04*
この繋がりを信じたい




 いつものようにラムダさんの所へ遊びに来たものの、特に何かすると言う目的がある訳じゃないから、暇をしていた。
 座敷に上がり、何かないだろうかと部屋を見回す。ラムダさんが普段座っている所へ行って、机の下を覗いてみる。机と言っても座敷の上にある為、そんな大きくもなく高くもない小机で、その下に置けるのは小物くらいなんだけど――。


「これ……変装道具ですか?」

「変装道具っつーか、化粧箱だよ」


 棚の中の商品を整理しながら、ラムダさんは横目で私を見て言う。
 机の下から化粧箱を取り出し、机の上へ置いて箱の中を漁る。ラムダさんからお咎めがくるかなと思ったけど、ラムダさんは気にかける事なく整理を続けていた。
 ラムダさんは、変装が得意らしい。らしいって言うのは、私の中では余りその印象が成り立っていないからである。
 初めて会った時、ラジオ塔で久しぶりに会った時、そして此処で会った時。
 私が此処に来だしてからは変装を解いているけれど、何かと変装をしているのは事実だ。でもやっぱり私の中で、変装が得意と言う印象は薄い。変装が好き、と言う印象はあるものの。
 だって今まで――騙された事が、ないし。


「ところでお前、どうして俺の変装見破れるんだ? ……正直、自信なくしそうなんだが」


 化粧箱を意味なく漁り、中に入っている道具を矯めつ眇めつしていた私に、ラムダさんは声をかけた。私はマスカラを片手に持った儘、ラムダさんを見てぱちくりと瞬いた。
 ――そう言われても、私にだって判らない。


「さあ……何となく、ですよ」

「何となくで見破られてるのか、俺の変装……」


 あ、落ち込んだ。悪い事言っちゃったかな。でも本当の事だから、他に言いようがない。
 この小屋で会った時こそ、泣き黒子とドガースのガスでラムダさんだと見破ったものの、チョウジタウンの基地とラジオ塔で見破ったのは偶々だ。あるいは、女の勘か。でもそう言ったら、ラムダさんは余計、何だよそれって言うんだろうな。


「そんなに似てなかったのか……」

「いえだからそれは、サカキさんもラジオ塔の局長も、私知りませんでしたから」


 似てる似てないって言われても、比べるデータが私の中にはなかった。
 今思えばラジオ塔局長の変装は似ていたかも知れないと思うものの、ロケット団ボスに至っては私は知らないのだからどうしようもない。
 もしかしたらロケット団が解散した三年前に、新聞の一面にでもボスの顔が載っていたかも知れないけれど、その時私は七歳だった訳で、七歳児が世間に興味を持つ訳もなくて、当然私は覚えていなかった。
 それに、チョウジタウンで初めて会った時は――相手がロケット団であるのなら、ボスだろうと幹部だろうと下っ端だろうと、関係なかった。兎に角あの時は、ロケット団をどうにかする事を目的としていたから。


「でもまあ……貫禄的に言って、ボスらしさは全く感じられませんでしたね」


 バトルをしても思った事だったけれど、とても人の上に立つタイプには思えなかった。一応幹部の一人だけど、幹部らしさすら正直余り感じられない。
 だってラムダさんって、どんな状況でも脱力してるんだもの。どうして幹部やってたんだろう。


「ところでそのボスって、強かったんですか?」


 変装が上手かったとして、ラムダさんのあの強さじゃ結局のところ、ボスじゃないと私は見破っていただろう。
 あの時は、ラムダさんが自分から似てない? とか言って正体を現したのだし。


「ボスは強かったぜ。何たって、トキワジムを隠れ蓑にしてたくらいだからな」


 へー、と感心する。それは初耳で、意外な話だった。
 トキワジムと言うと、カントー最後のジムにして、最強のジムだ。今は三年前とジムリーダーは違い、マサラタウンのグリーンさんが務めているのだけれど――まさかその前任が、ロケット団ボスだったなんて。知らなかった。


「……それでも子供に、負けたんですよね」

「ああ……まあな」


 ラムダさんの声が、少し苦々しく聞こえた。
 三年前子供に解散に追いやられ、三年かけて復活を謀ろうとしていたところを、私と言う一人の子供に阻止される。屈辱では、あるだろうに。


「今その人――どうしてるんでしょうね」

「さあな」


 ラムダさんは、淡々と答える。まるで忙しいとでも言うかのように、棚の整理に集中している。
 ラムダさんとしては、どうだったんだろう。どんな気分だったんだろう。考えてみる。
 ラジオ塔を占拠し、電波ジャックをしてまで――世界に対し呼びかけても尚、そのボスは現れなかった。連絡を寄越すとか、そんな事もなかったようだった。
 それはまるで――無視されているかの、ように。


「ラムダさんはこんな所にいますけど……他の人達は、どうしてるんでしょうね」

「知らねぇよ」


 興味がないと、切り捨てる。その様に、ずきりと胸が痛んだ。
 ロケット団を再び解散に追いやったのは――私だ。世間的に私の行動は正しかったのだろうと思うけれど、いざこうしてラムダさんを想うと、後ろめたさを感じずにはいられない。
 やっぱり首を突っ込まない方が、よかったのか。


「……私、ロケット団を解散させるってアポロさんが言った時――正直、焦ったんです」


 ぽつり、と語る。ラムダさんは整理する手を止めて、私をじっと見ていた。私はラムダさんを直視出来ず視線を逸らし、下を向く。
 ――ラジオ塔で最後の一人の幹部であったアポロさんと対峙し、バトルの結果打ち負かした時――その人は、言った。やはり解散するしかないのかと。
 そしてロケット団は言葉通り、解散した。まるでそこには誰もいなかったと言うように、姿を消した。


「二度とラムダさんと、会えないんじゃないかって」


 でもこうして――再び、無事に会えた。
 ラムダさんの変装を見破ったのはもしかすると、ラムダさんを探していたからかも知れない。まさかこんな所にいるとは思ってもいなかったし、見つけられたらいいとほぼ諦めた気持ちでいた為、カントーを巡りながら探していた訳でもなかったし、出会えたのは本当に嬉しかった。
 ラムダさんは変装を見破った私にぎょっとしていたけれど、私はラムダさんである事を見破った事が、信じられなかった。
 本当に――ラムダさん、なのかと。


「ラムダさん。電話番号交換してくれませんか?」

「え? う、うーん……」

「お願いします」

「……仕方ねぇな」


 また再び、見失ってしわないように。何処にいても、見つけられるように、出会えるように、会いにいけるように。
 ポケギアに、互いの電話番号を登録した。


「ありがとうございます」


 正直電話なんて、滅多に使わないけど。だってそんなに、仲良く沢山話したい相手なんて、そういないし。幼馴染のあの子にだって週に一回かかってくるくらいで――私からかける事もない。かける理由を、中々見つけられないと言うのもある。
 だからラムダさんの電話番号を知ったって、頻繁にかけると言う訳ではない。ただいつでも、声が聞ける。それが一番嬉しかった。










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( 後書き )

電話交換はうきうきですよね。
しかし何故ライバルと電話交換出来ないんだ……毎度思います。
そして主人公がラムダさんの変装を見破れるのは謎。
愛の力って事で! そう言うところが結構曖昧な儘書いてます(苦笑)