ポケモンを解放しろ。モンスターボールで捕まえる事は、ポケモンから自由を奪っているに他ならない。 その言葉を聞いて一番どきりとしたのは、多分私だと思う。 ポケモンの声が聞こえなくなって。ポケモンの心が判らなくなって。 一度彼らに別れを告げ離れた私に、彼らを縛り自由を奪う権利があるのか。私はアララギ博士からツタージャを貰ったけれど、ツタージャの意志はそこになかった。 私はツタージャのパートナーとして、相応しいのか。 ポケモントレーナーになった理由もなく、旅に出た目的も曖昧で、次に何処へ行けばいいのかも知らない私は、ただただポケモン達の枷になっているのではないか。 旅に出たばかりで、右も左も判らない。ポケモン達を不安にさせてばかりで頼りない。 ツタージャはこんな私といて、幸せ、なのか。 ツタージャの声が聞きたい。ツタージャの、気持ちが知りたい。 ポケモンバトルでは、ツタージャは私の指示通り動いてくれる。時折バトル中に振り返って私を見るけれど、何が言いたいのかは判らない。戸惑いながら、私はツタージャに技の指示を出す。 「、大丈夫?」 「え? あ、う、うん、大丈夫。大丈夫よ、ベル」 「……なら、いいんだけど。無理はしないでね。、直ぐ無理しちゃうんだから」 旅の途中で偶然会ったベルに、ポケモンバトルのあとそう言われた。どきりとして焦っていると、思わぬ嘘が口から突いて出ていた。 大丈夫なんて。 大丈夫じゃない事は、一番私が知っているのに。何を根拠に、大丈夫なんて言ってしまったのか。 ベルを心配させたくなかったのは事実だけど、嘘を吐く方が厭な行動だし、いつもの私なら素直に直ぐ悩みを聞いて貰っている。 旅に出たの一緒で、初めの第一歩も三人一緒だった。 けれど今はそれぞれ、自分の思う儘に思う道を旅している。 だから私は、頼るのを遠慮してしまった。ベルとは直ぐに別れて、私はまた一人になった。 「次……何処に、行こうか」 行く当てもない。追いかける誰かもいない。 今の私は、広い海にぽつりと一つ浮かぶ島。動けない。東から昇る太陽を見て、西から沈む太陽を見る。 「ツタ!」 「つ、ツタージャ?」 「タージャ! タっ」 立ち止まっていると、足元にいたツタージャが不意に私の足をつついた。見下ろして私の目とツタージャの目が合ったかと思うと、ツタージャはもう片方の手で先を指差す。 そしてぐいぐいと、片足も引っ張られる。 半ば転ぶように、私は一歩を大きく踏み出した。 何事かと、ぱちくり目を瞬いてツタージャを見つめる。 「……行こうって、言ってくれてるの?」 私の足から手を離し、ツタージャは私より更に数歩進んで私を見上げた。 丸い三白眼は、何かを語るように私を見据えるけれど、私には矢張り、その視線に込められた言葉が判らなかった。まだ、声も聞こえない。 大きな一歩を踏み出してからまた動かなくなって、ただ見つめ返すだけの私の足元へ、ツタージャは再び戻ってきてぐいぐいと私の足を押した。 「ツタ!」 声には、何処となく怒りがあるように思った。けれどそれ以上は判らない。その場に、座り込む。 視線の低くなった私の前に、ツタージャは立った。小さい体が、目の前にある。真正面から、私を見据える小さい体の大きな目。 「タージャ!」 「え、ちょっとツタージャ!」 「タ!」 変わらず私が困惑していると、ツタージャはいきなり私の手を掴んできて、突然引っ張られた私は立ち上がるにも立ち上がれずこけた。 これはツタージャも予想出来なかったようで、驚いていた。こけた私を、目を丸めて困った様子で右往左往するツタージャは、何だか可愛かった。 そしてやがて、ツタージャの片手が私の前に差し出された。 「一緒に行こうって……言って、くれるの?」 私に貴方の声は、聞こえないけれど。間違っていないのなら、頷いて。その差し出さした手の意味を、教えて。 ――ツタージャは私の心に応えるように、こくりと静かに頷いた。 「……ありがとう」 差し出された小さな手に、私の手を重ねる。 起き上がってからもう一度視線を足元へ落とすと、変わらずツタージャは私を見上げていた。何かを訴える、眼差しで。 「一緒にいて、くれるのね?」 「ツタ」 当たり前とばかりに、私の問いかけにツタージャはつん、と鼻を突き上げた。思わず笑いが零れた。 一歩踏み出すと、小さなパートナーがついてくる。立ち止まると、小さなパートナーも立ち止まって、私を見上げる。どうしたのと、君は言う。 大丈夫と私が言えば、君はまた歩き出す。私はその小さな背中を追いかけて、隣を並んで歩く。 君が此処にいてくれるのは、君の意志だから。 .Back ( top ) Next ( 後書き ) またもやふわっふわした出来になりました。 ツタ子の小さな手が凄い好きです。可愛いよね。 ポケモンとかメダロットとかいいところは、 パートナーになる子が手を引っ張ってくれるってところでしょう。 解放だ何だ言っても、ポケモンはロボットじゃないので、 モンスターボールで捕まえても反抗出来ない訳じゃない筈です。 なのでついてきてくれると言う事には、ちゃんとした意志があると常々思います。 |