21*
変わった世界に目を据える




 が――来なくなった。
 あのレッドもといリーフと言う女が来た日から今日まで、一ヶ月経って尚、は何の連絡もなく何の言葉もなくぱったりと来なくなった。あの女が関係しているだろう事は、想像に難くなかった。
 当然、に連絡を取ろうとポケギアを鳴らしてみた。しかし返ってきたのは、電波の届かない所に――と言う電話サービス会社のアナウンスだった。
 どうするべきか、物凄く悩んだ。
 一番に思ったのは――矢張りこれ以上、深入りはしない方がいいと言う考え。に何かあって、何も言わず何処かへ行ったのか判らないが、俺にはアイツの帰りを待つ権利も、理由もない。
 たとえ一度ケリをつけ、アイツは判っていて俺を受け入れてくれたんだと知っても、考えれば考える程悩まざるをえない問題だった。
 この負い目は――どうしようもない。俺の、罪だ。
 そしてそれを背負いながらアイツと向き合う覚悟をしたのも――俺なんだ。
 だからやっぱり、連絡の取れないのを利用して今度こそ別れる、姿を消す選択は一番に考え一番に消えた。
 次に思ったのは、アイツが帰ってくるのを待つか、どうか。
 アイツの性格を考えると、一ヶ月も連絡を寄越していないこの事態はおかしい。何かあったのは必至だ。しかしアイツが電波の届かない場所にいる以上、俺にはどうする事も出来ない。
 一言も何も言わず姿を晦ませ、連絡も寄越さないのには――きっと、理由があるに違いない。そもそもアイツは、最強のポケモントレーナーを目指して旅をしていたんだ。一週間に一回は必ず、多くて週三日来ていたこの間までの状態が、異質で。それだけ俺に会いたかったのかと――呆れ果てる。
 もしかするとアイツは、願掛けでもしているのかも知れない。今何処で何をしているのか知らないが、俺に会う事を目標に、何かをやり遂げようと――しているのかも知れない。
 俺の、知らないところで、恐らく―― 一人で。
 いや、一人じゃない。アイツの傍にはいつだってポケモンがいて、アイツのパートナーであるワニノコがいる。カイリューにも太刀打ち出来るくらい強い、ワニノコが。だからアイツは一人じゃないし、寂しくもない筈だ。アイツなら――大丈夫だろう。アイツより弱い俺が心配したところで、何にもならない。
 俺はただこの小屋で、アイツがやって来るのを――息を切らして扉を開けるのを待っていればいいんだ。俺がアイツに出来るのは、それくらいだ。
 ――そう自分に言い聞かせている内に、半月が更に経った。待てど暮らせど、小屋の扉が誰かによって開けられる事はなかった。
 晴れた満月の夜になって、ピッピがあの池の周りを踊り回ろうと、アイツは来なかった。
 半月経っても――連絡も、なく。俺がただボケーっと、魂でも抜けたみたいに待ち続けても。
 アイツは現れなかった。


「……どがぁ」

「判ってるよ。探しに行けって言うんだろ」


 いい加減ドガースも心配し始めていた。それを宥められもせず、俺は俺のすべき事を見失っていた。
 探しに行こうにも――アイツが行きそうな場所なんて知らない。行く当ては――ない。
 アイツと喧嘩した時、アイツを見つけられたのは偶然で、今回はドガースにも何か判る事はないようだった。お手上げで、八方塞り。


「どが、どがぁ!」

「判らなくても、取り敢えず外に出てみろって? ……そうは言うけどな、お前」


 袖を引っ張って俺を外へ連れ出そうとするドガースだったが、俺はその意志に応えられなかった。
 外へ――この山を降りて町へ出てしまえば、それは俺にとって危険地帯。店の商品を仕入れに行くのとは話が違う。
 人を探し、人と話さなければならない。
 俺は元ロケット団幹部の一人で、解散したとは言え――手配、される身で。
 無論変装して行くに決まってはいるが、いつボロが出てしまうかも判らない。長時間人目に触れるのは――身を危険に晒す事になる。そして正体がバレてしまえば、この小屋にもいられない。
 此処でこうして何もせず、アイツがやって来るのを待っているのが―― 一番、いいんだ。安全で、確実で。絶対、ではないかも知れないが。


「アイツなら……どっかで元気にやってる、だろうよ」

「どがぁ……」


 心配、すんなよ。寧ろ俺達は、心配される側なんだぜ。
 そう元気づけるものの、ドガースの心配顔が直る気配はなかった。当然俺の気持ちも――晴れる訳が、なかった。誤魔化しにすらならなかった。
 いつか、やって来るだろう。そう、決めつけて。
 いつかって――いつだよと、訴える俺がいる。


「……


 アイツの名前を呟いたところで、アイツが現れる訳がない。
 今日もポケギアを鳴らしてみるが、返ってくるのは相変わらずのアナウンス。不安を誘う、言葉の羅列。


「どが、どがあ……!」


 必死に、ドガースは訴える。すっかり――懐いちまって。俺の言う事も、聞かないくらいに。
 袖を引っ張り続けるドガースを抑えて、俺はそこで漸く、重い腰を――上げた。


「判ったよ。行けばいいんだろ――行けば」


 アイツを、探しに行けば。
 当てもないのに、危険極まりないのに、全てをかなぐり捨てて――探しに、行けば。
 もう会いたくないんなら、それでもいいんだ。寧ろ、その方がいい。けれど頑固なアイツが、何も言わないで気持ちを切り替えられるとは思えなかった。


「どうなっても……知らねぇぞ」

「どが!」


 もしも――を探し出し、再び会えるまでに、捕まっても。結局、見つからなくても。
 ただこの気持ちが晴れるのなら、俺は何でもしよう。この平穏すらも、捧げよう。捧げるだけの価値が――今の俺には、あったから。
 最悪の事態だけはならないよう、神様とやらに初めて祈った。










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( 後書き )

リーフさんの企み、レッドさん編(何じゃそりゃ)
前回の、リーフさんが過去にレッドと名乗っていた理由は、
それ程深くないです。深くなかった筈!(筈って何だよ)
ただ本当に気紛れに名乗っただけです。
自分もあの人になれたらな、みたいな感じで。
此処で書く後書きの内容じゃないな(笑)