第一印象は、余りいいもんじゃなかった。強い子供って言うのは、昔から好きじゃない。どうにも苦手で、邪魔をする子供がいるとランスから聞いた時点で、厭な気分になったていた。 アテネなんかは子供に負けて作戦に失敗し、すごすご帰ってきたランスを情けないとなじっていたが、俺はランスの話をただ無言で聞いていた。 元々幹部の一人だって言っても、俺にはアテネやアポロみたいに誰かを率いるタマはねぇし、ランスみたいに悪行に明け暮れるっつーのも何だか違う気がした。 一応俺にも部下はいたがほぼ放任で、下す命令の大半は適当にやれ、って言うもんばっかりだったから、俺についてくる奇妙な奴は少なかった。 だからまあ、なす事の大体に俺はやる気を持たず、動く気もないだろうと言う意図からか、アテネにはチョウジの地下基地で鍵の番をやっていろと言われた。怪電波を飛ばす電力部屋に入るには、俺の声で合言葉を言わなきゃならねぇっつー仕組みにしたからだ。 そんな役割を与えられたものの、結局矢張り暇を持て余してしまった俺の前に――そいつは現れた。 「俺様に勝ったら、合言葉を教えてやるよ」 考えたところで、俺の声じゃないと開かないんだが。バトルの前に敢えてその事を言わずに、やって来たその子供とバトルした。 正直なところ、負け戦だった。負けるのは戦う前から、判っていた。現れたそいつの顔を見て――ああ俺には敵う相手じゃないなと、悟った。 ああ言う真っ直ぐな目は、苦手なんだ。 「約束だ。合言葉を教えてやるよ。合言葉は、『サカキ様万歳』だ。まあ――俺の声じゃねぇと、意味ねぇけどな」 そう言い残し、俺はそこから逃げる。ヤミカラスを、その場に残して。あのヤミカラスが俺の声真似をし、合言葉を言えるって言うのを知った上で。 と言うか知った上でも何も、吹き込んだのは俺だ。 最初は暇潰しで覚えさせておいたんだが、忘れさせる暇もあるにはあった。子供が基地に侵入してきたと言う報せは、聞いてたからな。それでも俺はヤミカラスに合言葉を忘れるように指示しなかった。 別に、何か考えがあった訳でもない。ただ、何となく。そうとしか言いようがなかった。 本音を晒すなら――ロケット団復活も、気ノリじゃなかったからだ。 サカキ様は――三年前、たった一人の子供に負け、解散を決意した。 ランスの話を聞いた時点で、もしかして、と言う予感があったんだ。聞くところによると、三年前の子供とは違うみたいで――実際、違った訳だが。 また、子供にやられるのか。 自分一人が子供に負けるんだって言うんなら、別にあーあ、の一言で終わっていた。でもまた三年前のように、ロケット団が子供一人に解散に追いやられるのかも知れないのかと思うと、無性に遣る瀬なくなった。一気にロケット団と言うものが、下らないものに――思えた。 だからそんな気分にさせたアイツへの印象は、いいものになる訳がなかった それからと――言うもの。 チョウジタウンの地下基地を占拠されて、次のラジオ塔占拠に至るまでの間、俺はあの子供から逃げるように活動した。まあ活動したって言っても、やる気のねぇ俺に回ってくる仕事なんて、地味なもんばっかりで、ポケモンの捕獲や狩りは、主にランスが担当してたみたいなんだが。 だからそのお陰でランスは結構頻繁に、あの子供にやられたらしい。しかも話を聞く限り、邪魔をするのは俺が戦ったあの女以外にも、いるらしく。そしてそれは、アテネが戦ったドラゴン使いでも、ないようで。 その三人目の邪魔をする奴も、子供なんだそうだ。赤髪で、目つきの悪い十歳くらいの子供。そう言えばそんな話を、部下からも聞いていた気がする。そしてその話にも何故か、引っかかりを覚えたんだ。何でかは、今も判らない。 取り敢えず色んな奴から邪魔されながらも、俺達はとうとうラジオ塔の占拠に乗り出した。俺はラジオ塔の局長に変装し成りすまし、内部からの制圧に臨み、成功させた。そしてラジオ塔の電波を使い、何処かにあるサカキ様にメッセージを送っているところに――またアイツは、現れた。 変装はあっさり見破られ、バトルに雪崩れ込んだ。 「またお前か」 名前は――、だったっけか。 ポケモンリーグを目指してるって言ってたから、各地のジムを巡っているらしい。それだったら、強くて当たり前だよなと思っている内に、また負けた。 はあ、と溜息を吐く。そして、俺様は優しいからなと前置いて、本物の局長の居場所を教えてやった。他意は多分、なかった。負けたんだしな潔く、と言う考えがあったからかも知れない。 あるいは――こんな茶番を、さっさと終わらせたかったからか。本当のところは、俺にも判らなかった。ただやっぱり――幹部なんて俺らしくないよな、と思った。 ロケット団はそのあと、その子供の手で解散まで追い込まれた。アポロは恐らく、子供一人に負けるようではと、考えたんだろう。三年前の、サカキ様のように。 結局、サカキ様も――現れなかった。 「さて、これからどうすっかな」 相棒のドガースに訊いてみるものの、ドガースは何を? とでも言うかのような顔で俺を見ている。暢気なにやけ顔を見ると、やれやれと苦笑したくなった。 ロケット団が解散し、幹部の俺達は追われる身となった。まあ追われる身になっても、変装しちまえば俺なんかは結構楽で、自由に動けた。 取り敢えずジョウトからカントーへ、戻ってきてみた。けれど何か目的のあった訳でもなかった為、ハナダシティで手持ち無沙汰になった。 結論から言えば、何を思ったか俺はお月見山の奥にあった小屋で、店もどきを始めるんだが。 店を始めた理由もやっぱり特になく、お月見山の奥って辺りで人が滅多にこないのは判り切っていたんだから、その場所に決めた時点でやる気がないのははっきりしていた。 まあ誰か来ればいいだろ、と言う軽い気持ちで、利益も何も考えていなかった。第一、変装しても追われる身である為、そう目立つ事は出来なかったから――丁度よかった。 それから――ドガース達との暇な毎日を送り始めて、数ヶ月経った頃だった。 アイツが、やって来たのは。 「おいおい、マジかよ」 お月見山から出てきた女を発見し、遠目ながらもアイツだと判断すると同時に、ドガースをモンスターボールへ戻して、バレないように変装も改めて直してみた。 まあ結果的に、あっさりバレちまうんだが――何故だか判らないがアイツは、俺に会えた事を物凄く喜んだ。そう満面の笑みで喜ばれると、追い返す訳にもいかなくなった。 さてどうするかなあ――と悩んでいると、そいつは更にありえない事を言った。 「私、優しいラムダさんが好きです。ラムダさんは優しいので――好きです」 は、と言う事場しか口から漏れなかったのは言うまでもない。しかも冗談はよせ、と一蹴するより早く、冗談じゃありません、と真顔で釘を刺される。 どうやらそれは、本当に本音だったらしい。しかも質の悪い事にって言ったら若干の誤解を生むが――憧れとか友情とかそう言う類のものではなく、俺を一人の男として、だとか言うから流石に参った。俺にどうしろってんだよ、と言いたかった。 年齢的に言って、恋愛経験をしてこなかった訳じゃァない。まあずぼらだったから、長く付き合った試しもなかったんだが――流石に十歳、二十歳も年下の子供の事との恋愛なんてした事がない。 つーかそれは、犯罪だろ。 ロケット団やってた俺が言うのも何だが、倫理的に俺の気持ちの整理的に、手を出す訳にはいかなかった。 でも攻められると、どうしようもなかった。バトルでは負けているし、そもそも子供っつーのが苦手だった。だから取り敢えず、今は相手の俺への気持ちには敢えて目を瞑る事にした。また来ていいですかと言う問いに、駄目だとは――とても言えなかった。 それからそいつは、ちょくちょくやってくるようになった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) いきなりですが、ラムダさんの回想から。短いですけども。 しかしこう言う反対側の心情を書くのは楽しいです。 あの人についてどう思ってるんだろうとか。 |