06*
背中を押された




 フキヨセジムでフウロさんに勝ちバッジを貰ったあと、戦ってくれたポケモンの治療をして貰うのもあって、ジムからポケモンセンターへ向かうつもりだった。
 しかしジムを出ると――そこには、Nがいた。
 出てきたところにいたので、私はとても驚いた。どうやらNは、私が出てくるのをジムの外で待っていたらしい。呆気に取られる私をよそに、彼はいつもの早口で話しかけてきた。


「判り合う為と言い、トレーナーは勝負で争いポケモン達を傷つけ合わせる。僕だけなのかな。それがとても苦しいのは」


 その言葉に、私はどきりとした。それはずっと――私も、思ってきた事だ。そしてNはどう思っているのだろうと、考えていた事だ。
 私にポケモンバトルを挑んできた時のNはいつも、辛そうな表情をしていた。ポケモンの声が聞こえるのなら尚更、辛いのだろうと思っていた。けれど彼には、その辛さを押し切ってでも――やりたい事があるのだと、思った。


「私も最初は……辛かった。でも、ツタージャが一緒に戦いたいって、言ってくれたのよ」


 ツタージャが戦う事の必要性と大切さを教えてくれた。弱くては――辛いからと戦いを避けていては、いざと言う時に大切なものを護れない事を、教えてくれた。
 不必要に強くなり過ぎる事はないのだろうけれど、私は無力でいたくなかったから。
 色々と矛盾していると言われようと、私は戦う事も大切だと思っている。
 争って――初めて判る事も、あるのかも知れない。


「……そう。でも僕は、余計な争いをせずに世界を変えたいんだ。それが僕の夢」

「どうやって?」

「ライトストーンかダークストーンからドラゴンポケモンの眠りを醒まし、トモダチになって僕が英雄である事を世界に認めさせれば、皆従うと思うんだよね」

「そんな――」


 あの時、レシラムとトモダチにならなければならないと言っていたのは、この事なのだろうか。
 けれど私は、それで人々がポケモンが素直に従うようになるとは思えなかった。ドラゴンポケモンに認められて、英雄になったとしても――そこまで世界を、変えられるだろうか。


「でも、ポケモンの皆が皆、人々から離れたいと思ってる訳じゃないと思う」


 そうだ、と本当に断言出来る自信はないけれど、少なからずツタージャは、意志を持って私の傍にいて、私を支えて共に歩み、戦ってくれる。
 私のツタージャに限らず、私が今まで戦ってきたポケモントレーナーの殆どは、そんな関係を持っていた。
 Nは一体今まで、どんなポケモンと会って、声を聞いてきたのだろうか。


「そうだね。結果、君達のようにお互い向き合っているポケモントレーナーを引き裂く事になるのは、少し胸が痛むよ」


 Nは少し、寂しそうに笑った。
 Nとはこうして時々会って少しだけ話すだけで、詳しくは知らない。でも何だか、カラクサタウンで初めて会った時より少し、変わった気がした。
 もしかするとNは――迷って、いるのだろうか。私の勝手な、想像だけれど。
 観覧車でのあの科白は、私に追いかけて止めに来て欲しいと言っているかのようだった。Nも少しずつ、本当に自分が正しいのかどうか、自信を失くし始めているのかも知れない。
 迷いながらそれでも、ポケモンの中にはやっぱり人々に傷つけられているものもいるから――夢を、叶えない訳にはいかない。そう、思っているのだろうか。
 そうだとしたら――そうだとするなら、尚更私にはどうしようもない。私はNよりも、迷うしかない。
 ポケモントレーナーが全て、私達のような信頼し合った関係ではないのは事実だ。広い世界の何処かでは、ポケモンを道具のように扱い虐げる人達もいる。
 そんな人達からポケモンを――救う、為には。


「僕の事、間違ってると思う?」

「……判らない」


 間違っているとも、間違っていないとも言えない。
 間違っていると言ったとて、じゃあ傷つけられているポケモンを助ける為にはどうすればいいのかと言うと、それが判らない。
 私一人でどうにか出来る話でもないし、手伝って貰ってどうにか出来る話でも、多分ないだろう。


「でも私は……ツタージャと、離れたくない」


 折角、此処まで一緒にきたのに。今更、離れ離れになるなんて出来ない。私の足にしがみつく小さな手を振り払えない。手放せない。
 一人では、此処までこれなかった。一人では、この先も進めないだろう。
 ツタージャが傍にいてくれたから、私は今此処にいる。


「その想い一つが強ければ十分な場合もある……君はもう少し自分自身と、ツタージャとそれぞれ向き合う必要があるみたいだね」


 そうかも知れない。私はまだNのような、はっきりとした意志を持てていない。
 ツタージャがNの考えに対してどんな気持ちなのかも――よく、判っていないのに。私にはまだ、声が聞こえないから。


「ポケモンは嘘を吐かない。もう少し、よく聞いてみる事だね。尤も――自分に嘘を吐いていたら、無理だろうけどね」


 そう言い置くと、Nはいつものようにさっさと何処かへ行ってしまった。
 ――結局彼は、何をしにきたのだろう。こんな所で私が出てくるのを待って、何を言いたかったのだろう。確かめたい事でもあったのだろうか。今の会話の中で、Nが確かめたかったものとは何なのだろう。
 まるで――背中を押されたような、気分だった。









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( 後書き )

若干イベントの会話がズレてる気がしなくもない(笑)
Nがポケモンバトルは辛い、と言う話は確か電気石の洞窟での会話だったと思います。
Nの話は正直理想過ぎて、形にするかと言う話になると難しくなる。