08*
49日目の嘘とホント

 ゼーレには、姿現しで連れてこられた。
 まずシリウスを連れ、そして一度の屋敷に戻ると今度はを連れて。
 の屋敷にはが嫌って煙突飛行もなく、かと言ってドレスなので箒での移動は以ての外、マグルないし魔法界の交通機関でも目立ってしまう。
 その為、姿現しでの移動が適切なのだ。
 
 
「此処……何処、ですか?」

「マルフォイ家……?」


 目の前には、格式の高そうな屋敷が建っていた。
 の――ダンブルドアの屋敷もそれなりに大きいが、目の前の屋敷はその倍の広さはあるように見えた。玄関への入り口の門も大きく、その向こうの庭には噴水があり、大きな屋敷がそびえ立っている。玄関扉の細工も細かく丁寧にあしらわれたものだと言うのが遠めでも判る程だった。
 だが――異様な雰囲気を放っていた。
 屋敷が大き過ぎる故の威圧感ではない。周りが森に囲まれ鬱蒼として薄暗いと言うのも大きいが、禍々しい何かをは感じた。
 

ちゃん、大丈夫? 顔色悪そうだけど」

「気分……が悪い事はないんですが……何故か、近づいていいのかと言う気持ちに……なって」


 禍々しいと感じたものの、それが悪いものなのかどうかまでは判らなかった。寧ろ、禍々しいのだから悪いものの筈なのに、悪いと否定するのが違う――ような。
 怖いと言う気持ちはある。けれどそれは、身の危険を感じた時の恐怖ではない。
 知らないものに対し、勇気を持って知ろうと一歩を踏み出すような時の恐怖、緊張感に似ている。


「……そう言う反応を示すんだ」

「え?」

「ううん、何でもない。もし気持ち悪くなったら直ぐに言ってね。まあ言っちゃなんだけど、帰る口実にもなるしさ」

「判りました」


 の険しい表情を見たゼーレは、何か感想を漏らしたが、自分の意識に集中していたの耳には届かなかった。
 いつもの調子で気遣ってくれるゼーレに、は少しほっとして、一先ず言い表せぬ不安を押し込めた。
 
 
「で、此処が何処なのかって質問だけど、此処はザイン家が管理するとある屋敷。だからマルフォイ家じゃない」

「マルフォイ家でやるんじゃないんですか?」


 てっきり敵地に挑むのだと構えていたシリウスからすれば、やや肩透かしを食らった形になった。
 尤も、四面楚歌な中に入るので敵地に乗り込む事にはどうあれ変わりないが。


「マルフォイ家には流石にダンスパーティ用の大広間がないからね。純血主義者の大きい集まり――と言うより、人数の多い集まりでは、この屋敷を使う事があるんだ」


 マルフォイ家の次期当主当主である事の改めての発表と、婚約者の発表。
 全て事前に決められているので今更な話ではあるが、繋がりを重んじる旧家にとっては、予め決められていた事が予定通り決定事項となると確定させるのは一大イベントである。
 特に今回は、婚約者発表を兼ねている――男女に関係する話なので、通例として出席者はこの機会に相手を見つける、あるいは見せつける場として使うようになっている。
 つまり、ただ次期当主になる事の発表だけならばこの屋敷を使う必要はないのだが、婚約者発表も兼ねており人が集まるのでと言う訳である。


「俺……名家とか旧家とかに興味なかったんで知らないんですけど、ザイン家って、思ったより純血主義者の中じゃ大きい存在なんですね」

「うーん、大きいって言うと多分語弊があるかな。もし本当に大きい存在だったら、ルシウスは僕の顔色を見て付き合ってるよ」


 確かに、旧家は旧家と言うものに誇りを持っている関係上、古い家であれば古い家である程偉いと言う縦の関係を重視する。
 だがルシウスは変な奴、相手をするのが面倒臭いと言うような――とゼーレを一緒くたに捉えたような態度を取っていたし、シリウスの両親も一目を置いて引き下がる程度で、敵意は向けていた。


「発言力を持ってるのは確かなんだけど、僕らザイン家のする事が容認される程度の発言力しかないんだよね。だから、誰かの企てを阻止する、みたいな事は出来ない。僕がどう動いても、それを妨害される事はない――と言った感じかな」

「……目の上のたん瘤な感じがしますね」

「実際、そう捉えられてると思うねえ。ま、変人の集まりだから関わるなって感じだね」


 率直な感想をシリウスが告げれば、ゼーレは気にした様子もなくからからと可笑しそうに笑った。
 その余裕ある様は、シリウスの知る純血主義者の家の者達とは似て非なるものだった。自分の両親を含め、純血主義者達は何処か余裕がなく、侮辱されれば激昂しやすいような印象がある。
 その余裕差を見ると、ゼーレが――ザイン家が、異質な存在として扱われながらも存在が大きく、発言や行動を見て見ぬ振りされる理由が何となく判った。
 恐らくザイン家が――ゼーレ以外、どんな者達なのか知らないが――何か本気を出してやろうとすれば、敵う者はいないのだろう。それを判っているからこそ、ザイン家は反発を生むような強過ぎる行動や言動は取らず、己の行動を容認させる程度に収めている。
 ゼーレがスリザリン出身である理由に、漸くシリウスは納得した。


「だから君達を僕が連れてきた時点で、ある程度の抑止力はあるんだ。逆に、余計な勘繰りをされるリスクがあるけどね。何故僕が連れてきたのか、どう言う繋がりを持っている者なのか――ってね。その点で言うと、ちゃんの答にあっさり辿り着けられそうなヒントになっちゃって危ないんだけど」


 ただでさえシリウスの連れと言う事で目立つだろうところに、ゼーレが二人を連れてきたとなれば、異様な緊張感が漂うであろう事を、ゼーレは予想していた。
 シリウスのみであれば、ブラック家に生まれながらグリフィンドールへ組み分けされた面汚しと唾を吐かれたかも知れないし、その連れともなれば、出身は何処の家なのかと、開けっ広げに蔑まれる情報を問い詰められ、答の如何に拘らず見下されていた事だろう。
 だがゼーレが入る事で、それらの疑問を問わせたり嫌がらせをさせない空気を作り出せる。
 

「あ、そうだ、名前、偽名作っておかないとだったね」

「そっか、そうですね」


 どんなにアメリアに化粧をして別人のようにして貰っても、の名を名乗っては意味がない。
 シリウスとゼーレに呼ばれるだけであればの名で十分だが、シリウスのパートナーとして確実に名前を訊かれる。


「ファーストネームはその儘でいいと思うけど、ファミリーネームは変えないとね」

「と、突然言われても……」

「ごめんごめん。僕もうっかりしてた」


 シリウスが連れてきた相手――つまり、もしかすると許嫁かも知れない女性。当然周囲は興味を持つし、もしかすると男性からダンスの申し込みもされるかも知れない。
 そうなると流石に名乗らない訳にはいかなくなる訳で。名乗れない、等と拒絶を示すとその時点で言いがかりをつける隙を与えてしまう事にもなりかねない。


「うーん、じゃあ――ヴァニッシュ、でどうかな」

「ヴァニッシュ……です、か……?」

「しっくりこない?」


 何とはなしに――ゼーレは提案したようだったが。
 それは本当に、何とはなしの提案だったのか、と反射的に疑ってしまう程、にとって衝撃を与えるものだった。
 ――言い知れない、納得感があったが故に。
 しっくりこない、なんてものではない。自分の名前だと言う自覚と言うレベルにまでは至っていないが、耳馴染みがあって、名乗った事のあるような感覚があった。
 ゼーレは矢張り、何か知っているのでは――ないか。


・A・ヴァニッシュ……」

「そう」


 戸惑いながらも、口にして確かめる。
 口にすれば尚更、それは自分のものだと言う感覚が強くなった。しかし――何故か同時に、これではない、と否定する己もいた。
 それはの名に己が馴染んだ証拠なのか。
 いや、それとは違うと――本能は、言っている。
 これは恐らく、の名と――同じ。
 本名ではないが、名乗った事のある――名前。


「ゼーレさん……この、名前――」


 何故この名前が出てきたのか、それを問い詰めようとしたところで――少し離れた場所に、同じくドレスを着た魔法使いと魔女が現れた。
 残念ながらそれは話は終わりである事を示していた。
 
 
「他の人達も来ちゃったね、中に入ろう」


 結局問えない儘、二人はゼーレに促される儘屋敷に入っていくしかなかった。
 気持ちは当然もやもやしたが、薄暗い屋敷の敷居を跨いで、冷たい空気を肌で感じ、はその気持ちを封印して気を引き締めた。
 この先にどんな者達がいるのか、の知識が及ばない部分があるが、少なくとも、楽しめる場でないだろう事は魔法界の知識に疎いでも理解していた。
 屋敷に対しても何故か複雑な気持ちが浮かび上がって戸惑っていた中、更に戸惑う議題を突きつけられてしまったが――失った記憶を取り戻す機会だと言うのなら、逃げている場合でもない。
 記憶がない儘、もう四年――そろそろ向き合うのだと、決めたのだから。
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( 後書き )

いやーゼーレさん、相変わらず怪しいですね!(笑)
本編でも怪しさ筆頭のゼーレさん。
でも怪しすぎると兄貴さんからエルボーとか食らいそうな人です。
ゼーレさんの怪しさとか企みとか察しながら、友達として接するのが兄貴さん。
ゼーレさんはそう言う兄貴さんに、敵わないなあ、って思ってる。
実は二人の関係はそんな感じ。って事を後書きで語るもんじゃないですね!