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後押しをしてくれるもの




 シロガネ山へ通じるゲートへ行くと、リーフが待ち構えていた。その傍には厳しそうな顔をした警備員が一人立っている。
 リーフは警備員に事情を話したのだろうか。


「来たわね。行くわよ」

「ちょ、ちょっと待って下さいリーフさん!」

「あら、何かしら」


 俺の手首を掴み、共にシロガネ山へ向かおうとしたリーフを、警備員が慌てて止めた。鬱陶しげにリーフは振り返る。
 問題などないと、その目が告げる。


「貴方が行くのは勿論構いませんが、その人は駄目です」

「許可出来ないって?」

「バッジがおありでしたら見せて下さい」


 リーフの顔が険しくなる。だが、そう要求されるのは当たり前だろう。バッジの数が、実力の証明なのだから。
 言うまでもなく、俺は一つとして持っていない。
 得意な相手は草タイプだが、リーフのフシギソウのように、草ポケモンの大半が毒タイプを兼ね合いとして持っている。
 まあ何も有利な相手を選ばず、電気タイプや水タイプと言った、等倍相手ならごり押しでいけるのだろうが――そこで勝てないのは矢張り、トレーナーとしての俺の能力がないのだろう。


「……あたしはもう、顔パスでいいのよね?」

「ええ、まあ」


 どうすればいいのか判らず訪れた沈黙を、リーフが面倒臭げに破った。眉間に皺を寄せながら問うリーフに警備員は少しの緊張を見せつつ、頷く。俺はと言えば、どうする事も出来ずそのやり取りを眺めていた。
 今の問いかけからしてリーフは何か考えを思いついたのだろうかと思うと――いきなり腕を引っ張られ、建物の外へ連れて行かれた。
 外は人気がなく、ポケモンが潜んでいるであろう草むらがあるだけだった。


「貴方もしかして、変装が得意なの?」

「……ああ、まあ」


 此処最近は、それに自信を失くしつつあるのだが。に見破られ、つい先程もフシギソウに――そしてリーフに見破られた。
 一応今の姿はラムダではない――辺境地に建つ小屋で細々と物を売る爺さんになっているつもりだ。設定としてはよぼよぼなので、たとえバッジを十六個持っていようと、通過の許可が下りるとは思えない。ポケモンに命令を出すより早く、野生ポケモンに捕って食われかねない。


「バッジはあたしので誤魔化せばいいとして――今直ぐ、グリーンに変装して」

「……判った」


 出来る出来ないを問わず、やれと言う。肝の据わった子供だと、改めて思った。
 確かに、出来ないと言ったところで話は進まない。辛辣な言葉を躊躇なく言うリーフなら、出来ないと言えばさようならと別れを告げるだろう。
 出来ないとしても、やろうとする意地くらい見せなければ、俺としても――に何かを言う資格がなくなる。


「グリーンってのは、さっきトキワシティで会った奴だよな」

「そうよ」


 念の為、確認しておく。
 あくまでリーフがあの男をそう呼んでいたのであり、確証はなかった。リーフの事を思うと、他人を間違えた名で敢えて呼んでいそうな懸念もあった。
 一先ず、爺さんメイクを取り除き、まだ記憶に新しいグリーン少年のメイクを作る。老若男女、流石に小さい子供は無理だが――グリーン少年くらいなら、変装の範疇である。
 そして数分後、偽グリーンが完成した。


「ちょっと猫背が気になるけど……一瞬なんだから背筋くらい伸ばしなさい。声は……大丈夫なの?」

「これでいいんだろ?」

「やれば出来るじゃない」


 リーフからバッジを受け取り、もう一度ゲートへ行く。
 正直な話、たった数十分で戻ってきたと思ったら、連れている人間が変わっているだけで――怪しまれるのではないかと、思った。
 しかし訝しげに見られつつもバッジを見せると、警備員は不承不承納得したようで、通行の許可を下ろしてくれた。
 怪しさ全開で疑う余地があろうとも、トキワジムジムリーダーに不躾な事は容易に問えない、と言うのが実情だろう。
 そして俺はリーフに連れられ、とうとうシロガネ山へやってきた。一生、縁はないだろうと思っていた場所へ。
 こうした形で来る縁が出来ると、誰が思ったのだろう。出会いとは不思議なもんだ。


「情緒に耽ってないで、行くわよ」

「……ああ」


 シロガネ山は、やけに静かだった。空気が冷たく張り詰めている。ごくり、と唾を飲む。
 リーフの背中を見ると、何処となくリーフも緊張しているらしい事が見て取れた。
 あのに苦戦を強いる実力者でも――緊張するような、場所。そんな所に今俺は、相当無防備な状態でいる。リーフが護ってくれるのだろうか。でなければ即死確定である。
 連れて行ってあげると言ったリーフを信じたいが、捻くれたところがあるので鵜呑みには出来ない。連れて行くと言っただけで、護るとは言ってない――そう言われれば、お終いである。


「シロガネ山にもポケモンセンターはあるわ。取り敢えず、そこまで行くわよ」


 じゃあもしかしたらがそこにいる可能性も、ある訳か。それならば――矢張り、会って話す方がいい。が元気なのかも、一目で判る。
 そう望みながら、俺とリーフはポケモンセンターを目指した。
 道中飛び出してくる野生ポケモンは、リーフのポケモン達が倒していく。目の前で繰り広げられるバトルを見て改めて、此処は俺なんかの来る場所ではないと痛感した。
 そしては――こんな所にいるのだと、今更ながらにアイツの強さにぞっとした。










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( 後書き )

リーフさんは計画性ありそうですが、面倒臭いと言って正面突破もしそう。
自分の楽しい事(悪戯とか)にしか計画性を働かせなかったりして。
それにしてもグリーンさんに変装とか色々無理ありそう(笑)
十三、ないし十四ですからね。少年はまだ成長期じゃないし。
ラムダさんが背筋伸ばしたら凄いひょろっと高いんだろうなあ。