13*
現から逃げた夢の果て

 いつものように変わりなく何気なくシモンの部屋で、ベッドに寝転がるシモンを背にそのベッドに凭れながらぼんやり考え事をしていると、不意に彼の気配が動いた。
 振り向くと、彼はいつも以上に機嫌の悪い顔をしていた。


「どうしたの?」

「……厭な夢を見た」


 寝てたのか、と内心驚いた。
 私もいつも彼に話しかけている訳ではなく、話す事がなければ黙ってそこで本を読んでいたり何かを考えていたりする。ふと思った時に、話しかける程度だ。
 それに返答らしい返答も余り期待していないので、彼が何も言ってこなくても基本的に気にしない、ようにしている。そりゃ、返事があれば嬉しいけれど。
 でもそれよりも、シモンが寝ていた事が新鮮だった。
 ブータがちゃんと休めと言うように、シモンは寝ようとしない。いつも目の下にクマを作っている彼は、眠りを恐れているかのようにすら見える。
 しかし眠気と言うものは、我慢してどうにか出来るものではない。生理的な欲求であり、生きる為に必要不可欠だ。だから今のように、否応なく眠りに落ちてしまう事は当然の結果である。


「……シモン?」


 ベッドに身を乗り出して、シモンの顔を凝視する。
 普段とまるで違うその様子を見ると、途端に心配になった。顔色も――いつも悪いのに、より一層悪く見える。
 シモンは上半身を起こすと、片手で片目を――螺旋の目を押さえた。


「前に……俺が、此処に誰もいないのは、アイツらが兄貴を忘れて戦う事から逃げたんだって言ったのを……覚えてるか?」


 此処に誰もいないと言う、その誰もと言うのは――言葉の並びからして、大グレン団のメンバーの事。そしてそれは、この超銀河ダイグレンの中にいるクルー達ではなく、地上で共に戦った、シモンの仲間。
 確かに以前、シモンはそんな話をした。あれは、私が此処に来た日だったと思う。
 リーロン達はいないのかと言う私の言葉に、シモンは誰もいないと答え、アイツらは俺について行けないと言って地上に残ったのだと言った。カミナを忘れ、その死すらも忘れ、戦う事を恐れたのだと。
 私はその時の彼を思い出しながら、無言で頷いた。小さく、覚えてるよと呟いて。


「あれは……嘘、なんだ」


 シモンの小さな呟きが、胸に刺さった。
 ああこれは、彼の懺悔なんだと――気付く。どんな夢を見たのか私の知るところではないが、吐露したくなるような何かを、彼は見た。
 そして今、私に彼は縋っている。
 いつもの虚勢も忘れて、幼かった昔の彼に――戻ったように。


「本当はヨーコは、俺について行くと言った。こんな俺を見てられないんじゃなく……見捨てて行けないってな。それを拒んだのは……俺なんだ。ヨーコが俺を拒んだんじゃなくて……俺が、ヨーコを拒んだんだ」


 彼の言葉が、虚しく空気に溶ける。私はそれを黙って聞いていた。シモンは前置きもなく語り始めたけれど、きっと私には、黙って聞いていて欲しい筈だ。
 その丸められた小さな背中が、それを語っている。
 彼の名を呼びそうになって開いた口を、閉じる。今のシモンに、私の言葉は届かない。


「それに……皆だって、ついて来なかったんじゃないんだ。ついて、来れなかったんだ」


 シモンは――そう言うけれど。そう、思っているのだろうけれど。私は心の中で、ただそれが真実ではないだろうと思った。
 本当にシモンの事を想うのなら、ついて来れなくてもついて行くべきだ。ヨーコのように、ついて行こうとすべきだ。彼らが本当に、シモンの仲間だと言うのなら。


「兄貴が死んだあと、俺は死に物狂いで先へ進んだ。兄貴が、死んで……まるで生き埋めになった気分だった。俺が死ねばよかったんだって思った。けど、それは兄貴が望む事じゃないだろうって気付いた。だから……先へ進んだ。昔を思い出しながら。兄貴の言葉を、思い出しながら。グレンには……兄貴の代わりにキタンやロシウが乗ったが、誰も俺にはついて来れなかった」


 私の知らない――いや、私があの時視たシモンが、そこにいる。
 避けられない現実に遭遇した時、彼がどうなるか。そしてその先は――立ち直った彼の姿は、私には視れなかった。だからこそ私は不安になり彼を心配し、時空を渡った。
 あの次元でのシモンは、ニアと出会いカミナの死を乗り越えられたようだったけれど――今目の前にいるシモンはカミナの死のあと、己で決着を着け、その死を乗り越えた。たった一人で。
 そして代償として、沢山のものを失った。


「気付いたら……誰も、いなかった。ずっと傍にいたブータしか、いなかった。俺が、置いていったんだ。皆を。そして俺はそれに気付きながら……待たなかった」


 前しか見えていないふりをして、後ろを振り返る余裕のないふりをして、気付かないふりをして――全てをかなぐり捨てた。
 どうせいつか失うのなら一つ一つ失っていくよりも、断ち切る勢いで失ってしまった方が楽に違いないと、思い込んで。失うものがない方が、重荷を抱えずに済む。苦しむのが自分だけなのなら、いらぬ心配をしなくて済む。悲しみを、感じずに済む。


「一人、グレンラガンでロージェノムと戦った。ブータはその時、覚醒したんだ。俺を護る為に、アイツは眠っていた螺旋力を使って進化した」


 たとえシモンの傍から皆が離れようとも、その肩に乗って共に戦っていくのは自分だけだと、ブータは覚悟していたのだろう。
 けれど矢張り、ブタモグラの姿では共に戦えない。支えたいのに、信じていると言うたったそれだけの言葉すら、届けられなくて。小さな体では、身を挺して護る事すら難しく。
 シモンを助ける為には――護る為には支える為には、シモンに言葉を届ける為には、進化するしかなかった。
 ブータはきっとシモンにその時抱えた沢山の想いを、告げていないだろう。ただ護りたかったの一言しか、言っていないのだろうと思った。彼らは、言葉で語り合うような仲じゃないから。語り合わずとも、判り合える仲だから。


「ロージェノムは、倒せた。アイツは死に際に、不可解な事を言って……死んだ」


 ――百万匹の猿の話か。それなら、聞いている。
 百万匹の猿がこの世に満ちた時、月は地獄の使者となりて螺旋の星を滅ぼす――螺旋王ロージェノムはシモンに倒された時、そんな言葉を遺して死んだのだそうだ。
 でもシモンの様子からして――それだけではないように思えた。そもそも別次元の話なのだから、差異はあるに違いない。


「――貴様は私と同じ道を歩む。その瞳はいつか必ず、螺旋に染まり絶望を映すだろう……って」


 自嘲気味に、彼が笑う。でも私は、全く軽い気持ちにすらなれなかった。ただ不安げに、シモンの表情を見つめた。
 シモンは私の視線すら気付かない様子で、虚空を見つめてぽつりぽつりと言葉を繋いでいく。過去を、思い出しながら。夢を――思い出しながら。


「絶望なんて、し終えた。兄貴が死んだ時にな。だから……今更だって思った。それ以上の絶望が、ある訳がない。月が地獄の使者になる? ……そんなの、俺の知った事じゃない」


 地獄など、目の前に広がり続けている。絶望は、今も絶え間なく苛むようにその耳元で囁き続けている。
 真っ直ぐと先を見つめるシモンの目は本気で、冗談の色は全く見えなかった。馬鹿馬鹿しいと、嘲笑った色もなく。かと言って、ロージェノムの言葉を信じたのか信じずに終わったのかは、判らなかった。


「ロージェノムを倒したあとは……暫くは俺も地上にいた。ロシウ達を筆頭に出来ていく政府を、俺は傍目で見ていた」


 彼が語る言葉以上のものを、私は知る事が出来ない。ただ予測でしか、その光景を見る事が出来ない。でもきっと――そうだったのだろうと言う確信が、あった。
 ロシウが、シモンを新政府に誘わなかった訳はない。たとえ何があろうと、シモンが人間達の未来を切り開いた事に違いはない。
 きっとロシウは、どんなシモンであれ心配していただろうから。あの次元におけるロシウが――そうだったように。シモンの心を、彼もヨーコのように見抜いていたのだと思う。それでもロシウの言葉は、ヨーコ以上に届かなかった。


「だが俺に……居場所はなかった。街を作るのも治めるのも、俺の役目じゃない。俺には、戦う事しかなかった」


 あれ程、戦う事を恐れていた小さな少年が。戦いの中で失った存在を取り戻す為に、ただ戦いに明け暮れた。
 戦う事は――カミナを忘れない事に、繋がっていたから。戦う事で、その存在を感じられるような気がしたから。
 そんなシモンの気持ちが、言葉と声から伝わってきた。今でもその気持ちは、変わらないのだと思う。戦う理由が少し変わったとしても、根本的な理由は変わらない。


「ロージェノムの言葉は……百万匹の猿だとか月だとか……それは、誰にも話さなかった。あの言葉に、不安を感じなかった訳じゃない。けどロシウもヨーコも……アイツらはもう、グレン団じゃなかった、からな……俺には、信用出来なかった」


 誰かが裏切った訳でもないのに、裏切られた気分になって、自己嫌悪して、被害妄想を抱いているだけだと知りつつも、気持ちを抑えられなかった。
 カミナを忘れたように先へ進んでいくその姿が、シモンの目には裏切り行為に映ったのだろう。
 誰もが――カミナを忘れたように、映ったのだろう。
 ただひたすらにカミナを想い続け、カミナの死をどうすべきか悩んでいたシモンにとって、それは裏切り以外の何物でもなかったのだ。信じられる、訳がない。頼れる、訳がない。


「ただ俺がどうにかすればいいだけの話だ。そう、思った」


 ロージェノムを倒した時のように。誰もその後ろからついて来なくても、カミナへの想いを己が忘れなければ――どんな壁だろうと、突き破れる。
 シモンはいつも、一途に前を向いている。
 そして真っ直ぐと、自分を信じている。
 誰も信じられなくなっても、カミナを信じ、カミナの遺した言葉を信じ――だからこそ、自分が信じる自分を信じられた。


「じゃあ……君は、ロージェノムを倒したあと、直ぐに宇宙へ?」


 そこで初めて、私は言葉を告いだ。沈黙があった訳でもなく、そう問う事を彼が求めているような気がしたから。
 そしてその問いかけは、私が前々から気になっていた事でもある。
 いつから、シモンはこの宇宙で天の光と戦っているのか。
 姿だけ見るのなら、シモンは初めて会った頃から七年後と言う――あの次元のシモンと、同じくらいの年齢に見える。恐らくそれは、間違っていないのだと思う。
 でも矢張り、私がいなかった時間の空白は、私に知る由もない。それは、知識と違うから。


「いや……ロシウ達が人間をどうするつもりなのか、数年だけ見ていた」

「……七年?」

「いいや、三年だ」


 あの次元のシモンは、七年かけてカミナシティを復興させた。けれど総司令とならなかったシモンにとって、宇宙へ出るのに七年待つ必要性はない。
 機会や方法さえあれば、宇宙には向かえる訳で。


「兄貴と同じ年になって……兄貴の知らない時間をこれから俺は生きていくんだと思うと……何かせずには、いられなかった。だから、宇宙に出たんだ。何かを、する為に。俺に出来る事を……探しに」


 きっとそこに――カミナが目指した空に何かがあるだろうと、思ってか。あるいは矢張り、ロージェノムの遺した言葉が引っ掛かったからか。
 どちらにせよ、彼は今宇宙にいる。


「君が宇宙へ行く時、誰も何も言わなかったの?」

「ロシウは煩かったな。一人で行くなって」


 七年経って漸く月へロケットを打ち上げていた事を考えると、三年経ったその頃と言うのは、まだまだ不安定だったに違いない。
 ロシウがシモンを心配するのも無理はない。寧ろ、シモンが信じていないだけで――ロシウ達グレン団はまだ、シモンを信じていたと思う。そう、思いたい。それでもシモンの拒絶には何も、言えなかったのだ。
 シモンが拒むのなら――何も出来ない。その気持ちは、私にも判る。


「でも――俺は、ブータと二人で此処まで来たんだ。今更、連中の話を聞いてやる理由がなかった。連中の言葉で振り返るのなら、あの時……ロージェノムと戦う前に一人で行かなかった。でも今回だって、あの時と何ら状況は変わらない――そう思ったから、俺はブータと二人で宇宙へ行った」

「……無謀だね」


 無理を通して道理を蹴っ飛ばしても、それは無謀以外の何物でもない。
 そしてシモンから何も語られずに、ただ宇宙に行くとだけ告げられたロシウ達からすれば、益々無謀以外の何物でもなかっただろう。無謀以前に、意味が判らないのだから。そして言葉を投げ掛ける事すら、それは許されず。
 他者である私だからこそこうして一緒にいられるし、それでいて冷静に聞けるのだけれど――ロシウは猛烈に反対したに違いない。シモンはそれ以上の名を出さなかったけれど、ロシウだけでもないだろう。
 たとえシモンが彼らを拒絶しても、彼らはシモンを想っている筈だ。
 ――離れていても。


「無茶で無謀と笑われようと、俺には関係ねぇ。いつもの事だ」

「……本当だよ」


 自嘲気味に笑われると、切なくなってくる。どうして、そんな笑い方をするのか。
 シモンの気持ちが判るだけに、私の心の辛さが増えていく。彼の心をの辛さを、少しでも共有出来ているのだと言う錯覚を覚える。
 彼の気持ちなんて、ほんの少ししか判らないのに。


「宇宙へ出ると……アンチスパイラルがいた。相手も予想外の俺の登場に戸惑っていた。そして――危険因子だと言って、殺そうとしてきた」


 シモンの螺旋力は、別次元のシモンよりも遥かに高いのだと思う。食い潰されそうになっている事といい、あのシモンにはなかった瞳の螺旋といい、螺旋力の影響がその躯に現れるくらい、溢れ出ているのだ。
 そして七年の歳月を待たずして、宇宙へ出たその力。それは知識云々ではなく、彼の持つ螺旋力の成せる業、なのだと思う。
 螺旋力の高まりによりスパイラル・ネメシスが起こる事を恐れているアンチスパイラルにとって、シモンの存在は脅威に映ったに違いない。危険因子を判断されても、仕方ない。
 けれどそう言って、シモンとして納得出来る訳でもない。


「普通に戦っても……勝てなかった。いきなり、絶望を味合わされた。それでも俺は……諦めなかった。兄貴はどんな時も、諦めなったからな」


 カミナの背中が、いつもシモンの道標になっている。そしてカミナにとっても、シモンの背中は道標だった。
 矢張りどんな現実を迎えようとも、シモンはシモンだ。カミナの背中を追い続ける彼に、絶望が宿る事はない。一度絶望したシモンだからこそ、もう何にも――絶望しない。


「そして気付けば……多元宇宙迷宮に呑み込まれていた」


 どんな絶望を見せても立ち向かってくるシモンに、アンチスパイラルは奥の手を使わぬ訳にはいかなかったのだろう。
 ただ痛めつけて殺す方法では、シモンはどんなになろうとも立ち向かってくる。だから多元宇宙迷宮へ精神ごと、閉じ込めてしまう方が手っ取り早かった。


「そこで俺は……兄貴に、会った。昔の兄貴そのものだった。俺が憧れた兄貴だった。その時……兄貴が現れた時点で、俺はその場所が夢か何かだと気付いた。夢なら……覚めなければいいと、思った。そしたら……殴られた」


 多元宇宙迷宮とは――時間軸の無限分岐によって発生する多元宇宙を認識した瞬間に実体化させ、その次元と入れ替える事で精神を閉じ込める、アンチスパイラルの能力である。
 つまりアンチスパイラルには、多元宇宙一つ一つに関われる能力があると言う事に――なるのか。
 だがそれを越えて、カミナはシモンの前に現れた。一度死んだ魂であるが故に、その迷宮に囚われる事もなかった。そしてその魂はシモンと共にあったからこそ、シモンの前に現れられた。
 その現実は――夢とも現とも判らぬその現実は、シモンにとって甘すぎる夢だっただろう。その迷宮から抜け出さなければ、もう二度と会えないと思っていたカミナと―― 一緒に、いられるのだから。
 けれどカミナが、そんな行動を許す訳がない。自分が既に死んだ者だと判っていたからこそ、カミナは敢えてシモンの前に現れ、殴ったに違いない。


「前を向いて歩け。また、そう言われたんだ」


 今のシモンは、どんな思い出を遡っているのだろう。彼の全てを知っている訳ではないから、彼の今の気持ちや思い出が判らない。
 シモンの言葉を聞けば聞く程、その声に滲む感情を感じれば感じる程、君を知りたいと思う。


「お前は、お前を信じてるんだろ? お前が信じるお前を。誰も信じられなくなっても、それはアイツらを忘れた意味とは違うだろ?」


 カミナがシモンに言ったのであろう言葉を、シモンは今噛み締めるように呟いた。
 その一言一言が、シモンを支えている。シモンの道標になっている。迷った時には必ず、その言葉を思い出すのだろう。
 そしてその言葉があるからこそ、シモンは迷わない。


「兄貴はこんな俺を見ても……俺を信じていると言ってくれた。俺がどんなになろうとも……俺が、兄貴を信じられなくなっても……兄貴は俺を、信じてる」


 間違った道を歩んでいる事に、気付いた時もあっただろう。カミナが求めていた自分は、こんなんじゃなかっただろうにと、後悔した時もあっただろう。
 けれどどんなに思っても、どんなに答を聞きたくなっても、死んでしまったカミナがどう思っているのかなんて、知れなかった。
 それこそ――シモンが諦めようとした、瞬間だったのだろう。何よりも、自分に絶望しかけた瞬間だったのだろう。そしてだからこそ、カミナはシモンの前に、現れたのだ。
 シモンが――迷ったから、殴りに来た。


「その時、気付いたんだ。兄貴がこんな俺を信じてくれてるように、本当はアイツらも……俺を信じてくれてるんだって。アイツらが地球に残ったのは、アイツらのやるべき事がそこにあったからだ。そして俺は……俺のなすべき事をする為に、宇宙へ出た」


 シモンにも、何か予感するところがあったのだろう。ロージェノムの言葉をうわ言と一蹴したつもりでいたものの、矢張りそう簡単に忘れられるものでもなく。
 ロージェノムもまた、地球の――螺旋族の事を想っていたからこそ、人間を地上に押し込めた。地球を、滅ぼさない為に。絶望の中から、いつしか希望が見出せる事を信じて。
 だから――シモンに未来を、託した。自分と同じ眼をした、シモンに。その瞳が、絶望を知りながらも絶望を映さない事を知って。


「俺にしか……救えない。俺にしか……護れない。俺が兄貴の代わりに、あの空を護るんだ」


 その決心は、今でも変わらない。一度見失いかけた想いだったけれど、忘れかけたものだからこそ、もう二度と忘れない。
 真っ直ぐ突き進む道が見えた時、シモンはただ一途にその道を進む。


「気付いたら、驚くアンチスパイラルがいた。そう認識すると同時に、俺は奴を倒していた。実際は……倒せてなかった訳だがな。でもそれ以来、アンチスパイラルは何も仕掛けて来なくなった」


 存在を記憶から抹消するかのように――夢だったと思わせるようにして、消えたアンチスパイラル。
 アンチスパイラルはシモンを殺すつもりで、危険因子として消滅させるつもりで現れたと言うのに、返り討ちに遭ってしまったのだろう。そしてどうにかして、隙を突いて逃げた。その生死をあやふやにして、倒したのだと思い込ませた。
 そうした方が都合がよかったのだろう。以前現れた時に言っていたように、アンチスパイラルもその時深手を負ったようだったから、その傷を癒す為にも時間が必要だった。その為には、生存を知られる訳にはいかなかった。


「結局何だったのか判らない儘、戦いは一旦、終わったんだ」


 そこで、シモンは一息を吐いた。シモンとしても、こんなに長く語り始めてしまうとは思っていなかったのだろう。疲れた様子で項垂れる。
 けれどまだ、何の夢を見たのかと言う結論に到達していない。彼としても、夢の名残りから解放された訳ではないのだろう。未だに辛そうな色が、その背中から滲んでいた。
Back   ( top )   Next


( 後書き )

変なところでキリますが、前半終了です。どうにも入り方も変でキリ方も変とか……(苦)
そして妄想が酷すぎますね判ります。
でも何か、ヨーコの事を語り始めたら止まらなくなりまして。
シモンさんが色々語り始めちゃいまして。と、止められる訳ないじゃないか!
そして語らせれば語らせる程、口調が判らなくなっていくのがシモンクオリティ。
若干弱気になって総司令に戻ってる感じです。
だってこういう語りしてる時に口調悪いとか、変じゃないですか?
全体的にいつも口が悪いカミナとかだったらいいと思いますが、
シモンは偶に口調が柔らかくなりますからね。もう訳判らん! けど愛してる。
とこんな事を書きつつ、言わせたい事は言わせられて満足ですよ。
そして矢張り、ニアの「貴方はなすべき事をなす為に此処まできた」が印象的すぎて、
アバンにも言わせたくなって言わせました。アバニアはありだと思います。
アバニアは、子ニアとアバンで宜しくお願いします(マテコラ)
子供ニアの不思議ちゃんぷりに戸惑うアバンが見たい。