03*
旅を終えても、




 ホウエン地方にある、流星の滝と呼ばれる洞窟に彼女は来ていた。迷いなく歩く彼女の足許を、ヨーギラスが一生懸命付いて来る。
 彼女らが歩く道の脇では、水が流れている。火山が直ぐ近くにあるとは思えぬ透明さである。


「ダイゴさんは此処にいるって話だけど……」

「ヨ! ヨギ、ヨギーっ」

「え? ――あ、ダイゴさん!」


 きょろきょろと視線を忙しなく移動させて捜していた処を、ヨーギラスが彼女の足を軽く叩いて何かを報せる。ヨーギラスを見てみると、此方を見上げて前方を指差している。ヨーギラスに指は無いけれども。
 指し示す方へ視線を転換させてみれば、大きな滝が先ず目に入り――その滝を前に立っている人陰を、見付けた。
 視力はいいから――間違いない。


「でかしたわね、ヨーギラス。おーい、ダイゴっさ、ん!」

「え? ――うわッ」


 目的の人物を見付けるなり彼女は一気に駆け出し、その後ろをヨーギラスがとてとてと付いて行く。
 何やら叫ぶ声がすると思い、声がする方向へ振り向いた時にはもう既にダイゴの目の前には彼女がいて、その彼女が知り合いだと認識するよりも速く、彼女の突撃は決まった。
 クリティカルヒット、急所に当たった。
 受身も取れずに腰を地面に打ち付ける。


「あいたたたた……」

「修業が足りないんじゃないですか、ダイゴさん」

「ヨー」

「全く君は……相変わらず元気だね」

「相変わらず相変わらずって、それ友人にも言われました。変わらないのってそんなに変ですか?」

「いや、そう言う訳じゃないけど……」


 じゃあどう言う訳なんですか、と会って早々彼女は機嫌を悪くする。
 彼女との付き合いは相変わらず、と言える程本当は長くないのだが、彼女と話していると長い付き合いのように思えてしまうのだ。
 誰にも分け隔てなく接する明るいその態度が、そんな錯覚を生み出すのだろうけれど。


「それで君は、どうして此処に?」

「ダイゴさんに会いに来たんです。久し振りにホウエンにも来たので」

「久し振りって……ああ、そう言えばシンオウに行ってたんだってね?」


 本来、シンオウとホウエンはそう易々と行き来出来るものではない。ホウエンとジョウト、カントーとシンオウでも相当な距離があるのに、シンオウからホウエンまでを一週間やそこらで移動など無理である。
 若いからと言って出来る事でもない。心から、彼女の行動力には舌を巻いてしまう。


「シンオウには一年いました。矢っ張りシンオウは広いですよ。それに寒いですし。シンオウからホウエンには殆ど休憩も無しに来てまだ適応してないんで、ちょっと暑いです」


 そう言って彼女は苦笑しつつダイゴの上から退き、その儘地面の上に座り込んだ。脚を川に浸すと、気持ち良さそうに相好を崩す。
 彼女がそこに落ち着いたのを見ると、ヨーギラスが彼女の膝の上に乗った。
 下手をしたら苦手な水の中に落ちてしまうが、ヨーギラスはそれを伝える彼女の科白に頑なに首を振る。どうしても此処がいい、らしい。根負けした彼女は仕方なく、ヨーギラスが落ちないようしっかりと抱き締めた。
 そんな遣り取りを見守ってから、ダイゴは彼女の隣に腰掛けた。


「コ、ココ」

「あ、ココドラ!」

「コ?」

「ココドラも可愛いですよね。ボスゴドラもかっこよくて。けど矢っ張りあたしはヨーギラスとバンギラスかな」

「ヨギー」


 ダイゴのリュックから顔を出したのはココドラだった。
 リュックから飛び降りて、久し振りに見る彼女の傍へ行くと丸い目で見上げる。そして視線は移動し、彼女の膝の上にいるヨーギラスへ注がれる。
 暫し、両者の無言の視線の遣り取りが続く。
 睨み合いにも似たそれは――結局、ココドラがそっぽを向く事で終止符が打たれた。


「そうそう。それでダイゴさんにお土産があるんですよ」

「僕に?」

「はい。ダイゴさんはシンオウに行った事無いんですよね」

「行きたいとは思うけどね。これでもホウエンのチャンピオンだから、シンオウなんて遠くに行ったら皆に怒られる」


 はあ、と溜息を吐く。
 ポケモンリーグのチャンピオン――確かにそれは、ポケモントレーナーとしての憧れであり、チャンピオンになる前の自分が目指していたものだ。
 チャンピオンと言うものがそう言う役柄であり仕事であるのだと理解していても、旅人だった人間にしてみれば邪魔でしかない。誰にも言えない話だが――これが、正直な心だ。
 彼女程の行動力は持ち合わせていないけれど、それでも未だ他の土地を旅したいと言う願望は潰えない。
 一番の目的は珍しい石を探す事であるものの、何にも縛られない自由気儘な旅を――もう一度、してみたい。
 自分勝手な話だと思うが、夢なんてそんなものだ。


「あったあった。これです、お土産って言うのは」

「……これは?」


 彼女が鞄から探し出したのは、三つの石だった。石マニアであるダイゴだけれど――初めて見る石だった。自ずと目が輝く。
 三つの石はそれぞれ全く異なっていて、一つは白く光り輝いている。そして一つは対照的に闇色をそこに秘めていて、残る一つは――明るい水色を、している。けれど水の石とは違う色だ。


「こっちが光の石でこれが闇の石で、そっちが目醒めの石です。他にも要石やさらさら岩とかまんまる石とか……金剛玉とか白玉ありますけど、要りますか?」

「う、うん、是非!」


 子供のように目を輝かせて、彼女の鞄から出て来る石を見る。初めて見る物ばかりだ。
 今迄発見された石とは違うものを、彼女が最初に出した三つの石から感じた。旧来の水の石や雷の石、炎の石、リーフの石、月の石と似ているようで――輝きが違う。
 どんな力を秘めているのだろう。


「三つの石は新しく発見された進化の石です。闇の石はムウマとヤミカラスを進化させ、光の石はトゲチックとロゼリアを進化させます。で、この目醒め石が特に面白いんですよ。本来ならオニゴーリに進化するユキワラシの♀限定でユキワラシがユキメノコに、本来ならサーナイトに進化するキルリアの♂限定でキルリアがエルレイドになるんです」


 ユキメノコにエルレイド――聞かぬ名のポケモンだ。まだまだポケモンは未知数だと、実感する。
 ポケモントレーナーでなくても、ポケモンはこの世界においてどんなものよりも身近な存在だ。共に暮らし、時には助けたり助けて貰ったりの協力関係にあり、一方でそれぞれの生活を脅かす時もある。
 こんなに近くにいるのに――研究だって沢山されていると言うのに、今のように未知なる話を聞く事は度々ある。


「他にもですね、ある技を覚えると進化したり、ある場所でレベルを上げたら進化する――と言う現象がシンオウでは時々見られます。例えばイーブイ。進化ポケモンとして今迄にも様々な分岐進化が発見されて来ました。このイーブイがなんとシンオウでは! ある森の中にある苔の生えた岩の近くでレベルを上げると、草タイプのリーフィアに進化するんですっ。一方で年中吹雪のやまぬ地域にある凍り付いた岩の近くでレベルアップすると、氷タイプのグレイシアに進化するんです!」


 彼女が思わず熱弁を振るってしまうのも判る。
 ポケモンは身近な存在でありながらとても未知数で奥深く、研究に研究を重ねても追い付かない。そして――ポケモントレーナーにとって新しいポケモン、新しい技とは、終わらない旅のようなもの。
 だから彼女のような生粋のポケモントレーナーにしてみれば、新しい旅の道が出来ていくようなもの。
 ドキドキしてわくわくして、じっとしていられない。


「……面白い――話、だけどさ。でも」

「でも――何ですか? え、あたし、何か変な事言いました?」


 彼女が熱くなってしまうのは判るし、目を輝かせてしまうのも判る。けれど――判るからこそ、ダイゴとしては彼女の熱弁を止めざるをえなかった。
 きょとんと目を丸めている彼女には、心から申し訳無くなるが――これ以上、語られたら。


「そんなにシンオウの魅力について語られたら、余計行きたくなっちゃうよ」

「え、あ――すみませんっ。そうですよね……つい」


 先程――ダイゴはシンオウに行けないのだと、話したばかりだったのに。
 向こう見ずな性格をしている彼女は、昔からおっちょこちょいで直ぐ大切な事を失念してしまうのだ。
 ダイゴの苦笑いを見ると、益々自分の至らなさを痛感して項垂れてしまう。序でに溜息も零してみれば、膝の上のヨーギラスが不安げに見上げてくる。


「……そう言えば訊きたかったんですけど、チャンピオン同士の交流会とか同盟とか、そう言うのって無いんですか?」

「いや……うん、残念ながらそんなものは無い、ね」


 項垂れていたのにいきなり顔を上げてじっと見てきたと思えば、変な事を言い始める。期待を込められた目で見られても――困る。
 一体何を彼女は期待していたのか知らぬが、ダイゴの返答を聞いた彼女は再びがっくりと項垂れた。少し、居心地が悪くなる。


「あたし、チャンピオンに憧れてるんですよ。実体を知った今でもっ。そりゃ、ダイゴさんの話を聞いたら自分がなろうって言う気持ちは萎んじゃいましたけど、でも矢っ張り、チャンピオンって凄いですよ。ポケモンバトルが強いって言うのも勿論ありますけど、それを抜きにしても凄くってかっこよくって、あたし、惚れちゃいました」


 え、と思わず思ってしまったが、彼女の場合、純粋にそう思っているだけで他意も深意も無い。惚れたなんて――その人間味に惚れたと言うだけで、恋愛とは遠く離れた憧れなのだ。
 明るく笑う彼女が少し、恨めしかった。


「カントーとジョウトはワタルさん。ホウエンはダイゴさん。シンオウはシロナさん。三人共素敵な人達です。正直ダイゴさんだけちょっと俗物な感じがしますけど」

「失礼だね……これでも僕、デボンコーポレーション社長の一人息子なんだよ?」

「御曹司ってヤツですねっ」


 あはは、と楽しそうに彼女は笑う。
 ダイゴとて他の地方のチャンピオンの話は聞いている。ドラゴン使いのワタルと、バランス重視のシロナ。自身は鋼タイプが専門だ。
 会った事も無ければ通信した事すら無いからどうとも言えぬが、各々――自身が生まれた地方に恥じぬ強さを持っているのは確かである。
 各地を旅する彼女はダイゴも含め、他の二人とも――会っている。


「そうだ。ダイゴさん、あたしとポケモンバトルしませんか?」

「……君と?」

「はい。ワタルさんともシロナさんとも一戦は交えたんですけど、ダイゴさんとは戦ってません!」


 彼女曰く、結果的にワタルとシロナの二人には勝てなかったそうだが、いい処までは行ったらしい。
 つまりそれだけの実力を彼女は有していると言う事であり――チャンピオンの一人であるダイゴも、彼女とポケモンバトルをすると言うのならば、予想以上の苦戦は――避けられない。
 けれど、それなら――それで。


「いいよ。受けて立とう」


 チャンピオンはいつでも――チャレンジャーを、待っている。頂点に立つ者を越えてゆくチャレンジャーを。
 強い人、弱い人、それぞれにはそれぞれの旅の軌跡がある。ポケモントレーナーの最後の砦として存在するチャンピオンには、その軌跡を見るチャンスがある。
 だから――仮令愚痴を零しても、旅をしたいと本心が思っても、チャンピオンとして、そこに居続ける。
 すくっと立ち上がり、間合いを取る。見合っていると、口元が自然と緩んだ。
 ああ、ぞくぞくしてわくわくする。こう言う緊張感が、とても堪らない。これだからポケモンバトルはやめられないのだ。


「本気で行くよ!」

「――当たり前です!」


 モンスターボールが空に高く、投げられる。










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( 後書き )

ダイゴさんは けっきょく ボクが いちばん つよくて すごいんですよ、ね(笑)
そして めずらしい いしのためなら たきだって のぼっていくんですよ、ね(笑)
敬語だと夢主らしい科白が出てきません……本当に第一話二話と同一人物なのか。
あとシロナさんはえーと、バランス重視でいい、んですかね? 偏ってない、ですよね?
でもシロナさんにガブリアスは凄い似合う。ミロカロスより似合う。カッコイイ。
ダイゴさんが一番俗物みたいと思ったのは私です。だって、なあ。石の採掘が趣味って。
英名がスティーブン・ストーンで爆笑した。ストーンって!
シンオウの地下通路の話も入れる予定だったのに失念してた……。
ダイゴさんはシンオウに超行きたいんだと思います。
天国だろうなあ。きっとヒョウタが羨ましくて堪らないでしょうね。
因みにダイゴさんは夢主のリザードンに大半をやられてしまうとか、そんなまさか(笑)
ホウエンにおける夢主の手持ちはサーナイトとボスゴドラ。リザードン、バタフリー、ワニノコは固定。
予備はボーマンダ(今ヨーギラスが入ってるから) ボスvsボスっていいな。
最後に、ヨーギラスの重さなんて気にしたらいけません。私も気にしない方向で行きます。
あと夢主がダイゴさんと戦ってないのは時代の差、と言う設定。
夢主がホウエンを旅してた時はダイゴさんはまだチャンピオンではなかったと言う事です。
多分夢主がホウエンから離れて直ぐにダイゴさんが就任したんじゃないかと。