02*
一緒に行こう




 ポケモンを解放しろ。モンスターボールで捕まえる事は、ポケモンから自由を奪っているに他ならない。
 その言葉を聞いて一番どきりとしたのは、多分私だと思う。
 ポケモンの声が聞こえなくなって。ポケモンの心が判らなくなって。
 一度彼らに別れを告げ離れた私に、彼らを縛り自由を奪う権利があるのか。私はアララギ博士からツタージャを貰ったけれど、ツタージャの意志はそこになかった。
 私はツタージャのパートナーとして、相応しいのか。
 ポケモントレーナーになった理由もなく、旅に出た目的も曖昧で、次に何処へ行けばいいのかも知らない私は、ただただポケモン達の枷になっているのではないか。
 旅に出たばかりで、右も左も判らない。ポケモン達を不安にさせてばかりで頼りない。
 ツタージャはこんな私といて、幸せ、なのか。
 ツタージャの声が聞きたい。ツタージャの、気持ちが知りたい。
 ポケモンバトルでは、ツタージャは私の指示通り動いてくれる。時折バトル中に振り返って私を見るけれど、何が言いたいのかは判らない。戸惑いながら、私はツタージャに技の指示を出す。


、大丈夫?」

「え? あ、う、うん、大丈夫。大丈夫よ、ベル」

「……なら、いいんだけど。無理はしないでね。、直ぐ無理しちゃうんだから」


 旅の途中で偶然会ったベルに、ポケモンバトルのあとそう言われた。どきりとして焦っていると、思わぬ嘘が口から突いて出ていた。
 大丈夫なんて。
 大丈夫じゃない事は、一番私が知っているのに。何を根拠に、大丈夫なんて言ってしまったのか。
 ベルを心配させたくなかったのは事実だけど、嘘を吐く方が厭な行動だし、いつもの私なら素直に直ぐ悩みを聞いて貰っている。
 旅に出たの一緒で、初めの第一歩も三人一緒だった。
 けれど今はそれぞれ、自分の思う儘に思う道を旅している。
 だから私は、頼るのを遠慮してしまった。ベルとは直ぐに別れて、私はまた一人になった。


「次……何処に、行こうか」


 行く当てもない。追いかける誰かもいない。
 今の私は、広い海にぽつりと一つ浮かぶ島。動けない。東から昇る太陽を見て、西から沈む太陽を見る。


「ツタ!」

「つ、ツタージャ?」

「タージャ! タっ」


 立ち止まっていると、足元にいたツタージャが不意に私の足をつついた。見下ろして私の目とツタージャの目が合ったかと思うと、ツタージャはもう片方の手で先を指差す。
 そしてぐいぐいと、片足も引っ張られる。
 半ば転ぶように、私は一歩を大きく踏み出した。
 何事かと、ぱちくり目を瞬いてツタージャを見つめる。


「……行こうって、言ってくれてるの?」


 私の足から手を離し、ツタージャは私より更に数歩進んで私を見上げた。
 丸い三白眼は、何かを語るように私を見据えるけれど、私には矢張り、その視線に込められた言葉が判らなかった。まだ、声も聞こえない。
 大きな一歩を踏み出してからまた動かなくなって、ただ見つめ返すだけの私の足元へ、ツタージャは再び戻ってきてぐいぐいと私の足を押した。


「ツタ!」


 声には、何処となく怒りがあるように思った。けれどそれ以上は判らない。その場に、座り込む。
 視線の低くなった私の前に、ツタージャは立った。小さい体が、目の前にある。真正面から、私を見据える小さい体の大きな目。


「タージャ!」

「え、ちょっとツタージャ!」

「タ!」


 変わらず私が困惑していると、ツタージャはいきなり私の手を掴んできて、突然引っ張られた私は立ち上がるにも立ち上がれずこけた。
 これはツタージャも予想出来なかったようで、驚いていた。こけた私を、目を丸めて困った様子で右往左往するツタージャは、何だか可愛かった。
 そしてやがて、ツタージャの片手が私の前に差し出された。


「一緒に行こうって……言って、くれるの?」


 私に貴方の声は、聞こえないけれど。間違っていないのなら、頷いて。その差し出さした手の意味を、教えて。
 ――ツタージャは私の心に応えるように、こくりと静かに頷いた。


「……ありがとう」


 差し出された小さな手に、私の手を重ねる。
 起き上がってからもう一度視線を足元へ落とすと、変わらずツタージャは私を見上げていた。何かを訴える、眼差しで。


「一緒にいて、くれるのね?」

「ツタ」


 当たり前とばかりに、私の問いかけにツタージャはつん、と鼻を突き上げた。思わず笑いが零れた。
 一歩踏み出すと、小さなパートナーがついてくる。立ち止まると、小さなパートナーも立ち止まって、私を見上げる。どうしたのと、君は言う。
 大丈夫と私が言えば、君はまた歩き出す。私はその小さな背中を追いかけて、隣を並んで歩く。
 君が此処にいてくれるのは、君の意志だから。










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( 後書き )

またもやふわっふわした出来になりました。
ツタ子の小さな手が凄い好きです。可愛いよね。
ポケモンとかメダロットとかいいところは、
パートナーになる子が手を引っ張ってくれるってところでしょう。
解放だ何だ言っても、ポケモンはロボットじゃないので、
モンスターボールで捕まえても反抗出来ない訳じゃない筈です。
なのでついてきてくれると言う事には、ちゃんとした意志があると常々思います。