06*
まちぼうけさんの言い訳
|
翌日、お昼頃にゼーレは再びひょっこりやってきた。 流石に昼時にはも覚醒しているので、普通に出迎える事が出来た。 「じゃあちょっとちゃん、借りてくね」 「これ、持ってけ」 は伊達眼鏡と帽子と、そして金貨が入った袋をから渡された。 ゼーレが何処に行くつもりなのか知らないが、魔法界のお店である場合、ホグワーツ生徒に遭遇する可能性がある。ただ髪を下ろしただけの状態では、あっさりとバレてしまう。それでは意味がないので、少しでも隠せるようにと言う変装道具である。 「昨日爺さんに梟便送ったら、即行でホークスが金貨持ってきた。ドレス代だ」 「あ、ありがとう」 「爺さんに礼の手紙、出しとけよ」 「うん」 金貨の入った袋を鞄に入れ、眼鏡をかけて帽子を目深に被りながら、の言葉を聞く。 屋敷もそうだが、生活費や教科書代、必要経費等は全て保護者として立ってくれているダンブルドアが出してくれている。は学校を卒業して自立するので、たとえダンブルドアが引き続き工面しようとしても断るだろう。 「梟便と言えば、シリウス少年は叔父さんにでも礼服を頼んでおいてね」 「……あー、はい」 そう言えば、と思い出したゼーレの言葉に、シリウスは厭な事を思い出した様子で渋々頷いた。流石に家出してきた身で、礼服を持っている訳がない。 と一緒に行く、を連れて行く、と言う事ばかりに考えがいってしまって、己の準備をすっかり忘れてしまっていた。そこまで力を入れて準備したくない、と言う気持ちが強いのも理由としてあるが。 「じゃ、行ってくるねー」 「行ってきます」 そうしてゼーレとは出かけて行った。 屋敷にはとシリウスの二人だけになり、非常に気まずい空気が流れる。はシリウス等気にも留めないだろうが、シリウスからしてみれば苦手も苦手な相手である。との関係上、から嫌われているとも思う。 かと思えば、毎日朝昼晩、抜かりなく食事を出してくれるので律儀な人だと考えを改めたところだ。いつか気を抜くと変なもの――あるいは苦手なものを食べさせられるのではないかと実は少し警戒しているが、その様子は一向に見えない。どうも、料理に関しては真面目なようだ。 「梟、必要なら指笛吹けばくる」 「え、あ、そうなんですか」 「出来ない場合はの帰りを待て」 「……判りました」 淡々とそう言い置くと、はいつものように書斎に籠ってしまった。ホグワーツでは変人扱いされているだが、こうしてプライベートを間に当たりにしてみると、驚くくらい普通の人物で戸惑う程だ。魔法の技術は以前から卓越していると思っていたが、どうやら天才と言う訳ではなく勤勉の賜物だったようだ。 一先ずシリウスは、梟に託す手紙を書く為に自室へ戻った。 そこで今更ながら、そもそも叔父に連絡を忘れていた事に思い至った。の家にこうして世話になる事が確定した時に、手紙を書いてブラック家の動向を窺ってみたらと言われていたのに、にどんな態度を取られるだろう、と言う恐怖で忘れ去ってしまっていた。 とは言え、元々可能な限り叔父は不干渉を徹していたので、大きな支障は出ていないだろうし、心配もされていないだろう。帰ってこない状況と各旧家の動きから、何かあっただろう事は察する筈だ。 しかし連絡を寄越していなかった中、唐突に礼服を貸して欲しい、と不躾な手紙を書くのも気まずい。いやしかし、事情を察してくれていればその必要性も判ってくれるだろう。無下に頼みを断る人物でもない。 そう色々考えた末に、言われた通り結局礼服を貸して欲しいと素直に手紙を書いた。 「指笛……」 ジェームズがやっているのを見た事はあるが、実際にやった事はない。 そう言えば先日口笛か何かが聞こえたような気がしたのは――が梟を呼んでいたからかと思い至る。つまり、もに頼むようにと言った通り、は吹ける訳である。イメージに合わないが。いや、茶化すような使い方のイメージには合わないが、動物を手懐ける姿で想像すると合っているなと思った。 ジェームズととでこうも印象が違うのは、矢張り日頃の行いか。 そんな横道に逸れた事を考えながら、取り敢えずジェームズがやっていた姿を思い出しながら、右手の親指と人差し指でCの形を作り、口に当ててみた。 「ふー」 当然ながら、鳴らなかった。誰も見てないし聞いていないだろうが、不発具合に恥ずかしさが込み上げる。 恐らく舌の形や唇の開き具合も何かしらしなければならない――と思うものの、ちらりと見ただけでそんな事が判る筈がない。 「……大人しくに――」 「だっさ」 練習もそこそこに諦めようとした時、唐突に声が現れた。 声の主は――今まで部屋にいなかった筈の、フェイだった。 「仕方ないだろ、やり方知らねぇんだから」 「ま、知らないなりにやらずに諦めずに、試して諦めるのは評価しよう」 唐突な上から目線に苛立ちを感じながら、何故フェイが現れたのかと考える。 帰ってきてからも、フェイは基本的にシリウスの前に現れる事はなかった。人口密度の高い場所が嫌いだとか言って、やがいてもリビングやダイニングにすら現れない。そもそも普段、何処にいるのかすら判らない。 「評価ついでに、その手紙は俺が届けてやろう」 「……は?」 一体――どう言う風の吹き回しなのか。曰く、のお願いですら手紙を届ける事はしないらしい。何の為にについているのか判らないが。 そのフェイが――何故、しかも自主的に、シリウスに手紙を運ぶと持ち掛けてきたのか。 「こっちから梟便を出すまではいいが、あっちに梟便が届くまで、そして届いてもこっちに届けられるまでに危険が伴う可能性がある。それはに危険を及ぼす」 なるほど、理には適っている。ただから聞くフェイからすると、たとえそんな理由があろうと面倒臭がってやりそうにない――少なくとも、自主的にやる事はなさそうだった。 にも拘らずこうして持ち掛けてくると言う事は、思ったより主想いと言う事か。素直でなさそうなのは態度からよく判る。 「荷物も届けなきゃいけねぇしな」 「あ、ああ……じゃあ頼む」 確かに礼服を叔父から借りれる場合、何かしらの手段で受け渡しをしなければならない。梟一羽では無理だろうし、梟でも持ち運べる何か特殊な物に入れて――と言うのを態々する程のものでもない。 シリウスは戸惑いながらも手紙をフェイに差し出した。差し出された手紙を、フェイは奪うように嘴で咥えると、シリウスの目の前で炎と共に消えた。 一方――ゼーレと共に、買い物に出かけたは。 道中交わす会話も浮かばず、緊張した面持ちでゼーレに連れられていた。 「まあドレスって言っても、マグルのお店でもいいんだけど――出来れば何かしら加護のあるものがいいかと思ってね」 「加護……ですか」 「気づかれにくくするとか、特定の魔法を緩和させるとかね。ちゃんはそう言うの、その内自分でやりそうだよね」 「興味はあります」 「そう言うとこ、にそっくり」 血は繋がっていないが、似た兄弟だ、と言われると嬉しかった。 は変わり者だが、とても尊敬している。家族に迎えてくれた恩もある。何より本人が、血の繋がり等気に留めた様子もなく気にかけ可愛がってくれる。 「ちゃんは何色が好き?」 「え? ……気にした事もなかったです」 「ドレス、何色にするかは考えておいてね」 「え、ああ……判りました」 しかしいざ何色がいいのだろうと考えても、判らなかった。一先ず言える事は、苦手な色はピンクと言う事だ。自分に会う気がしない。 それ以外でさえあれば、黄色、オレンジ、赤、青、緑、黒……可もなく不可もなくと言った気がする。 「着いたよ」 与えられた問題に考え込んでいる内に、目的地の店に着いた。 顔を上げると、とても一人では入れないような荘厳な入口の店だった。よく考えていなかった為、突然立ちはだかったものに一気に緊張した。 だがゼーレはそんなに気づく様子なく、躊躇わずに店内へ入っていった。慌ててついていく。 「どのようなドレスをお求めで?」 「この子に合うものを」 「かしこまりました。では此方へ」 ゼーレは入口にあったソファに座って待つ態勢に入り、は促されるが儘に店の奥へ連れていかれる。 服を脱いで下着になるようにと言われ、言われるが儘に下着のみになると、胸回り、お腹周り、お尻周りのサイズを測られた。 「お好きな色はありますか?」 「えっと……出来れば明るすぎない色が」 好みの色を道中考えていた結果、寒色系がいいだろうと言う結論に至った。 何より、出席するパーティは純血主義の家柄の者達が集まるものだ。その者達がどう言う者達なのか、魔法界の常識に疎いにはまだ今一ピンとこないところがあるが、スリザリンに属する生徒達の殆どが出席するのだろう事は何となく判ってきていた。 だからスリザリン寮のカラーリングを考えると、緑か青が無難なのだろうと思う。スリザリン寮のイメージカラーには銀色もあるが、銀――白のドレスは出席者としてそぐわない。 そしてグリフィンドール寮のイメージカラーであるオレンジや赤色、金色は悪目立ちするに違いない。 「どのような用途……と言いますか、パーティに出られるご予定ですか?」 「えっと……知り合いの、知り合いの婚約パーティ、でしょうか。もしかしたらダンスパーティもあるかも知れないそうです」 「なるほど、となりますと目立たないものが良いと言う事ですね」 「はい。あ、出来る限り動きやすいものがいいです」 「かしこまりました」 知り合いの知り合い――つまり他人のパーティに出るので、目立たないに限る。それを察してくれた店員は、の希望に沿ったドレスを選び始める。 丈が長すぎず、ひらひらし過ぎず装飾も控えめで、そして軽い物。 の身長、体系に合っている物を選んできてくれて、その中から順に試着して、合う合わないを決めていった。 そして――最終的に、二着にまで絞りきれた。 「深緑と青紫、どちらにされますか?」 「えっと……」 どちらも好みの色だ。そして黒系統なので、目立つ事はないだろう。デザインで見ても、どちらも共に良さがある。 どちらにするかは、どちらも好みとは言えどちらの方がより好きか、と言う理由しか残されていない。 あるいは――直感。 「じゃあ……こっちの色で」 「かしこまりました」 そうしてが直感で選んだドレスを、店員は丁寧に箱に詰め、渡してくれた。 値段は想像以上の高価だったが、驚くべき事にダンブルドアから託されたと言うお金は余ってしまった。 ドレスの相場をは知らないが、ダンブルドアは何を考えながらお金をくれたのだろうと考えた。同時に、学校が始まった際には直接礼に行かなければと改めて思った。 ( 後書き ) 私自身、ドレスだのどうのと言う柄ではないので少し困りました(笑) 一応ゼーレさん、と言うかザイン家は、ブラック家に一目置かれている通り それなりの家系なので、こういうお店にも詳しい、と言う感じです。 |