09*
此処からが、再スタート




 問題は――どうやってゼクロムを、ダークストーンの状態から目覚めさせるかだった。見つけられたのはいいが、目覚めてくれなければどうにもならない。
 誰か知っていそうな人でもいればと考えたところで、アデクさんに思い当たる人物がいるようだった。
 伝説によれば、ゼクロムとレシラムはドラゴンタイプを持つポケモンらしく、ドラゴンポケモンについてなら、ソウリュウジムのジムリーダーが何かを知っているかも知れない、と言う事だった。
 話はそれで纏まり、アデクさんは取り敢えずNを止めてみると言って、ポケモンリーグへ戻っていった。
 そして私は今、ソウリュウシティへやって来ていた。
 結論から言うと――ソウリュウジムジムリーダーであるアイリスは、何も知らないとの事だった。
 いや、個人的にはそれよりも正直、ヒウンシティで出会ったアイリスがまさかソウリュウジムの――イッシュ地方最後のジムリーダーを務めているとは知らず、とても驚いた。
 でも――紛れもない、事実らしい。彼女は幼いながらにドラゴンポケモンと心を通わせ、戦うのだと言う。
 子供だからと――舐めてかかってはいけない相手だった。
 当然、実力を全てぶつけた、つもりだった。
 ――でも。


「負け……た?」


 相手はドラゴン使い。私の主戦力であるツタージャは草タイプ。
 一方的に相性が悪かった。でもそんな相性の悪さなんて、今までにも撥ね退けて勝ち進んできた筈だった。
 ――なのに私は、私達は、負けた。
 圧倒的な強さを見せつけられるような、負け方だった。


「……ツタージャ?」


 直ぐにポケモンセンターへ行って治療して貰い、ジョーイさんからもう大丈夫ですよとポケモン達の入ったモンスターボールを返して貰った。
 しかしどう言う訳か、ツタージャのモンスターボールがボタンを押しても反応しない。いや、カチッと言ういつもの音はしているし、一瞬赤い光がボールから漏れるけれど、まるで途中でキャンセルされているみたいに、モンスターボールが開かない。
 つまり、ツタージャが出てこない。


「負けちゃったのが相当ショックだったみたいね」


 ジョーイさんに相談すると、困った様子でそう教えてくれた。一応モンスターボールをこじ開ければ外へ出せるには出せるらしいけれど、それはなるべくしない方がいいとの事だった。
 ツタージャの命に関わるようなら、その手段に出なければならない。でももう少しツタージャが自分で出てくるように説得してみてと言われた。


「ツタージャ……貴方は十分、戦ってくれたわ。今回負けたのは、私の作戦ミスよ。貴方はいつも通り、全力で私に応えて戦ってくれた……」


 いつも私は、ツタージャに助けられてばかりだった。ツタージャなら負ける筈がないと、過信し過ぎていた。絶対的な強さは、ないのに。
 寧ろツタージャは進化していないその小さな姿で、戦っているのだ。勝てない敵がいても――何ら、不思議ではない。
 それでも力不足を補って勝利に導くのが、本来私の役目だった筈だ。
 なのに私は、ツタージャが次に欲しい指示を出すだけで、自分で勝つ為の作戦を余り考えた事がなかった。
 私は――甘えていた。


「今度は、私が貴方の背中を押すわ。だから……もう一度、私にチャンスをくれない?」


 モンスターボールは動かなかった。
 私はそれ以上何も言わず、じっとモンスターボールを見つめた。すると――モンスターボールが、かたり、と動いた。私ははっとして、じっと見やる。
 そしてぱしゅ、と音を立ててツタージャがモンスターボールから出てきた。


「ツタ……」

「ツタージャ!」


 私の目の前に立ちながら、ツタージャはいつになく申し訳なさそうにしていた。視線に落ち着きがなく、そわそわしている。
 私はしゃがんで、ツタージャの視線と合うようにした。


「ほら、ツタージャ」


 手を差し出し、首を傾げてツタージャの様子を窺う。
 私は今まで何度もツタージャに背中を押され、手を引っ張って貰っていた。でも本当に対等でありたいなら――今こそ、今度こそ、私がツタージャの小さな手を、引いていかなければ。


「一緒にいこ」


 ツタージャに手を伸ばすのは、これで二回目。
 初めて――ツタージャと会った時が、一回目。そして今が、二回目。
 此処からが、再スタート。
 立ち止まったならまた歩き出せばいいだけの事。立ち止まっても寂しくない。私達は、独りじゃないから。


「……ツタ!」


 小さな手が、私の掌に重ねられた。私はその小さな手を、大事に大事にゆっくりと握り返す。
 私が笑えばツタージャも笑う。私が歩けばツタージャも歩き出す。私達は共に旅するパードナー。
 別れる訳にはいかない。
 だからこの先も―― 一緒に居続ける為には。
 手を合わせて力を合わせて、進まなければならない。










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( 後書き )

何番煎じと言われようと……!
ツタージャの小さな手が好きです。
そして進化していけば行く程小さくなっていくと言う……。
ツタ子はプライドが高いので、多分ちょっとした負けでも相当凹むんでしょうね。