27*
電話越しに貴方を想う




 やっと――此処まで、追い詰めた。あと、一歩。
 直ぐ帰るような甘い算段で来ていた訳ではなかったけれど、まさかこれ程に苦戦して、時間を費やしてしまうとは思いもしなかった。
 それだけ――初めて会った時、私とあの人の間には差があった。そして今やっと、追い詰めるまでになった。こうなるまでに、一ヵ月半も時間を使ってしまった。
 脳裏を過るのは、ラムダさんとリーフさん。
 リーフさんに頼まれてシロガネ山へ登り、今目の前に佇むあの人と戦う事になった。私が音沙汰もなく帰ってこないのを、負い目に感じてなければいいのだけれど。
 そして――ラムダさん。ラムダさんにはそれこそ、何も言わずに来てしまった。せめて一言、ちょっといってきます、心配しないで下さいねと、言っておいた方がよかったのかも知れない。
 心配してくれてるのかな。
 でもリーフさんの話を聞くと、今目の前にいる人は――あのレッドさんで、三年前にロケット団を壊滅させた人だと言う。ロケット団幹部だったラムダさんにとって、聞きたくない名前かも知れない。だから私は、結局ラムダさんに何も告げず――シロガネ山へ、やってきた。


「ワニノコ……あと一歩よ……やれる?」

「わ……ワニッ!」

「……ありがとう」


 立ちはだかる相手のポケモン――最後の一匹は、リザードン。
 相性で言うなら、ワニノコの方が有利。けれど進化していないワニノコと、最終進化系であるリザードンとの実力差は大きい。


「――え? 何?」

「ワニ?」


 ワニノコに命令を下そうとしたところで、鞄にぶら下げてあるポケギアが鳴った。予想外の事に、驚き慌てて手に取る。
 ポケギアの画面に表示された名は――ラムダさんの、ものだった。
 でも、此処はシロガネ山。電波が届く筈がない。ましてや、ラムダさんのいるお月見山ともなれば。
 加えて、今は真剣なポケモンバトルの最中。電話に出る訳にはいかない。


「ぐあう」

「え……で、出てもいいの?」


 どうしようかと迷って相手を見れば、リザードンは電話に出ろ、とばかりに私を指差した。そして真意をレッドさんに問えば、レッドさんは無言で頷いた。
 ありがとう御座いますと頭を下げてから、恐る恐る電話へ出た。


「……もしもし」

『ん、あ、繋がったのか?』

「ら、ラムダさん……」

か?』

「はい」


 電話越しに聞こえた声は、実際に聞く声とは少し違ったけれど、ラムダさんのものだった。
 何だか少し、緊張して言えるようだった。声に躊躇いがある。


『お前今……シロガネ山に、いるのか』

「……はい」

『てっぺんで、戦ってんのか』

「……はい」


 何でラムダさんが、私の今いる場所を知っているのか、戦っている事も知っているのか不思議だったけれど、その言葉と声をよく聞いて噛み締めるのに、私はそれどころじゃなかった。
 久しぶりに聞く――ラムダさんの、声。どんな表情で、話しているんだろう。
 私のこの嬉しい気持ちは、伝わっているのかな。


『頑張れとは言わねぇ。お前はいつも――頑張ってるからな』


 どんな言葉でも、ラムダさんの声を今聞けただけで十分だった。何でも、出来る気にさえなる。
 ラムダさんが私を想ってくれているのだと思うだけで――幸せになれる。


『ただ俺は、ずっとお前を待ってる』


 その言葉の破壊力を知って、言ったのか。それとも純粋に――それだけを伝えたいと、思ったのか。
 私はその言葉を信じても、いいんですね? 信じても。


『判ったな? 

「……はいっ」


 名を呼ばれるだけで、涙が溢れそうになる。
 暫く、会えなかったからだ。会わないと決めたのは――私なのに。頼まれた事を成し遂げるまで、何にも甘えないと決めたのは――私だったのに。
 電話はそこで切れた。ポケギアを鞄へ元に戻す。一分もない短い会話だった。
 そして今一度――レッドさんと、向かい合う。
 吹き荒れる吹雪。寒くて、握っているモンスターボールを落としそうになる。けれど、そんなヘマをしている場合ではない。手に力を込めて、モンスターボールを握る。ワニノコと、最後のアイコンタクト。


「私のワニノコ、すっごく強いんですよ!」


 マツバさんのゲンガーのシャドーボールに耐えて、ワタルさんのカイリューを返り討ちにして、のメガニウムとも対等に渡り合った。
 私の最初のポケモン。私の一番のパートナー。
 互いに、残る手持ちは一匹ずつ。リザードンの強さ――レッドさんの強さは、何度も味わった。悔しくなるくらい、思い知らされた。


「今度こそ――私が、勝ちます」


 一体何度、負けたのだろう。一体何回、挫けそうになったのだろう。
 それでもこうして此処までこれたのは、ポケモン達のお陰。私を励まし、力になり、応えてくれた皆のお陰。


「私が勝ったら約束、ちゃんと守って下さいね、レッドさん。マサラタウンへ――帰るって」


 リーフさんやグリーンさんのいる所へ。そして、お母さんのいる家へ。いつまでもこんな所で閉じ篭っていたって、何にもならないんだから。
 そして私は――ラムダさんの所へ、帰るの。好きな、人の傍に。


「皆、待ってるんですから」










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( 後書き )

vsレッドさんは何度書いてもいい。表現は何番煎じって感じですが……。
でも実際、ごり押しでも奇跡的に勝てる時ってありますよね。
此処ぞとばかりに耐えて頑張ってくれたSSメンバー……。
特にワニノコの、瀕死一歩手前の勇姿は忘れません。