05*
旅の途中の分かれ道




 空の静寂を乱して飛んで行く空の要塞を見ながら、一同はレイジの車に乗ってそれを追いかけていた。
 車に乗っているのは、レイジ、シンジ、サトシ、ヒカリ、タケシ、ノゾミの六人だ。その中にピカチュウとポッチャマが混ざっている。
 シンジとは昨日、キッサキジムへやって来たところに出くわした。
 因みにレイジとはつい先程、キッサキシティのポケモンセンター前でレイジがシンジを見つけて話しているところで、サトシ達と出会った。何でもレイジはトバリシティからキッサキシティまで、預かっていたポケモンをトレーナーの元へ返す為に来ていたらしく、その帰りにシンジを見つけたのだそうだ。
 そしてトバリシティで会って以来だったレイジと話していると、地響きが鳴り、空がいきなり暗くなり、何かと思って見上げてみれば、頭上を通り過ぎて行くピラミッドがあったのである。
 それはサトシにとってもレイジにとってもシンジにとっても、忘れられないものだった。
 空中要塞バトルピラミッドは、カントーの各地に置かれているバトルフロンティア施設の内の一つである。バトルピラミッドのフロンティアブレーンはジンダイで、バトルに勝てばブレイブシンボルが貰える。
 サトシもレイジも、ジンダイとは戦っていた。サトシはシンオウへ来る前に、レイジは育て屋になる前――トレーナーを、やめる前に。


「ねえあれ……ピラミッドの近く、何か飛んでない?」

「……リザードン、じゃないか?」


 ヒカリの言葉に、皆の視線がそちらへ向く。運転するレイジも、前を注意しつつそちらを見やった。
 確かに、バトルピラミッドの傍を付いて行くかのように飛ぶ影がある。バトルピラミッドのあとを追っている為、此方とも然程距離が離れている訳でもないから、その影はよく見えた。
 オレンジ色の巨体と、尾の先で燃える炎。リザードンだ。しかし、野生でその姿を見るのは珍しいし、何よりこのシンオウでは特に見ない姿だ。


「……あのリザードンは……」


 もしや――と言う心当たりがレイジの中にはあった。しかし何故、と思ったものの、答らしきものは直ぐに見付かった。
 言葉の続きを発するより先に、バトルピラミッドが着陸を始めた。同時にそのリザードンの姿も、森の向こうへ消えてしまう。
 それ以降全員黙った儘、車はバトルピラミッドが降りたであろう場所へ向かった。


「ご苦労様、リザードン」


 ピラミッドの降りた場所へ到着すると、そこにはリザードンと女性がいた。
 その女性にサトシは見覚えがあった。いつかトバリシティで出会った人物だ。レイジの知り合いと記憶している。
 車が到着したのを見ていた彼女は、降りてきた者達を見て嬉しそうに目を輝かせた。


「レイジ君がいるのも不思議だけど、更にサトシ君達にシンジ君までいるなんて、どうしたの?」

「キッサキジムに挑戦に来てたんです」

「ああ、そっか」


 揃いに揃っているサトシ達を見て、彼女は目を丸めていた。けれど話を聞いて、納得する。そう言えばシンオウのジム巡ってたんだねと確認する。
 ――と話していると、ドードリオに乗ってスズナがやって来た。
 スズナは彼女を見つけるなり、目を見開くくらい驚いた。特に、彼女の傍に立つリザードンに少し怯んでいる様子だった。
 と言うのも、ジムバッジを懸けたバトルで、彼女のリザードンに過去盛大にやられてしまったからである。相性が悪かったのは勿論の事、その元々の強さも半端なかった。スピード、パワー、忍耐強さ、どれを取っても付け入る隙を見つけられなかった。


「それでさんは、何故此処に?」

「ピラミッドと一緒に来たみたいだけど」


 サトシとレイジの問いかけに、彼女――は、ああうん、と頷いた。
 今更になるが、彼女の名前はと言う。けれど本人はいつも名乗るのを忘れる為、彼女を知っているが名を知らないと言う奇妙な事がよく起こる。
 ただサトシは、彼女と出会った時に彼女が去ったあと、レイジから聞いて知っていた。


「ジンダイさんに呼ばれたの。今あたしがレジ系三体持ってるから」


 レジロック、レジアイス、レジスチル。ホウエン地方の遺跡に眠っていた伝説のポケモンの三体。ジンダイとのバトルの中で、その一体一体にサトシは苦しめられた。
 その三体を、何故彼女が持っているのか。
 それは――トバリシティへ来た時に、言っていた。元々その三体を探してホウエンを旅していたところ、ジンダイが持っているとリラから聞き、ジンダイと戦って勝ち、借りたのだと。
 しかしそれはいいとしても、何故今此処に、その三体が関係してくるのか。


「私もね――キッサキ神殿に入る為にレジ三体借りたんだし、レイジ君とトバリで別れたあと、直ぐ此処に来る予定だったのよ」

「今迄寄り道してたのかい」

「寄り道しようと何処へ行こうとあたしの勝手でしょ」


 むくれる彼女を見ていると、年に似合わずまだまだ子供だなと思う。共に旅をしていた頃から変わらない。ポケモン達の、彼女に対する心配も相変わらずなのだろう。
 やれやれと思うレイジを視界の隅に置いて、彼女はシンジへ視線を移した。


「シンジ君は、あたしなんて眼中になし、か」

「……生きてたのか、アンタ」

「開口一番失礼だね。あたしはちょっとやそっとじゃ死なないよ。ちょっと危なかったけど」


 彼女との付き合い自体は、レイジが旅をし、シンジも旅をし始めた頃からものである。
 そしてシンジが最近彼女と出会ったのは、214番道路だ。
 見つけられるなり連行されて、おくりの泉の発見にその時は付き合わされた。あの時隠れ泉と言われていた湖は、現在おくりの泉と名付けられていた。
 ただその時付き合わされたのは発見までで、湖にあった洞窟へは、彼女一人で向かってしまった。
 結局、振り回されて終わり――その後シンジは彼女のあとを追いもせず、その洞窟の探索をするつもりだった予定を取り消し、踵を返して元来の目的地だったノモセシティを目指した。
 彼女が一人で向かった洞窟には、屈強なポケモンばかりが棲息していると知った上で、彼女を置いてきた。
 しかし彼女とて、それを知らなかった訳ではない。強いポケモンが棲息しているのだとは、そこにいた調査チームの中の一人の少年から聞いて知っていたのだ。それでも彼女は向かい――その後をシンジは知らなかった。知る理由も、なかったが故に。
 そもそも、彼女の強さはシンジが心配するものではなかった。彼女のポケモンバトルの強さには、普段の言動や子供のような行動とは裏腹に、目を見張るものがある。だから彼女にすら勝てない自分が、心配するものではないと思った。
 とは言え、まさかこんな所で会うとは思ってもなかった。


「ところでシンジ君、君はもしかして今から、ジンダイさんに挑むつもりなのかな」

「え!」

「……シンジ」


 彼女と会話をする中でもシンジは、彼女など目もくれないと言うような態度でバトルピラミッドを見上げていた。
 しかし流石に彼女の指摘には、反応せざるをえなかった。そして彼女の的を射た発言に、シンジと彼女以外の誰もが驚きの声を上げる。特にレイジは、シンジを心配げに見やった。


「挑むなとは言わないけど、覚悟はしておいた方がいいよ。今迄のバトルとは、レベルが違うから」

「……言われなくても」


 バトルフロンティアの中で、最強とすら言われるジンダイ。その強さは半端なく、彼との戦いでトレーナーの道を挫折した者は多い。
 そしてその中に――レイジも、含まれている。
 ジンダイに負けレイジがトレーナーの道を挫折するその瞬間に、シンジも彼女も立ち会っていた。だからシンジがジンダイに挑戦しようとしている事に、彼女は思うところが少なからずあった。
 しかし彼女の気持ちを、シンジは拒絶した。アンタには関係ないと、声音に含有されていた。


「懐かしい顔が揃っているな」


 何も言えない空気になり始めていたそこへ現れたのは、ジンダイとその弟子だった。
 ジンダイは先ずサトシとタケシを見、それからレイジを見た。ジンダイと視線が合った時――レイジの目が一瞬だけ細められたのを、は見逃さなかった。
 レイジがポケモントレーナーをやめ、育て屋を転身する理由になったジンダイとのバトルを見た彼女だからこそ、あの時の彼の気持ち、そして今彼の心に過ぎった想いが判った。
 けれどジンダイはそれには気付かず、直ぐに視線をシンジへ移していた。
 いつかレイジとのバトルを見ていた弟かと言って、シンジを凝視する。そして向けられる目に宿る意味に、気付く。


「バトルをお願いします」

「……いいだろう」


 シンジは今日、スズナとのジムバトルを控えている筈だった。しかし誰も、その予定を破った事に咎めはしなかった。
 誰もがジンダイの繰り広げるだろうバトルに興味を持っていたが故に。それは、ジムリーダーでありシンジにバトルを挑まれたスズナも含まれていた。
 話の流れで、シンジとジンダイのバトルを全員が見る事になった。勿論レイジも、も。
 ついて来なさいと言うジンダイの言葉に従って、一同はバトルピラミッドの中へ入った。サトシ達が広い観客席の中心へ座る中、レイジとの二人だけは皆から離れた端に座った。
 フィールドに立つジンダイとシンジを、皆が見つめる。


「シンジ君は何で行くつもりなのかな?」

「今の手持ちは確か、エレブーとブーバー、ハリテヤマ、リングマ、コドラ、ニドキングだった筈だ」

「ニドキングにコドラ! 判ってるねえ」


 怪獣マニアの気持ちが判るのではないかと時折思ってしまうくらい、彼女はニドキングやボスゴドラ、バンギラスへ愛を注いでいる。勿論、他のポケモンへの愛も変わりないのだが。
 思わず勢いで立ち上がった彼女が、今にもフィールドへ降りて行きそうに見えた為、腕を掴んで止めておいた。


「行っちゃ駄目だよ」

「行かないよ。人のバトルに水を差すなんてしないもん」


 しそうだから、止める訳で。
 一々考えて行動するタイプではない為、もし割って入ってしまった時――彼女は勝手に躯が動いて、と言って苦笑するだろう事は目に見えていた。


「レイジ君は、挑戦しないの?」

「俺はもう、トレーナーをやめたから」


 その言葉に彼女は押し黙る。いつになく真剣さを帯びるその様子に、レイジはちらりと彼女を見た。
 真っ直ぐとシンジを見つめている。あの時も――レイジが、今シンジが立っている場所に立っていた時、彼女は今のように自分を見つめていたのだろうかと考える。そして呆気なく負けてしまった姿を見て、何を思っていただろう。


「まさかシンジが、今、ジンダイさんと戦うなんて思ってもなかったよ」

「うん、そうだね。あたしも正直、早計じゃないかって思ってる」


 ポケモンバトルとしての実績は揃ってきていると思うものの、矢張り年上として見ると、シンジはまだまだ未熟だと思ってしまう。かと言って、彼女が特別強いと言う事でもない為、直接思った事を口にはしない。
 もしかしたら、十分力をつけて来ているのかも知れないし。


「シンジ君には何かが足りない、とは思わないんだけどね、あたしは。彼も彼なりにやってるし、ポケモンへの愛も持ってて注いでる。ポケモンバトルが勝ち負けじゃないって事だって、判ってる。負けて得られるものがある事も」


 それでも何か引っ掛かっていて、不安を抱かせる。
 シンジとバトルをした事がない為、シンジがどんな思いでバトルをし、勝ちを得ようとしているのか。彼女にははっきりした事は判らない。ただ旅の道中で彼を見る事はあり、彼と誰かとのバトルなら何度か見た。
 だから少しなら、判っているつもりだった。


「シンジ君は、負けて進む事を知ってる。着実に前へ進もうとしてる」


 シンジの性格から考えると、余り思い浮かばない姿だろうと思う。全ての勝ちにばかり拘っているような誤解を招かせる態度を、彼は取っているのだから無理もない。
 けれど彼が目指しているのは、目先の勝利ではないのだ。負ける事に、彼は負い目も何も感じていない筈だ。その瞬間に、悔しく思う時はあれど。


「君と違ってシンジ君は、前に進もうとしてるよ、レイジ君」


 君はどうなの? そう尋ねられて、彼女はその瞳にレイジを映す。真っ直ぐ己を射抜くその双眸に、レイジは何も言えず、ただ視線を逸らすしかなかった。
 そんな態度の自分に、彼女は失望したに違いないと――思いながら。


「……大体、君の弟でありながら間違う訳がないのよね。ポケモンが好きである事に、間違いがある訳ないじゃない」


 少しの沈黙のあと、ゆっくりと彼女は再び言葉を紡ぎ始めた。彼女はレイジから視線を移して、シンジを見つめていた。そして気付けば始まっていたバトルを、その瞳で見やる。
 ジンダイの一体目は、レジロックだった。レイジが戦った時と同じだ。対するシンジは、相性の悪いブーバーを引っ込めて、即座にハリテヤマに交代させた。


「シンジ君、勝つと思う?」


 静かに、確かめるように問う。
 彼女の横顔を見ても、彼女が何を思っているのか判らなかった。いつもなら感情豊かなその表情は、無色だった。










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( 後書き )

修正版です。修正版と言っても、ほぼ書き直しですがね!
ところどころ同じ文章を入れてはいますけど、まるで別物。
アニメ本編を見る前に書いた妄想小説はこちら
予告で全てを予想して書いたものの、上手い具合に大外れ。
まあ本編を見てこれ書いてますが、こっちも妄想酷いですね判ってる(笑)
あと中途半端ですが、何処探してもいい区切りポイントが見付からなかったので。
区切りポイント作りながら書けよって話ですね判ってました……!
でもやっぱり、区切らずに行きたいなあと思うのが基本でして。
区切ったらどうしても雰囲気が崩れちゃいますからね。
それと、五話にしてやっと名前決めました。遅いしあんまり使ってないしと言う。
まあそれは基本、いつもの事ですよ。名前打つより「彼女」って書いた方がしっくり来るんですよね。
しかし一年ぶりくらいになるので、夢主の口調が今一判りません。
女の子らしいような、中性的なような。そもそも一人称あたしで二人称君って(苦笑)