13*
此処まできたら




 Nとのバトルは私の勝ちで幕を閉じた。
 私に負けてしまったNは、これからどうするのだろうと思っていると――部屋の外にいたゲーチスが入ってきた。
 私は反射的に身構える。


「まさか……貴方が勝ってしまうとは」


 そのゲーチスの科白に、私は何故かぞっと悪寒を覚えた。
 元々ゲーチスは何かを企んでいると思って疑っていたけれど、それでもいきなり向けられた冷たい目に身が竦んだ。


「ハルモニアの名を継ぎながら、ただのポケモントレーナーに負けてしまうとは……恥ずかしい限りですね」


 ハルモニアと言うと、あの部屋にあったバスケットボールに書かれていた名前だ。そしてゲーチスは、Nを見据えてその名を口にした。
 つまり――判っていた事だけれど、矢張りあの部屋はNの部屋だったと言う事になる。
 最近まで遊んだ形跡のあった玩具。Nは最近まで――旅に出るまであの部屋で傷ついたポケモンと共に住んでいたのだろうか。
 ゲーチスの、思惑通り。計画通り。


「N……貴方が彼女と戦いたいと、自分が本物の英雄か確かめたいと言ったあげくこの結果とは、愚かにも程がありますね。ポケモンと育った歪で不完全な人間が。貴方のせいで私の計画は滅茶苦茶です」


 ゲーチスの計画とは何なのか。
 Nは、ポケモンの為に人のいない世界を望んだ。そしてゲーチスは、Nがそう望むような環境を与え、育ててきた。つまり少なからずゲーチスの計画の意図は、そこに含まれていると言う事になる。
 しかし――今のはゲーチスの冷たい科白から、Nが心から望むような事は決して、望んでいないだろう事が汲み取れた。
 一体――何を、考えて。


「何故私が此処まで貴方を育ててきたと思っているのですか!」


 ――ゲーチスは自分の計画の為に、Nを世界から隔離してあの部屋で育てた。
 人によって傷つけられたポケモンを敢えてNの傍に置いて、Nがこの世界の王になると自ら望むように。
 ゲーチスがいなければ、Nは普通の人生を送っていたのだろうか。
 でも――今までの事がなくなってしまうと、私はNとこうして出会えなかったと言う事になる。私は今の私を見つけられず、悩み続けていたかも知れない。
 Nと出会って、ツタージャの気持ちを知って、少しずつ私は私を見つけていった。
 もしもを語ったところで、もし――セレビィの時渡りで過去へ飛んで過去を変えられたとしても、それはきっとやっちゃいけない事だろう。
 今私が此処にこうしているのは、今までの積み重ねがあるから。Nと出会った事も戦った事も全て含めて、私は今此処にいる。今の私は出来ている。
 それで言うとゲーチスには、出会うきっかけを与えてくれてありがとうと言うべきなのかも知れない。


「同じハルモニアの名を継ぎながら、本当に恥ずかしい限りですね――使い物にならない」


 ゲーチスのその言葉に私は、色々な衝撃を受けた。
 同じ、ハルモニアの名前を継いだ。それはつまり、Nはゲーチスの息子で、ゲーチスはNの父親と言う事か。
 そしてそのあとの科白。それは仮に父親だとしても――父親の言っていい、言葉なのか。まるでNが、道具であるかのようなその言い方は。
 ゲーチスがNを育ててきたのは父としてでもあったのだろうけれど、それ以上に、息子だったから尚更自分の好きなように育てていいのだと――思ったから、なのだろうか。
 もし、そうだと言うのなら。いや、もしそうだと言わなくても。


「Nは……道具じゃないのよ」

「おや」

「Nは私と同じ、人間なのよ! 道具じゃないわッ」


 早口で頭がよくて優しくて背が高くてかっこよくて。ちゃんと、感情を持っている。ポケモンの事を一番に考えてて。
 Nが道具な要素なんて何一つない。
 観覧車が好きな、ちょっと変わった男の子なだけ。


「いいえ、Nは私が作り出した道具です」

「言うに事欠いて、貴方は……!」


 Nのいる、目の前で。Nを見据えて――そんな、酷い事を。
 怒りの余り、モンスターボールを握る手に力が篭った。掴み過ぎて手が痛い事に気づき我に返る。
 でも、怒りはそれで収まらなかった。


「私と貴方のどちらが正しいか、勝負しますか?」


 ゲーチスはにやにや笑いながら私の手元を見た。
 手に握る、モンスターボール。今にもポケモンをぶつけてやりたいと言う考えが見抜かれているようだった。
 そして――Nとの戦いで傷ついたばかりな為、ゲーチスに立ち向かう余力は残っていなかった。


!」

「……N!」


 ぶつけてやりたいけれど、ぶつけられない。
 現実と望みの狭間で葛藤していると、いきなりNに名を呼ばれた。はっとして顔を上げると、Nは私に向けてある物を投げた。
 ――回復の薬。
 Nが私に投げて渡してくれたのは回復の薬だった。これで、私のポケモン達は全回復した。


「僕は何も言わない……けど君の言葉は、嬉しかったよ」


 小さく私に笑いかけたその表情に、思わず私は言葉を失ってしまった。
 ああ本当に、Nは解放されたのだと思った。ゲーチスの計画からも、この世のしがらみからも、高過ぎた理想と容赦のない真実からも。


「ジャノ!」

「どうしたの? ジャノビー――」


 Nの回復の薬で全快したジャノビーが、私の足を突いてきて、何かと思って見下ろすと――そのタイミングで、またジャノビーの姿が光り始めた。
 少しずつ体が変わり、ツタージャからジャノビーに進化して小さくなった手は、とうとうなくなってしまった。


「ジャ、ローダ……」

「ジャロ!」


 怒涛の進化。それだけ、ツタージャをジャノビーをジャローダを、突き動かす理由があったのだろう。
 驚く私を目の前に、ジャローダは私の更に向こうにいるゲーチスを睨んだ。明らかな敵意。


「今度こそ……このバトルでお終いよ」

「ジャロ!」


 モンスターボールを構える。此処まできたら、もう負けられない。此処まできたら、もう立ち止まらない。
 ゴールは、目の前にある。










.Back   ( top )   Next

( 後書き )

原作(ゲーム)と違います。
ゲームだと、Nがやられただけでゲーチスの目的はまだ費えない、
みたいな感じなんですけど……。
何か結構ぐだぐだですみません。
取り敢えずどうにかこうにかサザンドラに勝てるよう考えます!
私は相当苦戦させられた口です。