09*
水平線が闇に翳る




 カメックスが倒れ、私のエアームドの次の相手としてレッドさんが出してきたのは――フシギバナ、だった。
 ――どうして。


「フシギバナ、にほんばれ」

「エアームド、空を飛ぶ!」


 フシギバナは草と毒タイプ。毒タイプは鋼タイプには効果がないし、草タイプも鋼には今一つの効果。一方こっちは飛行だから、草タイプには効果抜群。
 これはもう――レッドさんが敢えて選んでいるとしか、思えない。多分、相性を突かれても負けない強さを、求めているからだろう。そんな戦法を取る気持ちは、判る。その自信も。
 でも――そんなの。
 そんなの、ポケモン達の気持ちがない。幾ら強くても、堅くても、倒れなくても、ポケモン達は私達の代わりに戦って傷ついているのに。
 ポケモントレーナーとして一番目指すべきなのは、誰も敵わない強さじゃなくて――いかにポケモン達を傷つけずに戦うか、じゃないの? 私はずっと、そう思って目指してきた。
 この人はこんなに強いのに、ポケモン達の心が見えない。いえ――きっと、見えなくなったのね。


「それが……それが貴方の目指してきた強さですか、レッドさん!」


 気付けば叫んでいた。精一杯、何かを伝えたくて。伝わって欲しくて。遠い遠い所にいるあの人にも、聞こえるように。私の心が届くように。
 するとレッドさんは、僅かに顔を顰めた。けれど一瞬で、無色に戻る。


「貴方に勝てない私が言える事じゃ、ないし……勝負を挑んだのも私からで、こんな事、言う権利もないですけど! 貴方は、自分のポケモン達が傷ついて倒れても……何も思わないんですか? 貴方には、絶対的な強さがあるのに! ポケモン達を傷つけずに戦って勝つ方法を、知ってるのに!」


 私の目指してきたものとも、思っていたものとも違う。他人に理想を語られても困るのは判ってる。
 けど、理想像以前に、レッドさんには私には出来ない事が出来る。それは、出来る筈なんて甘いものじゃない。戦って判ったのは、レッドさんの強さ。全てを可能にするような、絶対。


「……勝てない? 何でそう決める。勝負はまだ、着いていない」


 徐に口を開いたレッドさんに、私は思わず目を見張った。私を見る目は赤く、無色は映さない。
 意志を灯した赤い瞳。
 ぞくりと、鳥肌が立つ。でも――恐怖とは、違う。これは、好奇心。ざわざわと風が唸り、心臓が早鐘を打つ。気持ちは静まらなくて、楽しさが倍層したかのように感じる。
 勝てないと決め付けるのは、弱い証拠。やりもしないで投げ出すのは、後ろばかり見てる証拠。
 やってみなくちゃ判らない。やらなきゃよかったなんて後悔は、絶対にしたくない。


「……俺も、全力でいく。容赦はしない」

「元より、その覚悟です!」


 容赦――してくれているとは、知っていた。でなければあの時カビゴンは眠るを使っていただろうし、ポケモン同士の相性を考えて戦っていれば、既に私は負けている。
 レッドさんは、自分達の強さを試しながら、私の強さも測っていた。
 私は相性を無視した戦いでも、この様だ。全力を出されれば、どうなるか。
 ――そんなの、考えるまでもない。


「……フシギバナ、とっしん」

「エアームド、その儘空を飛ぶ攻撃っ」


 フシギバナの方が素早さは高かった。空を飛んでいるエアームドには当たらない。そして、エアームドの攻撃が当たる。効果は抜群。
 フシギバナでは、エアームドには勝てない。
 草タイプと毒タイプは元より、鋼に効果のある技は格闘に地面に炎。けれど地面は、エアームドのもう一つのタイプが飛行だから、効果はない。格闘も飛行だから、効果は普通になってしまう。飛行タイプから見ると、岩と電気に弱いけれど――生憎フシギバナは、そのどちらも覚えられない。鋼に有効な、炎タイプの技も同様に。
 流石のレッドさんも、これは打つ手なしだろう。色の灯った表情には、僅かな思案顔が映っている。
 とは言え――レッドさんの残りの手持ちは、最初に見たリザードンと、グリーンさんがぼやいていたピカチュウがまだ残っている筈。全体的に見て、勝率は見えない。


「フシギバナ、すてみタックル」

「エアームド、きりさく!」


 フシギバナのすてみタックルを受けるが、鋼の躯は伊達じゃない。エアームドの攻撃が即座に決まる。フシギバナは――倒れた。
 何か、呆気なさを感じた。でも、そんなのに構っている場合ではない。倒れたのが何かの策とも思えなかった。
 レッドさんも、黙ってフシギバナをモンスターボールへ戻した。
 次に出てくるのは――きっと。


「リザードン、行け」

「きりさくよ、エアームドっ」

「火炎放射」


 鋼の躯は頑丈な代わりに、スピードに欠ける。リザードンの火炎放射を、まともに喰らう。そして―― 一撃で、倒れた。
 効果抜群な上、フシギバナのにほんばれの効果があったからだ。グリーンさんと、同じ戦法。
 これを見越して、レッドさんはフシギバナを先に出したのだろう。草タイプ最強の技、ソーラービームをブランクなしに放つ為かと思ったけれど、たとえソーラービームを連発しても、エアームドには殆ど効かなかったから、やらなかったのだろう。
 私の手持ちで残っているのは――あと、バクフーンとあの子だけだ。リザードンとバクフーンの一騎打ち……と行きたいところだけど……相手の手持ちはリザードンとピカチュウ。
 これは――やりようによっては、もしかしたら勝てるかも知れない!


「ごめんね、バクフーン。もっと余裕があったら、貴方の気持ちに応えて、リザードンと戦わせてあげるんだけど……此処までこれた以上、可能性があるなら、勝ちに行くわ。私やっぱり、レッドさんに勝ちたいの。だから次は――貴方の出番よ、カイリュー!」


 ワタルさんとの勝負でさえ、出さずに終わった私の切り札。チャンピオンのワタルさんが使うだけあって、ドラゴンタイプの強さは半端ない。
 このカイリューは、フスベシティの長老さんから貰ったミニリュウだ。素早さなら、誰にも負けない。この子は普通なら覚えない、しんそくの技が使える。


「カイリュー、滝登り!」

「リザードン、きりさく」


 カイリューの滝登りが当たったあと、リザードンのきりさく攻撃が当たる。しかも、急所に当たった。きりさく攻撃はノーマルタイプだから、ドラゴンタイプのカイリューに効果は普通。
 レッドさんの手持ちに、氷タイプの技を覚えるポケモンはいない。カイリューは飛行とドラゴンタイプだから、電気タイプも結果的には普通の効果になってしまう。
 これは――勝てる。
 確実に勝つ為に此処は、能力を上げておこう。


「カイリュー、竜の舞よ」

「火炎放射」


 これで、攻撃力と素早さが上がる。
 そしてリザードンの火炎放射がカイリューを苦しめる。にほんばれの効果が未だに続いている上に、リザードンのタイプ一致で効果はそれなりに――。


「クぅ……!」

「えっ、どうしたの、カイリュー!」


 カイリューが、苦しそうに鳴いた。
 まさか――火傷?
 これは……やばい。あわよくばピカチュウの相手もと思っていたけれど、下手をしたら此処で共倒れもありうる。しかもリザードンに疲弊の色は見えないから、滝登りをもう一度喰らっても、倒れそうにない。
 明らかに――これは、私の戦略ミス。
 でもこのリザードンさえ倒せば、残るはピカチュウのみ。ピカチュウならきっと、バクフーンで勝てる。


「カイリュー、滝登りっ」

「……きりさく」


 滝登りの技は二割の確率で相手を怯ませる特性があるけれど――怯まない――か。多分、そこらのポケモンとは精神力が違うんだ。レッドさんと同じ色をした赤い目が、気迫を物語っている。
 カイリューの先制が決まり、リザードンのきりさくがまた急所に当たる。なんて、運の強い。
 けれど流石に二回の滝登りは辛かったようで、とうとうリザードンは肩膝をついた。竜の舞で攻撃力を上げた分、最初より体力を減らせた筈だ。
 とは言え、此方も瀕死に近い。カイリューの疲弊は、相手のリザードンと同じくらいだろう。
 三回も攻撃を喰らったのだから、無理もない。もし次でリザードンを倒せたとしても、ピカチュウが出て来て直ぐ、火傷の傷で倒れるだろう。
 ――ならせめて、確実に先制を取るまで。


「カイリュー、しんそく!」

「何?」


 レッドさんの表情に初めて、弱いながらも動揺の色が走る。しかし他のリアクションをする前に、リザードンは地に伏した。
 あとちょっと。あと一撃、決まりさえすれば。
 それが勝負の分かれ目だった。しかし、リザードンは先制を確実に取れる技を覚えない。普通ならカイリューも覚えないけれど――この子は、特別だった。
 さあ――あとは、ピカチュウだけ。


「いけ、ピカチュウ。でんこうせっか」

「……!」


 想像はしていたけれど、矢張り――カイリューとピカチュウの戦いにはならなかった。火傷の傷がとどめになって、カイリューは倒れる。
 仕方なく、最後の一匹のバクフーンを、出す。


「バクフーン……あとは、貴方にかかってるわ。だいもんじ!」

「影分身」

「速い……!」


 バクフーンの攻撃より先に、ピカチュウが影分身をして回避率を上げる。だいもんじは元々当たり難い技。あっさり回避される。
 確実性のある火炎放射にしておくべきだった。急いでしまった。
 でも、今度こそっ。ピカチュウは種族的にも、そんなに強いポケモンじゃない。


「バクフーン、今度こそ当てるのよっ。火炎放射ッ」

「あまごい」

「……!」


 雨が降り始める。傘なんて誰も持っていないから、私達はこぞってびしょ濡れだ。でもだからって、野球の試合みたいにバトルを中断させる訳にはいかない。
 それにしても――にほんばれに続いてあまごいだなんて。ピカチュウは、水タイプの技を覚えたかしら。
 いや――ある特別なピカチュウなら、覚えられると、聞いた事がある。でも、そんなまさか。


「雷」

「っ、それを狙って……! バクフーン、スピードスター……っ」


 雨が降る中の、雷。これは絶対ヒットのコンボ技。効果は普通でも、雷の技の強さは半端ない。その上、雨のせいでバクフーンの火力は弱まってしまった。
 スピードスターは絶対ヒットの技だから攻撃は当たるものの――ピカチュウの志気を下げる事すら出来なかった。
 スピード負けしているから、二度程雷を喰らえば、幾らバクフーンでも倒れる。ピカチュウにダメージは見られないし……火炎車で先制を狙っても、怪しいところだ。
 この天候が、何よりも辛い。


「バクフーン……火炎車っ」

「ピカチュウ、波乗り」

「嘘ッ」


 よりにもよって――そんな。レッドさんのピカチュウが、話に聞いていた特別なピカチュウだったなんて。
 炎タイプに水タイプの技は、言うまでもなく効果抜群。しかもあまごいの効果で、水タイプの技は威力を増している――。
 容赦なく、バクフーンは地に伏された。その姿が、痛く目に焼きついた。


「君の、負けだ」


 静かに言ったレッドさんのその言葉を聞くよりも先に、私の目の前は、真っ暗になった。










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( 後書き )

レッドさん最強伝説。普通に考えてピカチュウは弱いんですけどね……脆いし。
でもレッドさんのピカチュウなので、レベル差が要因でしょうかね(ゲームじゃLv.84だった気がする)
あまごいで雷が必中になるのが金銀からだったかどうかは、正直不明です(苦笑)
でも今はあまごいやると雷必中ですよね。あと空を飛ぶしてる相手に雷も必中。
炎技の威力が下がると言うのも……一体いつからの設定だったか不明です。
あとピカチュウの波乗りは、レッドさんは御三家を三匹持ってるのでピカ版かなと思い、波乗りピカチュウです。
まあ御三家を持ってるのはそんな理由じゃないでしょうけども。