座敷に寝転がって、天井を見つめていた。 そんな私の隣では、ワニノコも私の真似をして寝転がっている。そして視界の端には、横たわる私とワニノコを呆れた目で見るラムダさんが映っていた。 私は両足を床から上げ、よっとと言う声と共に足を下ろし、その反動で体を起こした。その動作を、ワニノコも真似る。 「そう言えばラムダさんは、此処で何をしてるんですか?」 「……今更だな」 来る度に思っていた事だったけれど、今の今まで訊くのを忘れていたと言うか、訊くタイミングを逃していた。その内判るだろうと思っていたのもあったんだけど、結局今のところよく判らずにいる。 だから、思い切って訊いてみた。呆れを貰うのを承知して。 此処に来始めて一ヶ月くらい経つのに、私以外の人が来たところを見た事がない。 その日その時によって行く時間帰る時間いる時間が異なるし、泊まる事もないけど――夜を除けばほぼ一日中いた時だってあったのに、人の来る気配はまるでない。 三年前までお月見山には沢山のトレーナーがいて、化石目当てやピッピ目当てでくる人がいたらしいんだけど、今はそんな様子は微塵も残っていない。多分、化石はほぼ全部掘り起こされたのだろう。本当の原因は私の知るところじゃないが。 何にせよ、今のお月見山に、人がやってこないのは事実だ。いつもお月見山を通ってくるけど、洞窟の中で人とすれ違った事は一度もない。いや――此処に初めて来た時、と出会ったっけ。 「一応、店やってんだよ」 「ああ、だからミックスオレくれたんですね」 あの時――とのバトルを終えたばかりだった私のポケモン達に、ラムダさんはミックスオレをくれた。しかも思い出してみると、私は代金を要求されていない。サービスでくれたのだと今更ながらに気付く。 しかし――そうなるとラムダさんはあの時、どんな気持ちがあってどんな考えで、私にミックスオレをくれたんだろう。 余り認めたくないけど、あの時のラムダさんが墓穴を掘らなければ、私はラムダさんの正体を見破っていなかった。 ラムダさんが今、私に対してどんな気持ちでいるのか私は知らない。事あるごとにやってくる私をラムダさんは何も言わず迎えてくれるけれど、本当は鬱陶しいと、思ってるんじゃないか。私が初めて此処にやってきた時だって、正体に気付くなと――思ってたんじゃないか。 ラムダさんは何だかんだ言いつつ私の話しを聞いて付き合ってくれているけど、ラムダさん自身は多くを語らない。だから、判らない。ただいつも仕方ねぇなって顔をして、私の相手をしてくれる。 「……何であの時、ミックスオレ、くれたんですか?」 え? とラムダさんはきょとんとする。そして眉間に皺を寄せて目を上に逸らして、考える。私はそんなラムダさんをじっと見つめた。 だってあの時――ミックスオレを、貰わなければ。寧ろミックスオレをくれようとした事が、今思うと不思議で仕方なかった。 ラムダさんは元ロケット団幹部の一人で、それはつまり、悪い人で。今まで沢山、悪い事をしてきている筈で。私は実際、ラムダさんがラジオ塔の局長に成りすましていたのを――見た、訳で。 だからこれらの情報を合わせると、無償でミックスオレをくれるなんて、悪い人のする事じゃないんじゃないか。悪人ぶってただけって言うのも――あるにはあるだろうけど。 でもやっぱり何か、煮え切らない。 あの時ラムダさんには――知らぬふりをする選択だって、あったのに。どうして。 「何でって言われてもなあ……気になったからだよ」 「心配、してくれたんですか?」 「まあ、な。お前にボコボコにされた俺にとっちゃ、お前のポケモンが傷ついてるなんて驚きもんだったからな」 だから何かあったのか、心配になったんだ。少し照れ臭そうにしながら、ラムダさんはそう言った。 確かに、私達のポケモンが揃ってボロボロになるなんて珍しく、滅多にない。とのバトルや、グリーンさんとのバトル、そしてポケモンリーグへ挑んだ時くらいだから――相当限られている。 エーフィ一匹でやられたラムダさんにすれば、大地震でも起こったのかと思うものだったのか。 「そう……ですか」 「どうしたんだよ、いきなり」 「いえ……」 生まれかけていた小さな不安は、根付く前に枯れた。 私の質問の意図が判らずにいるラムダさんは、困った顔をしていた。その顔を見ると、自然と笑いが零れた。 「ラムダさんってやっぱり、優しいですね」 「やっぱりって……」 悪人ぶっていても、根本的なところは変わらないものだから――どんな行動をしても、滲み出てしまう。 ラムダさんが優しいって言うのは、、ラジオ塔で感じた事だった。ラムダさんは冗談ぶって、優しい俺様はとか言って、ラジオ塔局長のいる場所を教えてくれた。 普通の悪役なら幾らバトルで負けたとは言え、素直に教えないものだろうに。 実際、チョウジタウンの基地では合言葉を教えてくれたものの、それはラムダさんの声でなければ開かない合言葉だったから、優しいと見せかけて実は意地悪だった、と言う面を見せてはいる。 まああれも、あのヤミカラスがいるのを知った上でと考えると、敢えて合言葉だけ教えたとも取れるんだけど。だってあんなの、誰のヤミカラスだったか知らないけれど――合言葉を覚えている上にラムダさんの声真似が出来るなんていうのは、ラムダさん本人が吹き込んでいなければありえない。 何を考えて――あのヤミカラスにそんな事をしていたのか知らない。流石に、私の為じゃないのは判ってる。チョウジタウンで会ったのが――初めてだったんだし。 「いいや、俺は優しくなんかねぇよ」 「そんな事ありませんよ」 「優しい奴が、ロケット団幹部なんてやってた訳ねぇだろ」 「う……」 言われて、反論に詰まる。そんな私を見て、何故かラムダさんは溜息を吐いた。少しむっとなる。反論したい。そんな事ないって、叫びたい。 やれやれって言うようなラムダさんの様子が、私を子供扱いしているみたいで厭だった。 「じゃあ、ラムダさんはどうしてロケット団に入ったんですか? しかも幹部なんて……正直私は、似合ってないなって思ってました」 優しい人だと、思ったから。どうしてロケット団で、しかも幹部なのかは――実は結構前から疑問に思っていた。でも何だか訊くに訊けなくて、今に至る。 ロケット団に入ってるって言うのも疑問だったけど――それよりも遥かに、幹部であった事が判らなかった。 厭そう、と言うと違うものの、面倒臭そうだった。私に見せた優しさだって、あれが優しさじゃないのだとしたら――私にロケット団の復活を、阻止して欲しかった、そんな意図にも汲み取れる。 四人もいた幹部の中で、何故かとても気になったラムダさん。その理由は、恐らくそこにある。 四人の中で唯一、行動が異質だったから。 「それは……お前には関係ねぇ事だよ」 「……っ」 初めて受けた――拒絶だった。逸らされた視線に、絶望を覚えた。どんなに私が見つめても、ラムダさんは私を見てくれなかった。 何も、言葉は出てこない。声すら喉が詰まって痛くて、出てこなかった。代わりに――じわりと涙が滲み、やがて溢れ出した。それでもラムダさんは、私を――見てくれない。 「ラムダ、さん、なんて……嫌いですっ」 ただその言葉しか、出てこなかった。嘘しか、吐けなかった。ラムダさんも傷つけばいい。意地の悪い私には、そんな事しか考えられなかった。 そして私は立ち上がり、小屋を飛び出した。ラムダさんお制止は、なかった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 五話にしてこんな展開とは、ちょっと早いですね。 もっとまたーり行くつもりだったのに。 でも頃合的にこういう話を訊くのは序盤だと思ったので、 私としては別に予定外ではありません。 ラムダさんはツンデレみたいなところがあると信じてる。 |