる。衝動的な不安に駆られる。 大人として、俺が守ってやらなくて大丈夫なのかと。大人として、俺にしてやれる事はないのだろうかと。 まあ大人だから何だって思いもするんだが――やっぱりどんなにポケモンバトルが強かろうが知略に長けようが、子供は子供だ。ロケット団に立ち向かう勇気を持っていても、子供だからこその脆さをコイツは抱えている。大人ぶってる訳じゃ、ないからな。寧ろ、子供だと思う事の方が多い。 見せてくれる笑顔も、隠そうとする泣き顔も、一つ一つが子供らしく感情的だ。 世の中に嫌気が差したり、生きるのもだるくなったり、全てが面倒臭くなったり、幸せを求めなくなった俺と違って、コイツにとって世界は希望に溢れているし、一日一日生きていく喜びを知っているし、手間がかかろうと何にでも挑戦しようとするし、幸せを求めてやまない上に、俺との幸せを手に入れようとする。 だからこそ逆に――余計、危ういと感じる。 もし、コイツが絶望を目の当たりにした時、どうなるのかと。世界が嫌いになって生きるのも厭になって何をするのも億劫になって、不幸しかないと思い始めるんじゃないかと。 俺はそんなコイツの姿を見たくない。 たとえ世の中に嫌気が差そうとも、生きるのもだるいと思おうとも、全てが面倒臭くなろうとも、幸せを求めるのを諦めようと――コイツだけは救ってやりたい。コイツには、そんな思いをさせたくない。 とか俺は考えているが、別段今シリアスな場面っつー訳でもなかった。 いつも通り暇をしながら、俺は何をするでもなく目の前で繰り広げられるものを見ているだけで、いつもと違うと言えば、俺の視線の先ではがポケモンバトルの訓練をしているって事くらいだった。 普段は朝起きてやるのが日課らしいが、此処最近は何だか忙しくその日課どころではなかったらしい。確かに此処数日は此処にこず、どうしたんだろうとは思っていたが。話によれば、ジョウトに帰ってたんだとか。 まあポケモンバトルの訓練をするスペースなら、小屋の前に十分な広さがあった。は律儀に俺に許可を求めた上で訓練を始めた。 今戦っているのは、ワニノコとエーフィだ。 相性的には、噛み砕くを覚えているワニノコの方が有利だが、エーフィは素早い上に繰り出すサイコキネシスの威力が高く、中々互いに牽制し合っているようだ。エーフィは打撃攻撃に弱いからな。ワニノコがもしサイコキネシスに耐えた時、エーフィは噛み砕くの攻撃を耐えられるかどうか。 一般的に、進化したポケモンは能力が高く強いとされている。いや、されるも何も実際強い。 だから普通に考えて、エーフィがワニノコに負ける訳がない。ワニノコに、エーフィの攻撃に耐えるだけの防御力はない。だから先手を取られて初撃で倒されるのが関の山だ。 しかし――のパートナーの、あのワニノコは違う。特別な能力はない。普通にが育て、共に旅をした仲間だ。だからこそ――強い。 のパートナー、だから。一番長い付き合いの奴だから。 どんなにはしゃいで子供っぽく見えようと――いや、実際子供ではあるんだが――の考える事が一番判るのはワニノコで、のパーティの中でと組んだバトル経験が一番あるのはワニノコだ。 バトルともなれば、その子供っぽさは吹き飛んだように消える。持ち主であるが、バトルとなれば人が変わったように強くなるのと同じように。 ポケモンはトレーナーに似る。その通りである。 しかしポケモンそれぞれの強さもさる事ながら、言うまでもないがトレーナーであるも凄い。 ポケモンの強さをよくそこまで出してやれるもんだと、目の前で繰り広げられるポケモンバトルの訓練を見ながらそう思う。 ポケモンは二匹。ポケモントレーナーは一人。は互いを戦わせ、二匹にとってそれぞれが有利な指示を的確に素早く出している。 どちらのポケモンにも自分が指示を出しているのだから、バトルの流れを作るのはそう難しくないと思いがちだが、ポケモンは機械ではなく生き物だ。想定通りには動かないし動けない。 攻撃を避けるようにと指示を出して、必ずしもその指示通り攻撃を避けられるとは限らないし、回避が間に合わないようなら防御なりの次の指示を素早く出さなければ攻撃を食らってしまう。 そしてその一方で、攻撃する側を疎かにしたり、回避側が回避出来るように攻撃側を誘導する訳にもいかない。 それではトレーナーとしての訓練なはならないからだ。 攻撃側は攻撃側として、相手が回避するか防御するか攻撃を仕返してくるかを想定して動くよう、指示しなければならない。 はそれらを今俺の目の前で、やって見せているのである。恐れ入るしかない。 時間の長さで言えば、俺はより長くポケモントレーナーをしているんだが、俺にはそんな芸当出来ない。 自分の右手と左手でジャンケンをしようものなら、何度もあいこになってしまうような頭をしている俺に出来よう筈もない。咄嗟の判断、瞬時の行動が出来る素早さを、生憎俺は備えていない。 コイツだから出来る芸当なのだ。がポケモンへの指示を出す度に、俺はへえと感嘆を漏らす。まるでインターホンみたいに。 「……なあ、」 「え? は、はい」 バトルの訓練が終わったのを見計らって、声をかけてみる。 まあ終わったと言っても一組目がであって、全てが終わりではなさそうだったが。ただ見続けるのもなあと思ったので、声をかけてみた。 エーフィをモンスターボールに戻し、ワニノコには自分の傍へ下がってくるよう指示し、次の二匹を出そうとしたは、俺に声をかけられて動きを止めた。まるで俺から声をかけられるとは思っていなかったと言うように目を丸めて、肩越しに振り返る。 「お前、ロケット団に入らねぇか」 「え? 嫌ですよそれは」 即決の即答だった。 答が判ってなかった訳じゃないが、こうも一刀両断されると言葉を失わずにはいられない。幾ら訊くまでもない問いだったとは言え――何か面白い事の一つや二つ、言ってくれてもいいだろうに。 「大体何でまたそんな事を? ロケット団は解散したじゃないですか。まさか、今度はラムダサンがリーダーになって? それは認められません! 私の目が黒い内は……!」 「冗談だ。俺がそんな柄じゃねぇ事判ってんだろ」 「判ってますけど……でも何でまた、そんな事を突然?」 「何となくだ」 一度は真面目に、俺のしてきた悪行を話したんだ。少しこの話題が不謹慎である自覚はあった。が深刻に話を受け取ってしまうのも、予測出来ていた事だ。 は本気で怒っている。気分を害している。その表情を見ると、流石に罪悪感と後悔が滲んでくる。 冗談だと、誤魔化していい事じゃない。は真面目に真剣に、俺について考えてくれた事だ。何となく、とはぐらかすのも間違っている。 「……そもそもラムダさんは、どうしてロケット団に入ったんですか?」 あの時の科白をもう一度、は復唱した。今回は俺が振った話だ。その問いかけをされるのを予測した上で、俺は冗談にもならない冗談を言った。 あの時はその問いにムカついて、俺はそのものを拒んだ。 そう問われて――言葉にして説明出来る理由が、なかったから。俺自身、今更何でなのかと思っていたから。 まるで俺の心を見透かしたかのようなその科白に、ぶち切れてしまった。 そんなの、俺が教えて欲しいと。 ロケット団に入ったのは、若気の至り、みたいなもんだったんだろう。こんな性格をしているから、正義も悪もどうでもよかった。楽をして、金を稼ぎたい。そんな、子供でも笑ってしまうような動機だったと思う。 「それに、実力はありますけど性格的に幹部って柄じゃありませんよ、やっぱり。ラジオ塔で会った時にも思いましたけど……本当はラムダさん、ロケット団の復活とか、望んでなかったんじゃないんですか?」 復活を、望んでいたかどうか。正直に言うまでもなく、俺はそんな事どうでもよかった。ただ立場上、復活してくれた方がと考えていたのは事実だ。 悪い事をした経歴は消せない。たとえ足を洗おうと、堅気に戻れる訳では決してない。だから、出来ればボスには帰ってきて欲しいと思っていた。 幹部については、の言いたい事を否定する気にはなれない。俺自身、一番よく判っていない部分だ。 どうしてこんな俺が、幹部に抜擢されたのか――されてしまったのか。 俺が幹部になったのは最近の事で、ボスの采配ではなくアポロの采配だから、理由を訊くならアイツに訊かなければならない。 とは言え、明らかにしたいと言う気力はないのだが。 ロケット団が再び解散して数ヶ月。別れたアイツらとは、連絡を取る手段もない。もしかしたら俺だけが持ってなくて、アイツらは把握しているのかも知れないが――やっぱり、どうでもいい事だ。 だが考えを巡らせる内に、ふと思い出すものがあった。 ――勿体ないわね。磨けばそこそこ光る実力を持ってるのに。 俺と戦った誰かが、負けた俺に対して言った戯言だ。けれどそれがきっかけと言えば、そうだったのかも知れない。 俺があの場所から移動せず、行動も起こさなければ、三年前から高い地位を築いていたアポロの目には、止まるどころか映りもしなかっただろうから。 「そうかもしれねぇなあ……」 結局、の疑問にはそう答えてやるしか出来なかった。答えようにも、俺自身にもどうなのかどうだったのか、判らないのだから。 その後は黙りこんだ俺を不思議そうに見ながらも、俺がもう何も言いそうにないのを見て取ると、バトルの訓練を再開させた。俺も口を閉じて、黙ってそれを眺めた。 「それではラムダさんさん、また明日、来ますね」 「ん? ……ああ」 バトルの訓練も終わり、いつものようにだらだらして時間を無駄に費やし、日が暮れ始めると、は今日の別れを告げた。俺もいつも通り、気のない返事をする。 とワニノコの後ろ姿を見ながら、明日も来ると約束するなんて珍しいなと思った。 今までは基本、予定も立てず来たい時に来ていた。俺も此処を離れるつもりは暫くないから、来たい時に来ればいいと思い、何も言わずにいたんだが。 何か――思う事でも、あったんだろうか。 心配しつつ、しかしそれを訊くのは深く入り込む事になるからと、俺は何も問わずに一人と一匹を見送った。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 誰が誰をどう思っているか、とか考え事をするシーンとか、書くの楽しいです。 地の文が長いなーはははは、と思うものの(笑) さて、此処からはかなりの捏造が入ります。最早捏造の域も脱しているような。 いや、ラムダさんがこんなお月見山にいる設定自体、既に捏造もいいとこなんですが! 俺様ワールド全開で行きたいと思います。 |