ロケット団が解散したあと、お月見山でひっそり店をやっていた俺の前にアイツ――が現れて、数ヶ月が経った。 俺との再会を喜んだは、それからちょくちょくやって来るようになった。 最初はこの小屋で一緒に寝泊りしたいってふざけた事言い出したが、流石にそれは駄目だと断っておいた。 幾ら相手が二十歳も年下だって言っても女で、んで俺は男で、手を出したらロリコンと言われる事になるのを判っていたって、一つ屋根の下で一緒にいるのは無理だと思った。身が持つ自身が正直なかった。情けねぇ。 「ラムダさんは、どうしてロケット団に入ったんですか? しかも幹部なんて、正直似合わないと――」 いつものように店にやって来るのはだけで、暇を持て余していた。だらだら過ごしながら他愛もない話をするのがいつもだった。 そしてその時は、俺が優しいだとかそんな事をが言い出し、俺は否定し――は次に、そんな事を言い出した。 ――どうしてロケット団にいて、幹部なんてしているのか。 「それは、お前に関係ねぇだろ」 俺はそう言って、を言葉で突き放した。俺の言葉には――酷く、傷ついた顔をしていた。そんな顔を見ていられず、俺は視線を逸らした。その行動にもは傷ついたようだったが、俺にはを見る事なんて出来なかった。 こんな俺を見ているを、見れる訳がなかった。 は、知らないんだ。俺がどんなに汚れた人間で、今までどんな悪行をこなしてきたかを。知っていれば、優しいなんて俺に言う訳がない。が見た俺は――あくまで、チョウジタウンの基地でぐうたらしていた姿と、ラジオ塔で暇していた俺に過ぎない。 昔の俺を――知らないんだ。だから、耐えられなかった。 俺を優しいと思い込ませるのも厭だったし、かと言って俺の罪を知られるのも厭だった。何より、に嘘を吐くのが、一番出来なかった。俺なんかよりも優しいアイツは、たとえ俺の嘘に気付いたって、気付かないふりをするだろうから。アイツに嘘を吐かせる、くらいなら。 そう考えた結果の言葉だった。けどやっぱり駄目だな、俺は。色々考えて思いやったつもりが、結局傷つけてんだから。 「ラムダさんなんて、嫌いです……っ」 その言葉が嘘だってのは、考えるまでもなかった。問題なのは、俺の行動がアイツに嘘を吐かせる結果を作ったって事だった。 が俺を好きって言うのは、此処で再会したその時にはっきり言われた事だったし、それからやってくる度に、は態度でそれを示してきた。まあ示されても正直なところ、俺にはどうしようもなかったんだが。しかし自身も俺の考えが判ってるみたいに、俺には何も言ってこなかった。ただ自分の気持ちだけを、言葉にした。 そんなアイツの言った――嘘。多分あの言葉は、俺を嫌いだって言って一番傷つくのは俺じゃなく――アイツ自身、なんだ。アイツは自分の心に、嘘を吐いたんだから。 そして俺はずっと――アイツの気持ちを知っていたから、たった一言で傷つかなかった。寧ろやっぱり、にそんな嘘を吐かせた自分が、厭になった。 だから、出て行くを――止められる訳も、なかった。 「どうしろって言うんだよ……なあ?」 いきなり出て行ったに驚いているドガースに訊いてみるが、当然ながらきょとんとした目で見られる反応しかされなかった。まあ、判るもんじゃないよな。 溜息しか出なかった。がしがしと頭を掻くが、いい案が出る訳でもない。ただやる瀬なさを実感するだけだった。 「クソ……ッ」 どうしろってんだ――本当に。本当の事を言えばよかったのか? でも言って、どうなるってんだ。言ってしまえば――嘘じゃなく本当に、嫌われていただろうな。優しい俺なんて、幻なんだ。勘違いだ。 アイツに嘘を吐かせるくらいなら、本当の事を言って嫌わせた方がよかったかも知れない。その方が俺も、ロリコンだとか変な悩みをしなくてよかっただろうし、やっぱりアイツに俺は不釣合いだ。アイツにはもっと、似合う男がいる。 そう考えると――本当の事を言えばよかったなと、思った。でも何故俺は今になって漸く、そんな事に気付いたんだ。どうしてもっと早く、気付かなかったんだ。中途半端に突き放すよりも、そうすればよかった。そうしてやれば、よかった。 じゃあ――何で俺は、あんな突き放し方をしたんだ? 「いや……まさかな」 ふらりと――脳裏をよぎる感情があった。 しかし直ぐに、見て見ぬふりをする。ありえない以前に――それは夢なんだと言い聞かせ、俺はが開け放していった小屋の扉を閉めた。 そしてが出て行って――二週間が経った。 毎日ではなく、数日空けてくる事が多かった。多分数日空けていたのは、毎日来ると俺がうざがるんじゃないかと言う、アイツなりの気遣いだったんだと思う。 でも、一週間も来ないなんて事はなかったし、二週間も来ないなんて事は当然なかった。 二週間もやって来ない事については、やっぱり堪えたんだなとしか、思えなかった。もしかしたら、もう二度と来ないつもりなのかも知れない。 そうも思ったが――だからって俺がどうこうする理由はなかった。これで、いいんだ。俺はそう思っていた。 ロケット団は解散したとは言え、幹部だった俺は追われる身。こんな俺と付き合って、いい事がある訳がねぇ。 「何心配してんだよ」 最近――と言うかが来なくなってから、ドガースの元気がない。どうやら、寂しいらしい。でもだからって、何かを強く訴える事もしない。 ただ何か言いたそうに、俺の傍を漂っていた。でも言葉が通じない為、ふらふらと浮いているだけだ。 「ドガぁ……」 そう鳴きながら、窓を見る。最近は、いつも窓を見てばかりだ。窓を見て、洞窟からアイツが出てくるんじゃないかと、期待している。 アイツはもう来ねぇよと言っても、ドガースは聞く耳を持たなかった。 「ドガ、ドガー!」 「何だよ。探しに行こうってのか?」 窓を見るのをやめ、諦めたかと思っていると、ドガースはいきなり袖を引っ張り始めた。腕も足もない為、口を使って。 今までドガースが、俺からこれ程までに必至に気を引こうとした事はなかった。ただ何も言わず、ふよふよそこら辺を漂いながら俺についてきて、俺の命令に従った。悪行にだって反抗せず、躊躇いも見せなかった。 だから俺にこんな意志を見せたのは――初めてだった。それだけ、アイツが気になるって事か。アイツには、ポケモンを魅了する能力でもあるみたいだ。 「俺に……行けってのか」 真っ直ぐと俺を見て、ドガースは頷いた。その反応に俺は眉間に皺を寄せ、がしがしと頭を掻いた。ドガースの顔が不安になる。俺を怒らせたかと、不安になったんだろう。意見、しない奴だったからな。 しかしそんな不安を感じても――意志は変わらないようだった。 「どんなに言われたって、俺は行かねぇよ。行きたきゃ勝手に行け」 くるり、とドガースに背を向ける。ドガースが俺の言葉にどんな気持ちになったのか、知りたくなかった。 やがて、扉の開く音がした。風が背中に当たる。振り返ると、そこにドガースの姿はなかった。代わりに、開けっ放しの扉があった。俺の言葉通り、ドガースは勝手に行ったんだろう。 アイツを――を、探しに。 暫く、開けっ放しの扉を見ていた。僅かに開いたその隙間からは風が出入りするだけで、誰も入ってこない。 見慣れていた姿が、また一つなくなった。 モンスターボールにはまだドガースやラッタがいるにはいるが、出す気にはなれなかった。どうせ他の連中も、出て行ったドガースと同じ気持ちだろうから。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) こういう展開が好きです! 年の差だと更に美味しくなると思います! がしがし頭掻いて、あーもう! とか言ってればいいと思います! |