04*
海に地平線が、浮かぶ




 グレンタウンは――聞いた話通り、無くなっていた。
 殺風景、と言うには誤解を生む。これは――何だろう、火山が噴火して、マグマに呑み込まれてしまったのだろうか。
 正に町の名前通り、紅蓮に染まってしまった。
 けれどそんな綺麗な言葉で片付けられるような光景では、なかった筈だ。
 想像も――したくない。想像しただけで、怖くなる。どんな怖い話よりも現実は、恐ろしい。そしてこれが現実で、自然の恐ろしさ。
 そんな――マグマの流れた跡地と化したグレンタウンに、人陰を見付ける。
 後ろ姿で詳しくは判らないけれど、私より年上の男性。茶髪に、黒い服。
 何をしているのだろう。私と同じように、無くなったグレンタウンを見に来たのだろうか。そして、町と共に無くなってしまった――グレンジムを。
 じっとその男性の様子を見ていると、不意にその人は振り向いて此方に気付いた。思わずどきりとして固まってしまう。
 おろおろする私を見て、その人は矢庭に溜息なんてものを吐いた。一気に頬が赤に染まる。


「誰だお前」

「え、えと……ジョウトのワカバタウンから来た、です」

「へえ、ジョウトから遥々。って言うと――若しかして、話に聞いてたジョウトのチャンピオンか?」

「は、はいっ。一応これでも、チャンピオン、です」


 不躾な問い方だったものの、態度はしかりしていて、沈黙を与えられるより私は安心した。興味津々な視線はちょっと痛かったけど。
 自ら好んでチャンピオンだと公言しないのは、それが理由。
 へえ、って言われて向けられる視線に堪えられない。悪いものじゃないんだろうけど、何だか気まずくなる。
 ポケモン達はいつも頑張ってくれて、私は助けられてるんだけど、私自身には余り自信が無い。
 小心者なんだろう。控え目と言うよりも、そっちの方がしっくりくる。


「俺もチャンピオンだったぜ。つってもほんの少しの間だったけど……レッドの奴が……」

「え!」

「ああ、そういや名乗り忘れてたな。俺はグリーンだ。今はトキワジムでジムリーダーやってる」


 見付けた――あの人を知る、あの人の唯一のライバル。そしてワタルさんを破った数少ない、一人。
 ジムリーダーにはまだ一度も負けた事が無いけど、この人には――正直、勝てるか怪しい。この人だって、チャンピオンになった人なのだから。
 ブツブツと愚痴を零した通り、あとを追って来たあの人に負けてしまった、みたいだけど。
 でも、強いのに変わりはない。


「……生憎だが、今は勝負する気が起きねぇ。ジムに戻ったら無性にやりたくなるんだろうけどな」


 跡形も無く消えたグレンタウンを見て、グリーンさんは呟く。この風景よりも遠い――何処かを見透かして。
 何も無かったかのように静まり返っている、島。波の音が聞こえるだけで、私達の声も波間に呑み込まれて消える。


「バトルに勝った負けたって言っても、自然の震え一つで俺達は負けちまうんだ」


 生きている意味が――見えなくなる、瞬間。
 これでいいのか、自分は正しいのか、自分の生きる目的は――旅をする、続ける目的はと考えて悩んで迷っていても、一瞬で掻き消されてしまう、自然の恐ろしさ。
 自然はいつも穏やかでいつも傍にある存在だけど、いつ、牙を剥くか判らない。
 どんなに足掻いても、自然には、勝てない。


「……そうだ、お前、確かカントーのジムも回ってるんだったな」

「はい」

「此処にはグレンジム目的で来たんだろ。グレンジム自体は無くなっちまったが、ジムリーダーのカツラさんは無事だ。どうやらこの先の双子島にいるそうだぜ。暫くはそこで挑戦者待つんだってよ」


 ああ――良かった。じゃあ早速、七つ目のバッジを取りに双子島へ行こう。
 双子島には昔フリーザーと言う伝説の鳥ポケモンがいたそうだけど、今はどうなのだろう。カツラさんが双子島にいると言う事は、フリーザーはいないと言う事なのだろうか。
 伝説のポケモンは、人に近付くのを嫌うから。


「それじゃあ俺は俺のジムに戻るとするか。バイビー」

「えっ、あ! 待って――」


 端的に、一方的に別れを告げると、グリーンさんは消えた。多分、エスパーポケモンのテレポートだ。止めようとして上げた手が虚空を掻く。私の制止も届かなかった。
 何も無くなったグレンタウンに一人いても始まらないので、仕方なく双子島へ行く事にした。
 ヌオーの波乗りで双子島へ到着する。
 双子島は形通り二つの島が寄り添っていた。けれどその内一つにしか入口らしき場所は無くて、恐らく此方も火山の噴火の影響を受けたのだと思われる。
 中も――本当に何も、無くなっていた。
 ただの小さな洞窟。その中にお爺さんが一人。多分、グレンジムのジムリーダー、カツラさんと思われる。


「おお、おお、双子島に移転して早速の挑戦者か。わしがグレンジムジムリーダー、カツラじゃ。グレンタウンは無くなってしもうたが、わしが生きておる内はジムを続ける! その内グレンタウンもまた復興するだろうて」


 気さくなお爺さんのカツラさんは、炎タイプの使い手だった。
 とうとう――と言う気持ちに、なる。
 ジョウトのジムには炎タイプのジムが無かったから、強いと公然的に認められている炎タイプの使い手と戦うのは、これが初めて。


「バクフーン……行くわよ」

「バぁク!」


 炎対炎――何処まで私の炎は、バクフーンは行けるのか。
 結果――何とか、勝てた。バクフーンの負けず嫌いが最後の最後で爆発して、火事場の馬鹿力を発揮したのだ。
 バクフーンの強さが、はっきりと証明された。涙が出てしまいそうだったけど、そこは堪えた。泣くにはまだ早い。
 最後のジムが残っていて、そして更にその先には――あの人が、いるのだから。


「見応えのある炎だった! 久し振りにわしまで燃えた。これ程燃えたのはレッドのリザードンと戦った時以来じゃな」

「! レッドさん、ですかっ」


 あの人はカントーのジムを巡り、私はあの人の軌跡を追っているのだから、あの人が話題に上るのは不思議でも何でもないのに――つい、過剰になって反応してしまう。
 あの人の名前と、三年前と言う数字と、赤い帽子と言う単語に。


「レッドを知っておるのか?」

「いえ……その……捜してるんです。色んな所で話を聞くから」

「成る程なあ。無理も無いな、あの男の話を聞くのは。似ておるからのう、ちゃんとレッドは。戦い方やポケモンへの信頼。戦っていて、レッドを彷彿とさせる」


 ワタルさんにも言われた事。そんなに私は、似ているんだろうか。あの人に。
 ただ我武者羅に突っ走って、一人では無理だからポケモン達を信頼して。
 私は本当に、あの人に近づけているんだろうか。
 誰から似ていると言われても、全く判らない。実感が湧かない。それはきっと、まだあの人本人と会っていないから。戦っていないから。
 あの人と戦ったからこそ、皆はあの人を判っている。単に、知っているだけじゃなくて。


「アイツはなあ、奇妙な奴じゃったよ。ジムにはわしお手製のクイズマシーンがあってな。それに答えて不正解じゃったらその部屋のトレーナーと戦うと言う仕組みで。なのにあの男、クイズマシーンに正解したにも拘らずトレーナー達にもきちきち挑んだんじゃ。普通ならば避けて通ると言うのに!」


 ジムリーダーの中には、ジムに色々な仕掛けを施したりする人もいるけれど、クイズマシーンとは……作る側も受ける側にとっても面倒臭い仕掛けだ。
 まあカツラさんが楽しいと言うのならそれでいい、のだろうけど。
 不謹慎だが、ジムが無くなってよかったかも知れない。知識を問うものか謎々かは不明なものの、謎々だったら私は先に進めていたかどうか。


「しかも何故そんな事をしたのかと訊くと、これくらい連戦連勝しておかないと強くなれないからだと言う! 全く生意気な癖して面白い奴じゃったよ」


 あの人はいつも――高みを目指していたのだろう。クイズに正解して戦いを避けるなんて下らないと、真っ直ぐ正面だけを見て、戦う事だけを考えていた。
 だから今も――お母さんの待つ家に、帰らない。
 今も何処かで、何かと戦っている。
 あの人は何処にいるのかご存知ですかとカツラさんに尋ねてみたものの、矢張りカツラさんもそれは知らなかった。
 また戦いたいのう――果たして私に向けられた言葉だったのか、行方知れぬあの人に対するものだったのか、判らない名残を貰って、私は双子島をあとにした。
 いよいよ次は――トキワジム。グリーンさんとの、バトル。
 絶対に越えるんだ。じゃないと私は、あの人に会えない。あの人と会う資格が、私の中で消えてしまう。










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( 後書き )

やっとグリーンさん! やっとグリーンさん! 長かった。
更に言うならレッドさんへの道のりももうすぐ……! と、思いたい。
少し短いかも知れませんが次回長くなる予定ですので。
何せグリーンさんとの対戦だからね! 力入れて書きます。
グリーンさんが主人公の前を去る時「バイビー」をゲームで言ったかは怪しいです。
言ってない気がするんですが敢えて言わせました。だってグリーンさんだもの(笑)
グリーンさんと言えばバイビーだよなと思いましてね。
そういえば今更ですがタイトルは動詞で揃えてます。
これがまた難しい! 名詞で揃えるとリズムとかが組み易いんですが。
でも拘り抜いて見せる! 旅は終わりませんから!