「俺は、間違っちゃいねぇ……」 来ないなら――来ない方がいいんだ。俺なんかと付き合ったって、害しかない。俺なんかを好きになり続けたって、見返りはない。 ロケット団は解散したと言っても、俺は追われる身であって――こんな所でのうのうと暮らしていても、悪行を働いた過去から逃げられる訳でもないし、消えもしない。 自分に言い聞かせるように、何度も自分の立場を考えた。昔の事を考えた。自分が――してきた事を。 そして、後悔した。最初は、悔いる自分を認めたくなかったが、考えていく内に、認めざるをえなくなった。あんな事をしてこなければ、俺はアイツと対等に、負い目もなく接する事が出来たのに。 後悔したって変わらないと判っていても、後悔は堰を切ったように溢れて止まらなかった。 そうこうしている内に、ドガースが出て行って一週間、アイツが出て行って三週間が――経った。一週間経っても尚、ドガースは帰ってこなかった。流石に他のドガース達も心配し始め、モンスターボールの中で出せと訴えていた。 いつかに話したように、出て行ったあのドガースは、俺のドガース達のリーダーだったからな。 「! あ、おい……!」 がたがたと動くモンスターボールを見ていると、不意にモンスターボールが開き、中からドガース達が出てきた。流石にそれには驚いて慌てて立ち上がり、小屋から出て行くドガース達を追いかけた。 ドガース達は、迷いなくお月見山へ入っていった。アイツらは浮いているものの、鳥ポケモンみたいに飛べる訳じゃないから、山は越えられない。 「どっちだ、クソ……ッ」 お月見山へ入るも、ドガース達を見失う。この暗闇の中であの紫色を見つけるのは至難だ。 取り敢えず、どちらに向かうか当たりをつけようと思うのだが、お月見山の出口はニビシティとハナダシティ側の二手に分かれている。どっちに行ったのか――手がかりもない。 「――あっちか」 西の方からドガースの声が聞こえた気がした。洞窟内は音が反響する為確実性はないが――他に手がかりはないんだ。 俺はハナダへ続く出口へ駆け出した。そして直ぐ、お月見山から出る。日の光が眩しく、一瞬眩んだ。何度か目を瞬いた時、視界にはドガースと、アイツがいた。 「お前……」 「ら、ラムダさん……」 どうしてこんな所にがいて――その周りに、俺のドガース達がいるんだ。 俺は信じられないものを見る目でとドガースを見て、は俺を控え目な視線で見上げていた。ドガース達はの傍を浮かびながら、じーっと俺の反応を待っている。 「久しぶり、だな」 「……はい」 数字の上では三週間だが、実際に俺が感じた時の流れは一年とも思えるような長さだった。 一日一日が長く退屈で、どうしようもなかった。 しかし不思議なもので、こうしてと会ってみると、と過ごした日々が昨日だったんじゃないかと言う錯覚を覚える。我ながら都合のいい感覚をしていると、内心呆れ果てた。 「元気に……してたか?」 「……はい」 気の利いた言葉が浮かぶ頭をしていない。寧ろ視線すら合わせられず、向けられている視線からすら逃げている始末なのだから、気の利いた事を言えっつーのが無理な話だった。 それに、空気がよくない。どうしたらいいのかさっぱりだ。 「ラムダさん、私――」 「」 話が続けられない俺を見て何を思ったのか判らないが、何か意を決したように口を開いたの科白を、俺は意図的に遮った。 はっとした表情で俺を見上げているを、俺は横目で見た。そしてはあ、と溜息を吐く。 「お前、俺が腐っても悪者だって事、判ってんのか」 優しいとか――お前は言うけど。そんなの、俺じゃねぇんだよ。俺を優しいなんて言うのは、俺の本質を知らない証拠だ。 ――そう、思っていた。でも。 「判って……ますよ」 「なら、何で――」 俺が優しいなんて言うんだよと、問いかける。 は、判っていると嘘で言うような奴じゃない。それに、俺を真っ直ぐ見る目が嘘のない事を十分に物語っていた。目は、口程に者を言うからな。 「ポケモンが好きな人に、心から悪い人なんていません」 はっきりと、断言する。そして周りを漂うドガース達をは見た。そしてドガース達は、ふよふよと俺の傍へ戻ってきて、嬉しそうな声で鳴いた。 ポケモンはトレーナーにモンスターボールで捕らえられると、トレーナーの指示を聞かなければならないが、必ずしも命令に従わなければならないと言う訳ではない。 モンスターボールには、ポケモンを従える能力なんてないからな。ただ誰がどのポケモンを捕まえたかを、記録するくらいで。 つまりポケモンがトレーナーに従うのは、ポケモン個体の意志だと言う事になる。 そしてこうしてドガース達に懐かれている俺は、ロケット団として悪い事をやっていたとは言え、根っこの所まで悪い人じゃないのだと――は思ったんだろう。あるいはもしかするとドガース達が、それをに教えたのかも知れない。 「そうなのかも知れねぇけど――だからってポケモンも人も痛めつけてきた事実が、なくなる訳じゃねぇぜ」 それでも――お前は。 そう言いかけて、言葉を呑み込む。一体俺は、何を期待してるんだ。じっと俺を見るの目を見ると、ぐらりと揺れる。 俺はコイツを、突き放した筈なのに。これ以上関わっていると後戻り、出来なくなるからと。俺は大人で、コイツは子供。俺は悪人で、コイツは善人。 そう思って突き放したのは――俺の方、なのに。 「判ってます。でも今はもう――悪い人じゃ、ありません」 「判らねぇぜ。またロケット団が復活するんだとしたら――」 「悪い事をするなら、私が止めます」 まるで何かしらの責任でも負っているかのように、は強い意志を見せた。に敵わない俺に、止められるのかよ、なんて科白は冗談でも言えなかった。 実際――止められない、訳で。そしてそれは俺のみならず、ロケット団そのものがってんだから、俺一人にはどうしようもない。 「正義を振り翳すのか? らしくねぇな」 「たとえ正義を振り翳していると見られても、ラムダさんにはもう、悪い事はして欲しくないんです」 ラムダさんに悪って、似合いません。 どうしてそんな言葉が出てくるのか、相変わらず判らなかった。は判ったと言っているが、本当に判っているのかともう一度尋ねて確かめたくなるが――悪にせよ正義にせよ、どっちも俺に似合わないんだって言うんなら判るかも知れねぇと思った。 ロケット団に入ったのだって、真面目に生きるのが面倒臭かった――からで。本当は、下っ端の儘でよかったんだ。 「すみません、ラムダさん。やっぱり私――ラムダさんが、好きです」 真っ直ぐ俺を正面から見上げて、祈るように手を組んでいる。対して俺は相変わらずに面と向かえず、横目でそれを見て、空に視線を逃がした。ぼりぼりと頭を掻く。 ――好きだって、言われてもな。やっぱり、揺らぐ。 「これから悪い事やらせないって言っても、今までやった事がなくなる訳じゃねぇんだぞ」 俺の重ねてきた罪が、なくなる訳じゃない。後悔したって改めたって。俺は追われる身。本当なら関わらない方がいいんだ。もし一緒にいるところが見つかったら、俺を匿っていたと思われて罪になる。 ――突き放した儘が、よかった。でも。 「それでも私は――憎めなかったんです」 悪い人だって言われても、悪い事をしているところを目撃しても。 は苦笑を浮かべてそう語った。悪事を目撃した時は止めなければと言う気持ちになって行動に出るものの、その人間の言葉や気持ちに触れると、色々思うらしい。 特にポケモンバトルを通じてポケモントレーナーへの気持ちが直接伝わってきて、揺らぐのだそうだ。 「駄目だなって、時々思うんですけど――でもだからこそ私は、ラムダさんも好きで、も好きなんだと思います」 ――ポケモン好きに、悪い人はいないから、か。救いようのないお人好しだな。 やれやれと思いながら、その半面でって誰だよと思っていた。いや、今までとの会話の中でちょくちょく出てきていた名前では――あるが。 何で今、俺以外の名が出てきたのか。そのってのも、悪い事をやった奴なのか。 ずっと前から、その名前に引っかかりを覚えていた。どっかで聞いた事が――あって。でも、思い出せない。 まあ、いいか。今考えたって判るもんじゃない。また今度、に訊けばいい事だ。だからその為にも――。 「判ったよ。もう少し、お前と付き合ってやるよ」 どう言う風の吹き回しなんだろうかと自分でも思う。しかし実際、のいない三週間がある意味地獄だったって言うのは、認めるしかない事実だった。 本当は何度も、探しに行こうかと思った。ポケギアばかり見て、電話があるんじゃないかと期待していた。電話しようかとも、大いに迷った。このボタンを押して――謝ればと。 結局ドガースに背中を押されるまで、意地を張っちまったが。でもは俺の馬鹿な意地にも何にも触れず、宜しくお願いしますと言って笑った。 可愛いな、ちくしょう。手放せる訳がねぇ。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) 仲直りしました。たった三話だけの展開(苦笑) ラムダさんはロリコンとして開き直ればいいのに。 いやでも、変態要素はラムダさんにはないと思うので、 一人悶々ロリコンになる事を悩んでいればいいと思います。 次に何か展開があるとしたら、赤い人関連です。多分。 あるいは銀色の人かな。まだ未定。 |