03*
いっそ情なんて
いらないから

 ――結局のところ、との顔合わせはが読書を終えてダイニングにくるまで無理だと言う話だった。
 何でも読書の邪魔をすると、溺愛されているですら容赦なく怒られるらしい。
 一体何をそんなに邪魔されたくない程集中して読みたいのか判らないが、自分の時間を邪魔される、と言うのが最も厭なのかも知れない。
 そして――夕方、そろそろ流石にやってくるだろうかとシリウスとはダイニングでテーブルに着き、シリウスは気が気じゃない状態でがやってくるのを待っていると、首の骨を動かしながらがダイニングに入ってきた。
 

「……今日はカレーだ」


 入ってきて、家に帰ってきていると――何故か一緒にいるシリウスを見てやにわに、は開口一番そう言った。
 その声音にはやや不機嫌そうな色が滲んでいるものの、今すぐ怒鳴り散らす、と言う様子はなかった。
 
 
「えとあの……お邪魔、してます」

「邪魔するなら――と言いたいとこだが、まあいい」

「いいの?」

「事情ある奴を無闇に追い出す程非道なつもりはない」


 どう説明したらいいのだろうか、と考えていたシリウスの斜め上を超えていく反応だった。まさか説明するまでもなく、察しているとは。そう言う能力を持っているのだろうかとさえ思うレベルだった。
 余りの急展開で丸く収まった結果に、暫くシリウスはどう言うリアクションを取ればいいのか追いつけず、ぽかんとしていた。
 
 
「ルーシーとは同室だったからな。アイツが卒業したら何があるのかくらい予想はつく。ブラック家ともなりゃ、そりゃひと悶着ない方がおかしいだろ」

「……なるほど」


 そこまで聡いのは流石としか言いようがない。
 選択肢があれば冴え渡る勘で見事に当ててしまう能力を持つだが――そもそも情報を上手く分析し選択肢を作り出せるからこそ、その勘をフル活用出来ている訳である。
 
 
「あ、カレーなのも?」

「何人くるかまでは流石に判らなかったが、複数人来ても大丈夫なようにな」


 まるで常識人のようだ。いや寧ろ、一般人より遥かに気遣いが隅々まで行き届いていて、これがあのなのかと目を疑った。
 けれどあくまで善意として――ではなく、面倒臭いが仕方なく、と言う様子が見えるのがせめてもの彼らしさが窺える部分だった。
 
 
「そう言えば、仕事? に行かないの?」


 キッチンに入りカレーを温め始めたを見て、は思い出した事を尋ねる。
 卒業後、どのようなタイミングでどのように仕事が始められるのか、魔法界の一般常識に疎いにはイメージが湧かなかった。
 マグルに関しては、外を歩く人の様子を見て何となく察しているが。見慣れた大人達の中に、若い人々が多く加わる時期がある。恐らくそれは、マグルの新社会人が働き始める時期なのだと今なら結び付けられた。
 
 
「研修開始は八月から。卒業が七月のいつになるかは、学校によってまちまちだからな」

「そうなんだ」


 そもそもホグワーツ以外の学校は、どんな学校があるのだろうと考える。
 魔法界の子供全員がホグワーツに集っているようなイメージだったが、よくよく考えると毎年千人しか入ってきていないのだから、少な過ぎる。それに大半がイギリスに住む者達だったので、恐らく地域ごとに存在するのだろうと理解する。


「ところで兄貴は、結局何の仕事に就いたんだ?」

「闇祓い」


 温めたカレーをテーブルに置きながら、は気だるげに答えた。その様子から、余り闇祓いになる事に乗り気でない事が窺える。
 なりたくないものを、態々が選ぶとは思えない。何か理由があっての選択のようだ。
 
 
「本当はギャンブラーになりたかったんだが、賭ける為の資金がないからな。爺さんの金で賭けを始めるっつーのもださいし。だから元金を作る為に一先ず、だ」

「……一先ずで闇祓いになれる人、そういませんよ……」


 流石と――言うべきか。
 恐らく、元金を働いて作る必要があるのではないかと、教授に説得され、それも道理だと渋々勧められた闇祓いの道を選んだと言う流れと思われた。人に示された道だかからか、乗り気でないようだ。
 
 
「だからつまり、八月になったら俺は家を空ける訳だが――手を出したら許さねぇからな犬っころ」

「……はい」


 カレーを食べようとしたところで、明らかな殺気を乗せて睨まれ、震えながらシリウスは頷く他なかった。
 手を出すなんてと言う気持ちが強いが、普段と違って髪を下ろしているをちらりと見ただけで、どきり、としてしまう己がいるのも確かななので、下手な否定も出来なかった。
 その後三人は夕食を終え、に事情説明もし終えたシリウスは、部屋で寛ぐ事にした。
 は先に課題を終わらせると言って自室に籠り、は本を読むと言って書庫に再び籠ってしまった。
 ベッドに寝転びながら、明日からどうするかを考える。
 暇だからと、のように真面目に課題に取り込むのは柄じゃない。かと言ってマグルの街を散策する気分でもない。
 寧ろ家に連れ戻そうと、両親が何か罠を張っている可能性すらありえる事に気づく。
 だが罠に怯えて自ら引き籠るのは――厭である。
 どちらにせよ、そもそもパーティに出席するかしないかをはっきり自分の中で決めなければ、行動を起こす決心も出来ない。下手な優柔不断は、それこそ隙を生む要因になるだろう。
 あんな脅しをされなければ――断る一択だったのに。少しだけ出て安全が保障されるならと、夢を見てしまう己がいるのも確かだった。そんな甘い連中でない事は、判っている筈なのに。
 そう悶々考えている内にシリウスは眠りの淵へ落ちていった。
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( 後書き )

短いですが、一区切り。
長引かせるやり取りが浮かばなかったとも言う(苦笑)
この時代のイギリスにカレーなんて、とは思いますが
(でもインドが属国だし、あった可能性もあるのかな?)
そもそもイギリスはメシマズなので、兄貴さんの料理は
イギリス文化とは違うって事で(笑)
まあ偶に入れてる漫画ネタの時点で次元歪んでるので、今更ですね(開き直り)