Nを追いかけてポケモンリーグへ行き、四天王に勝ち、チャンピオンであるアデクさんのいる場所へ辿り着いた時、既にNとアデクさんの決着は着いていた。 Nが――勝っていた。 Nは、現れた私に対して、相応しい場所でどちらが英雄か決めようじゃないかと言った。すると突然地響きが鳴り始め、静まった頃にはポケモンリーグは何かの建物に囲まれていた。 それは――Nの城、だった。 Nは私に城で待っていると言い置いて先に行ってしまった。 私は取り敢えずアデクさんの治療をしなければと思ったけれど、チェレンが来てくれて、アデクさんの事はチェレンに任せる事になった。 Nの城へ向かえば、今度は七賢人の内ゲーチスを除く六人が私の前に立ち塞がった。私が戦う気構えでモンスターボールを取り出そうとすると――そのタイミングで、勢いよくジムリーダーの皆さんが現れ、六人の賢人達を食い止めてくれた。 私はその隙に――その場をジムリーダーの皆さんに任せて、城の奥へ進んだ。 「Nの心は、ピュアでイノセント……」 城のある部屋にいた平和の女神と名乗る女性に話を聞くと、彼女はNについてそう話した。 Nは――イノセントで、ピュアな心の持ち主なのだと。しかしそれは、ゲーチスがそう育つように環境を限定し、世界から彼を締め出した結果なのだと言う。 「悪意ある人間に裏切られ虐げられ傷ついたポケモンと共に、彼は育ちました」 人間によって傷つけられ、人間に恨みを持つポケモンだけをゲーチスは選んで彼の傍に置いた。 それを聞いて、私は納得した。 ――だからNは、知らなかったのだと。彼にとってゲーチスが作った世界では、ポケモンは常に人を憎み、人との共存を拒んでいたから。共に生きようとするポケモンは――彼の傍には、いなかった。 もしNが外の世界を知っていれば――そんな事も、なかったのだろうけれど。 ゲーチスがそんな現実から、彼を引き離した。 これもひとえに――Nがこの世界の王に、なる為に。Nをこの世界の王に、する為に。 でも――そうなると。 「Nの意志は……何処にあるの?」 これがゲーチスの作り出した、筋書きなのだとして。ゲーチスの思惑通り期待通り、Nはレシラムに認められた。今彼は、あと一歩でこの世界の王になれる位置にいる。 ――でもそれは本当に全て、ゲーチスが計画したから、だろうか。 世界はそこまで都合よく出来ていない筈だ。幾ら色々な事が思い通りに運ぼうと。伝説のポケモンの意志やNの意志までを、操れる筈がない。 ゲーチスが――企んだ、くらいで。 だから、つまり。 「Nの意志もやっぱり……此処に、あるのね」 何処までがゲーチスと同じで違うのか判らないけれど、少なからずNの意志もこの現実に形となって現れている。でなければ、レシラムが彼を認める訳がない。 Nがゲーチスの意志でしか動いていないのなら。 でも実際にレシラムは、Nの声に気持ちに応えた。それはつまり、Nの意志を認めたと言う事だろう。 たとえ最初から全てゲーチスに作られた世界で過ごそうと――Nにも、意志はある。彼は、考える事をやめない。 ――だからきっと、ゲーチスの計画も多分、彼は知った上で今此処にいるのだろう。そうに――違いない。 それに――悲しいけれど、人に傷つけられているポケモンがいるのは事実だ。ゲーチスがNに与えたと言うポケモンが、ただNに与える為だけに傷つけられたのだとしても。 余り認めたくない事実だけれど、ポケモンを傷つけるのはゲーチスだけではない。 だから矢張り尚更、Nの意志は意志として強く私に訴える。 たとえゲーチスが何を企もうと、NはNの意志でこの先にいる。 「……此処は」 城の更に奥に進むと、子供部屋があった。 電車の玩具やバスケットボールやスケボー台など色々な玩具が部屋に放り出されていた。此処にいないのは、部屋の主だけだと言うように。 「はる、もにあ?」 転がっていたバスケットボールを手に取り見てみると、マジックでハルモニアと名前が書かれていた。今まで会ったプラズマ団関係者で、ハルモニアと言う名前の人はいなかったように思う。 そう言えば――Nは、Nなんだろうか。ふとそんな事を、今更思った。 Nと言う名前は、本当の名前なのだろうかと。 『N』なんて――まるで、記号みたいだ。数学上では、仮定の数字として数式に組み込まれる任意の自然数Nが名前なのは――何か意味が、あるのだろうか。 「……傷痕」 バスケットボールを床に置いて、もう少し部屋を見回してみる。するとスケボー台に、無数の引っかき傷がある事に気づいた。 人の爪でつけたものとは思えない――野生的な、爪痕。 子供の部屋には似つかわしくないもの。 「まさかとは……思う、けど」 この部屋の――主は。 玩具達が帰りを待つ、持ち主は。 つい最近まで遊んだ形跡があるのが気になるものの――考えてみれば、プラズマ団に彼より年下の人はいない。 そう考えると、それが答以外の何物にも考えられなくなった。 「……N」 そっと、スケボー台の爪痕に触れる。 此処にこれ程の爪痕がつけられているけれど、一緒に部屋にいたNはどれ程傷つけられたのだろう。 人間に傷つけられ、信じる事をやめたポケモンは、一心不乱に人間全てを拒んだ筈だ。本能的に。 ポケモンの声が聞こえるとは言え、Nも人間。ポケモンにすれば、自分を傷つけた人間と――同じ。 だからきっとポケモンは、これ以上傷つけられたくないと言う恐怖から――Nも攻撃した、可能性が高い。 こんな環境で、Nは育った。育てられた。 世界も知らず。 ――でもNは、揺らいでいた。暗に、私に自分を止めて欲しいと言う程に。 「判ったわ……今行くからね、N」 鞄の中のダークストーンが熱くなっている気がした。まるで――Nの気持ちに、私の気持ちに呼応するかのように。 私はNの部屋を見る事で、最後の決心がついた。Nの気持ちが、判った。Nが私に、期待している事も。 私はその部屋を出て、今度こそ――Nのいる場所へ、覚悟を決めて向かった。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) Nの部屋は中々衝撃的でしたね。ポーキーじゃないけど(@マザー) でも結局あの女神二人は何だったんでしょうね。いきなり出てこられても。 まあNが洗脳されてたのは割と早い段階から疑いましたけどね。 何この電波って言うより、洗脳されてるっぽいなあと。 でも最終的にNの意志はあるみたいで、私はほっとしました。 |