やっと――此処まで、追い詰めた。あと、一歩。 直ぐ帰るような甘い算段で来ていた訳ではなかったけれど、まさかこれ程に苦戦して、時間を費やしてしまうとは思いもしなかった。 それだけ――初めて会った時、私とあの人の間には差があった。そして今やっと、追い詰めるまでになった。こうなるまでに、一ヵ月半も時間を使ってしまった。 脳裏を過るのは、ラムダさんとリーフさん。 リーフさんに頼まれてシロガネ山へ登り、今目の前に佇むあの人と戦う事になった。私が音沙汰もなく帰ってこないのを、負い目に感じてなければいいのだけれど。 そして――ラムダさん。ラムダさんにはそれこそ、何も言わずに来てしまった。せめて一言、ちょっといってきます、心配しないで下さいねと、言っておいた方がよかったのかも知れない。 心配してくれてるのかな。 でもリーフさんの話を聞くと、今目の前にいる人は――あのレッドさんで、三年前にロケット団を壊滅させた人だと言う。ロケット団幹部だったラムダさんにとって、聞きたくない名前かも知れない。だから私は、結局ラムダさんに何も告げず――シロガネ山へ、やってきた。 「ワニノコ……あと一歩よ……やれる?」 「わ……ワニッ!」 「……ありがとう」 立ちはだかる相手のポケモン――最後の一匹は、リザードン。 相性で言うなら、ワニノコの方が有利。けれど進化していないワニノコと、最終進化系であるリザードンとの実力差は大きい。 「――え? 何?」 「ワニ?」 ワニノコに命令を下そうとしたところで、鞄にぶら下げてあるポケギアが鳴った。予想外の事に、驚き慌てて手に取る。 ポケギアの画面に表示された名は――ラムダさんの、ものだった。 でも、此処はシロガネ山。電波が届く筈がない。ましてや、ラムダさんのいるお月見山ともなれば。 加えて、今は真剣なポケモンバトルの最中。電話に出る訳にはいかない。 「ぐあう」 「え……で、出てもいいの?」 どうしようかと迷って相手を見れば、リザードンは電話に出ろ、とばかりに私を指差した。そして真意をレッドさんに問えば、レッドさんは無言で頷いた。 ありがとう御座いますと頭を下げてから、恐る恐る電話へ出た。 「……もしもし」 『ん、あ、繋がったのか?』 「ら、ラムダさん……」 『か?』 「はい」 電話越しに聞こえた声は、実際に聞く声とは少し違ったけれど、ラムダさんのものだった。 何だか少し、緊張して言えるようだった。声に躊躇いがある。 『お前今……シロガネ山に、いるのか』 「……はい」 『てっぺんで、戦ってんのか』 「……はい」 何でラムダさんが、私の今いる場所を知っているのか、戦っている事も知っているのか不思議だったけれど、その言葉と声をよく聞いて噛み締めるのに、私はそれどころじゃなかった。 久しぶりに聞く――ラムダさんの、声。どんな表情で、話しているんだろう。 私のこの嬉しい気持ちは、伝わっているのかな。 『頑張れとは言わねぇ。お前はいつも――頑張ってるからな』 どんな言葉でも、ラムダさんの声を今聞けただけで十分だった。何でも、出来る気にさえなる。 ラムダさんが私を想ってくれているのだと思うだけで――幸せになれる。 『ただ俺は、ずっとお前を待ってる』 その言葉の破壊力を知って、言ったのか。それとも純粋に――それだけを伝えたいと、思ったのか。 私はその言葉を信じても、いいんですね? 信じても。 『判ったな? 』 「……はいっ」 名を呼ばれるだけで、涙が溢れそうになる。 暫く、会えなかったからだ。会わないと決めたのは――私なのに。頼まれた事を成し遂げるまで、何にも甘えないと決めたのは――私だったのに。 電話はそこで切れた。ポケギアを鞄へ元に戻す。一分もない短い会話だった。 そして今一度――レッドさんと、向かい合う。 吹き荒れる吹雪。寒くて、握っているモンスターボールを落としそうになる。けれど、そんなヘマをしている場合ではない。手に力を込めて、モンスターボールを握る。ワニノコと、最後のアイコンタクト。 「私のワニノコ、すっごく強いんですよ!」 マツバさんのゲンガーのシャドーボールに耐えて、ワタルさんのカイリューを返り討ちにして、のメガニウムとも対等に渡り合った。 私の最初のポケモン。私の一番のパートナー。 互いに、残る手持ちは一匹ずつ。リザードンの強さ――レッドさんの強さは、何度も味わった。悔しくなるくらい、思い知らされた。 「今度こそ――私が、勝ちます」 一体何度、負けたのだろう。一体何回、挫けそうになったのだろう。 それでもこうして此処までこれたのは、ポケモン達のお陰。私を励まし、力になり、応えてくれた皆のお陰。 「私が勝ったら約束、ちゃんと守って下さいね、レッドさん。マサラタウンへ――帰るって」 リーフさんやグリーンさんのいる所へ。そして、お母さんのいる家へ。いつまでもこんな所で閉じ篭っていたって、何にもならないんだから。 そして私は――ラムダさんの所へ、帰るの。好きな、人の傍に。 「皆、待ってるんですから」 .Back ( top ) Next ( 後書き ) vsレッドさんは何度書いてもいい。表現は何番煎じって感じですが……。 でも実際、ごり押しでも奇跡的に勝てる時ってありますよね。 此処ぞとばかりに耐えて頑張ってくれたSSメンバー……。 特にワニノコの、瀕死一歩手前の勇姿は忘れません。 |