ポケモンバトルをして、久しぶりに苦戦した謎の相手。名前は教えてくれたものの正体は変わらず不明で、何だったんだろうと思いながら別れてから。 ――その人との再会は、思っていたより早かった。 しかも予想だにせぬ所で、私はその人と出会った。お月見山の奥、ラムダさんが構えるお店の中で。 私はその日も、特に予定もなかったからラムダさんの所へ遊びにきたつもりだった。けれどいつものように開けた扉の向こうは、いつも通りではなかった。 「あらちゃん。また会ったわね」 入ってきた私に対し、その人は驚く事もなく気さくに笑ってそう言った。私は状況が把握出来ず、ぽかんとその人と奥にいるらラムダさんを見る。 でも、何ら不思議な光景ではないと少しの時間をかけて理解する。どんなにお客さんが来ないと言ったって、此処はお店なんだ。偶にじゃなくともお客さんは来なきゃいけない。ラムダさんがあんなだから、ついつい忘れてしまう。 驚いた理由には勿論、その偶に来るか来ないかと言う貴重なお客さんが、つい先日知り合った人だったからって言うのもあるんだけど。 別にお月見山は封鎖されてる訳でもないんだから、不思議さは何処にもない。何処にも――ない、筈。 「丁度貴方を探していたところだったのよね」 「私を? どうしてですか?」 喋るその人――リーフさんは、よくよく見ると足下にフシギソウを連れている。 私の足下にいるワニノコは、珍しく私の後ろに隠れてはしゃがなかった。 普段なら、他のポケモンを見つけたら遊ぼうと絡みにいくのに――緊張、してるみたいだ。この間のバトルでは確かに苦戦を強いられ、今までにないギリギリの綱渡りをしたけれど、別にトラウマになってしまうような事はなかった筈なのに。 それに、ルギアにさえ果敢に向かって行ったこの子が、緊張したり怯えるなんて。 「お前ら……知り合い、だったのか」 「知り合いと言いますか……つい先日、ポケモンバトルをしたんですよ」 「流石ジョウトリーグチャンピオン、ちゃんは強かったわ」 そこで口を挟んできたのは、意外にもラムダさんだった。 リーフさんも、何だかラムダさんと親しいように笑いかけている。それを見たら、ラムダさんの疑問よりも、逆に私が二人に知り合いなんですかって訊きたかった。 ラムダさんと知り合うって、かなり限られると思うんだけど――二人は知り合い、なんだ。 「ところでリーフさん……どうして、此処に?」 「貴方を探してたのよ。貴方の姿をお月見山でよく見るって言う話を聞いたものだから」 あくまで明るい笑みは消さず、あっけらかんと聞き捨てならない事をリーフさんは言ってのけた。 私を探していたと言う事とその理由も気になったものの、それよりも――私が、噂になってるって。知らなかった。見つからないように特別気をつけていた訳ではないから、対策しなかった自分を叱咤するしかないけれど、見られていたとは知らなかった。しかも、噂になってるなんて。 とは言え、心当たりがないではない。この間だって――お月見山の入口でと会ったばかりだ。 はその時、私が落とした物を届けに私を探していた結果、此処に辿り着いたらしい。詳しくは話さなかったものの、恐らくそう言った目撃証言を聞いて、私のいそうな所を探しだしたに違いない。 「リーフさ……」 「ちょっと待て。お前の名前……レッドっつーんじゃなかったのか?」 リーフさんが聞いたと言う私の目撃証言を詳しく訊こうとした時、ラムダさんが私の声を遮った。また予想外な事に驚かされ、喋ろうと開いた口を閉じるのも忘れる。 しかし先手を取られたよりも、ラムダさんの驚きっぷりに言葉を失ったと言ってよかった。 基本冷静と言うか感情を表に出さず始終眠そうな顔をしているラムダさんが取り乱すなんて、珍しかった。どうしたんだろう。しかも――レッドって。それは確か、リーフさんが口にしていた誰かの名前だ。 けどリーフさんの名前はリーフで、レッドじゃない。ラムダさんは、何を言っているの? 「あら。あたしの名前はリーフよ?」 「お前……俺と会った時を思い出したんなら、自分がその時なんて名乗ったかも思い出してるろ……!」 「リーフって、名乗らなかったかしら」 「俺もよく覚えちゃあいないが、レッドって名乗ったのは覚えてるぞ」 「あらそう」 怒りさえ珍しく見せるラムダさんに、リーフさんは何処吹く風で靡かない。余裕綽々の態度。 バトルの時もそうだった。焦りは一切見せず、ただそこに笑みを浮かべ続けていた。目は爛々と輝き、楽しいと表情は満遍なく語る。どんなに自分のポケモンが倒されようと、その表情に苦しみが映る事はなかった。 そして今も――バトル中でこそないけれど、リーフさんの顔に不満が滲む様子はない。ラムダさんに怒られる事さえ楽しんでいるんじゃないとすら、思わせる。だから余計、バトルが終わった時に見せたあの一瞬の表情が気になって仕方なかった。 あれは――何だったのか。 「俺はてっきり、三年前に俺達ロケット団を解散させたのはお前だと……思ってたんだがな」 少し決まり悪そうに言ったらラムダさんに、リーフさんはきょとんとしてあらどうしてと尋ねた。私も、ラムダさんのその科白には小首を傾げる。 リーフさんがラムダさんに対してレッドと偽っていたらしいのは判ったものの、何でそんな勘違いをしているのか。自分が所属していた、ロケット団の事なのに。 「そうだ……レッドって何処かで聞いた事があると思ったら、三年前にロケット団を解散させたのは、レッドと言う少年じゃありませんでしたか?」 今、思い出した。そうだ、と合点がいった。道理で、聞いた事のあるようなないようなと記憶が曖昧だった訳だ。 その名を聞いたのは、たった一度だけだった。ヒワダタウンにいるガンテツさんが、ロケット団は三年前にレッドと言う少年に解散させられた筈だと――零していた。 「男……だったのか。知らなかったな」 「幹部だったのに、ですか」 「……うるせぇ。俺が幹部になったのは最近なんだよ」 三年前は下っ端だった。寧ろ、三年経って、幹部になれた理由がよく判らない。 そもそも、一度解散したロケット団に、集まった事からして今更疑問を感じた。面倒臭がりのラムダさんがどうして、ロケット団復活に協力したのか。ラムダさんのそう言うところは、未だよく判っていない。 「でもお前……ロケット団潰し、してたんじゃなかったのかよ」 「何であたしがそんな面倒臭い事を自らやらなきゃいけないの? 慈善事業じゃないのよ」 ラムダさんの問いかけが不可解だとばかりに、リーフさんは顔を顰めた。それを見たラムダさんも、むっとする。小馬鹿にされた気分なんだと思う。ラムダさんは短気じゃないけど、流石に今のリーフさんの、そんな馬鹿な事する訳ないじゃない、と言うような表情は相手を挑発していると取れなくもない。 ラムダさんとリーフさんがどんな経緯で出会ったのか、どんな知り合いなのか判らないけれど、リーフさんとはまだ知り合ったばかりの私には、リーフさんがどう言う人なのか判らなかった。 「あたしは正義の味方じゃないの。あたしにロケット団を殲滅させる理由はないわ。とは言えじゃあレッドが正義の味方として貴方達と戦ったのかって言うと、とっても怪しいんだけどね。アイツにしたらきっと――戦う相手が欲しかったからってところかしら。あたしも大概利己主義だけど、私よりはっきりしていないとは言えアイツもそう言う所はあったし、ポケモンの事ってなると、見境がなくなるし」 面倒臭げにリーフさんが語った言葉には、如何ともしがたい内容が含まれていた。 私も、正義の味方を気取ってロケット団と戦った訳ではない。でも、ヤドンのあんな酷い姿を見たら――見過ごす訳にはいかなかった。 リーフさんは、強い。私が苦戦してしまった相手。はっきり言って、あのワタルさんよりも強い。いつからそんなに強いのか知らないけれど、いきなり強くなったような強さではない。戦ってそう思ったから、間違いない。 ともなれば――三年前から強かった可能性も拭えないと言える。あくまで私の予想だけど、リーフさんにだって十分、ロケット団に立ち向かうだけの強さがあった筈ではないか。 なのにこの人は――ラムダさんとしか、戦わなかった。 「戦いたかったからって……それが悪の集団に対する考えかよ」 「あら、今更知ったの?」 「……俺はそのレッド少年には会ってないからな。ずっと、お前だと思ってたよ」 「勘違い、お疲れ様」 話すのも相手するのも疲れきってやめたいと言う態度をするラムダさんに対し、リーフさんはあくまで余裕たっぷりの――小馬鹿にするような態度で接していた。 子供が大人にするような態度じゃない。ラムダさんだからこそ怒りを通り越して取り合わずにいるが、普通なら少しくらい怒鳴っていても奇怪しくない。 「さて。誤解も解けたところでそろそろいいかしら」 「何だよ」 「あたしはちゃんを探しにこんな辺鄙な所までやって来たの。彼女を見つけた以上、あたしが此処に留まる理由はないのよ」 貴方に用事はないのよと、言葉にしなくてもその科白の裏にその意味を潜めてリーフさんは言った。 ラムダさんは取り合うのも厭になり、はいはいと諦めた様子で自分とリーフさんとの話を終わらせる。もう勝手にしろ、と言うような心境なんだろう。 けれど私としては、私に用事って何だろうかと――疑問に思うところだった。 確かにさっきも、私を探していたって言っていたけれど。 「ちゃんに折り入って話があるの。付き合ってくれるかしら?」 「構いませんけど……」 一体何の用事があるのか知らないが、断る理由はない。 ジョウトリーグチャンピオンであるものの、チャンピオンで居続ける事には辞退し、旅も今は休止中の身だ。基本的に暇な毎日を送っていたのは確かで、断る理由は私にはなかった。 勿論、内容によっては断る可能性はあったものの。話を聞かずに断る程、私はつれない人間ではない。 「じゃあ、行きましょう」 リーフさんは私の傍をすり抜けると、私の閉めた店の扉を開いてそう告げた。外へ、私を導くように。 此処じゃ出来ないような話なのかと少し訝りながらも、私はリーフさんの誘いを受けた。 それがまさか、絶望への一歩となるとも知らず。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 何かを企むリーフさん。 ラムダさんの事に関しては捏造もいいところですね。今に始まった事ではありませんが。 この小屋にいる時点で捏造ですからね。捏造ありきの小説。 年下の子供(女の子)に頭の上がらない年上と言うのが好きです。 頭が上がらないと言うか、実力的に上を行かれてる感じ。 勿論とラムダさんの関係もそうなんですが、は真面目ちゃんですから。 まあ一途な女の子が年上に惚れて、 年上さんがロリコンになるぞどうすれば……と悩むのも好きです。 それとは別に、年下攻めみたいな、挑発的な年下も好きです。 結論を言うなら、年の差万歳! |