03*
強いことの意味




 ポケモンバトルが、苦手だった。
 今では考えも固まって認識も変わったけれど、それでもまだ少し、苦手意識を引き摺っているところはある。
 モンスターボールに入れて、無理矢理戦わせている。
 プラズマ団の言葉が、未だ心に突き刺さっていた。
 ツタージャはツタージャの意志で私についてきてくれているし、バトルをしてくれている。
 けれどトレーナーの持つポケモン全てが、ポケモンバトルに出される事に同意している訳ではない。中には争いが嫌いなポケモンもいる。けれど私達トレーナーは、そんなポケモンの気持ちを無視して、戦わせているのではないか。そう思えて、ならなかった。
 どうしてツタージャは私について来てくれるのか。どうして戦ってくれるのか。声が聞こえない私には、判らない。
 カラクサタウンで出会った、ポケモンの声が聞こえると言う少年――Nが、気になって仕方なかった。
 彼は私と戦ったあと、とても驚いていた。そんな感情を持つポケモンがいるなんて、と。
 一体Nには、ツタージャのどんな声が聞こえていたのだろう。
 ポケモンバトルは苦手だったけれど、嫌いではなかった。あの高揚感は、そうそう忘れられるものではない。
 でも私が戦って――傷ついたミジュマルを抱えるベルを見て、私の頭は白くなった。勝って嬉しかった筈の気持ちが冷めて、途端に不安でいっぱいになった。
 私が攻撃を指示すれば、相手のポケモンをツタージャは攻撃して、相手を傷つける。かと言って攻撃しなければ、私についてきてくれているツタージャが傷つく。
 だから苦手で、複雑だった。
 熱いバトルは好きだけれど、それは私が相手を傷つける事を喜んでいるに他ならないのではないかと、思えて。
 成り行きでジムバッジを集める事になったものの、集めて何になるのか。強さが認められたところで――何に、なるのか。
 ツタージャは、立ち止まる私の手を引いて進むよう急かすけれど、何処に向かって進めばいいのか、未だに判らない。見えない。
 私はどうして、旅に出たのか。


「ツタっ」


 考え耽る私を、またツタージャが急かす。せっかちなんだからと促されるが儘に一歩を踏み出すも、またそこで立ち止まる。
 進めない。何処に行けばいいのか、何をすればいいのか。
 私の――夢は。
 旅の目的は。
 ――ポケモンの気持ちを少しでも、判るようになる為。声が再び聞こえるようになる為に、私は旅に出た。ポケモンと触れ合いながら、支え合いながら旅をする事で、見えてくるものがある筈だから。
 実際、旅を始めたばかりの頃に比べれば、ツタージャの気持ちも大分判るようになったと思う。ツタージャは恐らく今、考えに耽って立ち止まっている私に、苛々している。
 見上げる視線に、鋭い痛みを感じる。


「ツタージャは強く、なりたいの?」

「ツ? ……ツタージャ、タっ!」


 私の問いに一瞬目を丸めたものの、直ぐに小馬鹿にした顔になる。当たり前でしょ、と言うような。
 強く――なりたかったのか。それは、知らなかった。それじゃあポケモンバトルをしない訳にはいかない。ジムを進んで、強くなっていかなければならない。
 けれどその為には、沢山のポケモンを――傷つけて、いかなければならない。
 強くなって、ツタージャは何がしたいのだろう。どうして、強くなりたいのだろう。
 チェレンは、チャンピオンを目指して強くなると言っていた。でもチャンピオンになって、何になるのか。チャンピオンとは一番強い人だけれど、強さの全てがチャンピオンじゃない筈。
 じゃあどうして、弱くちゃいけないの? 誰にも負けない事が、強さなの?


「ツ? ツタツ、タージャ!」

「え? ツタージャ、どうし……」


 いきなりまた足を押され我に返れば、ツタージャは真剣な目で私を見て、前方を指差した。
 そこには、先程までいなかったプラズマ団と、泣き叫ぶ男の子がいた。プラズマ団はヨーテリーを捕まえていて、恐らく男の子から奪ったものと思われた。


「な、何してるんですか!」

「僕のヨーテリーっ」

「奪ったポケモンを返して下さいッ」

「返して欲しけりゃ俺に勝ってみな!」


 言われるまでもなく、既にツタージャは戦闘態勢に入っていた。
 ポケモンバトルは苦手だったけれど、それを理由に悪を逃がす訳にはいかない。
 ポケモンバトルの腕は、苦手な気持ちなりに磨いていた。せめてツタージャが傷つかないよう、相手のポケモンが酷い痛みを感じたりしないようにする戦い方を考えてきた。
 そしてバトルは、私の勝ちで終わった。
 プラズマ団は男の子のヨーテリーを返して逃げていった。ツタージャは追いかけたかったみたいだったけれど、私はそれを制した。無駄なバトルはしたくない。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

「わんっ」

「気をつけてね」

「うんっ」


 男の子は元気よく走り去っていった。
 私はプラズマ団に勝って、男の子のポケモンを奪い返した。それは先程まで抱えていた疑問に対するヒントになった。
 弱い者を――護る為に、強さはあるんじゃないか。
 私が弱くてプラズマ団に勝てず負けていれば、男の子のヨーテリーは奪い返せなかったし、私の大切なツタージャも取られていたかも知れない。
 強かったから、勝てた。
 強さは――大切なものを、護る為に必要だ。


「ツタージャは、どうして強くなりたいの?」

「ツタ?」

「……私は、大切なものを護る為に、強くなりたいよ」


 今初めて、強くなりたいと思った。
 強い事の意味が見えた。強くなれるのなら――強く、ならなくちゃ。大切な時に、力が足りなかったなんて事には、ならないように。
 チャンピオンになる必要は、ないだろうけれど。ただ自分がどれ程強くてどれ程のものを護る力があるのか知る必要は、あるかも知れない。
 ポケモンバトルが苦手でも、大切なものを失くすのは――もっと、厭だから。


「一緒に強くなろうね、ツタージャ」

「ツ!」


 今一度互いの手を合わせて、心を一つにする。まだ声は聞こえないけれど、少しずつ判り始めている気がする。
 君は私と同じ、気持ちなのかな。










.Back   ( top )   Next

( 後書き )

育て屋さん所のイベントっぽいですけど、チェレンが消えた!(笑)
内容はまあ、王道で代わり映えもなく。
でもポケモンの主人公って、敵に向かっていくストーリーという
ストレートな分、素直で純粋なイメージがあります。
特に金銀とBWとルビサファの主は活気なのもあって、素直なんだろうなあと。
因みにリーフさんは堕落、ヒカリは無表情なイメージです(笑)
何ででしょうね!
BWはストーリーがある分、堕落した性格が想像出来ません。
堕落した主人公なら関わらないと思うんだ……。
その為私の中でリーフさんにとってのR団は金づるです。初代の性。