目を開けたら、目の前にがいた。 一瞬、状況が判らず硬直する。しかしよくよく考えてみると、は眠っているらしい事に気付く。視線を自分の腹辺りに向けてみれば、俺との間の溝で眠るドガースとワニノコがいた。 どうなってんだ。 部屋の壁にかけてある時計に視線を移す。五時か。窓の外もオレンジ色に染まっている。俺はいつから寝てて、はいつ来たのか。んで、何で俺の隣で寝てんだ。 とは言え――起こすのも何だか気が引けるし忍びない。こんな所で寝るって事は、疲れてたんだろうし。 起こさないよう気を遣いつつ、立ち上がる。それでは起きなかったが、ポケモンっつーのは大体が鋭いもんで、ドガースとワニノコは動いた俺の微妙な気配に気付いて、目を覚ました。 ワニノコは軽く伸びをして、ドガースは軽く煙を出した。そしてどうしたの? とでも言うみたいに二匹は揃って俺を見上げた。 「飯……作るか」 すっかり寝ちまった。しかも、夢見もあんまよくなかった。何でいきなりあんな昔の夢を思い出したんだ。もう全部、終わった事なのに。思い出したって、仕方もないのに。寝るんじゃなかったと、数時間前の自分を毒突く。 そもそも、何で寝ちまったんだったっけか。 昼寝は此処最近――が来始めてからはしていなかった。今日みたいに、寝てる時にが来たらいけないだろうと思って。 今日は――昼になってもが来る気配がなかったから、寝たんだ。確か昨日、明日も来ますって言ってたよなと心の中で思い返しながら。 暇だと思って畳みの上に寝転がっていたら――いつの間にか、眠っていた。 は大体昼時に来る。遅くても三時までには来て、暗くなる前に帰っていく。だから幾ら昨日、明日来ますと言っていたとは言え、もう来ないんじゃないかと思っていた。急に何か用事が出来て、来れなくなったんだろうと。 まあ真面目で律儀なだから、もし本当に来れなくなったんなら、ポケギアで連絡を入れるんじゃないかとも思ったけど。しかしその場合はポケギアで連絡するって言われてた訳でもないし、真面目で律儀なもののおっちょこちょいだから、うっかり連絡を忘れてるって可能性もありそうだと思った。 とは言え、結局のところ何があったのか事情を訊こうにも本人は気持ち良さそうに眠っているし、仕方ないからの分の夕食も作っておいてやるかと考える。 起きて直ぐに帰るって言い出しても――まあいいけど、ないよりはマシだろ。 「ワニワニ」 「おい静かにしろ。アイツが起きるだ――」 「……おはようございます、ラムダさん」 台所に立って夕食を作っていると、ワニノコがいきなり騒ぎ出して、叱る為に振り向いたら――部屋から、眠気眼をこすりながらが出てきた。 どうやらワニノコは、が起きたから騒ぎ出したらしい。 「起きてたなら起こして下さいよ」 「……疲れてたんだろ」 「ちょっと急いで来ましたからね。疲れはあったかも知れません」 そう言いながら、部屋の入り口にしゃがむ。 俺の足下で転がって俺の邪魔をしていたドガースが、の許に転がっていく。そしては、転がってきたドガースを突っついた。ぼ、とドガースから煙が出る。ドガースが喜んでいる証拠だ。 何だかんだで、はよくポケモンに懐かれている。の持っているポケモンは勿論だが、俺のポケモン達も、何故かよく懐いている。一度ならず二度も、こてんぱんにされたって言うのに。 「ところでラムダさん」 「何だ」 「何作ってるんですか?」 「……カレーだよ」 「もしかして……私の分も、あるんですか?」 「……ああ。カレーだからな」 「やった!」 一応自炊は出来るものの、料理は上手いって訳じゃない。レパートリーも勿論少ない。不味くなけりゃいいんだよっつー気分で作ってるから、当然味の保証は出来ない。まあ、この間美味しいっては言ってくれたけど。 しかしこの間も思ったが、喜んでるを横目に、俺は矢張り何も言えなかった。期待したって俺は知らない。困る。つーか俺が料理上手に見えんのかよ。 そうこうしている内に、カレーは出来た。 更にご飯をよそって、カレーをかける。そしてテーブルの前で既にスタンバイしているとワニノコの前に皿を置く。ドガースはこう言う物は食べられないので、ポケモンフーズをやっておく。 「食べていいですか?」 「勝手に食え」 「いただきますっ」 ぱくり、とは俺の作ったカレーを口に入れた。の頬が動く。そして、喉に食べ物が落ちた。 食べて貰うのは二度目とは言え――変に、緊張した。 のリアクションを待っていると、やがてはにっこり笑った。 「美味しいです、ラムダさん!」 「……そうかよ。そらァよかったな」 そう言いつつ、内心その感想にほっとする自分がいたのは否定出来なかった。 は結構気とか遣う奴だから、不味くても美味しいって言うんじゃないかってついつい思ってしまう。でも表情を見る限り、そんな様子は見られない。ワニノコも勢いよく食っている。 安心したところで、俺も食事に参加する事にした。 「そういやお前、今日は何時に来たんだ?」 「四時くらい、ですね。本当はお昼くらいに来たかったんですけど、いきなりバトルを挑まれて」 昼にバトルを挑まれ、四時に此処に来た。四時間のブランク。それに少し違和感を覚え、カレーを掬う手が止まった。 挑んできたトレーナーが数人だったら、実力によっちゃァ四時間くらいかかっても、休憩と治療の時間も換算して納得出来る。しかしもし一人だったとしたら――このが、たった一人のトレーナー相手に苦戦したって事になる。断定は出来ないが。いや、もしかしたらバトルのあと意気投合して、話し込んだのかも知れない。 いやいや――それはない、と確信する自分がいた。 正直認めるのに抵抗はあるが、が俺の所に来ようとしていたのに、話し込んで遅れるって言うのはありえない気がした。の口調からも、早めに来たかったのにと言うのが感じられる。 だから矢張り、強い――トレーナーだったんだ。ジョウトリーグチャンピオンになったっつーコイツを苦戦に追いやるような、強敵だった。 様子からして負けはしなかったんだろうが、ポケモン達一匹一匹の傷が深く、ポケモンセンターで治療して貰うのに時間がかかったんだろう。何よりも先ず、ポケモンを大事にするコイツだからな。 「相手は、一人だったのか?」 「はい。女の人でした。かなり強くて、危うく負けるところだったんですよ」 かなり強い――女のトレーナー。ついさっき見た夢と、イメージが重なる。 に勝った事もなければ、対等に渡り合った事さえない俺には、コイツの本当の強さなんて計り知れないけれど――カントー最強のジム、トキワジムだって制覇したんだから、その実力に想像はつく。 今でこそマサラの若いトレーナーが新しいジムリーダーになっているらしいが、その前任はサカキ様、つまりボスだ。トキワジムのレベルを考えれば、強さは計り知れる。その新しいジムリーダーも、元々はカントーリーグチャンピオンだったって話だし。 そんな奴にも勝ったに、敵う奴なんているのか。 ――だからつまり。そんなに苦戦を強いたって言うだけで、大体条件は絞れるって訳だ。かなり強い女のトレーナーって言うと、全然条件が絞れてないように感じるが、が戦ったって言うのは――もしかしたら。 「ラムダさん? どうかしましたか?」 「……いや」 そこまで考えて、打ち切った。 考えたってどうにもならないっつーか、何でもない。その女トレーナーの正体が夢で見たあの女だったとして、何だってんだ。 あれから一度も会っていないし、これから先会う予定もない。会ったって、向こうは俺を覚えてないだろ。俺はしがない悪役Aでしかなかったんだ。記憶に残る理由がない。 俺だって――夢に見るまで、忘れていた。にあの女の面影を見たのも、今回が初めてだった。 もし強く覚えていたのなら、が基地に乗込んできた時点で――もしや、と思っていた筈だ。でもそんな事はなかった。 馬鹿な事をに訊いたあの時が――夢の引き金になった。それだけだ。 それに結局、アイツの言葉は間違っていた。確かに幹部にはなったが、形だけだった。俺に、実力なんてなかった。こうしてに――負けてんだから。 考えを打ち切ったつもりで打ち切れてなかった俺は、無言で俺を見るの視線に気付かなかった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) ちょっと時系列失敗しました。ピッピの話はもっとあとにすればよかった。 と言うのも、執筆の順序は十五話、十六話の方が先だったからです。 でもの話とFL女主の話との間に閑話休題的なものが欲しかったので。 執筆にブランクが空きがちで、伏線が上手く張れないのがまずい。 いや、一応ちゃんと考えてはやってるつもりなんですけどね……。 |