やっと会えた。ずっと追い続けてきた人。私の勝手な憧れ。でも憧れとは得てして、自分勝手なものだ。 目の前で静かにあの人――レッドさんは佇む。名乗った私に対して、何の反応も示さない。ただ無言で、此方をじっと見ている。リザードンも同じように。 けれど何故か、警戒の色はどちらにもない。何色をも映さない瞳。ただそこにあるのは無色で、燃える赤色も――見えない。 自然、私の躯は緊張で強張る。握っているモンスターボールへも力が加わる。勝負してくれるのか、してくれないのか。まだその返事も貰っていないのに――私だけが、臨戦態勢を取っている。 どう――なんだろう。勝負をしてくれるのか、してくれないのか。 口を開く素振りもない。大きな声で、雑音もない中で言った。聞こえていないとは、思えないんだけど。 不安に思っていると、不意にレッドさんが動いた。右手を無造作に振った。私に対するサインでは――ない。視線は、リザードンに注がれていた。 レッドさんの指示を仰ぐ為振り向いていたリザードンは、レッドさんの出したサインを見ると、身を翻して彼の許へ戻った。下がれと言う合図だったらしい。 リザードンが後ろに控えたのを確認すると、ベルトのモンスターボールホルダーからモンスターボールを一つ、レッドさんは外した。 真ん中のスイッチを押すと、モンスターボールが掌いっぱいの大きさになる。 これは――もしかして。 胸が高鳴る。そしてレッドさんが私の目の前に出したのは、エーフィだった。イーブイの進化系の一つだ。ブラッキーと対をなすポケモン。 なんて――因果なんだろう。私のイーブイはブラッキーで、あの人のイーブイはエーフィに進化しただなんて。 私は――誰で、行こうか。否、決まりきっている。正攻法で攻めても、この人に勝てるかは怪しいのだ。 「ブラッキー、行くわよ!」 「……あくか……エーフィ、スピードスター」 「……!」 エーフィは素早さに長けている。先手を一発で取られる。しかも、私がブラッキーに攻撃命令を出すよりも素早い。 速い――判断だ。尚且つ、的確だ。ブラッキーに容赦なくスピードスターが当たる。スピードスターは必ずヒットだ。避けられない。 それなら――それで。 「ブラッキー、騙し討ちよっ」 倒れるのを踏ん張って、ブラッキーは私の指示通り、騙し討ちの攻撃を決める。効果は抜群だ。 でも――倒れない。体力も攻撃力も、違う。 ブラッキーはたった一撃で瀕死手前まで追い込まれたのに、効果抜群のあくタイプも技を食らって尚、エーフィは凛々しく立っている。 強さが――違う。桁外れに。 絶望的だ。矢張り――私が勝てるような人では、なかった。 でも――こんなところで諦めたらいけない。仮令絶望的だとしても、判っていても、まだバトルは始まったばかりだ。 これからどう転ぶか、どう逆転するか、それを考える。 ポケモン達が傷付かないような戦いはもう出来ない。全滅すると思って、勝負に挑む。でもそれは、諦めじゃないって事を判っていなければいけない。 目標としていた勝利も、もういらない。気付いたから。勝ち負けなんて、このバトルには意味がない事に、必要でない事に――気付いた。 こんな人に勝てたら、それこそ奇跡だ。もしくは、何らかの間違いだ。今の私にそんな実力はない。力不足は丸見えだ。 けれどこのバトルは――戦う事にこそ、意味がある。戦って、その意味を見つけ出す。 「ブラッキー、今度こそ先手を取って騙し討ちよ!」 「影分身」 「騙し討ちは先制攻撃の技ではありませんよ。必ず――当たる技です」 影分身をしたところで、ブラッキーの攻撃は必ず当たる。急所に当たった! エーフィが体勢を崩す。けれどまだ――倒れない。しっかりと、地に足をついて、屈強な姿勢を崩さない。 あと一撃当たれば、瀕死してしまう筈なのに。瀕死にはまだ程遠いのか、それとも単なる虚勢か。どうなのだろう。此方は――確実に、瀕死状態に近いのに。ブラッキーは息の荒さを隠せていない。 「これで決めますっ、ブラッキー、でんこうせっか!」 「……エーフィ、でんこうせっか」 あちらも――同じ技。あと一撃と言うのを見越していたか。この勝負――素早い方が、勝つ。 先に攻撃を仕掛けたのは、ブラッキーだった。素早さで――勝ったか。しかし、素早さの問題だけで決着の着くバトルではなかった。 ブラッキーは確かに攻撃を先に繰り出した。けれどエーフィは、攻撃と同時に消えてしまった。 まさか――影分身? これを見越していたのだろうか、あの人は。 私とブラッキーが呆然としている隙を突いて、エーフィの攻撃が当たった。ブラッキーは一声鳴いて、その場に力なく倒れてしまった。 何――それ。 悔しい思いの中、ブラッキーをモンスターボールへ戻す。レッドさんは此方を無言で、無表情で窺っている。 「二番手は――ヌオーです」 素早さでは相当劣るものの、一撃くらい耐えてくれる筈だ。 エーフィはフーディン程でないにしろ、打撃攻撃に弱い。一撃決まれば、今度こそ。 「サイコキネシス」 「冷凍パンチ!」 先に――ヌオーの攻撃が決まった。せんせいの爪の効果が、運良く現れたらしい。エーフィはサイコキネシスを発動させるより先に、地面に倒れた。 やっと―― 一体。 いけるかどうかは、怪しい。勝算は一向に見えない。 「――カビゴン……のしかかり」 「ヌオー、地震よっ」 草タイプを出されたらと警戒したが、レッドさんが次に出したのは大食いポケモンのカビゴンだった。 HPの高さでは今のところ、右に出るポケモンはいない。尚且つ攻撃力もあり、得意な技として眠るの技はきつい。どう――攻略しようか。 ヌオーは格闘技を覚えていない。と言うか、私のパーティに格闘技を覚えているポケモンはいない。 これはもう――強い攻撃技でひたすら攻めるしかない。 ヌオーの地震が先に決まる。けれど当然それで倒れるカビゴンではない。怯まず攻撃を繰り出してくる。ヌオーの素早さでは、避けられない。 まもとに、喰らう。耐えられたものの――あと一撃喰らえば、終わる。 「ヌオー、もう一度地震よ!」 「――カビゴン、眠る」 「……っ」 流石に二回連続で地震攻撃はきつかったらしく、得意の眠るでカビゴンは体力を全回復する。 起きる間に――もう一度、地震攻撃を繰り返せば。 「カビゴンが倒れるまで地震よっ」 「その前に、倒す」 「――え」 ヌオーの地震が決まって――カビゴンが、起き上がった。どうして。最低でも三ターンくらいは、眠っている筈なのに。 まさか――はっかの実を、持たせていた? 「カビゴン、メガトンパンチ」 直撃だ――その儘ヌオーは、地面に伏してしまう。交代だ。出来れば対ピカチュウに残して起きたかったが――甘い考えだった。 奥歯を噛み締めて、前を向く。地震攻撃を喰らったのだ。幾らカビゴンと言えど、HPの三分の一は削れている筈。 あの子を出すか――いや、まだだ。あの子は、切り札。あの子の力を借りずして、勝ちたい。仮令そうしても、絶望的だとしても。 「デンリュウ、お願い。十万ボルト!」 「……眠る……いや……のしかかりだ」 何故――眠るのを、やめたのか。理由を推測する暇もなく、攻防は繰り広げられる。 デンリュウの十万ボルトがカビゴンに直撃する。カビゴンは――動かなかった。瀕死になった――のではない。顔が歪んでいる。麻痺――したのか。 ――今がチャンスだ。 「デンリュウ、もう一度十万ボルト!」 レッドさんは――指示を、出さなかった。そこでカビゴンが倒れると、判っていたから。 瀕死になったカビゴンを、無言でモンスターボールへ戻す。 「――カメックス」 「え……相性が、悪いのに……?」 カメックスは言うまでもなく、水タイプだ。そして電気タイプのデンリュウとは相性が悪い。 レッドさんの手持ちが六体だとして、まだ四体残っている筈なのに――何故よりにもよって、相性の悪いタイプを出してくるのか。 何か意図があるのか――それとも、相性の有無など関係ないと、言う意味か。 まあレッドさんの強さから考えて、相性の攻撃で容易く負ける訳がない。敢えてデンリュウ相手にカメックスを出したのには、勝つ自信がはっきりとあるからだ。 多分――私がカスミさんと戦った時に、敢えてバクフーンで挑んだ理由とは、違う。 私はあの時、バクフーンの負けん気――弱点を攻められただけで負けたくないと言う気持ちを汲み、任せた。 でもきっとレッドさんの場合――純粋に、勝つ自信があるのだ。私の、勝てるかどうか怪しい実験に近いバトルとは、似ても似つかない。 「デンリュウ、十万ボルト……!」 「ロケット頭突き」 三回続けて十万ボルトなんて、ワンパターンで芸がない。それは判っている。でもデンリュウの覚えている技で、一番強力なのだ。小技を出して攻めている余裕はない。 デンリュウの十万ボルトがカメックスに炸裂する。けれど矢張り、倒れない。ロケット頭突きの体勢に入る。首を甲羅に引っ込めて、次のターンに攻撃を繰り出す。 私はその間に――もう一度十万ボルトを浴びせて、先に倒す! 「デンリュウ、もう一度十万ボルトっ」 また――カメックスに、十万ボルトが直撃する。二回も当たったのに――カメックスは、倒れなかった。 その強さに唖然とする間もなく、デンリュウにロケット頭突きが当たった。デンリュウが、よろける。 どちらも、あと一撃で――倒れる。けれど素早さは此方が勝っている。 「デンリュウ、雷パンチ!」 本当は十万ボルトと行きたかったのだが――いい加減、デンリュウの持っている電気もなくなってきている筈だ。 多分、十万ボルトと言ってもいつもの威力は出せなかっただろう。 「ガメ……ッ」 「なっ、耐えた……! そんな」 「カメックス、ハイドロポンプ」 どんな技を喰らっても、あと一撃で倒れるデンリュウに、水タイプ最強の技を繰り出すなんて。 容赦がないのは、判る。でも――やり過ぎだ。酷い。 倒れるデンリュウの姿が、私の目にはスローモーションのようにゆっくりと映った。思わず、目を頑なに瞑ってしまった。 目を――背けた。見ていなければ、ならないのに。私は一瞬でも、逃げてしまった。現実から、自身の弱さから、目を背け瞑り逃げた。 微かに震えている躯を無視して、動かなくなったデンリュウをモンスターボールへ戻した。考えもせず、残っている誰かを選ぶ。 躯が震えて肩も震えて、指も震えている。恐怖によるものかは――知らない。ただひたすらに、原因も判らなぬ震えが全身を襲っている。涙さえも――出てしまいそうだ。 モンスターボールから出てきたのは、エアームドだった。エアームドなら、水もノーマル攻撃も効果は今一つ。 今度こそ、カメックスを――倒さなければ。 「エアームド、きりさく攻撃っ」 エアームドの得意技は鋼の翼だけど、水タイプには効果は今一つ。カメックスの防御力は想像出来ないから、あと一撃で絶対に倒れる筈だと思っても――本当にそうなのかは、判らない。 今迄の経験上、ポケモンがあとどれくらい耐えられるかは、状態を一目見れば判る自信があった。なのに――このカメックス、いや、レッドさんのポケモンには私の目が通用しない。慢心は、捨てる。 けれど今度こそ、カメックスは地に伏した。やはり限界間近だったらしい。 さあ次は――何を、出してくるのか。 レッドさんはカメックスをモンスターボールにも押し、次のポケモンを出した。 出したのは――フシギバナ、だった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 本当は別けたらバトルの勢いが半減されちゃうので、一本にしたかったんですが、 余りに長すぎたので泣く泣く別けました。 金銀でエアームドはお気に入りです。ヨーギラスラブですが、 シロガネ山まで行った事ないので、金銀のグラフィックは見た事なかったりします(苦笑) |