06*
とける雪を水が偲ぶ




 聞いた話、トキワジムのグリーンさんの前任のジムリーダーは、あのロケット団のボスだったらしい。
 ポケモンリーグが認めた、その町の自治をも任されるジムリーダーがと、その情報を耳にした当時は驚いた。カントーでの事件なのに、ジョウトでも騒がれたくらいだから。
 三年前と言うと七歳くらいだった私だが、ポケモンについては耳聡かった。
 その上、ポケモントレーナーの憧れである、ジムリーダーに関する話題。早くトレーナーになりたかった私にとっても、あの事件は衝撃的だった。
 そして同時に、世の中に対する恐怖が芽生えた。
 ポケモンを悪い事に使うなんて、まだ世の中の汚さを知らなかった幼い私には、到底信じられなかった。
 そんな人がいるなんてと、幼いながらに哀しく思った。
 しかしだからこそ――そんな事はもうこれ以上させないと、心に誓った。それは今も続く、同じ気持ちだ。
 その気持ちがあったから、私はロケット団の残党との勝負を受けた。ヤドンがいなくなって、ヒワダタウンの人達が哀しんでいたから。
 そんな私の旅の始めに出会った、謎の少年。年は私と同じくらいで、赤髪に長髪。彼はと名乗った。
 ウツギ博士に頼まれたお遣いの帰り、と遭遇した。
 彼がいきなりバトルを仕掛けてくる前に、ポケギアへウツギ博士から連絡が入った。
 私が貰ったヒノアラシ以外の、残っていた二匹のポケモンの内一匹が何者かに――盗まれてしまったと。
 そしてがバトルで出してきたのは、ワニノコだった。


「――何で」

「…………」

「何で貴方がワニノコを持っているの? ウツギ博士の所にいた子じゃない!」

「……知らないな」


 私が問い詰めても、は何も答えなかった。
 ただ無表情にワニノコへバトルの指令を出し、結果私にバトルに負けてしまうと、もっと酷い事を言った。


「使えない」

「なっ――なんて酷い事をッ。それが戦ったポケモンに対する言葉なの!」

「お前には関係ない」


 使えないだなんて――頑張ってくれたポケモンに、失礼だ。ポケモンは戦う道具じゃない。仲間なんだ。
 そう怒っても、は素知らぬ顔だった。あとは身を翻して、何処かへ行ってしまった。
 その後始まった私の旅の道中で、彼とはしばしば遭遇した。マダツボミの塔や、私がロケット団と初めて戦ったヒワダタウン。
 ヤドンの井戸の事件も無事解決し、ヒワダジムのジムリーダーであるツクシさんからもインセクトバッジを受け取り、次の町を目指す為にウバメの森へ入ろうとした手前だった。


「おい」

「あっ――貴方!」

「ヤドンの井戸を荒らしていたロケット団を倒したのはお前か」

「そ、そうよ。それがどうしたのよ」


 開口一番に、そんな事を言われた。予期せぬ登場にも驚かされた上、意図の汲めない科白に戸惑う。
 鋭い目付きがより一層鋭利になって、私を射竦める。


「これ以上アイツらに関わるな」

「な――何でよ! 危険だからって言いたいの?」

「違う。雑魚が集まって鬱陶しいからだ」


 それだけを言うと、またあの時みたいに私の脇を通り過ぎて言った。
 彼のあとを追って、アリゲイツが足元を通り過ぎる。どうやらに懐いているようだった。初めて戦った時、あんな事を言われたのに。
 結局私はの忠告を無視したのだけれど、ロケット団の相手をしようと思ったのには、彼の存在も理由にあったかも知れない。
 ロケット団に関わると彼に会えるかも知れないと――思ったから。実際、ロケット団のいる所に彼は現れた。
 には謎が多過ぎて、ただ判る事は彼の名前と、年齢は私と同じくらいだろうと言う程度のみ。
 でも私の関心を擡げさせるには十分な条件だった。
 同年代だからこそ、のやけに荒んだ心が気になった。
 彼の目を見ていると、無意識に私の顔も険しくなってしまう。私は彼に、もっと明るい態度で接したいと思っているのに。
 あとは他に、のポケモンと戦ってみて――思うところが沢山あった。
 はポケモンを戦う道具としか見ていない。でもそれはロケット団の人達と、同じようでいて違うから、余計に判らなくなる。頭がこんがらがって煙を上げる。
 はポケモンに冷たく接するけれど、ポケモン達はそれでも彼について行こうとしている。彼の期待に、副おうとしている。
 ウツギ博士のポケモンを盗んだのは悪い事だけど、だからと言って普段、常日頃から悪事を働いている訳でもない。
 彼はただ我武者羅に何かを――追い求めている。きっと多分、ずっと前から、長い間。
 そして今何かに焦りを感じているのでは――ないか。
 ポケモン達は今迄ずっと彼と一緒にいて、彼についてきたからこそ、彼がどんな人間で何をしようとしているのか知っている。知っていて判っていて理解しているから、ついていく。
 そして私も、旅の色々な所で彼と出会って会話して、ポケモンバトルをして、少しだけなんだろうけど――彼の事が、判って来た気がする。
 旅先で会った――いかりの湖でのギャラドスの大量発生の事件の時、ワタルさんと戦って、は何かを教えられた。
 そのあとの彼の変化は顕著だった。
 ポケモンを信頼した上で、ポケモンの持つ能力を引き出し、生かそうとする戦略。何度目かに会った彼は、そんな戦い方をしてきた。
 その変化が嬉しくて――私の中での彼に対する気持ちも、徐々に変わっていった。
 戦うのが、とても楽しい。
 グリーンさんやワタルさんや、他の強い人達とはバトルの感覚が違う。と戦っていると、素の私が出てくる。
 はきっと、私の事なんて殆ど知らないし興味もないのだろう。私も必要以上の詮索はやめた。
 ただポケモンバトルにおける実力を、互いに知っていればいい。
 私はの超えるべき存在として、彼の中にあればいい。
 多分私はポケモン達を傷つけない為にと言う理由以外にも、の為にも、誰にも負けてはいけないと、思っている。
 だって私が以外の誰かに負けてしまったら、の中から私が消えてしまう。
 そうなる事が、とても恐ろしく思える。でも何故かは、判らない。
 ただ負けそうになった時――不意に、彼の陰が脳裏にちらつく。グリーンさんと戦っていた時も、そうだった。
 ああ、今は何処にいるのだろう。私以外の誰かと、バトルをしているのだろうか。
 そして今、カントーにいるのか、それともジョウトにいるのか。
 元気に、しているかしら。
 。私はあの人のライバルのグリーンさんに、勝ったわ。ワタルさんを倒した、数少ない一人に。
 私は貴方の超えるべき存在として、まだ誰にも負けずにいる。貴方はいつ、私を超えるのかしら。その時私は、どんな気持ちになるのかしら。
 私に勝った時、貴方はどんな気持ちになるのかしら。










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( 後書き )

短いですがの話。回想な為会話も入れにくい(苦)
の科白は生憎メモっていなかったので(悔)
でもお月見山で会った時とかチャンピオンロードで会った時とか、
「コイツら(ポケモン)もついてきてくれるしな」と言う科白にはこの上なくときめいた。
全体的にレッド←の予定だったんですが、
→←の片想い同士でも萌える。レッドさんは憧れでいいか!
はどうしてもポケスペのイメージになってしまいます。まじめはいいことよ!
あと、どうしてもとシンジが脳裏で被る。
の方が溺愛してますけど、「使えないな」を言わせるのに抵抗感を覚えてしまった。
いや、確かにそんな事を最初言ってた筈なんですが、くそう、シンジめ……!(嫌いではない)
の関係は最後辺りにまた掘り下げる予定です。
あとタイトルは雪=銀世界=シルバー、水=水晶=クリスです。