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この一歩が未来を変える




 連絡のつかないを探す為、ニビシティにやってきていた。
 お月見山を降りるならハナダシティが近いのだが、一度ハナダへ降りてしまうと再び戻ってくるのが面倒なので、上りも下りも安全な道であるニビシティから探す事にした。
 どうせ此方側にあるのはニビシティ、トキワの森、トキワシティ、セキエイ高原、マサラタウンくらいだ。
 だが、ニビシティに手がかりはなかった。
 となると、次はトキワの森からトキワシティとなるが――正直、トキワの森は兎も角トキワシティは近寄りたくない場所だった。
 ボスがジムリーダーとして勤めていたジムは現在、若いトレーナーが引き継いでいるらしい。
 もああ見えてチャンピオンだし、三年前ボスを倒しロケット団を解散に追いやったのも子供で、今やジムリーダーも子供。加えて、ボスの息子はあのと渡り合う程の実力者ときているのだから、老兵はさっさと身を引くべきかとさえ思ってしまう。
 考えている内に、トキワの森を越えてトキワシティへ辿り着いていた。
 此処から、さてどう探すかと突っ立っていると。


「どがぁ!」

「何だ? ……フシギソウ?」


 もう見間違えないし忘れない。ドガースが見つけたその先には、つい先日目にしたフシギソウがいた。
 フシギソウも此方を見ていたが、先日と変わらずその目は俺に対して冷たかった。何でフシギソウにそんな目で見られなければならないのか、原因理由はさっぱりだ。
 フシギソウは何処かへ行く途中だった癖に、俺を見つけてからそこを動かなくなった。
 俺今、変装してる筈なんだが。
 いや、ポケモンの持つ本能とか警戒心を誤魔化せる程の変装でないにしろ、一目で気付くって何だ。それ程までに俺はあのフシギソウに恨みか何か持たれてるのか。
 ポケモンバトルをしたのは一度きりで、しかも俺が大敗したんだから、寧ろ恨むのは俺の方だろう。


「フシギソウ、何立ち止まってるのよ」


 そうこうしている内に、トレーナーがやって来た。そいつは案の定、レッド改めリーフだった。
 当然、フシギソウの視線の先にいる俺には、直ぐに気がついた。
 何、とばかりに俺を凝視する目は、まだ俺の正体を察するには至っていないと取れるものだったが、気付くのも時間の問題である事は考えるまでもなかった。
 俺の傍にはドガースも暢気な面を下げて浮かんでいるし、リーフは口調からして頭のよさそうな奴だったし。そして予想通り、その表情は直ぐに納得したらしいものに変わった。数秒後にはもう面倒臭いと言う感情に塗り替えられる。
 しかし今回ばかりは、俺にとってこの遭遇は好都合以上のものがあった。


「お前、をどうしたんだ」

「……あら、何の話? あたしは貴方なんて知らないわ」


 口元に笑みを浮かべながら言う科白がそれとは、果たして白を切るつもりがあるのかないのか。
 確かに今の俺は変装した姿であるものの、つい数日前出会ったのだから忘れた訳じゃないだろう。通行人Aとすれ違った程度なら兎も角、一ヶ月くらい記憶に残る程度の印象は与えていた筈だ。
 三年前出会っていた事を思い出せたのなら、尚更だろう。


「お前が連れて行ってから、は俺の所に来なくなって、連絡も取れなくなったんだぞッ」

「単純に、愛想を尽かれたんじゃないの?」

「それならせめて、一言……!」


 愛想を尽かしたのなら、それはそれでいい。寧ろ少し前までの俺は、いつかそうなる事を望んでいた筈だ。俺がを好きになって、愛してやる事はないからと――思っていたし、それは超えてはいけない一線だと思っていた。
 しかしいざがなくなったら、このザマだ。
 全てを顧みる事なく行動に出ている俺は、本来の俺じゃない。それでも探しに出ずにはいられなかったのは、何処かでアイツが、俺を待っている気が――したからだ。
 気のせいなら、気のせいでいい。いっそ、そうであってくれと願う。だが気のせいでなかった時の代償は、計り知れない。
 手遅れに――なる、前に。


「お生憎様、あたしはちゃんの居場所を知らないわ。残念だったわね。態々こんな所まで来たのに」

「嘘吐け……!」


 明らかに、コイツは知っている。何を企んでいるのかは知らないが、アイツがいなくなった元凶は、どう考えてもコイツなんだ。
 もし俺が強ければポケモンバトルを挑んで吐かせるのに、生半相手は強い為手が出せない。加えて、頭の方も小悪党の俺なんかよりよく回るのだろう。上手しか、取られていない。
 しかしそれでも俺は、コイツからの居場所を聞き出さなきゃいけないんだ。何としても。


「じゃあ、あたしとポケモンバトル、やる?」


 相手は、すら苦戦するようなトレーナー。ましてや、俺の手持ちは勢いで飛び出してきた為、ドガース一匹。
 女の足下に控えるフシギソウを倒せるかさえ、怪しい。相性の上では、草毒であるフシギソウよりも、毒タイプのみのドガースが有利と言えば有利だ。しかし相手も毒タイプを持っている以上、得意の毒の異常状態にはさせられないのである。
 言っておくが、火炎放射などと言う技マシンを俺なんかが持っていよう筈もない。
 相手も基本的に草タイプの技しか使えないとしても、やどりぎの種などされようものなら地味に削られ終わりである。
 第一、あくまでフシギソウを相手した場合そんな泥仕合になると言うだけであり、他の手持ちを出されれば終わりなのは言うまでもない。


「……おいリーフ、何やってんだよ」

「あー……鬱陶しいのが来た」

「ああ?」

「貴方が来ると話がややこしくなるのよ、グリーン」


 さてどうするかと考えていると、近くの建物から男が一人出てきた。後ろにはカメックスが控えていた。
 男、と言っても俺からすれば子供で、会話していたリーフと大体同年くらいのように見えた。それにグリーンと言えば――確かボスの公認でトキワジムを継いだ若いトレーナーの名前だった筈だ。
 となると、コイツが――。


「何だ? この胡散臭い爺さんは」

「んー、ちゃんの元彼?」

「はあ?」

「冗談冗談。まだ元じゃないと思うわ」

「いや、お前……」

「あら何? 貴方もちゃんにご執心なの? やあねぇ。あたしと言うものがありながら」


 物凄く面倒臭い女である事がよく判った。グリーンと言う少年は、リーフの科白に閉口して頬を引き攣らせていた。
 言葉がなくても、リーフに対し何を言いたいのかよく判る顔だった。相手が女でなければ殴っている。そして当人は、相手がそれを理由に手を上げられない事をよく理解した上で、敢えて揶揄って挑発している。


「お前と話すのはこれだから厭なんだ。面倒臭ェし埒も明かねぇ」

「そこはそれ、愛で補いなさいな」

「俺はお前なんか好きでも何でもねぇんだよ……!」

「そうやって捨てていくのねっ」


 どうにかならないのか、この会話は。俺じゃとても収拾つけられないぞ。寧ろ俺が入ると余計話はややこしくなりそうだ。静観して話が終わるのを待とう。
 本当は今直ぐにでも此処を離れたいところなんだが、リーフからの話を聞き出す為に此処にいるので、そうもいかない。


「ちょっとお前黙ってろっ。俺はこの爺さんが何者か知りたいんだよ」

「あら、じゃああたしが何者かは知らなくていいのね」

「もおうお前について知らない事なんてねぇよ! 何年の付き合いだと思ってんだッ」

「そうね、前世からの付き合いだものね」

「もう知らねぇ……!」


 何が言いたいんだ、この女は。いや、ただ単純に相手を揶揄いたいだけか。
 しかし黙れと言っても黙らず話を逸らされる一方とは、どうすればいいのか。そろそろ、人目も気になり始めたんだが。


「でも、ちゃんの恋人って言うのは間違いじゃないと思ってたんだけど」

「別に、そんな関係じゃない……アイツが、俺に付き纏ってただけだ」

「なら、いなくなって寧ろよかったんじゃない? 態々トキワくんだりまで来て探すのはおかしいわ。素直じゃない大人は嫌われるわよ」


 リーフの言葉は重くのしかかったものの、しかしそれを言っている人間を見ると、複雑な気持ちになった。
 よくは知らないが、恐らく俺よりも遥かに――この女の方が素直じゃない筈だ。捻くれた性格なのは、今の会話でも十分実証されただろう。
 尤も確かに、俺も人の事が言えないくらいに捻くれている自信はあるが。


「――ちょっと待て。の奴がいなくなったって、まさか行方不明って言うんじゃないだろうな。アンタの正体は兎も角、単にアンタの所に来なくなっただけ、なんだろ……?」


 おちゃらけて真実を話そうとしないリーフとは打って変わり、男の――グリーンの方は俺とリーフの会話に真剣な表情で入ってきた。
 その鋭さは、まるで前触れか予感か何かしらの思い当たる部分があるかのような口振りだった。
 コイツなら、リーフの持っている情報の全容を知らなくても、何か答を導き出してくれるかも知れない。の事も、知っているようだし。


「じゃあお前は、一言もアイツが、親しい人間の前から姿を消すと思うか?」

「何……? いや……律儀なアイツに限って、そんな事は考えられねぇ」


 俺がアイツに一人の男として見られていたにしろ見られていなかったにしろ、今まで何度も俺の所へやってきたのは幻じゃないし夢じゃない。
 そして俺に向けていた笑顔は――偽りではない。
 俺の料理を美味しいと言って、嬉しそうに食ってくれたのも。俺と喧嘩をして仲直りをした時の、喜びだって。


「……繋がらねぇ」


 グリーンは自分のポケギアを取り出してにかけたようだったが、案の定繋がらなかったらしい。苛々した様子でポケギアの通話を切断する。
 そして俺ではなく、グリーンはリーフと向き合った。
 対するリーフは、先程まで鬱陶しいくらいに喋っていた口を今は閉ざし、つまらないものを見る目で、自分を見る相手の視線に応えた。


「リーフ、は何処だ」

「まるであたしがあの子を隠したみたいじゃない。濡れ衣だわ。あの子がシロガネ山へ――アイツの所へ向かったのは、あの子の意志なのに」










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( 後書き )

またレッドさん絡みかよ、と言うなかれ……!
金銀の魅力は、矢張り繋がる世代ですからね。
どうしても、最終的には原点にして頂点であるあの人に還っていくようです。
リーフとグリーンのやり取りは書いてて楽しかったです(笑)
FL小説の方でやれよと言う感じですが、あっちはあっちで実は認めてたりしますからグリーンさん。
リーフとグリーンは幼馴染、さてではレッドさんの立ち位置は……。
妥当に双子でもいいと思いますし、三人別の家で幼馴染でもいいですし。うん。