05*
コメディみたいな
お付き合いの仕方

「絶対に許さん」


 に改めて説明し終えて、開口一番にそう発言したのは――本人ではなく、だった。
 元々予想していた反応を、遅ればせながら貰って逆にシリウスは安堵しつつ、いや安堵したら駄目だと己に言い聞かせた。
 
 
「そ、そもそも俺がダンスパーティになんて……無理だろ」


 そこで漸く、本人が口を開く。
 まさかうつらうつら気持ちのいい舟に乗っている間に、そんな話になっているとは思っていなかった。
 
 
「シリウス少年って、ちゃん以外に女の子の友達、いたっけ」

「……いませんよ」


 モテはするが――友達と言う相手はいない。そもそもに至っても、男友達と思っていたら女だったもので、女友達と言う存在は中々にハードルが高い存在である。
 だが適当な女子を見繕って、と言う訳にはいかないからこそこうして話になっている訳で。
 
 
「アメリアはあげられないし、エヴァンズと親しくなかったっけ?」

「ジェームズが狙ってるんで無理ですね」

「あージェームズ少年まで敵に回す訳にはいかないねぇ。それとそう言えばマグル出身だったから、その時点でアウトだったね」


 ジェームズを敵に回してしまえば、四面楚歌になりかねない。と喧嘩した事で、友人と喧嘩する事に大分懲りたシリウスである。
 との喧嘩も大概だったが、性格が悪く悪知恵の働くジェームズを敵に回した場合、何をされるか判らない。
 加えて、はまだ仲直りしたあとさっぱり許してくれるタイプだが、ジェームズは許してくれてもねちねちと今後弄られそうな事が目に浮かぶ。


「やっぱりちゃんしかいないねぇ」


 色々考えても、矢張り最初に至った結論に戻ってきてしまう。
 そもそも純血主義者の中のパーティに出る関係上、グリフィンドール生の中から適当な人間を持ってくると火に油になりかねない。
 その点、グリフィンドール生とは言え兄はスリザリンで、家柄的に不明なは、不明であるが故に突かれにくい。
 純血主義者の集いである以上、当然マグル出身者を連れて行く訳にはいかない。連れて行こうものなら、標的にされて弄ばれる。考えるだけでぞっとする。
 かと言って魔法界出身者では、家によっては純血主義と対立している者も多い。そもそも純血主義に傾倒している者は、スリザリンに割り振られている。つまりスリザリンに知り合いがいない時点で、選択肢が限られてしまう訳だ。
 だからこそ――矢張り、の立場はそれら全てをいい感じに満たし、都合がいいのである。


ちゃんって、魔法の腕もよかったよね」

「何せ主席ですからね」

「なら、何かあった時も一人で応戦出来そうだね」


 シリウスの両親が、シリウスを拘束する為に何か仕掛けてくる可能性が十分考えられる。
 それ以前に、敵地に乗り込むようなものだ。ある程度魔法技術を持っていれば、臨機応変に躱すなり何なり凌げるだけで大分違う。


「そんな危険な場所にを向かわせられるか」

「でも、出席しなきゃもっと闇雲にいつ何時か判らない奇襲を警戒しなきゃいけなくなるんだよ?」


 こう言う時に、感情で拒絶してしまうは、理論武装しているゼーレに敵わない。逆も然りである。
 とは言え、そもそも殺気立つに冷静にこうして理論をぶつけられる人間がまず少ないのだが。


「まあまあ、ちゃんだけは僕が護るからさ」

「……絶対だぞ」

「ザイン家の名に誓って」

「判った」


 そうしたゼーレの説得により、一番の砦と思われたは意外と簡単に引き下がった。
 パーティに出る以前に、によって殺されるのではないか――そう不安に思っていたシリウスは、何とか命拾いした訳である。
 

「パーティには当然ホグワーツの生徒もいるだろうけど、の名を出さなきゃ、お化粧してドレス着たちゃんが、まさかあのちゃんだとは判らないからさ」


 男装している事をバレたら――と、苦し紛れに言おうとしたの先を行くように、ゼーレはにこにこと笑いながらそう告げた。
 そもそも、男装している事は隠している事ではないので、隠し通さなければならない理由はない。
 しかしそれでも、言い訳として他に出せるものがなかった。にも拘らず――その縋る思いすら絶つゼーレは、流石スリザリンだ、とは思い知らされた。実際は余りスリザリンと言った要素は関係ないのだが。
 
 
ちゃんは中性的な顔立ちだし、髪の毛もいい感じの長さだし、ドレスアップしたら見違えるよー」

「それは非常に興味がある」

「でしょー?」


 流石親友と言ったところか、ゼーレはの扱いに長けているなと、そのやり取りを見ながらとシリウスは思った。
 からしてみれば、は頑固なイメージがあった中、ゼーレの説得に考えながら判った、と譲歩している様子が意外だった。
 
 
「え、ドレスアップって、俺何も持ってないですよ」

「持っててもお化粧をしっかりやらないといけないからね、両方ちゃんと手配するよ」


 十一か月を男装して過ごしている関係上、当然のように女性らしい行いは一つもした事がなかった。
 ドレスを着た自分を想像すると、途端に大丈夫だろうかと言う不安が込み上げてきた。
 外見や服装を取り繕うのは簡単だろう。しかし右も左も判らないパーティに出席して、目立たずヘマもせず立ち回らなければならないとなると緊張感は倍だ。ましてや旧家の大事なパーティともなれば、当然マナーも試されるだろう
 
 
「あー、本当にどんな感じのパーティになるかは判らないけど、婚約を告知する場も兼ねてるだろうから、ダンスもあるかも知れないね」

「ダンスなんて……!」

「大丈夫大丈夫。意外と体に染みついてるかも知れないよ?」


 からからと笑いながら、根拠があるのかないのか判らない行程をゼーレはしていく。
 根拠なしに無駄に大丈夫だと言う人間ではないので、ゼーレの中では何かしらその言葉を告げられる理由が――あるのだろうが。
 
 
「れ、練習した方がいいのかな……」

「んーただでさえブラック家長男で目立って、それが謎の美少女を連れているってなると更に目立つだろうから、ダンスは可もなく不可もなく程度が丁度いいかな。あくまで主役はルシウス達だから、目立ち過ぎると怒られる」


 怒られて何かしらの罰だと言う機会を与えてはならない。下手をすれば、見せしめにされかねない。
 敵地に乗り込むようなものなので、結局のところ、行くも行かないも同じくらいリスクがある。しかしリスクのある場所が判っている分、出席しなかった場合のいつ狙われるか判らない状態よりマシだ。
 
 
ちゃんがの妹だって判ってればそれだけでルシウスへの牽制にはなるんだけど、ちゃんの正体をバラしちゃうと学校での生活に支障が出るからねぇ」

「あんまりはっきりした理由があって男装してる訳じゃないんですけど……」


 バレたら困る理由は、はっきり言うとない。ただ何故か、ホグワーツにいる時はでなければならない使命感がある。
 でいなければならないが故に、バレてはいけない。あの場所に――でいる事、それ自体が男装する理由。だからでいられなくなると困る。


「ともあれ、慣れないヒールのある靴も履く事になるから、先に服とかを仕立てないとね」

「金なら爺さんから貰っとく」

「喜んで出しそうだよね、ダンブルドア」


 ドレスを着て、履いた事もないヒールのある靴を履いて、踊った事もないダンスを踊る――それを考えただけで、の頭はパンクしそうだった。
 一方のシリウスはと言えば、ダンスを踊るともなれば体が密着するのかと考えて硬直していた。
 
 
「じゃ、出直してまた明日来るから、出かける準備しておいてねちゃん。シリウス少年は叔父さんにでも手配頼んでみて」

「は、はい」


 そう指示を出すと、用事は済んだ、と言うような身軽さでゼーレは帰っていった。
 その場には、最愛の妹を気に食わない相手と踊る事を認めなければならず不機嫌なと、踊る状況を想像して既に照れているシリウスと、朝から怒涛のような試練を突きつけられて不安を抱く以前に何をしなければならないのか判らなくなったの三人が残された。
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( 後書き )

結構無理くりな展開ですね(笑)
しかしゼーレさんくらいしか、話を上手く進められる人がいなかったんですよね……。
兄貴さん自らシリウスとのダンスを認める訳はないし、夢主が詳しい訳ないし、
シリウスは奥手なので思い至っていたとしても言い出せないだろうし。