28*
あなたとなら




 二ヶ月半ぶりに、私は帰ってきた。
 お月見山の奥にある、小屋。まだ入る事はせず、私は洞窟の入り口でその小屋を見つめていた。
 ――レッドさんには、何とか勝った。ラムダさんからの電話もあったし、皆が最後まで頑張ってくれたから。
 レッドさんは約束通り、私と一緒にシロガネ山を下りてくれた。麓にあるポケモンセンターに一度寄りポケモン達を回復させて貰って、ジョーイさんにお世話になったお礼を言ってから、トキワシティへ向かった。
 レッドさんを連れてきてと私に頼んだリーフさんだったけれど、私はリーフさんの居場所を知らなかった。グリーンさんなら知っていると思い、先にトキワジムへ行った。するとそこにはリーフさんもいて、二人は私と一緒にいたレッドさんに、酷く驚いた顔を見せた。
 グリーンさんは、まさか私がレッドさんに勝ってしまうとは正直思っていなかったらしい。
 でも私はレッドさんにポケモンバトルで勝って、約束を守って貰った。だからレッドさんは今――此処にいる。
 私に頼み事をした本人であるリーフさんはと言えば、レッドさんを見て――涙を流していた。そしてレッドさんを責めたり、心配した事を何度も言った。
 シロガネ山へ会いに行った事はあるとリーフさんは言っていたけれど、何よりもリーフさんはレッドさんに傍に帰ってきて欲しかったのだろう。
 レッドさんなそんな二人に、少しだけ――ほっとした様子を見せていた。
 レッドさんがどうして、自分より強いトレーナーが現れるまでシロガネ山を下りないつもりでいたのか、はっきりした理由は判らない。強くなるのなら、私は山に引き篭もって修行するより、旅を続けた方がいいと思ったけれど。でももしかしたらレッドさんは、少し旅に疲れていたのかも知れない。
 取り敢えずリーフさんの頼みは達成出来たので、私は挨拶もそこそこにトキワジムを出た。
 逸る気持ちを抑えて――漸く、辿り着いた。帰ってきた。
 そして小屋を前にして、何故か私は躊躇していた。緊張する。電話の向こうにいたラムダさんは、どんな気持ちであの言葉をくれたんだろうと考えると――面と向かうのが、途端に恥ずかしくなった。


「――どが! どがぁっ」

「ド、ドガース!」


 小屋から、ドガースが出てきた。まだ心の準備が出来ていなかった私は慌てる。
 けれど小屋から出てきたのはドガースだけで、ラムダさんは出てこなかった。あれ、と少し不思議に思う。でもドガースの様子からして、ラムダさんがいない訳ではないと思う。
 ドガースは、早く早くと急かすように私の鞄を引っ張った。


「ちょっと待って、ドガ――」


 戸惑いで力が緩んだところを引っ張られ、私は倒れ込むように小屋へ入った。戸を押して、こけるように――いや実際に私はこけて、床に倒れるところで支えられ、私は事なきを得た。
 私を支えてくれたのは、しっかりとした男の人の腕だった。恐る恐る顔を上げれば――変装メイクもしていない、素顔のラムダさんがそこにいた。


「ら、ラムダ、さん……」


 心の準備がまだ出来ていなかったのに。
 わたわたと、私は体勢を元に戻してラムダさんと向き直る。思わず俯く。顔を見る勇気がなかった。
 さっき一瞬見たラムダさんの表情は、驚きも喜びも戸惑いもなかった。どんな気持ちなのだろうと、考える。
 あの――言葉は、どんな気持ちで告げてくれた、ものなのかと。




「は、はい」

「帰ってきたら――言う事が、あるだろ?」

「え?」


 名を呼ばれ姿勢を正し、顔を上げてラムダさんを見上げる。いつもの眠気眼。私ではその目に込められた感情はまだ探れない。
 ドキドキとラムダさんを見ていれば予想外な事を言われ、私は首を傾げる。
 帰ってきたら――言う事って、何だろう。結局二ヶ月も、此処へ帰ってこれなかった事への謝罪だろうか。


「ただいまだろ、


 仕方ねぇなあと、ラムダさんが小さく笑う。
 私はラムダさんの言葉に、弾かれたように言葉を思い出した。


「あ……! は、はいっ。ただいま、ラムダさん!」

「……おかえり、


 そこで漸く、ラムダさんは笑ってくれた。
 くしゃくしゃ、と頭を強く撫でられた。大きな掌を、頭越しに感じる。あたたかくて、大きいラムダさんの手。
 私は感極まって、思わず抱きついてしまった。


「……すみません、ラムダさん。何も言わず――出て行って、しまって」

「別に構わねぇよ。お前がこうして、俺の所に帰ってきてくれたんだ」


 今度はゆっくりと――優しく、頭を撫でられる。私はより強く、ラムダさんに抱きついた。
 ラムダさんの気持ちが、知りたい。こうして再会出来て、何ヶ月が経ったのだろう。その間にラムダさんの気持ちに――変化は、あっただろうか。私の気持ちは、今も変わっていないけれど。


「好きです。ラムダさん」


 もう一度、告げる。私の気持ちが、変わっていない事を。
 ラムダさんの顔に顔をうずめて、私はラムダさんの言葉を待った。顔を見る勇気は矢張りなかった。私の頭を撫でていたラムダさんの手が、止まる。


「……俺も好きだ。


 その言葉に――顔を上げ、ラムダさんを見上げる。
 ラムダさんは私から顔を逸らし、私の頭の上に置いた手ではない片方の手で、自分の首元をさすりながら、照れ臭そうにしていた。
 今の言葉が――嘘で、ないのなら。


「こんな俺でいいなら、よろしくな」

「……はいっ、勿論です!」


 精一杯背伸びして、首元に腕を伸ばして抱きつく。
 私の行動にラムダさんは驚いた様子だったけれど、宙ぶらりんの私の体を、小さく笑いながら支えてくれた。ラムダさんの顔が一段と近づいた。


「そう言えば満月の夜にピッピのダンスを見た人は、幸せになれるそうですよ」

「どうやら、そうみたいだな」










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( 後書き )

終わり、です……!
若干駆け足になった気がしなくもないですが、予定していた通りの終わりです。
これで一応、自分の中で浮かんだ金銀シリーズは終わりですかね。
も書きたかった気もしましたが、ネタ流れちゃいました。
もしまたのネタを思い出したら書きますね。
一旦これにて金銀シリーズは終わりとなります。
ありがとうございました!
続きからはぐだぐだとシリーズ第三弾のあとがきになります。
最後まで付き合ってやんよ! なお方はどうぞ。