16*
「さようなら」
泣く夢を見た

「本当は、知らないふりを通すつもりだった。俺があの俺を知ってるんだと知ればお前は、余計な悩みを抱えるだろう?」


 反論出来ない自分が恨めしい。結局のところ、彼はよく私を見て捉えている。まるで私の心を見透かしているようだ。
 しかし――昔の私はそれこそ悩みらしい悩みを持っていなかったから、今の私は仕方ないのかも知れないと思う。悩まなかった分、今悩んでいる。
 今更目の前の暗闇に――そして光に、恐れ始めている。
 夢だけを見続けた代償だ。


「でも何故……夢に? 夢は……潜在意識の表れだとか、願いの表れだとか言われるよ?」


 言葉を選びながら、恐る恐る尋ねる。彼の心を、傷つけたくないと思いながら。その疑問ははっきりさせねば、納得出来ないだろうから。
 ただその夢の中に私はいたのかと訊く勇気はなかった。訊いたところで意味はないし、所詮私は世界にとって部外者だ。夢にまで、映る訳にはいかない。


「俺の願いの表れだって言うんなら、兄貴は……死んでない。でもあの夢の中に……兄貴はいないんだ」

「……そうか」


 願ってやまない、その願い。けれどどんな世界であれ、死者の蘇生は叶わない――叶ってはいけない禁忌とされている。
 誰もが願ってやまぬと言うのに。


「あの夢は多分、次元の捩れが齎すものだ。俺が捩じ切った時空間が、夢になってこの次元に溢れてきた」


 時空間を捩じ切るくらいの戦い方をし、果てにはいつかスパイラル・ネメシスを起こしかねないシモンを、まるで責めるかのようにその夢は囁き苦しめるのだろう。
 しかし――カミナの死のあと立ち直り平和を作り上げ、幸せを実感した己を見て、彼はどう思ったのか。ほぼ正反対とも言える道を歩んだ、己を見て。カミナの死のあと、ニアによって救われた――己を見て。


「お前が俺に何を求めて此処に来たのか。あの俺を見ていたからこそ――判った」


 だからあの時君は、何処からともなく現れた私に驚きを示さなかったのか。寧ろ全てを知っているかのように、受け止めてくれた。
 私がどんな複雑な気持ちで彼と別れたのか察しがついていたから――私を、想ってくれた。


「俺には今まで、判らなかったんだ。あの俺が何故、兄貴もあの女も……蘇らせなかったのか。俺にはその力が、ある筈なのに」


 自分の拳を見つめて、眉間に皺を刻む。判ったと言えど――それでも全てを理解した訳ではないのだろう。
 シモンはシモンであり、どんな道を歩もうとも彼は彼であり、根本的なところは変わらぬのだけれど――出会いは人を変えるし、時は人を変える。だから彼は彼と言っても、全てが同じではない。
 次元が違い、ありえたもう一人の自分の姿で――あるからこそ。


「でもそれは君自身にも言える疑問、だよね。君にだって、カミナを生き返らせる力はある筈だよ。あの彼に、あるのなら」


 私を見る彼の視線が鋭く尖る。しかしそれは直ぐに緩められ、彼の視線は床に落ちた。少しの沈黙が痛い。ただ心配で、彼を見つめ続けた。
 カミナの死を乗り越えた自分を認めようとも、カミナの死自体に納得し、吹っ切った訳ではない。多少の整理をつけられても、未だ彼はカミナの影を追っている。そしてだからこそ、今も此処にいる。
 カミナが求めた未来を、護る為に。


「ああ……確かに、そうだ。死んだ者は死んだ者だと言った俺を殴りに行ってやりたいと――その夢を見た時、思ったよ。それと同時に、自分の可能性にも気付いた」


 アンチスパイラルすらも超える螺旋力を持つ彼。それは次元が違えど変わらぬ事実のようで、そのあり余る程の螺旋力に悩んでいるのは同じようだった。
 七年の歳月と共に作り上げたカミナシティで己の道を見失いかけていたシモンでも、戦いに再び身を投じた時、螺旋力は暴走する勢いだったのだそうだ。ニアを助けに宇宙へ上って行く前に、彼の口から聞いた話だった。
 ただ感情の儘に螺旋力を使えばスパイラル・ネメシスが起こり、宇宙と共に地球も消え、あの空もなくなってしまう。
 ――だから彼は、自制した。
 己の望みや感情よりも、カミナの想い、そしてニアの願いを彼は選んだ。それもまた――彼自身の望みであり想いであり、願いだったから。


「でも……俺にも、出来なかったんだ。出来る出来ないじゃなくて、それは違うんだと思った。兄貴はきっと……そう言うのは望んでいない」


 私も、そうだと思った。
 カミナの死に立ち会った訳ではないし、彼をよく知っていた訳でもない。けれどカミナによく似た少女を、私は知っているから。
 カミナのような信念を持つ者が生きる先に臨むものが、何となく見えていた。
 彼らは限られた生を生き抜く為に、生きている。永遠を望まず、その生きている瞬間の輝きを求めている。そして、その先を。
 永遠ではなく限られているからこそ、今とその先を強く求めた。
 だからそんな彼らは――死の先を、求めない。
 死ぬ瞬間の形を望む事はあれど、死んでまた生きたい、蘇りたいと彼らは望まない。何故ならそれは、限られた時間ではないからだ。
 死は、生の終わりだ。いつか必ず、誰もに訪れる最後。誰にも訪れるからこそ、彼らは自分にしかない道をゆこうとしている。
 つまり――終わりなら、終わりなのだ。生に縋りついたり、死の恐怖に恐れ戦く事はあれど、死んでもう一度蘇った時――きっと彼らは、失望する。たとえその生に限りがあっても、彼らはただ失望するだけだろう。一度きりである事に、意味があるのだから。
 もし彼らのその信念を汲まず生き返らせた時、きっと彼らは怒るんだ。そして、蘇る事を望んだ者に失望してしまう。どうして判って、くれなかったのかと。
 それが判ったから――どんなに強く願い望んでも、シモンにカミナは生き返らせられなかった。カミナの魂を受け継いだ、彼には。


「兄貴は憎しみで戦っていた訳でも……なかったからな」


 ただその瞬間を信じて、過去を振り返らずに前へ進み続けたカミナ。
 しかしそんな彼も地上へ出た当初は、地上へ先に向かっていた父の姿を追いかける目的だったらしい。けれどその父親は――リットナー村の直ぐ傍で、既に死んでいた。恐らく、ガンメンによって殺された。
 それを知りながらカミナはその後、父親の仇を討とうだとか、言い出しはしなかったのだと言う。
 あくまで地上で――あの青い空の下で平和に暮らす事を、彼は望み願った。どんなに獣人から攻撃を受け負傷しようとも――彼は、笑っていた。
 そして最期の瞬間にすら、彼は笑って――死んでいた。


「……とは言え、こうして兄貴の話を出来るのは、今の俺だからだ。兄貴が死んだ時、宇宙に出た時、そしてお前に会うまで……俺は兄貴の死に整理をつけている自分を、認められなかった。だから――俺に答をくれたのは、お前なんだ」


 けれど私に、その自覚はない。彼の言葉に戸惑うしかない。
 結局のところ、未だ彼の意図が汲めずにいる。彼は私に、何を求めているのか。寧ろ何かを求めているのか。それすら、判らない。


「いつかお前は俺の前からいなくなる。それを判った上で……いや寧ろ、だからこそ俺はお前を求めたんだ」


 確かに私は、いつかいなくなると言った。いなくなるのは――彼に別れを告げるのは避けられぬ事だと思っていたし、今までの私ならたとえ別れが寂しくともその道を選んでいた。
 それが、旅人と言うものだから。
 ――でも私と同じ彼に出会い彼を知って、私の心は揺らいだ。黒い空を見上げてアイツを思い出しながら、悩んでいた。今、正に。


「これ以上お前が此処にいると、俺はずっとお前を望む……取り返しがつかなくなる。それなら、とか言うなよ。言ってたらキリがねぇ」


 私の心を見透かしたかのように、釘を打つ。開きかけた口は閉じて終わる。
 彼にそれ程、自分の事を話したつもりはなかったのに、彼は私を私以上に理解している。私以上に――私を理解、しようとしたからこそ。


「俺はお前に、自分の道を見失って欲しくないんだ」


 だから今――私に敢えて冷徹に言葉を投げる。そうでもしなければ私は、聞き入ろうとしないから。そしてその冷徹な態度では彼なりの、決別でもあるようで。
 彼も彼のように、私を想ってくれている。
 ああ矢張りシモンなのだなと、思った。どんな道を歩もうとも、彼は彼で変わらない。想うのは、同じ。


「お前がいなくなっても、お前は俺の心ここにいる。俺の傍にいてくれた。それでいいんだ」


 整理がついているのか、シモンは吹っ切れたように笑った。
 この次元のシモンの笑顔を、初めて見た。別次元のシモンは、目の前にいる彼と違って表情豊かでよく笑って悩んで怒っていたけれど、この次元の彼は感情を忘れたように、喜びや悲しみを映さなかった。
 まるで何かを憎んでいるかのような目つきで、いつも前を見つめていた。
 彼の部屋の中では、ひたすら背を向けては横たわっていて、その表情を見せてくれる事もなかった。
 ――とは言え、感情がないかと思ったのは最初だけだった。
 表情が見えなくてもその声音に心は篭っているし、別に彼も意図的に感情を殺している訳ではない。だから時折、私の言葉や態度に困った表情をする時もあって、私は内心それを見てほっとしていた。
 けれどこうして彼が笑うのは、想像出来なかった。それ程までに彼の抱える澱は、深いと思っていたから。


「……だからあの俺も、あの女の消滅を受け入れた。ずっといたいと望んでも……それは所詮、歪んだ愛に過ぎない」


 そう言われても、彼の心を知ってもそんな寂しい目をされると――それでもと、彼の言葉に食い下がりたくなる。
 ――けれどそれは、彼の想いを否定する事になる。そんな事をしてまで私は、己を貫けない。彼を想うからこそ、彼の言葉を否定出来ない。


「あの俺は――お前に最後、何て言ったんだ?」

「……俺はもう大丈夫だから、って」


 此処にいる間でも、なるべく思い出さないようにしていたけれど、矢張りそれは避けられない事のようで。
 結婚式で愛を確かめ合い、ニアが消え――目の前から去ったシモン。私は部外者だからと、その場には立ち会わなかった。寧ろ消えるニアを見られなくて、逃げた。
 ニアが消えると言う事実は、視えていた。でも矢張りそれを誰かに告げる事は出来なくて、一人空を見上げていた。
 ニアがいなくなったあと、シモンは私の居場所を知っていたかのように、私の目の前に現れた。カミナ像の――前に。
 もしかしたらそれは会いに来たのではなく、カミナシティを離れる前に、カミナ像を見ておこうと思ったが故の行動だったのかも知れないが。
 彼がカミナシティを去る事に関しては、以前から聞いていた事だから驚かなかった。
 ――行くんだね。
 ――ああ。
 そんな言葉のやり取りをしながら、私は遣る瀬なくて仕方なかった。結局何も出来る事は、なかった。ずっとずっとシモンとニアには幸せに生きていって欲しかったのに、その願いは打ち砕かれて終わった。
 けれどシモンが旅立つ時、私がこの世界を去るという事は、以前から決めていた事だった。それは、シモンにも話した事だ。
 旅立つ彼のあとについて行けば、私はそれこそ――退き際を見失ってしまうから。
 にも拘らず私の中には、葛藤があった。ニアがいなくなってしまった事もあって、その心はより強く揺らいでいた。
 シモンはそんな私の心を察したかのように、大丈夫だから、と言って笑った。
 ――その笑顔に、陰りはなくて。
 ニアの消滅を前にしたばかりだったのに、その目は前を真っ直ぐと見つめていた。寧ろ宇宙へ上がる前よりも、強い意志を宿していた。吹っ切れたんだと思った。総司令としている間悩んでいた事に、蹴りをつけたようだった。
 そんな彼に私がそれ以上、何かを言える訳もない。


「私はその言葉に……何も、言えなかった」

「それでもお前は諦めきれずに……俺の許へ来た」


 何も言えず、俯く。
 シモンが私のその行動をどう考えているのか判らないが、少なくとも私は、何となく後ろめたさを感じている。結局、諦められずこの世界にずるずる居続けている事に変わりがないから。


「俺を……想ってくれたんだろ?」


 顔を上げろと言われ、その言葉に従わない訳にはいかず彼を見上げると、彼は変わらず私を見ていた。
 そして――告げる。


「私はそんな……誰かの為だとか、考えてるんじゃないよ。ただ私が満足したいだけだ。エゴだよ」


 ――あの彼と同じ事を言った彼に、戸惑った。
 そして、あの時も思い今も思った自責の念を吐露する。矢張り彼の視線から逃げるように、下を向いて。


「人間なんてそんなもんだろ。考えたらキリねぇよ。エゴだ何だ言ってたら先に進めねぇ。俺達はそれぞれ俺達の生きたいように生きてんだから、当たり前だ」
 

 私の葛藤を理解しているような言葉を、はっきりと紡ぐ。
 私は反論も出来ずそれはそうだけれどと、また悩む。彼としては、余計な悩みなのだろうか。
 誰もが自分自身の想いを貫く為に、生きている。それはシモンでも私でも、変わらぬ事で。寧ろシモンは今まで己のエゴを貫くように、此処まできた。


「ただ……そのエゴに俺は救われた。その事実があれば十分だ」


 彼の言葉は、理に適っている。
 道理を蹴っ飛ばして無茶を通すのがグレン団の筈なのに、彼はありえない夢を見ている訳ではなくて、真っ直ぐと現実と向き合っている。
 ――己の信念を、貫きながら。


「俺ももう……大丈夫だ」

「……シモン」

「判ったんだ。ラガンも、ずっと教えてくれていた……」


 だからそうやって、笑えるんだね。ずっと探し求めていた答を、見つけ出したから。あるべき自分を見つけたから。
 ――その答を教えてくれたのはラガンと私であるのだと、君は言う。
 あの彼と同じように、満足した笑みをそこに浮かべる。その感情に偽りや虚勢は、なくて。


「俺に出来る事を、俺が正しいと思った事を、俺がやりたいと思った事をやっていくだけだ。たとえ俺がスパイラル・ネメシスの元凶と言われようとも、俺が信じる俺を信じて、俺が信じる道をいく」


 そう決めたんだと、小さく笑う。僅かにその口元に、獣のような獰猛さが滲んだ。
 ――ああもう、彼は迷わないのだな。そう思うと何故か、寂しかった。私の傍から、彼が離れて行くように思えて。けれど傍を離れるのは彼ではなく――私だ。


「スパイラル・ネメシスは、何があろうとも起こさせない。そして俺も、死は選ばない。生き抜いてやる。生き抜いて、この空を護る」


 首許から提げているコアドリルを右手に収めてぐっと握る。そのドリルに誓ってと、言うかのように。
 ――ドリルはシモンの魂だから。
 そして空を護るのは、シモンがカミナから受け継いだ遺志だ。
 そしてシモンに前に進めと言って、上を向いて歩けと言ったカミナは、シモンが生きていく事を望んでいる。だからアンチスパイラルの作り出した多元宇宙の中で、シモンを殴った。その夢に縋ろうとした彼の目を、覚まさせた。


「空は……全ての世界と、繋がってるんだろ?」

「……ああ、そうだ。私はそう、信じているよ」

「なら――俺に思い残す事はない。遠くにいても、傍にいるんだからな」


 何処にいても、思い出と空で繋がっている。思い出は、消えそうで消えないものだ。この心に一つ一つ刻まれていて、時と共に募り積もって行く。
 ずっと一緒なんて、どんな夢でも現実でもありえない。夢はいつか覚めてしまうものだし、現実はいつでも残酷だ。万物はいつか消えてしまうもので、生きている限り死からは逃れられない。
 限りがあるから今を精一杯生きて、そうして作り出した思い出を大切にして生きていく。
 いつか別れは訪れてしまうものだから、此処にいた事実を、思い出として大切にしていく。


「お前はお前の道を行け。だが此処は、お前の居場所じゃない」


 仕方ないなあと、彼を見て苦笑する。彼にそう言われて厭だと否定出来る程、私の心は強い意志を持っていなかった。
 彼の言葉は真っ直ぐと、その螺旋の瞳のように私の心を射抜く。


「……判ったよ。臆病で居続けるのにも、辟易し始めていたところだ。私も、腹を括るとしよう」


 いい加減、いい加減と言い続け。それでも前へ一歩も踏み出せずにいた。その先へ歩き出して変わる世界と、進み始める時間が怖かった。
 その先をどう歩いていけばいいのか、判らなかった。その先は真っ暗な闇なのだと恐れ、動けずにいた。それが単なる思い込みで、動かないから暗いのだと気付きすらせず。


「夢はもう、終わりにしよう。私も上を向いて歩いて前へ進んで……明日へ向かおう。恐れていては、進めない」


 大丈夫だと、彼は言ってくれたから。それは彼としての事を指してもいたし、私に対するものでもあった。お前ならと、彼は私を信じてくれている。私が信じれずにいた、私を。
 ――彼は私に、答をくれた。先を、指し示してくれた。
 この夢を終わりにしてしまえば、悪魔達は帰ってこない。同じ夢は、見られない。彼らは私の中から消え、傍からいなくなる。私の心はぽっかりと、孤独になる。
 私はずっと、それを恐れていた。その孤独を味わうのが厭で、逃げ続けていた。過去と今に固執して、彼らがいなくなる未来を拒絶した。そしてこの旅をやめれずに、疲れ果てても立ち止まれずにいた。
 後ろを振り返る勇気すら、持たずに。
 歩き続けた結果道を見失った私には、今までの自分すら他人に見えた。何故あれ程、自信に溢れていたのか。私は今まで、何を信じていたのか。気付くと、全てが判らなくなっていた。少しずつ少しずつ、自分を見失っていったのだとも、気付けなかった。
 ――だからこの現状が夢なのか現なのかも、判らなくて。ただいつしか甘い夢ばかりを追いかけ、見続けたいと願い、現実から逃げ出していた。
 現実を直視出来ず夢ばかりを望んで、願いばかりを言の葉に乗せ祈った。そんな願いが、現実になる訳もないのに。
 ――けれど、もう祈らないのなら、願うのも、やめよう。
 この夢を、終わらせる為にも。最後の願いを、叶える為にも。悪魔達が願った願いを、叶える為にも。
 私を想ってくれた者は皆、私が歩き出す事を望んでくれた。そして、シモンも――悪魔達も。


「君が信じる私を、君を信じる私を、信じるよ」


 ――そしてアイツを信じる私を、信じよう。アイツは今も、私を信じてくれているだろうから。
 あの空の、下で。


「あばよ、


 そう告げたシモンの表情は、清々しそうで。未練はなくて、本当に私を想ってくれていたんだと実感した。そう思うとまた、彼に縋りたくなった。
 私は本当にシモンが好きだったのだと、その時やっと認められた。


「さようなら、シモン。ありがとう」


 君と出会えて、よかった。
 彼と出会わなければきっと、私はこの迷いを抱えて立ち止まり続けていた。立ち尽くして途方に暮れ果てていた。私と同じ彼だったから同じ傷を持ち合い、迷い続けた者同士だったから、互いの支えになった。
 たとえ離れていても、そこにいる。たとえいなくなっても、そこにいた事実が消える訳ではない。
 だから悪魔達も、私の心から傍からいなくなっても――彼らがいた事実は残る。
 シモンがニアを想い続けるように、そしてシモンが私を、想い続けてくれるように。私が彼らを、想い続ける限り。


「さあ、帰ろう」


 皆で一緒に、あの世界の――あの空の下へ。
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( 後書き )

一応私の中では、この話でトリップ夢の最後、と言う位置づけになります。
グレラガの熱が最高潮だったと言う作用もあるものの、
矢張り色々夢主の悩みとアバンの存在とかシモンやカミナの信念が繋がったので、
グレラガをラストに選びました。
あと最終話は三本に区切ろうかと思いましたが、
二本目を何処で区切ればいいのか判らなかったので(何処で区切っても変に思えたので)
結局二本に押し込みました。長さとか気にせず書いたからなあ……。
ではこれで、スレイヤーズ本編のトリップ後へと戻ります。
本編に戻る話はいつになるか判りませんけど……(苦笑)