09*
壊したジグソーパズルのように

 急かされるように屋敷へ入りダンスホールとなっている大広間へ入ると、既にかなりの人数の魔法使い、魔女が集まっていた。全員が全員、タキシードやドレスを身に纏っている。服装による影響もあるだろうが、誰もがお淑やかにジェントルに振る舞っていた。
 その前にゼーレがとシリウスを率いて現れると、先程までざわついていた空間が、水を打ったように静かになった。
 注目は浴びると思っていたが、入ってくるなりこのように出迎えられるとは思っておらず、内心シリウスとは緊張した。


「おっと、今日の主役じゃないからあんまり注目しないでねー」


 静まり返った空間を破ったのはゼーレだった。パン、と掌を叩いたゼーレの猫騙しに、我に返った者達はざわめきを取り戻し、三人に道を譲った。
 ゼーレは気にした素振りもなく、開けた道を進んでいき、とシリウスも慌ててそれに続いた。
 
 
「あれがブラック家の……」

「まさかこんな場に顔を出せる立場だと……」

「しかしあのパートナーは一体何処の……」


 開けた道を通りながら、そんな呟きが各所から聞こえた。
 歓迎される道理はなく、疎ましく見られるのは前もって判っていた事である。来たくて来た訳ではないのだから。
 白い目線の集まりを抜け、一先ず部屋の隅までやってくると二人は嘆息した。
 いつ魔法を仕掛けられるかと言う緊張感と、いつ嫌悪の声が罵倒に変わるのかと言う緊張感。二人の想像を遥かに超える空気だった。
 

「……ゼーレさん、これ……本当に大丈夫なんですか?」


 逃げ道や囲まれて狙われた場合の対策等何も事前に考える事なく来てしまった事を、シリウスは後悔していた。
 此処がどれ程の敵地か、深く考えていなかった自分を殴りたくなった。
 ただただ行きたくない、厭だと言う感情しか――頭になかった己を。
 己だけならまだしも、何の関係もないを、こんな危険な目に遭わせている己を。


「一応、僕がいれば一定の抑止力があるから大丈夫。勢いさえ生まなきゃね。陰険な人達の集まりだけど基本勇気がないから、誰かが口火を切らない限り手は出してこないよ」


 ゼーレが言うなら――そうなのだろうか。
 ゼーレの言動が信頼に値するものなのか、未だシリウスは受け入れかねている。だがあのが認め、の同行を許可していると言う理由を考えると、信頼していいのだろうと思う。
 改めて、変人でありながら――変人であり己を貫く人物だからこそ、には人を惹きつけ信頼させる力があるのだと実感した。
 
 
「……。怖い目に遭わせて……ごめん」

「気にしないで。逆に、シリウスをこんな場所に一人で向かわせなくてよかったって思ってるから」


 無関係のを危険な目に遭わせている――と言う気持ちから謝れば、は優しく笑いながらそう返した。
 化粧をして、ドレスアップもしているからと言うのもあるが、その笑みにシリウスは思わず見惚れた。それと同時に、初めてと会った時の事を思い出した。
 魔法界の常識を知らなかったが故に、ブラック家の名に反応しなかっただけではあるが――それでもあの時、普通に接してくれた事がとても嬉しかった。あの出会いがホグワーツへ通う最初になければ、恐らく今の自分はもっと腐ってしまっていただろうと思う。
 友達を危険な目に遭わせない為に、両親から提示された要求を呑むなんて行動も、取れなかっただろう。


「ああそうだ、ゼーレさん」

「何?」

「今日何かあった時、せめて対処出来るようにと、叔父が何処かで待機してくれているそうです」

「叔父さん?」


 何かあった時の対策にと――話忘れていた事をシリウスは話した。
 服を貸して欲しいとアルファードへ手紙を送ったところ、フェイが荷物と共にアルファードからの手紙を預かってきており、そこには、万一があった時用に少しは力になれるよう待機している、と書かれていた。


「君の叔父さんって言うと確か――」

「兄さん!」


 ゼーレが確認しようとしたところ、それを遮って声を出し、此方に近づいてきたのはレギュラスだった。
 振り返って声のした方を見れば、タキシード姿のレギュラスと、その傍には男性が控えていた。
 
 
「まさか兄さんが来るなんて」

「脅されたんだよ、あのババアに。参加しなけりゃジェームズ達を酷い目に遭わせるってな」

「……実際に、それをしそうなのが我が姉だな……」


 シリウスの話に、レギュラスの後ろに控えていた男性がやれやれと首を振った。
 言葉からして、今話していたシリウスの叔父だと判る。
 
 
「失礼。私はアルファード・ブラックだ。この二人の叔父に当たる」

「初めまして。僕はゼーレ・ザインです。今丁度、貴方の話をしていたところです」


 話を早々に切り上げ、シリウスの叔父――アルファードはゼーレとに自己紹介をした。
 それに倣ってゼーレも自己紹介をし、丁度いいタイミングで来てくれた事を告げる。万一があった時、どう動くつもりなのかゼーレは話の流れから尋ねようとしたが――アルファードの視線を見て、一旦留める事にした。
 何故かに視線を向け、言葉を失っている――アルファードを見て。
 
 
「えっと、お……私、は……えっと、ヴァニッシュ、です」


 慣れない口調と名前で思わずたどたどしくなってしまい恥ずかしくなっただったが、自己紹介を受けたアルファードに、それを気にする様子はなかった。
 それどころではないと言う様子で――を凝視していた。
 
 
「……つかぬ事を尋ねるが……君の父親の名は、、か?」

「え――」

「――すみません、アルファードさん」


 アルファードの口からよもやその名が出てくるとは思っておらず、は言葉を失った。
 だが、何故――と問うより早く、アルファードとの間に、割って入る形でゼーレが話を止めた。口元に人差し指を立て、それ以上は話さないようにと言う意図を込めてアルファードを見やった。
 何故それ以上話してはいけないのか、真意は判らないなりにゼーレが動作で示したい事を察し、アルファードは忘れてくれとに告げた。
 はそう言われてもと思ったが、突然会場が真っ暗になった為、話を続けようにも続けられなくなった。
 真っ暗になったと思えば、場は静まり返り、それを待っていたかのように一方向が照らし出された。
 ダンスホールの奥、舞台のような階段のあるその踊り場から現れたのは、今日の主役の二人――ルシウス・マルフォイとナルシッサ・ブラックだった。


「今日は我々の為にお集まり頂き、感謝します」


 階段の上からルシウス・マルフォイは広間全体を見渡しながら、大仰に謝辞を述べる。そして隣に立つナルシッサが、ドレスの両端を持って恭しく頭を下げる。
 既に夫婦のようなその二人に、広間は拍手で包まれた。は戸惑いがちに、シリウスは渋々拍手に混じる。此処で拍手をしなければ、炎上の火種を生んでしまうからだ。


「既にご承知頂いている方も多いかと思いますが、私、ルシウス・マルフォイは正式にマルフォイ家当主の座を継ぎ、そして彼女、ナルシッサ・ブラックを妻に迎えます。若輩者故、当主として至らぬ点もあるかと思いますが、名家の名に恥じぬよう我が主に敬虔に仕える事を此処に誓います」


 堂々たるルシウスの誓いに、先程よりも大きい拍手でホールは包まれた。
 そしてルシウスはナルシッサの手を優しく引いてエスコートしながら、階段を下りてきた。階段の下には、いつの間にそこに移動したのか、ゼーレが立っていた。
 二人は階段の一番下まで降りてくると、そこでゼーレと向き合う。


「サラザール・スリザリンの名の下に、ルシウス・マルフォイをマルフォイ家の当主と認め、ナルシッサ・ブラックとの婚姻を認める。二人に幸多からんことを」


 そう言葉を贈りながらゼーレは杖を振り、二人に加護の魔法か何かをかけた。三度、ホールが拍手で包まれる。
 しかし――にとってその拍手は、頭痛を揺さぶるものになった。


「……っ」

「――? 大丈夫か?」


 サラザール・スリザリンの名を聞いた途端、頭痛が走った。幸いその頭痛は一瞬で、ずきりとしただけだったけれど、拍手の振動が余韻を長引かせた。
 ぐわんと歪んだ視界の中で、何とか倒れまいと踏み留まる。の様子に気づいたシリウスは、の表情を窺うものの、ホール内の明かりが落ち暗いため、よく見えない。


「だい……じょうぶ……収まった、から」

「無理するなよ」

「うん……でも痛みは一瞬だったから……」


 サラザール・スリザリンの名は、初めて聞く訳でもない。ホグワーツの創始者の一人なのだから。
 ただ――その名に、言い知れぬ懐かしさと寂しさを、今更になって感じた。頭痛をきっかけに、その瞬間抱いた感情を認識出来たものの、困惑しかなかった。
 矢張り何か、ゼーレにはあるのではないかと、階段傍に立つゼーレを見たが、ゼーレは此方を見ていなかった。
 やがて、ホール内はゆっくりと暖色の明かりが灯り、徐々に元の明るさに戻っていった。
 そして何処からか、クラシカルな音楽が流れ始めた。
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( 後書き )

何か凄い変な切り方しました(苦笑)
凄く、凄く怪しいゼーレさん。まあ今に始まった事ではありませんが。
本当は此処で夢主を頭痛で倒れさせる事を考えたんですが、
始まって即行過ぎるなと思ってやめました(笑)