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泣いて夢が現実になるのなら
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彼女の強がる性格は、根元にある臆病さの反動である――。 悪魔がいなくなってからと言うもの、彼女のその臆病なさまを垣間見る事が多くなった。ただの人間に過ぎない――それを彼女は、痛感している様子もあった。 「僕は、是非さんには弱さも見せて頂いて、更には頼って頂けたらと思います」 「君に弱味を握られるような真似はしない」 それとなく頼ってくれたらと意思を伝えてみるが、矢張り厳しい視線と共に拒絶されてしまう。 弱味を握られるような真似はしない――そう言いつつ、帰ってきてからというもの、弱さを曝け出してしまっている事は、彼女自身自覚している筈だ。 怒ったような視線を向けながらも、悔しそうな色が滲む様子から判った。 「……それにやっぱり、今まで強くあろうとした自分をなかった事にするように思えて、出来ないんだ」 もう一度視線を逸らし――どうにもならない現実を歯痒く思うかのように、彼女は歯を食いしばる。 一度泣いてしまえば、積み上げてきた強がる心が全て崩れてしまうのではないか。それまでの人間だったのだと、見限られてしまうのではないか。 そんな不安が彼女の心を鬩ぎ立てていた。 悪魔がいなくなって、正真正銘ただの人間になってしまったのだから、強くなろうと思っても届かないその限界がはっきりしていても。 一度外れた道から強制的に現実へ戻されて、それで簡単に受け入れられる訳がない。 「人は弱い生き物なんですから、そこまで弱さを拒絶しなくてもいいと思いますが」 今更、彼女が人間らしい弱さを見せてもと――思って言うが、彼女の表情が明るくなる事はなかった。 魔族であるゼロスとの格差を彼女が感じているのは、異世界から彼女が帰ってきてからと言うもの、何度も告げられた事だ。 「そう、人は弱いんだ……君達魔族と比べれば尚更。だから余計……泣いて弱さなんて、曝け出せないんだ」 泣いてしまえば、自分が本当にそこら辺にいるちっぽけな人間なのだと、証明してしまう事のように思えて。 ゼロスにとっての特別さが、なくなってしまうのではないかと。 何度も何度も思った事だった。どう考えても何か策はないかと思いを巡らせても、現実は夢のように動かない。 「まあつまるところ、子供の頃から強がってきた結果、今更子供のようにはなれないってところかな」 悔しさを引っ込めて、空元気だと自覚しつつ彼女は笑う。 弱さはこれ以上出せない。今でも十分、昔の自分に比べれば曝け出してしまっている方である。堪えながら、少しずつ少しずつ心が溢れている。 強がりがいつまで持つかは――彼女にも、判らない。 「そう言えば成長するにつれ、警戒心は強まっていきましたね。何故か判りませんが」 彼女がそこで強がって話を終わらせるならと、ゼロスも彼女の意思に乗って話題の方向性を変える。 普通は付き合いが長くなればなる程、信用度が上がっていく筈である。だが彼女には、特に何もしていないにも拘らず、警戒され始めて今に至っている。 魔族の本質を判りながら信頼する人間はいない。あのリナ=インバースでさえ、魔族の特性を信用しているに過ぎない。 魔族に気を許せば、それは悪魔以上に魂を吸われる事に繋がる。 「君の本質が見えてきた結果、襲われるかもと思ったからね」 「つまり、異性として認識していただけたと」 内心、どう言う心境の変化だっただろうかと昔を彼女は振り返ってみてが、ゼロスの話す事に対し、それらしい出来事や理由を思い出すには至らなかった。 取り敢えず今思っている事を適当な理由に挙げてみれば、面倒臭い返しで戻ってきた。 「……命の危険を感じたからね」 「えと、あの」 一瞬無駄にポジティブでどう捌いてやろうかと考えたが、意図した路線を突き進む事にしてみる。 そうすれば、何故かゼロスは少し取り乱した。彼女が余りに真顔だったので、まさかその儘貫かれるとは思いもしなかったようだった。 「異性としても何も、性別ない癖にって一々言わなきゃいけないの?」 ゼロスの困った様子を見ながら、彼女は溜息を吐いて指摘する。 一々取り合う自分は物好きだ――そう思わずにはいられない。だがこうして会話をするのが好きで問答しているのだから、物好き度合いは今に始まった事ではない。 「まあ僕は、異性としてさんを見ていますから」 先程見せた戸惑いや困惑はなかったとばかりに、いつもの調子でいつもの笑みを浮かべて堂々とのたまう。 何度、魔族らしくないと思えばいいのか彼女も頭を抱えてしまう。 「魔族の癖に、気持ち悪い事言うな」 「魔族の癖にって酷いですね」 「事実だ。いや、魔族が気持ち悪いのは今に始まった事じゃなかったね」 生きとし生けるものの天敵なのだから、魔族はそもそも生物ではない。生物を食らう側の存在――特に感情豊かな人間に対しては、負の感情を食らう為の餌と見ている魔族も多い。 それ故、魔族は存在だけで不快感を与える。 特に彼女にとってゼロスと言う存在は、調子を崩す厄介な存在だった。 「君が現れると、私はいつも調子が崩れる」 深々と、もう一度溜息を吐く。 何故こんな事になってしまったのか、思い出しても判らない。生物でない以上、性別も存在しない筈なのに。 とは言え、魔族が人の中に溶け込もうとする時、それぞれ個々に男女のどちらかの形を取ろうとするのは、ゼロスだけではない。 しかし――こうして男として接してくる魔族は、ゼロスだけである。 魔族なのにこうした態度を取られる為、その感情が理解出来ず、いつも頭を抱えて調子を崩されてしまう。 「魔族が嫌いですか?」 「君が嫌いだ。魔族は嫌いと言うより、不愉快なんだよ」 嫌いなのは――あくまで、ゼロス。 魔族だからとか、そう言う事は関係ないと随分前に話した記憶が彼女にはあった。 好きじゃないものは多くあっても、嫌いだと明言するのはゼロスだけ。その事実と彼女の意図を、ゼロスは知らない。 「魔族でなければと考えるのは、存在意義に反するので危険ですね」 魔族は精神体であるが故に最強を誇り、それ故に不安定な所があり、それ故に信用される部分がある。 ただ自分の存在を疑う、自分の力を疑う――それだけは、してはいけない。それをしてしまえば、ゼロスは力だけでなく存在そのものを自分で消去してしまう事になる。 「深く考えないことをお勧めするよ」 魔族の特性を理解している彼女は、苦笑を浮かべるゼロスに対し、少し困ったようなものを見る目で小さく笑った。 ゼロスの想いが一途なのは――少しだけ、理解出来始めている。ゼロスが下手な無茶をしないようフォローする。 とても自分が他人に言えた科白ではないと、内心自嘲しながら。 「判りました。素直にさんを好きでいようと思います」 「この執拗さは、正にゴキブリと言われるに相応しいな……」 彼女の好意を察したゼロスは、満面の笑みで彼女の言葉に従う事にした。 そうして告げられた言葉に、本日何度目になるか判らない頭痛に、彼女は悩まされた。 本当に――調子を崩されてばかりだ。 ( 後書き ) まだまだ考え過ぎなところがありますが、 ちょっと気楽な感じになってきたかな? と言うような夢主。 因みに何処かで書いた気がしますが、ゼロスは夢主に一目惚れではなく、 気付いたら好きだった、と言うような経緯があります。 なので尚更、何故そう見られるようになったのかが理解出来ない夢主。 |